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神は勝手なのだと知っている  作者: 神狼 龍王《みたらしだんご》
第4章 暴虐なる獣と呼ばれた優しき獣
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小話 とある古老

いやはや、ひと段落して油断していたんだ

そして、試験期間だったんだ


私は、未だ学生のために


すいませんでした。これからもどうぞよろしくお願いします。

ダン!ダン!ダン!


一定のリズムで刻まれるその音は、大樹の幹に拳を打ち付けるものだった。


打ち付けているのは、壮年の男。未だ、年若く見える古森人(アルヴ)。しかし、彼はその見た目に反して、老齢であり、今や里の重鎮の一人である者だった。


彼が、森人(エルフ)の中では珍しく、血気盛んな性分であることは先の様子からも分かることであるだろう。

しかし、何も彼は、はじめから森人の性質に反して荒い気性であったわけではなかった。


それは凡そ千年と少し前のことである。

産まれて、百年そこらに成長した彼は、森人の例に漏れず、物静かで理知的な印象を受ける青年であった。


里の狩人衆に混じることができるほどの実力を持ち、穏やかに森人として当然の生き方をこなしていた。


「おい!……坊主、これを見てくれ」


当時の狩人衆の頭が、周囲に呼びかけつつ、近くにいた彼に偶然にもそれを最初に示した。


それは人族の足跡だった。森を歩むことに慣れた森人ならば決してつかないような歪んだ土の跡がはっきりと示していることだった。


「な、これは…」


当時、人族がその膨大な数を頼りに自分たち以外の種族を亜人と呼び、排斥していることは有名な話だった。

だから、彼にしても、人族の足跡というのは嫌悪感を示すに充分な代物だった。


静かに頷いた頭が、ふと何かに気づいたように視線を一点に向けた。


ジッと見つめるその先を追って、彼もそちらを向いた。


「…ッ!?」


するとどうだろうか。そこにいたのは、艶やかな黒髪を地面に無造作に投げ出した儚げな少女の裸体にも近しいあられもない姿。


辛うじて恥部を覆う布地が、逆に色気を湛えている。

森人として、年若い彼は知らず惚けていた。


しかし、頭は既に老いて妻もいる身。その少女に娘以上の感情は覚えなかっただろう。その少女が()()()ならば。


「人族か……」


亜人排斥の渦中にある人族の娘である。里に災いをもたらす可能性の方が高い。

頭は冷静に考えていた。


しかし


「リーダー、私が彼女を人里に帰します」


年若い彼は、そんなことを呟いていた。






「リゼルよ、リゼル、それが私の名前」


咲くような笑顔で、助けた少女は名乗りを上げた。


ポッと、彼は頬を染めた。

種の差など、年若い彼には関係なかった。そもそも、森人の側には大した差別意識もなく、天然要塞の態をなす森を住処にしていたため被害も受けてこなかったのだ。


加えて、少女は随分と純粋なようで仕切りに御伽噺を語っては、森人に対する偏った良き妄想を吐き出すのだ。


彼には、当然人族との関わりがこれが初めてで、当然に人族という者を皆、彼女のような者だと早合点を決めていた。


「……私は、あなたの言うような気高き者ではないよ」


意を決したように、彼は少女の幻想をゆっくりと否定した。


「えー、そうなの?」


対して少女は、全く純粋に彼の言葉を問い返す。


それは彼女が街道に出るまでのほんの瞬間的対話だった。しかし、これがとても致命的なミスへと発展する。


「じゃあ、森人の里は人の世のように俗まみれなの?」


一転して少女は、ある種の悟りにような雰囲気を纏った。


「いや、そんなことは……」


ない、と否定の言葉を発そうとして彼は押し黙った。別段、自分たちが森人が誰もかれも自然を尊崇する敬虔なる者たちだとは思っていなかったからだった。


「ふふふ、良かった。私ね、逃げてきたの」


しかし、少女はそれだけで彼が、森人の敬虔な性を認めたと思ったのか森に倒れていた理由を告げた。


「嫌になったの、ギスギスとした底なし沼のような終わりのない家の在り方に」


真実ではあったのだろう。


「ねえ、わたし、あなたと暮らせないかな?」


すべてが終わった後に、その言葉を聞けば、わざとらしいと思えただろう。


しかし


「いや、しかし……」


迷わなくて良いことに、年若き森人は思い悩み。

少女への好意のために、こんな風に答えた。


「もう一度、家に戻ってよく考えるんだ。やはり、血縁と共にある方が自然なことだよ。それでも、その身を不幸が襲うならば、里においで」


そして、彼は少女に粗末な木の首飾りを贈った。里の結界を通り抜けるために必要な物だから。


程なく、彼らは森を抜け、道を見た。


「ありがとう」


そう言って去りゆく少女の顔を、彼は見る事叶わなかった。


すべてが終わった後ならば、ほくそ笑んでいただろうと思えたけれど。






「くそっ!」


ダガン!!


一際大きな音を立てて、ベルモルトは大樹の幹を叩いた。


「薄汚い人族め……!」


苛烈な顔は、汗が浮き、森人としても老齢な彼をより若々しく見せた。


「おー、荒れてんなぁ」


「誰だ!?」


急な声にベルモルトは誰何の声を上げる。


果たして、そこにいたのは黒づくめの男。ベルモルトを唆した者である。


「俺だよ、俺。キッシシ。いやはや、失敗失敗」


独特な笑い声を上げて、唆したときの穏やかさがなかった。


「貴様!」


「おっと、勘弁してくれ。元々あんたは、()()()()だろう?」


反射的に殴りかかってきたベルモルトを、するりと躱し男は、今しがた昔を振り返ったベルモルトの心を覗いたような言葉を返す。


「リゼルだっけ?未だにそのうら若き少女が、謀ったのか、利用されたのか判然としてないんだろう?」


「な、なぜ、それを?」


この男は知っている。その事実にベルモルトは硬直した。


「キシシ。そうやって、何度も何度も執拗に人族を恨もうとするのは、その少女に未だ好意があるからかい?」


「ば、バカな事を言うな。儂が未だ……」


反射的に否定の言葉を述べようとした。しかし、本人もわからないままに言葉を止めた。


そういえば、目の前の男は何をしにきたのだろうか?


「キシシシ。いつまで、私を男だと思っているのかしら?お久しぶりね、ベルモルト」


ツンとした匂いがあった。まるで靄が晴れるように男と思っていた者が女になった。

艶やかな黒髪、純粋な笑顔。少し、大人になってはいたが確かにそれはあの頃の少女の面影を残しており


「……リゼル?」


ベルモルトはぽつりと信じたかった少女の名を口にした。

本編では、結局後始末されなかったベルモルトの話でした。次は、閑話かな〜?


うーん


ちなみに、本編の最後でわかる通り次章は、人災編っぽい者な予定。一休み一休み

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