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2番目の婚約解消⑪ 毒草

 ーーー私が、コーション国で毒消し薬を使っているとの報告は、きっと、ガーランド王国の首相であるお父様にも伝わってるわね


 側妃様の侍女がアンジェリアに毒を盛っている事についての物的証拠はない。けれども、間者であるユークからガーライド国へきちんと報告がされているらしい。

 アンジェリアは、今になって、両親が自分を心配しているのではないかと思い至り申し訳なくなった。アンジェリアは、あまりにも自分の周りで毒殺未遂が繰り返されるために、危機感覚がかなり麻痺していたのだ。


 ーーー本当に、タチアナお姉様やセライアお姉様がコーション国に嫁いでこなくて良かった


 ーーーもしも婚約者に選ばれたのが、お姉様達だったとしたら、毒消し草だけじゃ防ぐことは無理ね。すでに、恐ろしいことになっていたかも…


「ーー最近は頻繁に、食事の度にスープや紅茶などに入っていますーーーこちらは、昨日食事の際に出された毒入りの紅茶を瓶に入れてとっておいたものです」


 アンジェリアは、セーシル公爵に毒の入った紅茶の瓶を渡した。時間が経ってしまい、成分が変化している恐れもある。それでも、もしかしたら少しでも調査に役立つかもと保存していたのだ。


 ーーーもし、ライアルト殿下に使われたものと同じだとしたらーーー


 毒が共通であれば、ライアルトの殺害未遂もコーション国の側妃の関与が濃厚になる。

 アンジェリアにとって、いつも自分を気にかけてくれるルーファスはコーション国で唯一の味方と言っても良い。

 今は形式上、婚約者という立場にあるが、歳が離れ過ぎているため、アンジェリアの保護者と言った方が関係は近いだろう。

 コーション国の王太子の側妃を告発するのは、アンジェリアを気にかけてくれているルーファスへの裏切りのようで、後ろめたさが残る。けれども、祖国や姉のタチアナのために、ライアルトの呪詛を早く取り除きたいという気持ちが強かった。


「これはありがたい。早速、ガーライドに戻り次第、成分を調べるとしようーー薬草といえば、アンジェはこちらに来た時に、ルーファス殿下から温室を承ったとか? ぜひ見てみたいものだがーー良いかな?」


「もちろん、ちょうどここから歩いて直ぐそこなのでーー庭園の端にあるんです。こちらからは温室は見えないのですが、あちらの壁を曲がったところにあります」


 前もってルーファスやコーション国側の侍女達には、セーシル公爵に温室を案内すると伝えてはいない。けれども、温室譲渡の際に、ルーファスから温室はアンジェリアの私的な空間として利用して良いと言われていた。

 だから、セーシル公爵に少し見せるだけならルーファスに許可を取る必要もないだろうと、アンジェリアは案内することにした。


「アンナ、申し訳ないけれど、温室にお茶を運んでもえるかしら? ロイター、アンナを手伝ってもらえる?」


「「かしこまりました」」


 アンナとロイターにガーデンのティーセットを温室に運ぶよう手配を任せ、アンジェリアは先に温室へと向かうことにした。マリアナとユーグ達を従え、セーシル公爵、従者等と共に温室に向かってガーデンの花を愛でながら歩き出す。

 すると、城壁を曲がった先の、温室が見えたところで、アンジェリアは異変に気がついた。


 ーーー温室の扉が開いているー?


 いつもなら温室担当の庭師は、朝一番に手入れを行う。庭師は、今日も昼前に作業を済ませて、温室を後にしているはずである。

 昼間は、アンジェリアがいつでも1人でゆっくり寛げるように温室には鍵が掛けられ、誰も立ち入らないようにしている。

 そのために、昼間は鍵がかけられていて誰も温室には入れないのだ。アンジェリアの許可なくして、誰も温室に足を踏み入れることは出来ない。


 ーーー誰かが許可なく侵入している?ーー


「ーー? アンジェ、どうしたんだい? 何か問題でもーー」


「ーーあぁ、あのーー」


「セーシル公爵様、扉が開いているようです。アンジェリア様の許可なく、温室には入ることはできません。すなわち、中には侵入者がいる、かと」


 侵入者の可能性に驚き、混乱しているアンジェリアに代わって、ユーグがセーシル公爵に説明した。ユーグはそのまま前に進み出て、侵入者に気がつかれぬよう、静かに温室の中に入って行った。


「ーーアンジェリア様、こちらにーー」


 セーシル公爵の従者として同行してきた者が、ユーグの代わりにアンジェリアの前に進み出て来た。周りには緊張が走り、マリアナも顔色が悪い。


『ギャーーー!!』


「アンジェリア様は後ろに、控えてくださいませ!!」


 従者とマリアナがアンジェリアとセーシル公爵を守るように立ちはだかると、セーシル公爵も剣を抜いて、いつでも応戦できるよう構えた。

 温室の中からは悲鳴が上がり続けており、ドタドタ、ガタガタ!! っと、暴れるような音も聞こえてくる。


 ーーーユーグは無事なの?!


 アンジェリアが息を詰めて温室の扉を凝視していると、中から何かの塊を引きずったユーグが姿を現した。しっかりとした足取りで、怪我はないように見える。


「ーーーユーグ、それは何かね? 報告をーーー」


 セーシル公爵が剣を納めて、ユーグに問うとユーグは引きずってきたものをドサッと、セーシル公爵の前に置いた。


 ーーーこの人はーー!!!


「ーーー側妃、カルラの侍女頭だ。武芸の経験があるように見えるーーただの侍女頭だとは思えない」


 ユーグが低い声で、『俺と同じ臭いがする』と呟くと、セーシル公爵は頷き、従者に猿轡を侍女頭に付けるように指示を出した。


「ーーアンジェ、驚き動揺している時にすまないね。この温室は、アンジェの許可なく入ることはできない、この女は許可無しで侵入した、で良いのかな? ーーだとすれば、この女の処遇は、このセーシル公爵に任せておくれーーそして、今すぐに、この温室を調べた方が良いだろう。この女が何を目的に侵入していたのか、証拠がなくなってしまう前に。ーー同行できるかね?」


 マリアナが心配そうにアンジェリアの背中に手を添えた。アンジェリアが心許なくなると、いつも勇気づけるように手を添えてくれるのだ。


 ユーグは、侍女頭が自分と同じ臭いがすると言っていた。それは間者と同じような生業をしていると言うことだろう。アンジェリアは不安で恐ろしい気持ちでいっぱいになった。

 それでも、温室には何があるのか自分の目で確認しようとセーシル公爵に同意することにした。


 ーーーここには、マリアナもユーグもいる


 ーーーそれに、セーシル公爵様も従者の方も側にいる


 アンジェリアが恐怖でがくがくと震えているのはセーシル公爵にもわかった。セーシル公爵はマリアナと共にアンジェリアを支えると、同行は大丈夫かね? と心配そうにもう一度尋ねた。


「ぜひ。この者が何の目的で、温室に侵入していたのか、調べなくてはならないと思います」


 ーーー恐い…けれど、ガーランド王国とコーション国との関係にヒビが入ろうとも、これは避けることはできない


 アンジェリアがぎゅっとセーシル公爵の腕に捕まると、安心させるようにセーシル公爵がアンジェリアの手をポンポンと叩いた。


「必ずアンジェの安全は守ると約束しようーーまぁ、ルカの宝珠に頼ることもあるまいーーロイター! 至急、コーション国王陛下にこの事、報告せよ」


 セーシル公爵は、悲鳴の声を聞き付け、急いで後から温室へやって来たロイターに素早く指示を出すと、アンジェリアを連れて温室へと入った。

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