第7話 目覚め
「は〜い、そ・こ・ま・で♪」
女の声が響いた。背がゾクゾクとするような、妖艶な音。同性ですら蕩かすような嬌声のような音。
ショーンもアクトもトーカもサクラも、ゆっくりと振り向いた。
「ルカセリア=アデウス、何の用だ?」
アクトによって、名が告げられる。
そこに居たのは、妖艶な美女。桃色の長髪、濡れた瞳は蒼。薄く染まる紅の唇。スッと通った鼻筋。陶磁のような白い肌。肢体は豊満で、されどどこか清楚な様子を漂わせる。
「ふふふ、ブレイブちゃんは相変わらずね〜。あ、今はアクトちゃんと呼んだ方がいいかしら?」
「……好きにしろ」
「ふ〜ん…ま、いいわ。そ・れ・で〜用件なんだけど〜。そろそろ、暴食の子が目を覚ますわよ?」
小首を傾げた、疑問のような断言。反応したのはサクラだ。
「え!?やっぱ、子守唄が途切れたから……」
「う〜ん?違うわよ。原因は、貴方が来たからよ。強欲さん?」
ルカセリアが指し示したのは、ショーンだった。
「アクトも言っていたがな。なんだそれは?俺が強欲の魔王?だから、なんだったんだ?」
「あら〜?、アクトちゃんも似たようなことで訪ねたのかしら?私もしかして、骨折り損?」
まるで困ったというように、身をよじる。その仕草ひとつひとつがどこか淫靡な様子を見せていた。
「フフ、まぁ、いいわ。アクトちゃんじゃあ、ケンカになっちゃったみたいだし。私から説明するわ。
強欲の魔王はねぇ。恐ろしく強かった。それこそ、現魔王の中で、最強と謳われるサタナエルすらも凌いでね。だから、彼は暴食の魔王に彼のペットを就かせた。自らの力を最大限に発揮して。愛しき子を守るために。
そして、暴食の魔王もまた、強欲に懐いていた。それは支配関係ではなかった。だから、強欲の死に耐えられず、彼は狂い、理性を捨て、今ここに眠っている。怠惰の魔王のチカラによって。
けれど、そこにかつての主人が現れた」
「だから、目覚めると?」
「そういうことよ」
「俺が強欲だとなぜ思う?」
「……貴方が振るう刀と鎌は、どちらも強欲がかつて手にしていた物。つまり、貴方の魂は強欲と同一。輪廻したと理解するのが普通よ」
ショーンは未だ握り締める新月に目をやる。これが強欲と同じ代物なのか?本当に?
俺は騙されてるのでは無いか?
疑えば、いくらでも否定できることだ。
「ふふふ、すぐにわかるわ。暴食が目を覚ます。貴方にじゃれついてくるだろうから、その時に判断すればよろしいわ?」
余裕の笑みは、随分と蠱惑的だった。
ーウア……ミュー……
ー……マダ、ネムい……
ーデモ、ゴシュジンソマのニオいが……
ーア……ア……ゴメンナサイ……
ーゴシュジンソマ、ボクは……
ーモう、
ーモどれナいンだー
金色に輝く瞳は、ついに覚醒する。
一瞬の理性の中、獣はただ一人の主人への謝罪を述べる。
次の間には、その瞳は色褪せて自らの呪縛を引き千切る。
グウララルルルアァァァァアアア!!!!!
「……!」
「どうされましたか?」
「……目覚めた」
「そう、ですか」
憂鬱の侍女に世話をされていた主人が反応を見せる。
それに憂鬱は、静かに頷く。
遠い遠い時間だった。
遂にアレが、倒される。
世界を喰らう獣。ヒトの獣性を端的に表したかのような星を食い潰す怪物が、遂に。
星の民は歓喜するだろう。世界は救済に一歩近づくのだから。




