表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は勝手なのだと知っている  作者: 神狼 龍王《みたらしだんご》
第4章 暴虐なる獣と呼ばれた優しき獣
65/74

第8話 とある日の風景

ザァー


五月蝿かった。そして、何より蒸し暑い。


ある梅雨の時期のことであった。


外は、おお振りの豪雨。日本では、大して珍しくもない嵐の余波にも似た梅雨前線による雨だ。


ある学校の教室の一角で、机に突っ伏して眠る男がいた。制服は着崩され、白いインナーが恥もなく見えていた。


男が眠る中、足音が響いた。廊下のほうだ。

音の感じからして一人分である。


ガラガラと音を立てて、男の眠る教室の扉が開かれた。


「神原くん、帰りますよ……また、寝てるんですか。はぁ」


女だった。女は、男に近づいて揺すぶるでもなく、頭を撫でた。


「いつ、触ってもフワフワですね。フフ…」


少し恍惚としたような笑みを浮かべながら、女は男の起きるまで頭を撫でるつもりでいた。


ふと、女の目に男の鞄が目に留まった。


「最近の男子高校生って、何を持ってるんでしょう?」


女は好奇心の赴くままに、男の鞄に手を伸ばした。


中身は大したものでは無かった。教科書、ノート、筆箱などなど勉学に最低限必要な物と財布やケータイなんかの現代では必需品と化したもの。少し、ズレていると言えるのは、男のケータイがスマホではなくガラケーで、連絡手段としてしか使えないことであろうか。


「うーん……面白くないですね〜、エロ本の一つでも入れておきなさいよ。男の子なんですから」


女は、不満を露わに乱雑に取り出した中身を鞄に戻していく。諦めの悪いらしい女は、今度は机の中を覗いてみた。男が突っ伏しているので暗くてわかりにくいが、ブックカバーのされた本が見えた。


「お、エロ本発見かな〜」


女は、ウキウキとした様子でそれに手を伸ばす。


「え〜と、なになに……」





「遂に追い詰めたぞ、魔王!」


勇者は、長き旅の末に、宿敵である魔王の居城で剣を構えていた。


目の前にいるのは、漆黒の仮面を被る、豪奢な黒の衣装を着た魔族。魔王である。


「よく来たな、勇者。我こそが、魔族を治めるもの、魔国バラティアンヘルの王。さぁ、長きに渡る戦争を終結させよう」


魔王は、玉座から立ち上がり、そばに立てかけていた魔槍を手にする。


「俺は勝つ!勝って、この世界に平和をもたらすんだ!」


勇者は、宣戦布告と同時、聖剣のチカラを解放する。


「はい!頑張りましょう!」

「後衛の守りは私が致します。あなたは、魔王を討って!」

「援護いたしますぞ」


勇者の仲間である、聖女、騎士、賢者もまた、それぞれに構える。


勇者は、踏み込んだ。常人には見えない速度だ。だが、この場にいるのは、人の域を超えた超人ばかり。


「ぬるいな」


欠伸でもしそうなほど、淡々と魔王は勇者の剣を防ぐ。


キン


響いた金属音は一つだが、そこには数百の剣撃があった。それをした勇者も大したものだが、それを淡々と防ぐ魔王も相当な力だった。


勇者に聖女の支援魔法が飛ぶ。賢者の放つ無数の魔法が弾幕となって、魔王を牽制した。騎士は、そんな後衛二人を勇者と魔王の戦いの余波から守っている。


聖剣と魔槍が鍔競り合う中、魔王は勇者の背後、聖女に目を向けていた。だが、漆黒の仮面によって、それを気づくものはなかった。


人知れず、勇者に向き直り、魔王はあっさりと跳ね除けた。


「うわぁ!?」


勇者は体勢を崩し、思わず声を上げる。


「勇者様!」


騎士の叫びが聞こえた。


「悠長なことだ」


その騎士の側で、声がした。


「は!」


騎士は振り向き、魔王を見止めた。


「まず、お前からだ」


魔王の魔槍が唸りを上げる。無造作に横薙ぎに払われたそれは、咄嗟に構えられた騎士の盾に激突する。


「ぐっ!?」


拮抗は一瞬、騎士は大きく弾き飛ばされ、魔王城の壁に穴を開けてぶつかった。


「つ、強い……まさか…こ……ほど……は……」


騎士は、思わずといった感じに感想を漏らしながら、意識を無くした。


「くっ、よくも!!」


怒りを湛えながら、勇者が魔王へと突撃する。だが、到達するまでの時間で充分だった。


魔王の無詠唱魔法が炸裂した。


「うわぁ!?」

「いやぁ!?」

「ぐはっ……!?」


勇者は、咄嗟に受け身を取り、聖女は、結界を張った。しかし、賢者はもろにその身を魔法の威力で傷つけられた。杖をついてどうにか立っていたが、立ち上っていた煙が晴れると同時に倒れ伏した。


「そんな……」


聖女の悲痛な声が響く。


「ぬるいな、ぬる過ぎる。貴様らは一体、ここに何をしに来た?」


魔王の嘲声が聞こえる。


「え?」


聖女はその声に、今更ながら何かを感じた。

それは、魔王の哀しみだろうか、それとも落胆だろうか。

いや、そんな感情も読み取れはする。しかし、聖女が最も感じたのは


「き、貴様ぁぁぁああ!!」


聖女の違和感がカタチを取るその前に、勇者の咆哮が響き渡る。


ダン


と、床をひび割れにしながら、勇者が踏み込んだ。


魔王は悠然と魔槍を構える。


「ぁぁぁああ!!!」


勇者の憤怒に呼応するが如く、聖剣は光を増し、遂に目前に捉えた。


勇者が渾身の力で聖剣を袈裟懸けに振るった。

魔王は、易々とそれを躱したかに見えた。


だが


ピキ……ピキ……ピキピキピキ……パリン……コトン


漆黒の仮面が床を打っていた。


「「!?」」


勇者と聖女は困惑した。


「……油断したか」


そう呟き、魔王は改めて勇者と聖女に向き直る。

その顔をしっかりと確認し、勇者と聖女は


「何故、あなたが魔王なのですか?」

「兄貴……」



「ふーん、知人と対立する葛藤ね。私なら。う〜ん、どうするのかしら?」


わからないわ〜と、女は独り言ちる。


「てか、いつまで寝てんのよ。神原君、起きなさい!」


女は遂に痺れを切らして、男の頭を打った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ