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2番目の婚約解消⑫

「ーーージェ…、アンジェ、リア?」


 とりあえず、捕らえた侍女頭をユーグと王宮の警備衛兵に任せて、セーシル公爵とアンジェリア達は温室内へと入ってきた。


 側妃カルラの侍女頭が何の目的で温室に侵入していたのかは分からないが、アンジェリアには一見いつも通りの穏やかな温室のように見えた。


 ーーー一体、何の目的で?ここにはカルラ様の欲しいものなんてないはずーー


 アンジェリアは、コーション国の侍女達からの情報として、側妃カルラは花や草木といった自然の美しさよりも、きらびやかな宝飾品を好むと聞いていた。実際に、王宮に宝飾品の商人を大勢集めては購入しているのをアンジェリアも目撃したことがある。

 しかし、この温室には、側妃カルラが好きな宝石類を始めとするお金にも繋がるような物は何もない。そのため、側妃の侍女頭が何を目的に温室に侵入したのかアンジェリアには見当もつかなかった。


「アンジェ? 考え込む時に、周りが見えなくなるのは、幼い頃から変わらないようだね?」


「ーーー?! こっ、公爵様、申し訳ありません」


 セーシル公爵に話しかけられるまで、いつの間にかアンジェリアは深い思考に耽っていたらしい。アンナとマリアナも心配そうにアンジェリアの様子を伺っている。


 ーーーいけない!しっかりしなくちゃ!!


 突然の侵入者に驚いたであろうアンジェリアを、心配そうに見つめるアンナとマリアナに、アンジェリアは、大丈夫だと微笑んでから、セーシル公爵に視線を戻した。するとセーシル公爵は、とても優しい眼差しでアンジェリア見つめており、アンジェリアはなんだかとてもほっとした。 


ーーールカはセーシル公爵夫人に似てるとばかり思っていたけれど、笑った顔は公爵様にも似ているのね…


 セーシル公爵の微笑んだ表情はルカに良く似ており、ルカと一緒にいるようで少しだけアンジェリアを落ち着かせた。


「アンジェが不安になるものやむ得ないことだ。ここはルーファス殿から贈られたアンジェの私的な温室と聞いている。そこに賊がいたのだから、ね?」


 セーシル公爵はそう言うと、アンナとマリアナ、自らの従者に的確な指示を次々と出していった。


「いつもと様子の違うところはないかな? ーー何でも、気がつくことを教えてくれ。些細なことでも良いんだ。思い付くことは全て調べていこう」


 側妃カルラは、今日のこの時間にアンジェリアがガーライド王国からの使者と面会していると知っていても不思議ではない。アンジェリアの予定は隠されたものはなく、側妃の立場であれば、王宮の侍女に聞いてスケジュールを確認することは可能だと思われた。

 そして、わざわざ施錠のしているアンジェリアの温室の扉をこじ開けて、側妃カルラの侍女頭が許可なく侵入していたのだから、目的が魂胆があってのことと考えるのが妥当だろう。

 

 ーーー何かを奪いに来たのではないとしたら、罠を仕掛けたの?でも、それなら、元間者のユーグがいち早く気がつくはずだわーーー


「きゃっ!? ア…、ア、アンジェリア様!! セーシル公爵様!! ーーこっ、これを!!」


「?! マリー?! 大丈夫なの?!」


 突然、マリアナの悲鳴に近い声が温室奥から上がった。恐怖を帯びた声に温室内の緊張が高まる。セーシル公爵とアンジェリアは護衛達と共にマリアナの声のした方へ急いだ。


 顔色をすっかり失くしたマリアナがいたのは、温室奥の小さな噴水の後ろだった。つかさず、先に護衛達が駆け寄って、マリアナの視線の先を確認した。


「侍女殿、お前達、報告を」


 セーシル公爵がマリアナや護衛達に声をかけると、マリアナは顔を青ざめさせながらも、見つけた物を震えながら指差した。噴水の彫刻の後ろに何が白く赤黒い塊が落ちている。


「白い、猫の、死骸のようです! 周りには毒草のようなーーま、まさか! これは…?! セーシル公爵様!! 悪魔草と思われる毒草が落ちております!!」


 ガクガクと震え恐怖で返事のできないマリアナ代わって護衛の騎士がセーシル公爵の問いに答えた。アンジェリアも震える足を叱咤して、セーシル公爵と共に、恐る恐る噴水へ近づき変わり果てた猫を確認する。


 ーーーこれ、は?!カルラ様の愛猫!!


 マリアナの示す指の先には、口から血を吐いた、真っ白な猫が息絶えていた。猫の口や、死骸の側には乾燥させた赤黒い草が落ちている。


「!! ーーこれはこれは、こんなところで悪魔草ーーーザイゼル草を目にするとは。しかし、この猫は、一体? 毛並みの整い方といい、誰かの飼い猫のようにも見えるが? アンジェ、この猫を知っておるかい?」


「ーーー、お、おそらく、側妃、カ、カルラ様、の猫です。なぜ、この、温室にーー」


 アンジェリアは驚きのあまりに、血に染まって微動だになった猫から目が離せない。つい先日までは、カルラの膝の上で愛でられ、すやすやと気持ち良さそうに寝ていたのに。


「側妃の侍女頭が正妃候補の温室に無断侵入、毒草で殺した側妃の猫の死骸を置いていったーーか。アラン、すぐにルーファス殿に報告を! ライアルト殿下に使われた毒草が温室で見つかったとな!!」


 セーシル公爵が指示を出すと、直ぐにアランと呼ばれた騎士は温室を後にした。


 ーーーライアルト殿下!?使われた毒草?!どういうこと?!


「こ、公爵様!! 毒草とは、ど、どういう事です?!」


 いち早く我に返ったアンナがセーシル公爵に問うと、マリアナもはっと我に返り、アンジェリアの側に戻ってきた。


「ーーーライアルト殿下に使われた毒草は、判明していたのですね」


 アンジェリアがセーシル公爵へ静かに質問を重ねると、公爵はしょうがないという風に頷いた。


「確かに、ライアルト殿下に使われた毒草は、早くから判明していた。だが、ね? 使われた悪魔草はーーザイゼル草と言うんだがーー既に300年前にはこの世界から無くなっている筈なんだ」


 セーシル公爵は深いため息を付いた後、話が長くなるからとアンジェリアに温室のベンチを勧めた。


「ひどい顔色だ。アンジェに何かあれば、私はルカに殺されかねないからね?」


 温室内の張り詰めた緊張感を解すように、セーシル公爵は表情を少し柔らかくした。


「あまり楽しくない話だが、コーション国に送られてきた時点で、アンジェは既にこのライアルト殿下の毒殺未遂事件に巻き込まれているからね? 話しておいた方が良いだろうーー」


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