2番目の婚約解消 21 呪詛とフォーガス王族
「それは…、セーシル公爵閣下の前で大変失礼になりますが…。やはり呪詛ということで、フォーガス国が絡んでいると思っております」
大陸で呪詛が出来るのはフォーガス王族の特徴である。サスティアル王国の人間も出来ないことはないが、彼らはまどろっこしい呪詛をかけるよりも実力行使に出るはずである。そのため、ガーライド王国の第一王子ライアルトの呪詛の犯人はフォーガス王族出身と考えられた。
セーシル公爵夫人はフォーガス国王の娘であるため、目の前にいるセーシル公爵には失礼にあたると思ったのだろう。ルーファスは言葉を選らんではいるがかなり言いづらそうだった。
「頭の痛い話だが、私も妻もフォーガスの王族が絡んでいると考えておる。サスティアル王国の人間が大陸で呪詛を使う利益も理由もないのだから」
セーシル公爵がルーファスにそう伝えると、ルーファスはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「それで、エステリア国と関わりのあるフォーガス王族を探せば良いのか? 私がフォーガス国王に面会したときには呪詛の使用は感じなかったぞ。フォーガス王太子も力を使った形跡はなかった。残すは、王太子の息子か娘か? それとーーあぁ、従妹殿の宝珠の相手にもフォーガス国で会ったが、呪詛を使用した感じはなかったな。それとーーセーシル公爵夫人も白だ。従弟殿の出産の面会に夫人が来ていたと、シャーナ叔母上が仰っていた。叔母上からは呪詛の使用については何も報告されてはおらぬ。ゆえに白だな。まぁ、コーディル公爵夫人も何も言わない時点で、セーシル公爵家は関係ないのだろう」
アランは頭の中でフォーガス王族の系図を思い出すが、元々大陸の国には興味がないため考えるのも面倒そうだ。だが、コーション国に入る前、フォーガス国に外遊したお陰で、国王と王太子の無実は確認できた。セーシル公爵は呪詛の話になってから僅かに緊張していたが、アランの言葉にほっとしたように息を吐いた。
「アラン殿下、発言をお許しくださいませ。恐れながら、フォーガス王族には王妹殿下がいらっしゃいます。フォーガス国内の侯爵家に嫁がれていたはずです」
アンジェリアは、緊張しながらもルカと婚約していた時に猛勉強したフォーガス王族の系図を思い出し、アランの言葉を補足した。
アランはアンジェリアの言葉ににっこり微笑むと軽く頷いた。
「我が従妹殿は大変賢い! セーシル公爵、そうは思わぬか? 他国の系図を把握しているなんてね。本当に貴殿の息子にはもったいない!!」
「アラン殿下、アンジェは、すでに、その…コーション国の王族の方との婚約が控えております。お戯れは程々に」
アランのふざけた言葉に、同席しているルーファスを気遣いながらセーシル公爵がフォローした。けれども、アランは反省などどこ吹く風で、気にもしていない。
「何を、誤魔化すのだ。そなたの息子は従妹殿へ宝珠を渡しているではないか? ルーファス殿、我が従妹殿は将来的にフォーガス王族のルカへ渡して頂く。重々心得よ」
ーーーー! 今、それを暴露するの?!
アンジェリアがアランの発言に驚いて絶句したが、当の本人は悪いとは思っていないらしく、呑気にルーファスの返事を待っていた。
「ーー、アンジェにはフォーガス王族の宝珠が既に渡っていると? それでは、なぜ、コーションに…」
「そっ、それは…」
ルーファスがアランの言葉に唖然として呟いた。突然のアランの暴露に、セーシル公爵は顔を強ばらせながらも何か言おうとするが、上手く言葉にできない。
「何を言っているのだ? 従妹殿がコーション国に来る羽目になったのは、コーション国とエステリア国の両国の責ではないか? ベイガザード王国から攻め入れられるのを恐れて、盾にしているのであろう? 役目が終われば国へ返す。従妹殿の望む未来を与えるべきだ」
アランがさも当然だと言うようにルーファスに答えると、ルーファスは顔を強ばらせた。
ルーファスは常にアンジェリアの身を心配してはいたが、アンジェリアの未来の幸福までは考えていなかった。そこをアランに詰められてセーシル公爵もルーファスも言葉がない。
「さて、従妹殿。貴重な情報をありがとうーーセーシル公爵、フォーガス国王の妹やその家族、王太子の子供達を気付かれぬよう探るように。ルーファス殿はエステリア国とフォーガス国との繋がりを内密に見つけるようにーー従妹殿は、疲れたであろう? 今日は大変な事件に巻き込んでしまってすまない。それに明日からも騒がしくなってしまう。今日はこれで話を終えよう」
アランはここにいるセーシル公爵とルーファスへ、自分の部下のように指示を言いつけた。アランは簡単に言ってのけたが、2つの指示はアプローチが大変困難なものだ。けれども、セーシル公爵もルーファスも先程のアランの言葉に思うことがあったらしい。異を唱えることはなく素直に指示を受け入れた。
◇◇◇◇◇
セーシル公爵とルーファスが今後の計画を練るために退出すると、アンナとマリアナも部屋に戻ってきた。いまだ自分の部屋のように寛ぐアランに緊張しながらも、新たにお茶を用意している。
ーーーーアラン殿下はお部屋に戻らないのかしら?
正直言って、アンジェリアは体力的にも精神的にもくたくたに疲れ果てていた。従兄とは言えど、世界最強国家の王子の接待はこれ以上御免被りたい。
そんな事をアンジェリアがつらつら考えていると、淹れなおしたお茶をゆっくり味わっていたアランが突拍子もないことを言い出した。
「そういえば、従妹殿! ルーファス殿やセーシル公爵にはアンジェと呼ばせているのだな! ーー私も従兄なのだから親しみを込めて、そなたの呼び方を変えようと思う。そうだな…、2人と同じでは面白くない…リア! リアなんてどうだろう?」
「はぁ…、どうぞ呼びやすい名で結構です」
いきなり呼び名を変えようとするアランにアンジェリアはかなり投げ遣りな返事を返した。コーション国王の死、ルーファスとの婚約解消、第二王子との婚約予定、アランの宝珠の暴露で頭がパンク状態だったのだ。
「そうか! では、リアと呼ぶことにする。私の事はシャル兄とでも呼ぶように」
ーーーーシャル兄ですって?!
サスティアル王国の時期国王として名高い第一王子を『シャル兄』など馴れ馴れしく呼ぶことは出来ない。アンジェリアは、呼ぶほどに寿命が短くなりそうで怖いと思った。
「ーー、あの、私にはギル、ギルバードお兄様がおりまして…。それで、あの…」
アンジェリアがアランの機嫌を損ねないように、断る方向に持っていこうとすると、アランはなかなかの良い笑顔でアンジェリアに新たに提案してきた。
「ならば、シャルとでも呼べば良い。コーション国やエステリア国にリアのバックにはサスティアル王国がいると言うことを示すのだ。気楽な呼び方の方が良いだろう? ほら、シャルと読んでみてごらん」
ーーーーまさかの! さらに軽い呼び方に!!
アランの言い分は尤もであるが、アラン=シャルレイン=サスティアルのミドルネームを呼ぶことになろうとは、アンジェリアは胃が痛くなる気がした。
ーーーーアンナもマリアナも目を丸くして驚いていると言うのに、アラン殿下は気にもされていない…
部家の空気は言い知れぬ緊張感に包まれており、アンジェリアは知らず知らず祈るように手を組んでいた。
「ーー、あの、シャ…、シャ…、ルル…様」
「なに、とって喰おうというのではない。そんなに緊張せずに、な? それに様もいらぬ」
アランは今日一番の優しい笑顔をアンジェリアに向け緊張を和らげようとしたがアンジェリアの緊張は一向に溶けない。
ーーーーこれは、ちゃんと呼ぶまで、話を進めてくれそうにないわね…
アンジェリアは背筋を伸ばして、気合いを入れるとアランに向き直った。
「シャル、ーーあの、」
「うん! いいね! これからはそう呼ぶように。もちろん公式の場でも私的な場でもーーおやおや? もう、こんな時間か。リア、では私はそろそろ失礼するよ。明日また、セーシル公爵と私達3人で話がある。紹介したい者もおるのでな。今日はゆっくり休みなさい」
アランはアンジェリアの呼び方に満足したのか、ご機嫌な様子で席を立った。アンナとマリアナも急いでドアの元に走り、扉を開ける。
「リア、あんまり心配したり考えすぎないように。宝珠の相手がリアを心配しているからね」
アランはからかうように言うと、アンジェリアのブレスレットを見つめた。アンジェリアもアランが気にするのでブレスレットを確認したが、目に視える変化は分からなかった。
「ふっ。あながち冗談でもなさそうだ。ルカという者はなかなか面白いーーでは、リア。また明日」
ーーーーアラン殿下には宝珠とルカとの繋がりが視えるんだわ…
アランはクスクスと可笑しそうに笑いながら、今度こそアンジェリアに背を向けると、ドアの側で控えていた護衛と共に去っていった。
読んで頂きありがとうございます!
面白かったらブックマークと評価をお願いします。




