2番目の婚約解消⑦
コーション国、建国360年記念祭当日ーーー
「今日の朝食も毒入りスープでした! アンジェリア様、もう隠さず、来訪しているセーシル公爵様にお助けを求めてくださいませ!」
今日もマリアナはアンジェリアの食事に不満があるらしい。これ見よがしに、提供されたスープの側に黒く染まったスプーンを添えて、コーション国側の侍女に突っ返した。
渡されたコーション国の侍女も負けてはおらず、バーン! ーーと扉が割れるのではないかと言う勢いで部屋を出て、食器を下げに行った。
建国祭が行われる1か月前から、アンジェリアの食事には、毎日のように3食のうち1回は毒を入れた料理が運ばれてくるようになった。
アンジェリアがコーション国に来てからも、ちょくちょく、スープやら紅茶、クッキーなどに毒が混入されていたのだが、この数日で頻度がかなり高くなったのである。
アンジェリアにとっては、ガーライド王国から定期的に毒消し薬を送ってもらっている上に、自身に最強の癒しの力があるので、毒を盛られても健康的被害は全くない。
ただ、アンジェリアの侍女としては『コーション国を守るため、盾になっているはずの大国の公爵令嬢に毒を盛る』のが許せないらしい。まさに、恩を仇で返しているようだと、アンナは昨日もかなりキレていた。
ーーーでも、事を大事にして、コーション国の貴族が反発してきたら…特に、コーション国との関係を拗らせて、ライアルト殿下に渡る魔法石の量や頻度に影響があってはまずいわーー
マリアナとアンナの怒りも不満も充分に理解出来るため、アンジェリアはかなり頭が痛かった。
ーーーけれど、最近のコーション国側の侍女の態度も問題よね? 敬意と言うものが全く感じないーー
アンジェリアは、コーション国の現状について詳しく把握していない。アンジェリアの護衛騎士達が忙しく王宮を偵察してはいるが、王宮内には、自国の貴族以外の立ち入り禁止エリアが多く存在する。そのため、護衛達の偵察が思うように進んでいなかった。
アンジェリア自身も、コーション国の詳しい情勢について、折を見てルーファスに尋ねていた。しかし、ルーファスはいつもアンジェリアはまだ幼いからと話を逸らしてばかりだ。
「ーー確かに、ここ毎日、毒入りスープを目にしているわーー私の大好きなエビのスープにまで毒を入れるなんて、ね?」
少し考えを巡らせた後で、アンジェリアがマリアナに同調すると、アンナも同調してきた。
「いくら毒消し薬がたくさんあるからと言って、頻度が多くなりすぎです。他の嫌がらせが始まる前に、然るべき方々にご相談をー!」
特に、アンジェリアの特別な力を知らないアンナと護衛騎士達は不安そうに頷きあっている。
確かに、公的な予定をアンジェリア側にギリギリまで伝えないなど、ちょっとした嫌がらせは増えている。このまま嫌がらせがエスカレートすると、アンジェリアのみならず、侍女や護衛騎士にまで被害が出るかもしれない。
実際、マリアナ達とコーション国側の侍女とのいざこざも徐々に増えてきている。
ーーーとりあえず、セーシル公爵様に、毒についてお耳に入れておこう
実は、アンジェリアに毒を盛るように指示を出している黒幕は、護衛達が早々に特定していた。お調子者の間者、ユーグが真面目に仕事をして黒幕を探したお陰である。犯人として特定されたのは、側妃カルラの意向を受けた側妃の専属侍女。この者が、料理の運搬係に毒の指示をしている事が判明している。
ただ、側妃カルラ側に突き出すための確たる証拠がうまく揃わない。そのため、王太子であるルーファスに未だ相談ができていなかった。
今回の建国祭には、ガーライド王国の使者としてセーシル公爵がコーション国へやってきている。ちょうど、先日のアンナのサスティアル王国発言についても聞いておきたかったアンジェリアは、毒についてもセーシル公爵に相談することにした。
「アンナ、セーシル公爵様にはコーション国滞在中に、個人的なお茶会を必ずご用意して。少し相談があるとセーシル公爵様にご連絡すれば、必ずお時間をとってくれるわ」
「かしこまりました! すぐに手配いたしますーー」
「ーーおやおや? 我が婚約者殿は、ずいぶんのんびりしているね?」
「ーーっ! ルーファス様!!」
「ーー!! ルーファス殿下!?」
アンジェリアがセーシル公爵との面会を取り付ける指示をアンナへ出していると、部屋の扉からルーファスの顔が覗いた。
建国祭は各国から貴賓を招いて1週間行われる。今日はその初日であり、アンジェリアは夕刻の舞踏会への参加を組まれていた。成人前の子供という事で、アンジェリアは夜遅くなる前に舞踏会から退出する予定になっている。
短い時間ではあるが、舞踏会にはルーファスの正妃候補として参加をするため、アンジェリアもドレスアップしての参加となる。
「驚かせてしまったかな? ーーもしも、取り込み中であったなら、すまないね」
「ーー問題ありませんわ。こちらも、取り乱してしまい申し訳ありませんーーちょうど、ルーファス様に、ガーライド王国の使者との面会について、許可を頂こうと思っていましたの」
ルーファスの来訪に、室内にいたアンジェリア達は驚いたが、話の内容を指摘されることはなかった。ルーファスがいつから話を聞いていたのか気にはなるが、過ぎたことはしょうがない。アンジェリアは、セーシル公爵との面会についてルーファスの承諾をとってしまうことにした。
「たしか、ガーライド王国の使者はセーシル公爵殿だったかな? 昨日行われた、コーション国の同盟国を集めた会議に出席されていたよーーもちろん、アンジェの面会は好きなように。私からも、王太子宮殿長官か女官長に伝えておこう」
「ありがとうございます。そうして頂けると嬉しいです。もし良ければ、あのガーデン奥の噴水広場の使用の許可もお願いできますか? セーシル公爵との面会時に使用したいのです」
「もちろん、かまわないよーーただ侍女は必ず側につけるようにーーー妬けてしまうからね?」
アンジェリアが以前、ルーファスと散策の際に立ち寄った噴水広場の使用許可を求めると、ルーファスは直ぐに快諾した。そして、茶化すように侍女の同席を指示してきた。
妬くーーなんてルーファスはふざけているが、ガーライド王国の使者と二人きりで会うのは、いくらアンジェリアが子供でも、スパイ容疑などの良からぬ噂を立てられかねない。その配慮だということは、アンジェリアにも直ぐわかった。
「ーー分かりました。噴水広場でコーション国の機密事項をガーライド王国側に渡していたーーなんて言われないように気を付けます」
アンジェリアは肩をすくめ、忠告に従うとルーファスに伝えた。
「アンジェは本当に賢い。すまないね、コーション国にはガーライド王国との友好関係を良く思わない者もいるからーー建国祭中は特に、アンジェの身の回りには気をつけてほしいーーじゃぁ、お邪魔虫は退室するとしようかな? ーーアンジェ、舞踏会の前に迎えに来るよ」
ルーファスは、アンジェリアの回答に苦笑しながら、侍女達にいつもより気を付けるよう指示を出した。そして、アンジェリアと舞踏会のエスコートの約束をして部屋を出ていった。




