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2番目の婚約解消④

 側妃が主催のお茶会は、王宮内のばら園で開かれていた。通称、正妃のガーデンと呼ばれる正妃管轄の庭園だ。


 ーーーばら園は正妃のもの。正妃候補がいると言うのに、元正妃の側妃様が、未だに庭園の実権を持っているなんてね…


 ルーファスが、このお茶会の開催場所を把握した上で、側妃にばら園の使用許可を出したのかと思うと、アンジェリアは少し頭が痛くなる。

 いっそゲリラ雷雨にでもならないかと、空に目を遣ると、側妃がクスクスと笑い出した。


「あら? アンジェリア様は、私の話にご興味がおられないご様子。何かご心配なことでも?」


 意地悪な顔を隠しもせず側妃カルラは、意地悪そうな顔を向けた。側妃カルラは、自身の息子達と歳があまり変わらないアンジェリアに、会えば常に嫌味を投げ掛けてくる。

 つい先日は、コーション国語を上手く話せずに、言葉に詰まったアンジェリアを貴族子息の前で笑い者にしたこともある。

 そんな小さないざこざが、少なからず繰り返されるために、次第にアンナやマリアナの側妃に対する態度は日毎に悪くなっていった。そんな侍女達を、どうにかなだめて、我慢して欲しいと、アンジェリアは明るく振る舞っていた。しかし、ここ最近は側妃からの嫌がらせも増えてきており、対応が大変だった。


 ーーーうーん、頭は悪くないと思うのだけれど、側妃様はとにかく、ケンカを吹っ掛けると言うか、少し幼稚なのよね…


「いいえ。ただ、コーション国の天候は変わりやすいと聞いたことが事がありましてーー気が逸れてしまいました。お恥ずかしいことです」


「あら、そうなの? (わたくし)、コーション国の外に出たことがなくって。聞いたことがなかったわ! ほら、私は幼い頃より、王太子の婚約者になるための公爵令嬢として、ずっとルーファスの側にいたでしょ? だから他を知らなくって」


 ーーボキッ!!


 お茶会で側に控えているアンナの指がなったような気がしたのは気のせいだろうか。

 ポンポンと軽快にそして止めどなく、私こそが正妃に相応しいのだと、暗に示す側妃の言動に、アンジェリアの侍女からは冷気が漂ってくる。


 ーーーもう! 子供の私が我慢してるんだから、皆も少しは我慢してほしいわ!!


 アンジェリアが軽くマリアナに視線を流すと、マリアナがそっと、アンナの手を押さえた。

 そんなマリアナも、怒りで目は据わっている。

 アンジェリアについてきた2人の騎士は、周囲の警備を手伝うために席を外している。きっと、今頃は警備と言いながら、庭園の抜け道などを探っているに違いない。


「ーーーそれにしても、オルソン公爵夫人ダイアナ様はいかがされまして?」


 アンジェリアが、このお茶会に参加するはずのルーファス殿下の妹、元王女ダイアナが未だ姿を見せないことに疑問を口にすると、側妃とそのお付きの侍女がニヤリと笑った。


「ダイアナねぇ? あの方は私、少々苦手なの。少し遅れて来る方がちょうど良いわ。ねえ、貴方達もそう思うでしょう?」


 ーーーへ? なに言ってるの? この側妃様は!!


 どうやら、側妃は自身の侍女達と何やら仕組んだようだ。同意を求められた側妃の侍女達は同意を表すように意地悪く笑っている。

 相手が、格下の公爵夫人といえども、国王の娘であり元王女に何やら仕掛けたとは、本当に頭が悪い。


 アンジェリアが驚いて言葉を失っていると、にわかに庭園の入り口付近が騒がしくなった。

 遅れていたオルソン公爵夫人ダイアナがお茶会に到着したようだ。なぜか、兄であるルーファスを引き連れているようで、ガミガミ怒っている声が少し離れたにも関わらず聞こえる。

 ダイアナと思われる女性は、漆黒のロングヘアーに茶色味ががった黒い瞳を持ち、猫のようなつり目をして顔立ちは大変愛らしい。歳頃は、側妃より少し下くらいと聞いていたが、アンジェリアの姉と言っても良いくらいに見える。


「これはどういう事です?! ()()カルラ!! ルーファス兄様に聞きましたわ! お茶会は既に始まっているって! 私に、嘘の時間を教えるなんて、貴方、どういう了見かしら?!」


 お茶会のテーブルまで、ルーファスを引きずってやって来たダイアナと思われる女性は、アンジェリアに挨拶もせず、招待状をテーブルに叩きつけると、一気に怒りをぶちまけた。


 ーーー!! あり得ない!! 着いた早々、ケンカが始まったわ!!


 ダイアナと思われる女性は、肩で息をし、ふーふーと怒っている。あまりの形相にアンジェリアがぎょっとして、目を見開いていると、ルーファスが困り顔で女性の肩をツンツンとつついた。促された女性が、怒りをそのままにした表情で、ふとアンジェリアを見遣った。


「ーーーっ!? こ、こ、これは大変失礼を!! ガーライド王国のコーディル公爵御令嬢様と、お見受けいたしますーー(わたくし)、コーション国王が長女ダイアナと申します。お見苦しいところをお見せ致しまして、申し訳ございません。(わたくし)、今は臣下のオルソン公爵家に嫁いでおります。が、微力でありますがこれでも王族です。コーション国内で、何かありましたら何なりと、いつでもお申し出くださいませ」


 打って変わって、淑女のお手本のような優雅なカーテシーを見せたダイアナは、アンジェリアに頭を下げたまま挨拶した。


「ーー! どうか頭をおあげくださいませ。(わたくし)、コーディル公爵が娘、アンジェリアと申します。お恥ずかしいながら、コーション国の言葉や文化に不慣れなところもあるかと思います。どうかよろしくお願いします」


 先程の怒りの形相とはうって代わって、想像を越えた、あまりに腰の低い元王女の挨拶にアンジェリアは、慌ててダイアナに挨拶を返した。ダイアナはそんなアンジェリアを見つめると、側妃に対する態度とは売って変わって、人懐っこい顔でくしゃりと笑った。


「アンジェリア様は、幼いながらも聡明な方と、ここコーション国にもお噂は届いております。ガーライド王国という大国からお越しになった、サスティアル国王の姪子の姫様であるアンジェリア様。差し出がましいと思いますが、(わたくし)の事を姉と思って接して頂ければと存じます。王宮には何かとご不満やご不便等も()()()()ございましょう? 私に、何なりとご相談して頂ければと存じまーー」


 ーーガチャーン!!


 ダイアナの流れるような挨拶にアンジェリアが耳を傾けていると、側妃のティーカップがテーブルから落下した。

 ハッとして、側妃に顔を向けると、口をわなわなと怒りに震わせ、急に立ち上がった。側妃の目は据わっており、ダイアナを睨み付けている。


「ダイアナ! 貴方、コーション国王陛下に大変失礼ではなくて?! アンジェリア様の待遇に、まるで不満があるような言い方ね!」


 そう言って、側妃カルラは最後にビシッと、ダイアナに指を向けて仁王立ちした。テーブルの側では、侍女達が側妃カルラとダイアナが怪我をしてはならないと、割れたティーカップを急いで拾い始めている。マリアナの予想的中、まるでカオスだ。


「お茶会の嘘の時間を教えるような王族に、アンジェリア様をお任せなんて出来ないわ! そもそも、このガーデンは正妃様の管理!! 側妃のカルラごときが、まるでここの主人の様に振る舞うなんて、おかしいわ!!」


 ーーー!! こんなところで、また、ケンカを始めるの?! お二人ともコーション国のトップクラスの地位にいるのに?!


 アンジェリアが慌てて、連れてこられたルーファスに助けを求めて視線を向けると、慌てる様子もなく、ゆったりと2人をなだめ始めた。


「うーん、まぁ、2人とも落ち着こうか? ーーーここには、アンジェリア殿もガーライド王国からの侍女達もいるんだ。2人の振る舞いは、まるで子供の様だよ? ーーこれじゃぁ、アンジェリア殿が1番大人にみえるね?」


「お兄様! そもそも、カルラを甘やかすから付け上がるのです!! お二人のお子達の教育にも悪影響ですわ!」


「わかった、わかったから落ち着こう?ーーダイアナには、後で不満を聞く時間を改めて設けるからーーはぁ、これでは、アンジェもゆっくりお茶なんて喉を通らないのではないかな? ーー今回のお茶会はこれで解散にするよ? 2人とも、少し控え室で頭を冷やしてから帰るようにーーーそれから、アンジェ? これからちょっと、時間良いかな?」


「ーーえぇ、もちろん大丈夫です…」


 ーーー私は大丈夫ですが、側妃と妹殿下の仲介はそのお言葉だけなの?!


 ルーファス殿下は、側妃カルラと公爵夫人の未だに続くバトルを爽やかにスルッと無視をした。周りでは益々エスカレートしていく2人の口論を見かねて、側近が2人を別々の控え室に連れていこうと必死になっている。

 ルーファスは、アンジェリアに微笑むと、いつもの事だと苦笑して、ばら園の奥の方へアンジェリアを散策に連れ出した。


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