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第二十話 モーコが怒ったのです。

 その日の朝食。


「その……ちょっとくっつきすぎじゃないっすかね」


 いつものように、ウォーリアたちと食卓を囲んでいる恭也。その隣に、少し動けば肩が触れ合う距離まで椅子を詰め、ニコニコとして座っているメアリーがいた。


「随分と気に入られたものね」


 ティアは頬杖をつき、呆れ顔で恭也にそう言った。


「まあ、そのようで――」

「だって、かわいいじゃない!」メアリーは目を輝かせて言った。「見て? このきれいで白い肌! さらさらした髪! 笑った時のえくぼ! 食べたくなっちゃうぐらいよ!」


 純粋に誉め言葉なのだろうが、蛇のウォーリアなだけに、恭也はぞっとした。


「カッ! カッ!」


 メアリーとは反対側、恭也の隣の席に座るポヨッペは、メアリーに齧りつかんとする勢いで威嚇している。


 それを心底どうでもよさそうに見ながら、


「ポヨッペとは仲良くしたほうがいいわよ。この子の攻撃力二倍スキル、友達と認めた子にしか発動しないから」


 と、ティア。


「それならそれで結構よ」メアリーは不機嫌そうに顔を背けた。「わたしは、『アリオンの祭典』に拘ってるわけじゃないし? わたしの代わりがいるなら、別の子が出ればいいのよ」

「そんな言い方はないんじゃないか?」恭也は少し不快になって言った。「『アリオンの祭典』に出るために、一生懸命頑張ってるウォーリアだっているだろ?」


 その最たる例はモーコだ。


 恭也は気になって、モーコに視線を移した。モーコは無表情に黙々と食事を続けている。


「んー? 怒ってる?」メアリーは恭也の顔を覗きこんだ。「わたしの自由が奪われるぐらいならって話よ。それに、いろんなウォーリアがいるんだから、いろんな考え方があって然るべきでしょう?」

「まあ……そりゃそうだけど」


 そうは言いつつ、恭也は割り切って考えることができなかった。


 恭也の野球部にも、才能に恵まれ、大した練習もせずにレギュラーを勝ち取る部員がいた。その部員は純粋に野球を楽しんでいるようで、試合の勝ち負けに拘っている様子はなかった。それでも、その実力が評価され、レギュラーから降ろされることはなく、恭也はその部員を嫉視していたものだ。


「わかってもらえて嬉しいわ!」メアリーは手元のスプーンで恭也のスープを掬った。「はい、ダーリン! あーん」

「ちょ――」


 恭也が身体を反らせた直後。


「あのっ!」


 その声は、周囲がしんと静まり返るほどに大きな声だった。


「恭也さん、嫌がってるじゃないですか。離れてあげてください」


 モーコである。


 食卓にいる全員が、モーコを凝視した。


「ふーん?」メアリーは口の端に意地の悪い笑みを浮かべた。「あなたが怒るなんて、珍しいわね」

「別に、怒ってないです」

「嫌じゃないわよね? 恭也君?」


 メアリーの柔らかな乳房を押し当てられ、恭也の顔が真っ赤になった。


「いや、あの、食べにくいんだけど――」

「ほら、嫌がってます」


 モーコが言って、メアリーはうんざりとした様子で恭也から離れた。


「ったく、うるさいわね――じゃあ、こうしましょうか」メアリーは立ち上がり、モーコを蛇の目で睨み付けた。「闘技場までいらっしゃいな。一対一で勝負しましょ。あなたが勝ったら、もう恭也君にくっつかないって誓ってあげる。わたしが勝ったら、わたしのすることに一切文句を言わないこと。いいわね?」

「なんでそんなこと――」


 モーコが視線を逸らすと、メアリーは残りの朝食を口の中に掻きこみ、ガンと音を立てて食器を置いた。


「逃げるのかしら。いつもみたいに」

「……わかりました。行きます」

「ってことだから」メアリーはじっと様子を伺っていたティアに視線を移した。「ティア、闘技場の端末操作、お願いしていい?」


 当然断るだろうと、場が納まるのを確信してほっとした恭也だったが、意外にもティアは乗り気だ。


「好きにしなさい。先に行ってて。すぐにわたしも向かうから」

「ええ。よろしくね」


 手をひらひらとさせて、メアリーは食堂を出て行った。食事を終えたモーコもまた、メアリーについていく。


「……なあ、いいのか?」

「メアリーは、勝手気ままな子ではあるのだけれど……悪い子じゃないのよ。それに、賢いわ。多分、考えがあってのことよ」

「考えって?」

「モーコがあんなに感情を露わにするなんて、すごく珍しいことなの。あの子が変わる、きっかけになるかもしれない――そんな気がしてね」


 スイレンが、「うーっ!」っと唸り声をあげて食卓に突っ伏した。


「今日はスキルトレーニングかぁ。女と女の意地をかけた戦い……見たかったなあ!」


 その向こう側で。


 食堂を出ていくモーコの背中を、スコルクがじっと見つめていた。


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