2番目の婚約解消 22 アンジェリアと王位継承権
「ーーあの、シャル様?」
「おや? 私はシャルと呼ぶように、昨日言ったはずだが? 忘れてしまったかな?」
「シャ、シャ、ルル、様、その…」
ーーーー! いくら従兄でも、サスティアル王国の王位継承ナンバー1をやっぱり敬称なしで呼べない!!
「いや、あの…それはやっぱり少し難しい、です。貴方様はサスティアル王国の第一王子殿下でしてーー」
「『シャル』だよリア? 私もリアと呼ぶのだから…良いね?」
「…はい、私の名前はなんとでも…」
「じゃぁ、リア、ほら、昨日みたいに早くシャルと呼んでごらん!」
ーーーー昨日だって、渋々言ったはずなのに!
一晩開けて、アンジェリアがどうにかして、敬称呼びに落ち着こうと再度試みても、アランは全く聞く耳を持ってくれない。昨日は側妃達や警備兵を威圧していた同一人間とは思えないほどに、アランはにこにことアンジェリアの困った顔を見つめていた。
「アラン殿下、アンジェをからかうのもほどほどになされてはーー」
「私は親族のコミュニケーションの一環を図ってるんだ。 少しだけ静かにしてもらいたい」
呆れたセーシル公爵が口を挟むが、アランは聞き入れず、かえって口を挟むなと苦言を呈した。壁横では、アンナとマリアナが心配そうに見守っている。
「さぁ、リア、シャルだよ、シャル!」
「うっ…、シャ…ル」
「うん、なかなかいいね! 今度から、いつでもどこでもシャルと呼ぶように! ーーじゃぁ、ここからは真剣な話をしよう。ナサル、早速、例のものをーーん? ああ、挨拶がまだだったか?」
アランは上機嫌でサスティアル王国から連れてきた騎士のナサルという青年から封書を受け取った。ナサルはアンジェリアに向き合うと、爽やかな笑顔を浮かべた。
「アンジェリア=コーディル様にご挨拶申し上げます。サスティアル王国、第一王子の騎士を勤めておりますナサル=ドゥニエルと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
「はっ、はい…」
ナサルは昨日まで幻影魔法で赤髪に変えていたようだ。それを今日から元々の色に戻したらしく、温室でチラリと見かけた時より高貴な印象を受ける。ナサルは銀色の髪で藍色の瞳の冷たい印象の色彩を持っているが、顔立ちが少し甘めで人懐っこい感じがする。なんだか、美形なのに近寄りやすい雰囲気があり、お姉さん達に絶大な人気がありそうだとアンジェリアはぼんやり思った。ナサルのあまりの格好良い容姿に、これでは身分を隠すため幻影魔法を使わざるをおえないなとアンジェリアも納得した。
アランが護衛騎士のナサルを紹介すると、いつもなら女性や少女らは嬉しそうに顔を赤らめる。けれど今回のアンジェリアの反応はやたら薄い。アランは軽く笑うと、アンジェリアをからかうように口を開いた。
「リアは、この手の優しげな顔は見慣れているのか…? まあ、セーシル公爵家のルカよりは、少し顔は劣るが、ナサルはサスティアルの筆頭公爵家の次男坊だ。覚えておくと良い」
ーーーうわ! サスティアル王国の筆頭公爵家!!
どちらかと言えば、へりくだるのは私の方では? と疑問を持ちつつ、アンジェリアは顔が強ばるのを抑えきれなかった。
「あ、あ、アンジェリア=コーディルです。こちらこそ、よろしく、お願いします」
「よろしくお願いします、姫君」
緊張するアンジェリアに優しく微笑んで、ナサルはアンジェリアの手を取り手の甲へ軽くキスを落とした。
ーーーわぁ…! 絵本のワンシーンみたい!!
まるで、お姫様と騎士の誓いのシーンみたいだとアンジェリアが感心したのも束の間、アンジェリアの手首のブレスレットから光が飛び散った。
ーバッヂ!! ジリ! ジ、ジ…
「ーーっ! なっ!」
騎士とは言えども初めての経験らしく、さすがにナサルも驚きアンジェリアの手をパッと離した。一方、アンジェリアはブレスレットを身に付けたことをすっかり忘れていたため、光が散ったと分かり顔が青くなった。思わずセーシル公爵に視線を向け大丈夫なのか視線で問うと、セーシル公爵は苦笑いをして頷いた。焦っていないセーシル公爵をみると、これくらいはルカに影響がないのだろう。アンジェリアは少し胸を撫で下ろした。
「ーっぶ、ぶぶ…!!」
驚いたナサルは腕を引っ込め唖然としてるし、状況が予想できていたのか、アランは笑うのを堪えきれずに、思わず吹き出した。セーシル公爵は困った顔で状況を見ている。
「すっ、すいません! あっ、お怪我は…」
アンジェリアが慌ててナサルに謝罪すると、ナサルは何でもないと笑って赦してくれた。
「セーシル公爵、ルカはかなり嫉妬深いのだな?」
「ーー? なんのことでしょうか?」
アランが今だに笑ってセーシル公爵に問いかけると、セーシル公爵はすっとぼけて知らぬ存ぜぬを突き通す。そんな2人を見ていたナサルはブレスレットが何であるかを察した。
「なるほど、これがフォーガス国の宝珠の力なのですね。古から伝わる力だとか…なるほど…」
「ナサルは騎士なのに歴史好きでな、特に古い魔術やその類いには目がない。今後、サナルをリアの護衛につけるから、色々と驚かせてやれ」
キラキラした目でアンジェリアの腕にはめられたブレスレットを興味深そうに見るナサルはまるで、宝物を見つけた少年のようだった。アンジェリアは、その反応に少し引き気味になりながらも、アランの一言に驚いた。
「ーー!? サスティアル王国の第一王子の騎士を私につけるなど恐れ多すぎます! アラン殿下はは、ふざけていらっしゃるのですか?!」
「おや? リア、アラン殿下ではなく、シャルだよ、シャル! リア、これからはさらに情勢が不安定になるだろう。我が父上がリアの事を心配しておる。父上の機嫌が悪くならないようにするためにも、ナサルはリアにつける。これは決定事項さ」
「そっ、そんな…、ナサル様はよろしいのですか?
国外にサスティアル王国の人間が出てくるだけでも人々は驚くのに、第一王子はコーション国に大使としてやって来るわ、その騎士をアンジェリアに置くと宣言するわで、アンジェリアは頭がおかしくなりそうだった。
「ガーライド王国でセーシル公爵と面会を持った時、サスティアル国王に相談した上での判断だ。リアは気にすることはない。 偶然にも、リアの好きそうな綺麗で可愛い系の騎士であるだろう? 側に置くのも嫌ではあるまい?」
アランはクスクス笑って、アンジェリアのことをからかった。アランが気安く話しかけてくれることで、アンジェリアのアランに対する緊張も少しずつほぐれてきた。
「っ! ちょっと、からかって!!」
「ふ、ふ…、アラン殿下も、そうアンジェをからかいなさいますなーー、さて、そろそろ、殿下、例のお話を」
慌てるアンジェリアと、からかうアランのやり取りをセーシル公爵が父親のように穏やかに止めに入ると、ナサルから渡された書類の説明に話を振った。
「おぉ、そうだったな。私がコーション国にわざわざ来たのは他でもない、リアをサスティアル王国の一員に迎えるという報告を持ってきたのだーーほら、これがその書類だ」
アランはアンジェリアに新聞紙でも渡すような気安さで、ぽーんと軽く放り投げて厚い紙の束を渡してきた。
「……私がサスティアル王国の一員に、ですか…?」
アンジェリアは初めて耳にする内容にポカーンとなりながらも、アランの説明だけでは訳が分からないため、書類の付箋のついてる部分をめくって内容を確認した。
「ーー、サスティアル国王はサーシャ=コーディルに代わり、アンジェリア=コーディルを王位継承第5位と定める…って、ー! はぁ?!」
サーシャ=コーディルとは、アンジェリアの母コーディル公爵夫人のことであり、サスティアル国王の末の妹だ。その母が王位継承権を失い、アンジェリアが継承権を持つということは意味が分からない。アンジェリアは思わずアランに向かってタメ口をしてしまうくらいびっくりしていた。
「ぶっはっ! 期待どおり、驚いてくれたね! 良かった! これは、御父上の御意向だ。高い魔力を持つサスティアル王族の人間を、サスティアル国王の了承なしで、他国に移したことに対する怒りを表したのさ」
アランは王位継承権なんて大したものではないかのように笑い飛ばして話を続けた。アランの横ではにこにことセーシル公爵も頷いている。
「サスティアル王国内の議会の手続きに少しばかり、時間を要してしまったが、リアの王位継承権は正式に承認されている。リアは御父上のお気に入りの姪御でもあるしね? ーー定時報告で、リアにコーション国の者が毒を盛っていると聞いた御父上は、本当にもう手に負えなかったよ」
コーション国が今だに無事なのを誉めておくれーーと、アランはウィンクをしながらアンジェリアに告げた。
アンジェリアは、何故毒の件をサスティアル王国へ伝えたのかと、セーシル公爵をじっとり睨んだ。睨まれた、セーシル公爵はから笑いをしながらも、アンジェリアをなだめながら説明を始めた。
「まぁまぁ。アンジェもそう怒らないでくれたまえ。これは、サーシャ殿の意向でもあるんだ。いつ戦火に身を置くことになるかも分からない愛娘を、直ぐに助けるための身分が欲しいと、サスティアル国王に願われたのだ」
「お母様が? 私だけに? ギルお兄様達も継承権が認められるのですか?」
アンジェリアには上にギルバード、タチアナ、セライアの兄姉と、下に産まれたばかりの弟がいるのに、まさか自分だけが王位継承権を認められたのだろうかとアンジェリアは不思議に思った。
「リア程の高い魔力は他の兄姉弟にはないだろう? リアの弟には、僅かにあるようたが、シャーナ公爵も微々たる物だと証言しておる。残念だが、サスティアル国王の管理下に置くには大義名分が全くないのだ。ーーリア、君のサスティアル王国継承権は議会も全員一致で納得した上で、承認を得たものだ。だから、継承権については何も心配や遠慮はいらないよ」
アンジェリアには驚きの事実をアランはさらっと告げて、何でもないように茶菓子に手を伸ばし始めた。
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