終了
「ふむ……」
「どうされましたか?」
宿の一室にいたケイロンは唐突に黙り込んだ。その様子にタリスが疑問を投げる。
「暴食が倒されおった」
「よかったじゃ無いですか?星の民として、それは喜ばしい出来事ですよ」
会話はそこで途切れた。
タリスは既にゴソゴソと自分の荷物と向き合っている。ケイロンもまた、思考の海へと漕ぎ出していた。
カツコツカツコツ……
暗い廊下を淀みなく歩く者がいる。
侍女は、いつもの扉を開ける。
ノックすらしなかった。
「暴食の討滅を確認。色欲の接触がありましたが、それ以外は万事予定通りです」
天蓋付きベッドの上で、主人が眼を開く。
「憤怒はどこだ?」
「精神界でしょう。物質界での反応はありませんでしたので」
「ふむ」
主人は、眼を閉じ、そして、言った。
「追憶の回廊を準備しておけ」
ハッキリと声に出しての指示だった。
珍しい、と侍女は思った。これからもこれまでもいつも通りに過ごすのだと憂鬱に感じていた。しかし、何か変化が起きている。今回は違うのだ。例え、それがこの主人の気まぐれなのだとしても、今回は変化の周期なのだと、自らの本質に反して、少し興奮している自分がいた。歓喜している自分がいた。
「はい、アキラ様」
侍女は退室する、何に巻き込まれるのかも知らず。
主人だけとなった部屋で、一つ溜息が聞こえた。
「こんな陳腐な騙しに引っかかるとはな、キシシ」
部屋には、もう一つ影があったが、いつの間にか消えていた。
あー、メンドーだ
主人の心が響いた気がした。
「サクラ様、ご無事ですか?」
「うん?……おー、アベック、よく来た」
暴食を倒し、その肉体が霧になって消えてから小一時間。里に向かっていたショーン一行にアベックたち狩人衆が合流した。
そそくさと帰り道を急ぎ、古老衆の前に出る。
「爺ちゃん、ただいま」
サクラ一行の無事な帰還に、古老衆も安堵の様子を見せた。しかし、ベルモルトは少し、挙動不審であったが。
「ショーン殿、暴食の魔王の討伐、誠にありがとうございます。一族を代表して御礼申し上げます」
「いや、成り行きのようなものだったからな」
「ふむ、確かショーン殿は我らの知恵を借りに来たのでしたかな?」
「ええ」
「それでは、里を救ってもらった御礼として、長老に会わせましょう」
このような会話ののち、ショーンたちは里一番の古木の洞へと案内された。
そこにいたのは、未だ美しさを保つ森人の女。
しかしながら、彼女は半ば古木と同化していた。
「こちらが、我らの長老、森人族の最高位種である木霊へと至りしターニア様にございます」
「おや、テラドラの坊や何をしに来たんだい」
テラドラの紹介に、眠っているようだったターニアが目を覚ました。
「ふむ」
ターニアは返事も待たずに周りを見て納得したのか、次の言葉を紡ぐ。
「なるほどねぇ。強欲?うーん、そう言われれば、そうな気もするし、違う気もする?そうさなぁ。取り敢えず言えるのは、『その者、姿は魔族に似る。しかして、その力は人も魔も等しく打ち砕く。古の神々の創りし真理が齎らす断罪者、処刑人。』この文言が表すのが、憤怒の魔王と言うことだけかねぇ」
矢継ぎ早に繰り出される言葉、ショーンたちが何かを言う前に
「ふむ、まぁ、こんなとこだ。うんじゃ、あたしゃ寝る」
そう言って、ターニアは寝てしまった。
「「「「……」」」」
トボトボと一行は、場を後にした。
貸し出された一室にて、ショーンたちは情報の整理を行ったのだが。
「唯一の手掛かりが全く別の方向の伝説だったね」
そんなことを言うのはトーカである。
「どうするの?」
と言うのはサクラ。
「……」
ショーンは何か考え込んだ様子ではあったが。
「よし、王都に戻ろう。少し、休息といこう」
しばらくして、そんなことを言った。
薄暗いスラム街の奥。
薄汚れた衣服を纏い、しかし、どこか上流の出の雰囲気を漂わせる者があった。
其の者は、一つのあばら家に入った。淀みない歩み、合言葉の掛け合い。やがて、其の者は『仲介者』と面会する。
「依頼は?」
手短な言葉に、其の者は紙を差し出す。
「把握したなら、燃やせ」
その言葉に『仲介者』はその場で紙を燃やした。
「できるな」
「ああ」
「では前金だ」
其の者は、白金貨を5枚出した。
「裏はあっちだ」
『仲介者』は出口を教え、奥へと引っ込む。
其の者も、また、スラムの暗がりへと消えた。




