2番目の婚約破棄 『ターチル国王の初恋』
暗殺されたターチル国王の視点で
暗殺までの流れをまとめています
コーション国のターチルは、父の前国王が早くに病死したため、若くして国王になった。
即位当時のコーション国の周辺は、小さな国々が点在しており、争いもなく友好的な関係を築いていた。
ターチル国王は、即位してまもなく1人の貴族の娘に一目惚れをした。ターチル国王は折に触れてその娘に会いに行き、穏やかに2人は愛を育んだ。
しかし、その時すでに、ターチル国王はエステリア国の王女との婚姻が控えていた。それを覆す事は国際間の均衡を乱すことに繋がる危険な行為だ。そのため、ターチル国王はその淡い想いを胸に秘めながらエステリア国の王女と結ばれた。
時は経ち、ターチル国王が恋い焦がれた貴族の娘も国内の貴族に嫁いだ。美しいその娘が嫁いだのは、コーション国でも権威のある公爵家の嫡男。そして、産まれたのが娘、カルラだった。カルラは母親には似ず、公爵家の色彩を濃く受け継いでいたが、ターチル国王はカルラを自分の娘のように可愛がった。己の妻ーー王妃が国王の秘めた想いに気づいてしまうほどに。それからというもの、国王夫妻の仲は冷えきり、コーション国で王位継承が認められる王子も、ルーファス以外は授からなかった。
それでも、ターチル国王はカルラを溺愛するあまり、独断に近い形で息子ルーファスとの婚約を結ばせてしまう。
そうして、時が更に経ち、王妃が病で亡くなった。しばらく喪に服した後、ルーファスとカルラをターチル国王は、己の希望通りに結婚させた。数年後、ターチル国王は2人の男の孫を授かった。エステリア国から嫁いだ王妃が最後まで可愛がっていた一人娘ダイアナは、国内のオルソン公爵家に静かに嫁いでいった。
ターチル国王は、恋い焦がれた娘と添い遂げる事は出来なかったが、次世代で恋い焦がれた娘と縁を結ぶことができ大いに満足していた。
ーーある日、エステリア国から書簡が届くまではーー
書簡は亡き妻の兄、エステリア国王がターチル国王へ直接送ったものだった。亡き妻は、死の間際に己の置かれた辛い立場を兄であるエステリア国王に告げていた。
エステリア国は表立っては穏やかな国だが、建国の歴史は謎に包まれている。一部ではフォーガス国で罪を犯し、追放になったフォーガスの王族が建国したと伝えられていた。
それが、妻が亡くなって歳月が流れてから明らかとなる。
突然届けられたエステリア国王からの書簡には、悪夢のような内容が書かれていた。エステリア国の王女を妻としながらも、ただひたすらに公爵夫人に想いを募らせ、その娘を溺愛していたこと。勝手に、一人息子をその公爵令嬢と婚約させたこと。それにより、ターチル国王の想いが、貴族の者達の間で噂になり、王妃の立場が犯されたことなど。書簡には王妃に対する数々の裏切りに、エステリア国王が怒りを露にした内容がつらつらと書かれていた。
エステリア国とコーション国は王族の婚姻により、古くから縁を結んできており、両国の王族の関係は親戚に近い存在だ。それ故、エステリア国が禁断の毒草を密かに栽培している秘密も共有していた。2国に何かあれば、切り札として使い周辺の諸国に対抗することも暗黙の了解だった。
その毒草を今回、エステリア国はガーライド王国の王子に使うという。コーション国で発掘された魔法石が今後ベイガザード王国の兵器に使われるのを防ぐため、魔法石を今後ガーライド王国に回すよう指示が書簡に書かれていた。
エステリア国は、ガーライド王国から人質として、コーディル公爵家の娘をコーション国に置くようにも指示が書かれており、その者を王太子の正妃に据えるよう明記されていた。
確かにガーライド王国から人質を取れば、相応な地位を用意しなければならない。けれど、王太子にはすでに自国の公爵令嬢と縁を結ばせており、子供もいた。その公爵令嬢はかつて自分が愛した女性の一人娘。その者を側妃に降格させて、新に正妃として迎え入れよというのは、エステリア国王の妹を蔑ろにしたターチル国王への怒りの表れだった。
そして、書簡には最後にこう書かれていた。
『エステリア国はフォーガス国の呪詛を代々受け継ぐ。エステリア国の意向に正しく従わなければ、ターチル国王の、そしてコーション国の未来はない。
必ずエステリア国に従うこと』
王太子の側妃と位置付けが変わった娘は、実家の公爵家を使って直ぐにターチル国王に抗議を示した。ガーライド王国からの人質を追い出し、己を元の地位の王子妃に置くこと。そして、魔法石の流通量が減らされたベイガザード王国に謝罪と賠償、流通量の回復を要望してきた。
公爵夫人はベイガザード王国の出身であり、実は元々ターチル国王に近付けるためにベイガザード王国が用意した女性だった。ターチル国王もその事には薄々気が付いていたが、すでに心を捧げた後で彼女への想いを捨てることはできなかったのだ。
ターチル国王は悩み、コーション国が生き残る術を模索したが妙案は浮かばなかった。すでにエステリア国は自国の王女をガーライド王国の王子の婚約者として送り込み、王子に毒を盛る事に成功している。ガーライド王国に魔法石を渡さなければガーライド王国と敵対し、王太子の側妃となった娘に従わなければベイガザード王国と敵対する。何とかして、この急場を凌いでも、指示に反したとしてエステリア国はコーション国へ呪詛を使うかもしれない。
ターチル国王が強国との板挟みに頭を悩ませていた時、息子ルーファスから己の暗殺計画の情報が入った。
ルーファスは幼い頃から、前オルソン公爵を師事と仰ぎ、国の騎士として、そして影の騎士としての力を身につけた。
コーション国のたった一人の王子でありながらも、他国に間者として潜り込み、各方面の情報収集をしてきたのである。
ターチル国王はルーファスに若い頃からの思慕を伝え、亡き王妃に対する処遇を息子であるルーファスに謝罪した。ルーファスは王妃が存命のうちに謝罪すべきだったと、ターチル国王の謝罪を受け入れなかった。
そもそもターチル国王が愛した女性を用意したのはベイガザード王国であり、鉄鉱石の豊富な産出国であるコーション国を取り組むために仕掛けたハニートラップーー罠だった。けれど、それを知った上でターチル国王はその女性を諦めきれず思い続けた。そして、エステリア国の王女が嫁いで来たところでより事態を悪化してしまった。ターチル国王は、公よりも個を優先するあまり、王妃を蔑ろにして王妃のバックにあるエステリア王族を敵に回してしまったのである。
さらに、今度は愛した女性の娘から恨みを買い、己の毒殺を計画されるにまで追い込まれていた。
ベイガザード王国としては、あわよくばこれに乗じてコーディル公爵家の娘を陥れ、ガーライド王国に娘の処分させたかった。そして、娘を気にかけているサスティアル国王が処分を不服とすることも期待していた。
ベイガザード王国は、結果的にガーライド王国とサスティアル王国との仲違いを狙ったのだ。
毒殺計画は秘密裏に粛々と進んでいるようでだった。ルーファスはターチル国王に、建国祭の間だけでも癒しの力のあるアンジェリアを常に側に置き、毒殺計画を回避する提案をした。建国祭は、ガーライド王国からもベイガザード王国からも大使が式典へ招かれていて、事が起きるのならばこの期間に違いないとルーファスは考えたのだ。
しかし、ターチル国王はアンジェリアの力に頼るのを躊躇った。アンジェリアの癒しの力を借りれば暗殺は回避できる。しかし、力を勝手に使わせたとしてサスティアル王国からコーション国が睨まれる可能性が高い。ターチル国王は恋に溺れ国難を招いたが、国を想う力も少しは持っていた。
『ガーライド王国やベイガザード王国、エステリア国よりも、世界最強のサスティアル王国を敵にするのはさすがに不味い』
結局、ターチル国王はアンジェリアの手を借りることなく毒杯を仰ぐ決心をした。毒殺計画の後ろには、ターチル国王が愛した女性も糸を引いているのだ。それならばと、甘んじて死を選んだのである。
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この後、3話程度、フォーガス編を挟み、
3番目の婚約解消編に入ります。
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