2番目の婚約解消⑱ アランの外遊
ガーライド国にコーション国内で国王暗殺の動きがあるかもと密偵から連絡が入ったのは、セーシル公爵がコーション国の建国祭に出発する少し前だった。
ちょうどその時、アランはガーライド王国に、産まれたばかりのコーディルの従弟に会うためーー名目上は親書をガーライド国王に渡すためにやってきていた。コーディル公爵家にはシャーナ公爵がおり、微力ながら魔力を持った甥っ子の様子を見ていた。その魔力量を念のため確認しにアランもやってきたのだ。
産まれたばかりのアンジェリアの弟は、アンジェリアと見た目も良く似ており、シャーナ公爵は可愛い甥っ子から離れたがらなかった。けれど、そろそろ1度報告も兼ねて、サスティアル王国へ戻るように兄のサスティアル国王にも何度も催促されていた。そのため、アランがコーディル公爵家に来た時点で後ろ髪を引かれるように渋々帰国の途についた。
アンジェリアの弟の魔力は、ほんの微々たる量だったので、放置しても母であるコーディル公爵夫人でも充分に対応できるとアランは判断した。甥っ子の様子も分かったのだからとアランも、少しだけ寄り道をした後、早々にサスティアル王国へ帰ろうとしていた。ちょうどそんな時、セーシル公爵から面会の要請があった。
アランはセーシル公爵家に興味を少なからず持っていた。アランはガーライド王国に来る前に、フォーガス国にも立ち寄っていたのだ。
世界中から学者が集まり様々な研究機関が存在する学問の国、フォーガス国。
そんなフォーガス国と魔力を持つサスティアル王国は世界の医療の発展のため、長年に渡って協力関係にある。その友好関係にあるフォーガス国王の体調が思わしくないと言う連絡をフォーガス国から受け取ったのだ。
サスティアル王国外の活動にアランはこれまで携わったことはあまりなかった。しかし、今後サスティアル王国の王太子の座に就くにあたり、国際関係の勉強をしようという事で大使に指名された。
初めてサスティアル王国の王族の立場で、公式な訪問をすることになったアランの行き先は、国王見舞いの要請のあったフォーガス国と、コーディル公爵家のあるガーライド王国に決まり、早速外遊することになったのだ。
フォーガス国に着くと、アランはすぐにフォーガス国王の様子を見舞った。アランの見立てでは、フォーガス国王は老衰に当たると診断された。残念ながら、サスティアル王国は老衰には手を出さない決まりがある。自然の摂理に反するとして、特例でない限り処置をしない決まりなのだ。
そんな国王を心配して、フォーガス国には交流のある王公貴族がぞくぞく見舞いに来ていた。そんな大勢の国賓級の見舞い客の中、サスティアル王国の血縁以外の人間で、ふと魔力を感じる存在に気が付いた。その人間はまだ少年であり、アランは怪訝に感じて魔力を探った。すると、先日、コーション国へ人質にされた従妹の魔力とそっくりだと分かった。フォーガス国に伝わる宝珠と従妹の魔力が調和し、その少年と繋がっていたのだ。
そんなことがあり、宝珠をアンジェリアに贈った少年の父親、セーシル公爵からの面会要請にアランは直ぐに快諾した。
聞けば、従妹が人質になっているコーション国から国王の暗殺の情報が入ったそうで、コーション国へ同行して欲しいとの要請だった。
サスティアル国王は魔力量が多い幼い姪、アンジェリアを常に気にかけている。丁度、従妹のアンジェリアに渡したいものもあったため、そういうことならと、直ぐにアランはコーション国への同行を決めた。
ただセーシル公爵に同行するにあたり1つ、アランは国王とそれに準ずる人間以外に姿、名前を隠すことを約束させた。アンジェリアのコーション国での処遇を正確に判断するためだ。
アンジェリアの立場が納得のできないものであれば、アランの権限を持って無理に連れて帰ることもできる。
エステリア国がザイゼル草を持っていることは、コーション国へ来るまで外交問題に疎いアランは知らなかった。
アランは、コーション国へ着いて直ぐにサスティアル王国から連れてきたナサルという騎士に側妃カルラに注意するように伝えた。ナサルは人間の行動履歴を把握できる力を持つ、サスティアル王国の貴族出身である。直ぐに、数日間の側妃カルラの行動が明かになり、側妃カルラの実家にザイゼル草を隠し持っていることが分かった。もちろん、これはコーション国王にも密書で伝えた。
側妃カルラの母親はベイガザード王国の貴族出身である。側妃の母親である老婦人の行動を探ると、エステリア国の高官が軍人と共に頻繁にコーション国へ来ていることも分かった。恐らく、ザイゼル草を側妃カルラの実家に少しずつ見つからないよう慎重に搬入していると見られた。しかし、エステリア国の高官の様子からエステリア国がベイガザード王国に脅され、ザイゼル草を渡しているようには見えなかったという報告があり、アランは頭を悩ませていた。
「ここまでが、今回の国王暗殺が起きるまでの事さ。本当は、国王の暗殺を止められれば良かったのだろうけれど、ザイゼル草が絡んだ案件だから簡単には動けなかった。他国の側妃の実家に、大義名分が無くては踏み込めないし、無闇にコーション国の貴族を拘束して調べることも出来ない。もしも、側妃の実家にザイゼル草があったとしても、誰かが罪を擦り付けようとしたとか言い逃れが出来てしまう。それで側妃側がザイゼル草で事を起こすのを待っていたのさ。国王には暗殺の計画があることを事前に知らせていたのに、残念だよ。まさかこんなお粗末な計画で命を落とすなんてね」
アランは一旦話を止めると、アンジェリアの様子を伺った。アンジェリアは、アランがコーション国に来る前に、フォーガス国でルカに会っていたことに驚き、サスティアル国王がアンジェリアの心配をしてくれている事に胸がいっぱいになった。そして、コーション国王自身が命を狙われていることをきっと知っていたのに、毒殺されたと聞いてひどく不思議に感じた。
「国王陛下は自ら毒殺されることを選んだという事でしょうか?ーー国王陛下は私の魔力をご存知なはずです。それなのに側に控えるよう言われた事はありません」




