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2番目の婚約解消⑥

 ルーファスが第一王子ライアルトの病状を知っていたことにより、第一王子ライアルト毒殺未遂はベイガザード王国が最も疑わしいと思われていたが、コーション国の関与も疑わしくなってきた。


 ーーーでも、ルーファス様自ら、ライアルト殿下の情報を口にしたのだから、後ろめたいことはないと言う事なの?


「コーション国は、アンジェリア様をベイガザード王国への盾にしております。一方で、交易に関しては、軍事品の輸出を筆頭にベイガザード王国に良い顔をしようとしております。コーション国王は、ベイガザード王国と対等の立場になり、一体何をしたいのでしょう?」


 アンナは至極不満と言う顔で、あの茶会から同じことを何度も繰り返していた。アンナの横でマリアナもコクコクと頷き同意をしながら、せっせとテーブルにアンジェリアの大好きなチョコレートと紅茶を準備していく。


 側妃カルラと元王女ダイアナによる言い争いのあったあの悪夢のような茶会から数日経っていた。

 アンジェリアは騎士に扮した間者を使い、先日のルーファスの話をガーライド王国へ報告した。


 今日はコーション国の歴史などの勉強の予定も入っておらず、アンジェリアには表だった予定はない。

 そのため、ルーファスの発言をゆっくり考察したいと考えたアンジェリアは、王妃のガーデンの角にある小さな温室へやってきた。この温室は、新たに作られてもので、ルーファスが婚約のお礼としてアンジェリアに贈ったものだ。アンジェリアは、ガーライド王国にはない、珍しく美しい花がいっぱいのこの温室をとても気に入っていた。

 予定のない日は、ガーライド王国からのお供を連れて、温室でゆっくり過ごすのが癒しの時間となっている。


「こちらの王城には、ベイガザード王国とのつながりが強い貴族も多数おります。国内の声を安定させるためには、ベイガザード王国との交易は切れないのでしょう」


 元ガーライド王国の騎士だった護衛騎士が、そう言ってアンナの愚痴をなだめつつ話を続けた。


「アンジェリア様が成人されるまで後7年は、魔法石が枯渇しないと踏んでいるのでしょう。アンジェリア様がコーション国の王族に組み込まれれば、ベイガザード王国も容易に手出しはできないのですから」


「ーーほんとにそうかしら?ーー私自身は、ガーライドの王族でもないのにーー」


 アンジェリアが不安を隠せず独り言を呟くと、ティーセットを終えたマリアナが元近衛騎士に質問した。


「ロイター様は、アンジェリア様がコーション国の正妃になられる事に反対ではないのですか? 今、ガーライド王国内では、コーション国をどのようにお考えなのでしょう? 情報を何かお持ちですか?」


 護衛騎士はガーライド王国との遣り取りをコーション国王から正式に許可されている。そして両国間の遣り取りの中は定期的に行われている。国の機密事項は簡単には流出出来ないが、ある程度は情報交換は認められていた。その中で、何かしらアンジェリアの婚約についての追加の情報が出ているのではないかとマリアナは思ったのだ。


「そうねーー私もガーライド王国の指示を聞いておきたいわ。ロイター、教えてくれない?」


 護衛騎士2人とアンナは、ガーライド王国の情報を幼いアンジェリアとマリアナになかなか教えてくれない。精神的な負担を減らすためだと言うが、何も聞かされていないのも、かえってストレスを感じるものである。

 アンジェリアがコーション国に来てから数ヵ月たち、生活にも慣れてきた。今は是非ともガーライド王国の指示を乞いたい。


 ーーーきっと私が出来る事はないのかも知れないけれど…


 アンジェリアは何かあれば、心積もりはしておきたいと、マリアナと共にアンナとロイターの重い口が開くのを待った。アンナとロイターはお互いに目を遣り、どうしようか思案した。ここで、アンジェリアとマリアナを煙に巻いても、同じ質問が繰り返されることは目に見えている。

 しょうがないと、ロイターが口を開いたところで、伝達部からもう1人の護衛騎士が戻ってきた。護衛騎士に扮した間者は、温室へやってくるなり軽口をたたく。


「アンジェリア様は本当にお子様なのですかね?ーーそんなに落ち着いてると、人より早く老けてしまいますよーーはい、これ。アンジェリア様宛の手紙です。愛しのセーシル公爵子息殿からでは、ないっすけど」


 おチャラけて片手をあげながら、戻ってきた間者の手には1通の手紙が握られていた。ヒラヒラと手紙を振ってアンジェリアに見せびらかす。アンジェリアとルカの婚約破棄があってからは、皆、ルカ関連の話になると、アンジェリアに腫れ物に触るような扱いをする。コーション国に入ってからは、アンジェリアとルカとの仲をからかうのは、今はこのチャラい間者だけになってしまった。


「ユーグはいつもチャラチャラしていて気楽そうねーーそれ、コーディル公爵家の蝋印よね? 珍しいわね!! お父様からかしら?」


 アンジェリアが間者ーーユーグーーの軽口をスルーすると、ユーグは肩を竦めて、つまらなさそうに手紙をアンジェリアに渡した。


「ユーグ殿、アンジェリア様に無礼ですよ。ロイター殿、ユーグ殿、よもやサスティアル王国が動きましたーー!?」


 悪ふざけをするユーグを諌め、ふとアンナは気を緩めてしまったらしく、うっかり口を滑らせてしまった。慌てて、ロイターに肘打ちされ、自身の口を押さえている。


 ーーーサスティアル王国? 伯父様の国が絡んできたの?


「はぁー、アンナは本当に武芸には秀でてるのに、侍女としては今一っすね!」


 いつもなら、アンナに小言を言われることが多いユーグは、今日は反対にアンナに小言を言ってからかっている。アンナは、ロイターにまで溜め息をつかれて、肩を落としてしまった。


「ユーグーー」


 アンジェリアはふざけて話を逸らされては堪らないと、ユーグにアンナの言葉の意味を尋ねようとした。けれども、ユーグはサスティアル王国については口を開かずに、手紙をアンジェリアに再度押し付けた。


「ーーアンジェリア様が知りたい事は、ご自分でガーライド王国の使者殿にお聞きくださいませーー2ヶ月後、コーション国の建国記念日にセーシル公爵様が外務大臣としていらっしゃいます」


 うってかわってユーグはアンジェリアに真面目な表情をみせた。そして、コーション国の建国祭の当初の予定にはなかった、ガーライド王国の使者のコーション国への来訪を伝えた。


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