表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/96

2番目の婚約解消⑳ 国王暗殺の後で

「どうやら、ルーファス殿が来たようだ。ルーファス殿? 扉の前にいるのだろう? 扉の前で聞き耳を立てるなんてみっともない、入りたまえ」


 アランが自身の手を軽く振ると、アンジェリアの部屋の扉が勝手に音も立てずゆっくり開いた。アランの言葉通り、廊下には悪戯をバレて誤魔化すように苦笑するルーファスが立っていた。


「さすがサスティアル王国の第一王子殿下でいらっしゃいます。遅くなり、大変失礼を。国王暗殺で、ごった返しておりまして」


 ルーファスはそう言うと、手を頭に当て疲れたかのように目をぎゅっと閉じた。廊下ではぶっ倒れそうになっているルーファスの側近の姿もチラリと見えた。


「ルーファス様、此度の件、何と申し上げれば良いのか…お心中、お察しいたします…」


 ターチル国王はルーファスの父親だ、母も既に亡くなっており、妹は既に公爵家へ嫁いでいるし、他に兄弟もいない。コーション国の全ての責務がルーファスの身に振りかかり、その大変さは計り知れなかった。父親が亡くなった悲しみを癒す時間もなくたくさんの対応に追われているのだろう。ましてや、ターチル国王はルーファスの側妃カルラに毒殺されたのだ。

 アンジェリアがあまりに精気のないルーファスを心配して声をかけたが、ルーファスは力なく微笑みながら大丈夫だと答えた。アランはそれをつまらなさそうに見守っている。


「ーーアンジェにも、カルラが乗り込んできて、迷惑をかけたと聞いている。温室での件もそうだが、ガーライド王国からの大切な賓客であるアンジェをカルラが陥れようとした。コーション国の王太子として、全く管理が出来ていなかったこと、大変申し訳ない」


 ルーファスが改まってアンジェリアに謝罪し頭を下げると、冷たい目で見ていたアランが口を出してきた。


「ほう? そなた、見せかけの謝罪をして済ますと申すか? 先程、コーション国はベイガザード王国寄りの決断を下したんじゃないか? ふむ、城内をベイガザード王国の者が意気揚々と闊歩しておるのが視える。おや、王太子には第一王子カイルを据えるのか? ベイガザード王国がコーション国を乗っ取るには上々の滑り出しだな」


 アランがルーファスの顔をじっと睨みなから、そう告げると、ルーファスは居心地悪そうに目を反らした。


「さすがサスティアル王国の王族でいらっしゃいます。口に出さぬとも目を見れば全て筒抜けにされてしまうーー確かに、ベイガザード王国寄りの決断と捉えられても致し方ありません。ただ、カイルを王太子に据えるのはまだ決定事項ではありません」


 ルーファスがそう答えると、アランはふん! とバカにするように鼻をならした。セーシル公爵はやれやれという表情で成り行きを見守っている。


「我がコーション国は、貿易の利益をベイガザード王国との交易で得ているのです。そのベイガザード王国を無視して、新国王として国を動かすことなどできましょうか? ーーかの国を排除するには、コーション国は少し遅すぎました。今では主要な要職の大臣の数人が、ベイガザード王国と強いパイプで繋がっているのです」


 アランが悔しそうに手を握りしめながら言うと、セーシル公爵は少しは気を使ってあげてはと、何か言いたそうにアランに視線を投げた。


「君の父上は何とも大きな負債を遺して亡くなったものだ。少しは状況を改善してから身を捨てれば良いものを…」


 アランはセーシル公爵の視線をまるっと無視して更にルーファスに追い討ちをかける。アンジェリアはアランとルーファスのやり取りをハラハラしながら見ていた。


「先程、カイル殿下をすぐに王太子に据えないと仰いましたな。それはエステリア国に配慮してですかな? エステリア国はベイガザード王国と手を組んだように思われますが、侵略までは許さないでしょう。上手いことガーライド王国とベイガザード王国が相討ちにならないかと模索してくるはずです」


 若い2人のやり取りを見ていた年長者のセーシル公爵が口を挟んだ。ガーライド王国とベイガザード王国とが相討ちなど恐ろしい考えにアンジェリアは言葉をなくした。


「セーシル公爵閣下のお言葉通りです。エステリア国をこれ以上刺激しないためにも、カイルの立太子だけは遅らせねばなりませんーーベイガザード王国としても、今度の件でサスティアル王国の王族が口を挟むとは思っても見なかったようです。お陰でカイルの立太子を遅らせることができました。我が息子ながら、カイルはカルラの父上と強い繋がりを持ち過ぎました。このままカイルが王位に就くとベイガザード王国の傀儡となりましょう」


 ルーファスはアランに感謝を述べ頭を下げた。対してアランは大国の王子としてソファにふんぞり返ったまま頷いただけだ。これには、アンジェリアもムッとしたが、セーシル公爵がアンジェリアの頭をポンポンと撫でてくれたことにより気が紛れた。どうやら、傍目から見てもアランに鋭い視線を送っていたらしい。


「カイル殿の立太子を遅らせたとして、貴殿には何ができる? その間にベイガザード王国への魔法石の輸出をやめるか? そうすれば、ベイガザード王国は黙っていないだろうよ。それにエステリア国も今後どういう手を打って出るか分かっていないんだろう?」


 アランはバカにしたような態度でルーファスにそう言うと、アンジェリアに視線を投げた。うっかり、睨んでいたことがバレてしまったのかとアンジェリアはヒヤッとした。


「それで、従妹殿はどうなる? 貴殿の婚約者にこのまま置いて、ベイガザード王国からの防護壁にでもするのか? それともカイル殿の婚約者に変えて、これまたベイガザード王国の国乗っ取りに抵抗するのか? どちらも我が従妹殿には良い流れとは言えぬな」


 アランはルーファスにさらに詰め寄ると、部屋の空気が一段と重くなった。おそらくアランが何らかの魔力を放ったのだとアンジェリアは直感した。

 それと同時にアランがアンジェリアの立場を心配してくれているのに、アランへ睨みを利かせてしまったことを少しだけアンジェリアは反省した。


「ーーっ! 真実だけ述べよと言う事ですか? ーー魔力を使わなくても、アンジェの件については嘘はつきません。今後、アンジェには第二王子レオンの婚約者候補として、コーション国に留まってもらうことになります。コーション国の今後は…、ガーライド王国のライアルト殿下へ呪詛をかけた人間を探しだします。エステリア国が仕組んだ者までは分かっているのです。そこから、エステリア国を切り崩していきたいーー」


 アランの魔力はルーファスが虚偽の言葉を吐かないためだったようで、ルーファスの解答は及第点をもらえたようだった。部屋の空気が元に戻り、ほっとすると同時に、婚約者がルーファスからレオン王子に変わったことにアンジェリアは驚いた。正しくは婚約者候補だが、政局に変化が起きれば婚約者にされるだろう。


「ふーん。ガーライド王国に相談もせず、ベイガザード王国側と相談しただけで、従妹殿の婚約者をコロコロとこうも決めてしまうとはねーーまったく不愉快だーーここに我が父上がいたのなら貴殿の命は無かったと思え」


 ルーファスの解答はアランも想定済みだったように見えるが不愉快さはどうしようもないらしい。苛立ちを隠せず、サスティアル国王まで話にあげてルーファスに警告した。


「まぁまぁ、コーション国内で少しでもアンジェリアに穏やかに過ごしてもらうには、レオン王子に婚約者を変更するのが1番でしょうーーして、ライアルト殿下に呪詛をかけた人間の当ては付いているのかな?」


 セーシル公爵がアランを適度に宥めながらも、ルーファスにコーション国の今後の計画を迫った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ