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2番目の婚約解消⑯毒入り茶とアラン

 アンジェリアは今や混沌とした温室から、城内へとアランやセーシル公爵とともに戻ってきた。途中、セーシル公爵はコーション国王の死の状況を把握するため、コーション国の近衛兵に案内を頼んだ。ルーファスにはアンジェリアの私室に向かったと思わせ、独自に確かめることにしたらしい。


 ーーールーファス殿下も完全なる見方とは言えないのね…


 城内は国王の突然の崩御の知らせにありとあらゆる貴族が入り乱れ騒いでいた。元々は、コーション国の建国祭で、多くの国々から王公貴族や大使が集まってきており、城内も温室に負けず劣らず、混沌としていた。

 城内の騎士の中には、側妃の命を受けてアンジェリアを捕縛しようとする騎士達もいたが、ルーファスの側近がアランとアンジェリアの後ろに控えていたため、その都度、騎士達への対応をお願いした。


 アンジェリアの私室は王宮の奥、王族の私室があるエリアに位置している。そのため、簡単に外部の者は立ち入りができないが、国王の崩御で城全体が動揺にうちひしがれており、城の奥へ行けば行く程、意外にもすんなり部屋に戻ることができた。


 ーーーさっきは毒草騒ぎで、あやふやになってしまったけれど、国王陛下が亡くなったのは本当なの?

 ーーーそれになぜアラン殿下自身が大使に???


 アンジェリアは何をどう頭を整理すれば良いのか分からず、とりあえずアランをもてなすことにした。部屋には見覚えのない侍女がいたが、動揺していたため注意を向けることなく、お茶を用意するように指示した。


「どうして、ここに私がいるのか?という顔だね?」


 アンジェリアの不満いっぱいの顔を見て、笑いながらアランは話し出した。


「貴方様のような高貴なお方が、コーション国まで、大使としていらっしゃるとは夢にも思わなかったので」


 アンジェリアの部屋で部屋の主よりもリラックスしてソファに寛いだアランは、アンジェリアの返答を賑やかに笑った。そして、侍女が用意したお茶を飲もうとした。


「ーーおやおや? これは、なんと! おもしろい!!」


「ーー!?」


 急にティーカップを手にしたまま、アランは舞台俳優のように大袈裟に驚き始めた。アンジェリアは直ぐに、部屋付きの侍女が毒を盛ったのではないかと察したが、既に始まったアランの一人芝居を止める手立てが浮かばない。アンジェリアがどうにかしようと、あわあわしていると、直ぐ横でマリアナもアンナも気が付いたのか、真っ青な顔でおろおろと、冷や汗を流しているのがわかった。


 ーーー『どうしよう?!』


 アンジェリア達3人でお互いに視線を合わしても、妙案は浮かばない。ルーファスの側近は何事が始まったのかと、目を丸くして情況を見守っていた。


「このお茶は、世にも強力な毒草、ザイゼル草で淹れたのか? コーション国では、高貴な客人に毒入り茶で、もてなすとは…想像もしていなかったよ?」


 アランがやや演技がかった声で言うと、お茶を用意した侍女がアンジェリアを睨み付けながら口を開こうとした。マリアナとアンナもまさか、側妃カルラが推薦した侍女が、部屋に入り込んで客人にまで毒を使うとは思わなかった。そのために、お茶が出されるまで止める事が出来なく、今にも倒れそうな程顔色が白くなっている。


 ーーーいけない!アラン殿下に対する非礼は、サスティアル王族に対する敵意とみなされてしまう!


 アンジェリアは慌ててコーション国側の責任ではなく、側妃個人の指示で毒が毎日のようにアンジェリアに盛られていると伝えようとした。けれど、アランはそんなアンジェリアの考えなど分かっているかのように、微笑んでアンジェリアの発言を手で制した。結果、侍女の発言を止めることが叶わず、アランの正体を知らない部屋付きの侍女は、してやったり顔でアランを非難し始めた。


「これは、これは! なんと言う無礼でしょう!!ガーライド王国の方々はコーション国を陥れようとしているのではないでしょうか? ーー私は、毒などお茶に入れておりません!! 冤罪を作りあげるなんて!! ーーそれに、それに! 私は、見てしまったのです!! 今朝方、アンジェリア様が毒草を温室に隠しているところを!! そこでは、側妃様の愛猫まで手にかけていらっしゃいました!! ーー私、恐ろしくて、恐ろしくて!!」


 部屋の侍女が必死にルーファスの側近へすがり付き、毒がアンジェリアの手によるものだと訴え続ける。ルーファスの側近はもちろん、先程の温室での騒ぎを見聞きしているため、侍女の発言が偽りだとお見通しだ。それに、侍女が毒を持った相手がサスティアル王国からの大使であることも。


「ーー!! っ! な、な、な、何を言っておるのだ!! たっ、大変申し訳ありません!! サスティアル王国の方になんたる非礼を!! だ、誰かー!! 警備の者ーー!!」


 ルーファスの側近は大慌てで、部屋付きの侍女を取り押さえ、部屋の外へ引きずり出そうとした。そして、大声で警備担当の近衛兵を呼び、侍女を引き渡す。


「-っ! 何をなさるのです?! 私は、カルラ様から推薦されてアンジェリア様の侍女を本日任されているのです!! 私への無礼は、カルラ様への侮辱となりましょう!!」


 取り押さえられた侍女はそう言って抵抗し、廊下中に響き渡る大声でわめき散らした。ルーファスの側近に呼ばれた警備の近衛兵達の他に、城のメイド達も何事が始まったのかと、ざわざわと集まりだす。


「おやおや…? これはこれは、アンジェリア殿のお部屋はなんとまぁ、賑やかなこと。先程、国王陛下がお亡くなりになりましたのにーー、」


 そんな中、一皮艶やかな高音でアンジェリアを小馬鹿にしたようなセリフを吐きながら、側妃カルラが部屋にやって来た。妊娠してお腹が膨らんでからは、直接対決も少なくなってきたのに、アランがいるこのタイミングに現れたことに、アンジェリアは頭が痛くなった。


 ーーーっ!なんでここに!!


「ーー聞けば、アンジェリア殿の私物の温室に毒草が見つかったとかーー、まさか、王太子妃候補が国王陛下に毒を盛るとは!! そして、騒ぎの中、このように殿方を私室に招き入れ、呑気に騒いでいようとはー」


 側妃カルラが声高にアンジェリアがまるで国王を毒殺したとも言うように吹聴を始めると、側妃の取り巻きまでもが現れてキンキン声で喚き始めた。不思議なことに彼女達からは、国王の崩御の悲しみなどは見てとれない。


「アンジェリア様が温室に毒草を隠しているなんて!!」


「ザイゼル草で国王を毒殺するなんて!!」


「なんと恐ろしい小娘なのでしょう!!!」


 アンジェリアの部屋の前の廊下は、さらにたくさんの近衛兵達やメイドが集まり出した。側妃カルラは、今がチャンスだとばかりに一層大声を張り上げた。側妃カルラは、アンジェリアに国王の毒殺の罪をきせて陥れようと躍起になっており、アンジェリアの私室にいるのが誰かを確認しなかったのだ。

 

 一方、アンジェリアは、側妃カルラの発言からコーション国王の毒殺が確実なものだと悟り、顔を青くしていた。それがかえって、周りに国王の毒殺を明らかにされて動揺しているようにも、見てとれてしまう。

 廊下は側妃カルラの発言とアンジェリアの顔色から、アンジェリアが国王毒殺の犯人のような空気が漂っていった。ますますカルラは調子に乗ってにやにや笑い、国王の毒殺を騒ぎ立てた。

 ルーファスの側近は、喚き騒ぐカルラを止める術がなく、今にも死にそうな表情で倒れかけていた。


 そんな中、1人優雅にソファに座っていたアランが氷のように冷たい冷気を纏いながら、ふと顔を上げて側妃の取り巻きまきを順に見据えた。


「ーその方達、自分達がなんと言って騒いでいるのか、分かっているのか?」


 アランのたった一言でアンジェリアの私室と廊下は静まり返り、アンジェリアはアランが何らかの魔法を使ったと悟った。そんな中、アランに鋭い眼光で睨まれた取り巻きの1人が冷や汗を浮かべながら、何とか取り繕う。


「…あ、あ、あら? なんて野蛮で、無礼な客人ですこと。会話の途中に言葉を、挟むなんて。野蛮な人間は、野蛮な人間を、呼ぶものなのね…」


「ーーな、なんと! 無礼者ーー!! 誰か側妃とこの者達を取り押さえよ!」


 側妃カルラの登場に手こずっていたルーファスの側近は、我に返りここぞとばかりに、慌てて側妃カルラを止めに入った。コーション国の公爵家出身の側妃カルラの立場など、サスティアル王国の第一王子の足元にも及ばないくらい雲泥の差があるのだ。


「な、なんですって?! この、側近ごときがーー!!」


 近衛兵達がルーファスの側近か、側妃カルラか、どちらの指示に従えば良いのかどよめき出す。近衛兵達の動揺に畳み掛けるように、更に側妃カルラが騒ぎ立て始めた。


「誰か!! この不届き者を不敬罪で捕らえーーっーー!?」


 すると、側妃カルラが突然、口に手を当ててパクパクと魚のように喘ぎ出した。必死に声を出そうとするが、空気がハクハクと出でくるだけである。


「本当に、うるさい、耳障りなキンキン声だ…」


 殺気だった声色でアランが口を開くと、その場にいた近衛兵達やメイド達が、一斉に先程からの言い知れぬ不穏な空気を察して押し黙った。

 そして、アランの手の先が床に流れるように下げられると、側妃カルラがガタッと膝を床に付きわなわなと震えたした。


「ーー!! ア、アンジェリア様のためにいらっしゃった、サスティアル王国からの大切な客人に毒を盛ろうとした者だ!! 毒を何処から手に入れ、誰から指示されたかなど、必ずや引き出すように!!」


 アランの発言にルーファスの側近は直ぐに反応した。そして、側妃カルラを拘束するよう警備兵に指示を出した。けれども、突然、警備兵はアランがサスティアル王国からの客人だと言われて、愕然として動けない。


「早く!! この者達をアンジェリア様の元から下げよ!! これは命令である!!」


 もう一度、ルーファスの側近が悲鳴に近い声をあげて、騎士達に指示を出すと、金縛りが解けたように慌てふためいて動き出し、側妃達の取り巻き達を押さえつけた。

 その場にいた皆、あれ程騒ぎ立ていた側妃カルラが声を発することも出来ず、床に膝をついて微動だにしないのは、サスティアル王国の客人の力だと察した。

 そして、側近は冷や汗をだらだら流しながらもアランへ膝を付き謝罪を述べ始めた。


「もっ、申し訳ありません!! まさか、このようなことが起こるとは!! す、すぐにルーファス殿下も、こちらにいらっしゃいますーーほ、本当に、大変申し訳ございません!!ー」


 ーーーまさか、このような…って嫌がらせは毎日あったのよ?


 アンジェリアがルーファスへの報告を怠っていたために、側近は内情など知らない。けれども、アンジェリアのじっとりとした目付きに何かしら予想が付いたらしく、側近は真っ青だった顔をさらに真っ白にして頭を床に擦り付けた。


「先程の言葉は、しかと記憶した」


 アランはルーファスの側近の言葉を軽く聞き流し、静かにまだ口のきけない側妃カルラに、やけに響く声で向かって話し始めた。頭の中に直接響く感覚にアンジェリアはアランが何らかの魔力を使っていると感じた。


 ーーーアラン殿下、声に魔力をーー耳に言葉が吸い付くようだわ…!


「先程まで、側妃カルラはルーファス殿と共に過ごしていたと聞いている。ここにいるアンジェリアとガーライド王国の大使の面会を邪魔せぬよう、ルーファス殿自らが、そなたの足止めをしていたはずだ」


 アランが言葉を続けると、何か思い当たるのか側妃カルラが真っ青な顔でカタカタと震えたした。


「アンジェリアの温室で、そなたの侍女頭が許可なく立ち入った所を捕まえた。温室にはそなたの猫とーーそこの女が言っていた『毒草ーーザイゼル草の若葉』が落ちていた…そなたらは、いつ、ザイゼル草の情報を得た?」


 すーっと、アランが指を振ると、口をはくはく動かしていた側妃カルラがハッと口を押さえた。そして、ようやく言葉が出るようになったのが分かり、青い顔をしながらも、虚勢を張って言葉を絞り出した。


「そっ、それは! アンジェリア殿につけた侍女が!! 今朝、温室で毒草を見かけたとーー!!」


 ーーーっ!それじゃ、辻褄が合わないわ!


 アンジェリアはいち早く、側妃カルラの言葉の誤りに気がついた。アンジェリアの温室は、毎日午前中は庭師が手入れに入っている。その庭師の他にアンジェリアの許可なく温室には立ち入れない、鍵はアンジェリアが管理しているのだから。


「では、なぜ、朝に毒草を見つけた時点で、警備に報告がされていないのだ? ーーそして、その侍女とやらは、どのようにしてアンジェリアの温室に許可なく立ち入ったのだ?」


「ー!っ!!!」


 アランの魔力をのせた言葉に、側妃カルラや側妃の取り巻き、警備兵達が多くいるのにも関わらず、周囲は恐ろしい程の静まりをみせた。言葉を発することが出きるようになった側妃カルラだったが、自分達のミスに気がつき、言葉を続けることが出来ない。


 アランの言葉だけが周囲の隅々まで響き渡る。


「アンジェリアへのそなた達の態度が痛く気にくわない」


 アランは1度言葉を止めてため息をついた。そして、軽く自身の頭の横で指を鳴らすと、一瞬で本来の姿に戻した。


「ーー我が名はサスティアル王国、アラン=シャルレイン=サスティアル。ここにいるアンジェリアは我が従妹である。アンジェリアは、我が父、サスティアル国王が特に目をかけている娘だ。これ以降は、それに値する姿勢を示すようにーー」


 アランは冷静に見えても、実際はかなり苛立っていた。予定はなかったが、実名を明かして自身の幻覚の魔法を解いた。辺りには、キラキラと光が降り注ぎ、一同は唖然となる。


「殿下ー!!」


 廊下の先からドタドタと駆け寄る大きな足音と共に、セーシル公爵が息絶え絶えに、警備兵を振りきるかのようにものすごい早さでやって来た。遠くから、アランの魔力を感じたらしく、直ぐに異変が合ったと急いで走ってきたのだ。


「一体、何が合ったのです?! それに御姿を戻されるとはーー!」


 アワアワとセーシル公爵が焦っていると、周囲も金縛りが解けたかのように我に返った。


 "サスティアル王国、アラン=シャルレイン=サスティアル"


 その場にいた各々が、先程姿を魔法のように変えた人間の言葉を、頭の中で整理しようとするが全く追い付かない。


 "アランという名は確か、世界最強のサスティアル王国の第一王子、そして王太子に一番有力な存在"


「「ーー!!!」」


 ザッーー!!っと音が響き、立っていた人間全員がその場で床に頭を下げた。皆、真っ青な顔で汗をだらだら流している。サスティアル王国の大使というだけでも冷や汗物だったのに、一生顔を拝見することなんて出来ないような崇高な存在相手に、ガタガタと震え出す者も多い。

 先程まで、声高に騒いでいた側妃の取り巻き達の中にはショックに気絶する者もいた。


「この者達が、アンジェリアが毒を国王に仕込んだと訳の分からぬ方便を、延々に述べておった。真の犯人しか知らぬ事実も述べて、本当に愚かな者達だーーーそれに、姿を変えていたのは、アンジェリアのコーション国での情況を正しく把握するため。まぁ、この騒ぎで、どのような扱いを受けているのかおおよそ分かったが」


 アランは冷たい視線を周囲に流すと、さらに止めを刺すように言い放った。


「側妃の友人はザイゼル草を使ったと述べていた。国王は恐らくその毒で殺されてのであろう? それについても調べるように」

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