第8話 とある日の風景
ザァー
五月蝿かった。そして、何より蒸し暑い。
ある梅雨の時期のことであった。
外は、おお振りの豪雨。日本では、大して珍しくもない嵐の余波にも似た梅雨前線による雨だ。
ある学校の教室の一角で、机に突っ伏して眠る男がいた。制服は着崩され、白いインナーが恥もなく見えていた。
男が眠る中、足音が響いた。廊下のほうだ。
音の感じからして一人分である。
ガラガラと音を立てて、男の眠る教室の扉が開かれた。
「神原くん、帰りますよ……また、寝てるんですか。はぁ」
女だった。女は、男に近づいて揺すぶるでもなく、頭を撫でた。
「いつ、触ってもフワフワですね。フフ…」
少し恍惚としたような笑みを浮かべながら、女は男の起きるまで頭を撫でるつもりでいた。
ふと、女の目に男の鞄が目に留まった。
「最近の男子高校生って、何を持ってるんでしょう?」
女は好奇心の赴くままに、男の鞄に手を伸ばした。
中身は大したものでは無かった。教科書、ノート、筆箱などなど勉学に最低限必要な物と財布やケータイなんかの現代では必需品と化したもの。少し、ズレていると言えるのは、男のケータイがスマホではなくガラケーで、連絡手段としてしか使えないことであろうか。
「うーん……面白くないですね〜、エロ本の一つでも入れておきなさいよ。男の子なんですから」
女は、不満を露わに乱雑に取り出した中身を鞄に戻していく。諦めの悪いらしい女は、今度は机の中を覗いてみた。男が突っ伏しているので暗くてわかりにくいが、ブックカバーのされた本が見えた。
「お、エロ本発見かな〜」
女は、ウキウキとした様子でそれに手を伸ばす。
「え〜と、なになに……」
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「遂に追い詰めたぞ、魔王!」
勇者は、長き旅の末に、宿敵である魔王の居城で剣を構えていた。
目の前にいるのは、漆黒の仮面を被る、豪奢な黒の衣装を着た魔族。魔王である。
「よく来たな、勇者。我こそが、魔族を治めるもの、魔国バラティアンヘルの王。さぁ、長きに渡る戦争を終結させよう」
魔王は、玉座から立ち上がり、そばに立てかけていた魔槍を手にする。
「俺は勝つ!勝って、この世界に平和をもたらすんだ!」
勇者は、宣戦布告と同時、聖剣のチカラを解放する。
「はい!頑張りましょう!」
「後衛の守りは私が致します。あなたは、魔王を討って!」
「援護いたしますぞ」
勇者の仲間である、聖女、騎士、賢者もまた、それぞれに構える。
勇者は、踏み込んだ。常人には見えない速度だ。だが、この場にいるのは、人の域を超えた超人ばかり。
「ぬるいな」
欠伸でもしそうなほど、淡々と魔王は勇者の剣を防ぐ。
キン
響いた金属音は一つだが、そこには数百の剣撃があった。それをした勇者も大したものだが、それを淡々と防ぐ魔王も相当な力だった。
勇者に聖女の支援魔法が飛ぶ。賢者の放つ無数の魔法が弾幕となって、魔王を牽制した。騎士は、そんな後衛二人を勇者と魔王の戦いの余波から守っている。
聖剣と魔槍が鍔競り合う中、魔王は勇者の背後、聖女に目を向けていた。だが、漆黒の仮面によって、それを気づくものはなかった。
人知れず、勇者に向き直り、魔王はあっさりと跳ね除けた。
「うわぁ!?」
勇者は体勢を崩し、思わず声を上げる。
「勇者様!」
騎士の叫びが聞こえた。
「悠長なことだ」
その騎士の側で、声がした。
「は!」
騎士は振り向き、魔王を見止めた。
「まず、お前からだ」
魔王の魔槍が唸りを上げる。無造作に横薙ぎに払われたそれは、咄嗟に構えられた騎士の盾に激突する。
「ぐっ!?」
拮抗は一瞬、騎士は大きく弾き飛ばされ、魔王城の壁に穴を開けてぶつかった。
「つ、強い……まさか…こ……ほど……は……」
騎士は、思わずといった感じに感想を漏らしながら、意識を無くした。
「くっ、よくも!!」
怒りを湛えながら、勇者が魔王へと突撃する。だが、到達するまでの時間で充分だった。
魔王の無詠唱魔法が炸裂した。
「うわぁ!?」
「いやぁ!?」
「ぐはっ……!?」
勇者は、咄嗟に受け身を取り、聖女は、結界を張った。しかし、賢者はもろにその身を魔法の威力で傷つけられた。杖をついてどうにか立っていたが、立ち上っていた煙が晴れると同時に倒れ伏した。
「そんな……」
聖女の悲痛な声が響く。
「ぬるいな、ぬる過ぎる。貴様らは一体、ここに何をしに来た?」
魔王の嘲声が聞こえる。
「え?」
聖女はその声に、今更ながら何かを感じた。
それは、魔王の哀しみだろうか、それとも落胆だろうか。
いや、そんな感情も読み取れはする。しかし、聖女が最も感じたのは
「き、貴様ぁぁぁああ!!」
聖女の違和感がカタチを取るその前に、勇者の咆哮が響き渡る。
ダン
と、床をひび割れにしながら、勇者が踏み込んだ。
魔王は悠然と魔槍を構える。
「ぁぁぁああ!!!」
勇者の憤怒に呼応するが如く、聖剣は光を増し、遂に目前に捉えた。
勇者が渾身の力で聖剣を袈裟懸けに振るった。
魔王は、易々とそれを躱したかに見えた。
だが
ピキ……ピキ……ピキピキピキ……パリン……コトン
漆黒の仮面が床を打っていた。
「「!?」」
勇者と聖女は困惑した。
「……油断したか」
そう呟き、魔王は改めて勇者と聖女に向き直る。
その顔をしっかりと確認し、勇者と聖女は
「何故、あなたが魔王なのですか?」
「兄貴……」
・
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「ふーん、知人と対立する葛藤ね。私なら。う〜ん、どうするのかしら?」
わからないわ〜と、女は独り言ちる。
「てか、いつまで寝てんのよ。神原君、起きなさい!」
女は遂に痺れを切らして、男の頭を打った。




