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2番目の婚約解消⑨

前回の更新の話とセットです

「公爵様、それではなおさら私が持っていては差し支えがーー」


 想像を遥かに超えたセーシル公爵の言葉に、アンジェリアがブレスレットから手を離すと、ブレスレットが鈍く暗い光を出した。

 それを見たセーシル公爵は、ふーっと長い息を吐いて考え込むように目を閉じた。


「アンジェ、さっきも伝えたようにこのブレスレットはルカの心そのものなのだよ。ルカはアンジェ、君の側で君を守りたいという意思をこの宝珠に込めたようだ。そして、この宝珠はその意思を宿っている。無理にアンジェから離せば、ルカの魂の欠片に傷がつくことになりかねん」


「ーー魂に傷ーー?」


 ーーーどうしよう、そんな大切なものだったなんて!


「この宝珠はね、アンジェへの側でしか存在出来ない。己の一部を差し出すかわりに、対象者に強力な加護をかけるんだ。そうして、宝珠を贈った者は、一生その者を守る誓いを立てる。その誓いは決して、どんなことがあろうとも変えることが出来ないのだーー」


 セーシル公爵は、驚きのあまりに言葉が出ないアンジェリアに理解をしつつも、ブレスレットの説明を続けた。


「さっきも言ったように、本来、この宝珠はフォーガス王家の伴侶となる者に贈られる一生のうち1度しか作り出せない物だ。フォーガス国は、知っての通り、今では学問の発展が著しい。けれども、古くは呪い(まじない)の国として栄えたんだよ。呪い(まじない)の力は、今ではほとんど失われているが、王族のみ一部の力が残っている」


 セーシル公爵の言うとおり、現在ではフォーガス国は世界で最も学問が発展している国だ。それに準じるように医療も発展していて、サスティアル王国の魔法石と融合して、治療効果を高める研究も行われている。世界中の学者が、今や研究を深めるためにフォーガス国へ集まっている。


 一方、国の発展と共に呪い(まじない)の力は徐々に消えていった。フォーガス国の古い伝承には呪い(まじない)の力で他国の侵略を防いだこともあると言われているが、今では、王族といえども必ず力を持った人間が誕生するとは言えない。

 現フォーガス国王、王太子は力を有するが、その後に誕生した王太子の世継ぎには呪い(まじない)の力は無かったと、囁かれていた。そして、現王太子は体が弱く、次期国王は務まらないとも噂をされている。

 現フォーガス国王は、国の重要な式典時には、必ず国民へささやかな呪い(まじない)を披露している。呪い(まじない)の力がフォーガスにある内は国は安泰だと国民は信じているため、なんとしても王太子には、更なるお子を!!と熱望されていた。

 そんなフォーガス国の呪い(まじない)の力によって作られたルカの宝珠を、知らなかったとは言えアンジェリアは受け取ってしまったのだ。


 セーシル公爵からフォーガス国の呪い(まじない)の説明を理解すればする程、アンジェリアはひどく落ち込んでしまった。ルカと婚約が結ばれている際に、フォーガス国の不思議な歴史については学んでいたはずだ。


ーーールカがおいそれと、簡単に婚約解消をする程軽薄じゃないことくらい、わかっていたのに…


 赤ちゃんの時から一緒に過ごしてきたルカは、アンジェリアのことをとても大切に接してくれた。お互いに幼い子供なのに、アンジェリアのことをいつも優先し、我が儘も聞いてくれていた。

 アンジェリアはルカと過ごした楽しい日々を思い出して寂しくなった。

 そして、ガーライド国の王宮のバルコニーで最後にあった時、もしもルカの想いに気づいていたなら、何かもっと大切な話を言えたのではないかと後悔した。

 アンジェリアが黙っている間、セーシル公爵も思うところがあったのか、ひどく落ち込んで見えた。


「ルカとフォーガス国の宝珠については、まだ幼いからとあまり話をしていなかったのだ。まさか、既に自身で作り、アンジェへ渡していたとは…、幼い子供を国政に巻き込んだばかりに、アンジェとルカには申し訳ないことをしたーー」


 そう言って、セーシル公爵は黙ってしまった。

 セーシル公爵は、セーシル公爵夫人から宝珠を贈られる際に宝珠についての話を聞いていた。フォーガスの王族は年齢に関係なく、己の宝珠を渡す相手がわかるのだと、それはまるで、遠い国の神話に出てくる龍のように番がわかるのだ、と。

 公爵夫人は早めにフォーガス国の不思議な呪い(まじない)の教育をルカにさせたかった。それを、ルカはガーライド王国の公爵家の跡継ぎなのだからと、先延ばしにセーシル公爵はしてしまった。ルカは、恐らく自力でフォーガスの王族の神秘の力についての文献を読み漁り、自身の力について学んだのだろう。アンジェリアとの婚約解消をルカにセーシル公爵が伝えた時、国家懸案事項だからと言って、問答無用でルカの話を(ろく)に聞かなかった。

 そして、セーシル公爵は、ルカの心が定めた宝珠の相手を勝手にコーション国へ送ってしまった。

 フォーガス王族に伝わる神秘の力について、ルカが覚醒する前なら、アンジェリアと引き離しても大丈夫だとセーシル公爵は考えていたのだ。

 

 セーシル公爵夫人もそうであったように、本来ならば、心が定めた相手に、直接想いを告げて宝珠を贈るものだ。ルカも自ら告白し渡したかったに違いない。


「ーールカは、アンジェに直接会って話をしたかったと思う。それをさせなかったのは、私達、大人だねーー本当に申し訳ないことをした、ーーブレスレットの宝珠はね、フォーガスの王族が生涯の伴侶と心が定めた人間に贈る大切なものなのだ。作り手の魂を削って作られ、受け取り手である伴侶を一生守り抜く。伴侶に命の危険が迫れば、己の命と引き換えることもーーー」


「ーーっ! そんな大切な物を何故?!」


 ーーーそんな重要なもの、私が持っていてもいいの??


 ブレスレットがルカの命と引き換えにアンジェリアを守ると聞いて、アンジェリアは驚きの余り声を荒げてしまった。ルカはフォーガス国の王族であり、宝珠は一生に1度1人に渡すのであれば、それはアンジェリアであってはいけない。


 コーション国の王太子妃になるため、国を出た幼馴染みに渡して良いものでは決してないはずだ。


「驚くのも無理はないーー私もルカがフォーガス王族に伝わる能力を既に持っているなんて考えてもいなかったのだーーアンジェ、よくお聞き。宝珠は、作り手の魂そのものを宿っていると言っても過言ではないーーー私はね、ルカの宝珠からは、遠く離れてしまってもアンジェを守り通したいという強い意思を感じるんだ」


 セーシル公爵に促されて、アンジェリアが未だに光を放つブレスレットを見つめると温かな光へと変わったような気がした。


「アンジェとルカの婚約を解消させてしまった私がこんな話を君に伝えるのは矛盾しているーーー本当にすまない」


「公爵様ーー」


「もしも、ルカが宝珠を用意していたと知っていたなら、私もアンジェをコーション国へ渡すのを止めさせていただろう。もしかすると、ルカが覚醒し、アンジェを宝珠の相手だと認識をしたのが、婚約解消前後だったのかもしれないーー、けれども、私はコーション国との交渉のさなかで、ルカの話も妻の話も全く聞かなかった。ルカが力に目覚めていない内ならば、アンジェをコーション国に渡しても大丈夫だと思っていたのだ、ーーアンジェをコーション国に連れていくのが国の、王家のためなんだと…、もう、取り消しがつかない。なんてことをーー」


 セーシル公爵はベンチの側で高い飛沫をあける噴水を眺めた後、一度深く息を吐いた。


「今、ただ言えることは、ルカの宝珠は一生でこのブレスレットだけであり、その持ち主はアンジェ、君だけだ」


 セーシル公爵は、そう言うと少し疲れたように頭を振った。


 魂が壊れるというのはアンジェリアは想像が全くつかない。すぐに回復できるものなのか、公爵家を継ぐものにとって障害になりはしないのかとても不安だった。


 ーーールカの…心は、それで、大丈夫なの…?


 アンジェリアは、セーシル公爵の疲れた顔を見て、公爵の苦悩を少し理解した。セーシル公爵にとっても青天の霹靂だったのだ。混乱しているに決まっている。アンジェリアは少し迷った後、ブレスレットをもう一度腕につけ直した。

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