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2番目の婚約解消⑧

「ーーコーディル公爵令嬢殿、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです。お父様のコーディル公爵も、ご令嬢にはくれぐれも息災にとおっしゃっておりましたーー」


「セーシル公爵様、お忙しい中、お時間を与えてくださり、ありがとうございます。こうして会えることを楽しみにしておりました」


 アンジェリアがセーシル公爵との面会をコーション国側に求めると、いつもの嫌がらせのようなものは全くなく、すんなりと予定を取り計らってもらえた。おそらく、ルーファスの口添えが効いたのと思われる。セーシル公爵との面会は、建国祭初日の舞踏会から幾日も置かないで実現された。

 面会場所は、あの王妃のガーデン側の噴水広場である。今日は側妃がセーシル公爵とアンジェリアとの面会に乱入し邪魔することのないよう、面会の時間に合わせて、ルーファスが側妃の元を訪れるという配慮がなされていた。


「女性は少し会わないだけで、とても美しくなりますなーー、幼き時よりコーディル公爵令嬢殿を知っておりますが、随分と成長されたご様子」


 久しぶりに会ったセーシル公爵は、まるで自身の娘を見るように、眩しそうにアンジェリアを見つめて微笑んだ。


「公爵様、私のことはどうぞ、以前のようにアンジェと。ここには口煩い者もおりませんので」


「では、お言葉に甘えて。アンジェ殿、この度は、弟君のご誕生おめでとうございます。ここ、コーション国に向かう前に、コーディル公爵家に伺いました。とても元気な若君でありましたよ」


 アンジェリアがコーション国へ出立する前、アンジェリアの母は第5子の妊娠をしていた。アンジェリアにも、実家から手紙で男の子ーーアンジェリアの弟が産まれたと連絡が届いた。


「お祝いのお言葉、ありがとうございます。母も弟も元気と、兄から便りがありましたーーーそれで、早速ではありますが、公爵様にお願いがあるのです。ご迷惑でなければ我が弟に、これを渡していただけませんでしょうか」


 アンジェリアは側で控えていたマリアナから、小さな箱を受け取り、セーシル公爵へ渡した。中はアンジェリアが自身で編んだベビーソックスで、アンジェリアの癒しの加護をそっと込めて作った、弟の誕生祝いの品である。

 ガーライド王国への定期便で送ることも考えたが、加護を込めて作っているため、紛失するのはまずい。確実に、コーディル公爵家へ届くようにセーシル公爵へ託すことにしたのだ。


「迷惑だなんてことはあり得ませんよ。確かに、お預かりいたしました。ガーライド王国に戻りましたら、直ぐにでもコーディル公爵夫人に渡しましょう」


 セーシル公爵はアンジェリアの特殊な能力を知っている極少数の1人である。アンジェリアが弟のために込めた加護について、直ぐに察し、コーディル公爵家に受け渡すと約束をしてくれた。

 アンジェリアはほっとしながらも、もう1つのお願いをセーシル公爵へ伝える事にした。少し寂しいが、ルカから貰ったブレスレットを返そうと、ずっと悩んでいたのだ。


「公爵様、ありがとうございますーーーそれと、これもお持ちになって頂けませんでしょうか?ーーー御子息様から、以前頂いたものですーーー」


 アンジェリアは、必ず身に付けるようにとルカから誕生日に貰ったブレスレットを外すと、セーシル公爵の前にそっと置いた。


「ーー!? な、なんと?! これは、ルカが?!」


 セーシル公爵は、差し出されたブレスレットを見ると、珍しく驚き、取り乱したかの様な素振りを見せた。ブレスレットをじっと見つめて、何やら思案し始めている。

 アンジェリアは想像以上のセーシル公爵の反応に戸惑いながらも、ルカから受け取った経緯について説明を始めた。


「はい。コーション国に出立する少し前、セライアお姉様がルカ殿から預かったものだと渡されました。当初は、単なる誕生日プレゼントだと思って受け取りましたがーーーけれど、こうして、婚約者ではありますが、コーション国王太子妃にと迎え入れられたのです。それなのに、他の殿方から頂いた品をいつまでも身に付けていてはとーーー」


「ーーアンジェ、これは受け取れない」


 アンジェリアは、高価な贈り物であろうと思われるブレスレットを、自分で処分するには気が重かった。きっと、ルカはアンジェリアのために一生懸命選んでくれたと思うとなおさらだった。

 だから、セーシル公爵から息子であるルカへ返却して貰いたかった。ルカの父親であるセーシル公爵ならば、事情を説明すればすんなり了承してくれるのではないか、と思ったのだ。アンジェリアをコーション国へ連れてきた本人で、国家間の結び付きを強めたいと思っているならば、小さな障害も取り除くはすだと。

 なのに、直ぐに拒否されてしまった。やはり、送り手側のルカのメンツもあるのだし、送り返すのは非常識であったと、アンジェリアは反省した。


 ーーーいくら高価だとしても、ルカも父親経由で送り返されたら迷惑よね


 アンジェリアはブレスレットをテーブルから片付けようと、セーシル公爵の前に手を伸ばした。すると、セーシル公爵はアンジェリアの手を両手で包み、悲しそうに呟いた。


「アンジェ、このブレスレットは、必ず、ずっと肌に離さず持っておいてほしい」


「セ、セーシル、公爵様?」


 アンジェリアが驚いて、セーシル公爵を見つめると、セーシル公爵はブレスレットの内側をアンジェリアに示した。そこには、受け取った時にも気がついた、小さな碧色の宝石が嵌めている。


「これはーーーこのブレスレットに使われている石は、フォーガスに伝わる宝珠でね。王族1人の魂を込めることができる石なのだ。ここに、ルカの瞳の色と同じ石が嵌めているだろう?」


 ーーールカの瞳の色の石というだけじゃないの…?


 アンジェリアは、自分が誕生日プレゼントとして受け取ったブレスレットが思いもよらない、大変なものではないかと、だんだん心配になってきた。


 ーーーフォーガス王国に伝わる大切な品だったら、余計にルカに返さなくちゃならないのでは?


 そう考えたアンジェリアは、もう一度セーシル公爵へブレスレットを渡そうとした。けれども、セーシル公爵はブレスレットをアンジェリアに握らせ、受け取ろうとは決してしない。


「アンジェ、これはルカの魂の欠片で作られた宝珠だ。おいそれと、他の者は受け取れないのだよ。持ち主となるのは、その王族の唯一無二の人間だけーーー」


 ーーールカの魂の欠片で作られた?!



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