第十九話 祭典を前にSランクウォーリアが揃いました。
ずしん、と腹にのしかかる重みで、今日も恭也は目を覚ました。
ポヨッペは朝起きるのが早く、「遊べ―! 遊べ―!」と午前五時には起こされる。迷惑極まりないインコギャルだが、ハルナ曰く、この時期はとにかくストレスを溜めさせないことが重要とのことで、できるだけポヨッペの要望に応えようと、恭也は眠い目をこすって起き上がるのだった。
――ん?
身を起こした途端、ふよん、と顔に柔らかいものが触れた。
いつもの騒がしさがなく、何か様子がおかしい。そう思い、もぞもぞと後ろに下がってもう一度目をこすり、よく見てみると――。
「どわああああああ!」
恭也は枕で顔を隠した。
「あらぁ。真っ赤になっちゃって――ねえ、どうだった? わたしの胸、大きいでしょう?」
恭也の網膜には、蕩けるほどに蠱惑的な容貌と、美しいラインを描いた女性の裸体が焼き付いている。
「何!? 誰!?」
恭也の衣服が捲られ、上半身が露わになった。
女性の指が、腹部から首へと伝っていく。
「ひうっ!?」
「誰だっていいじゃない。ねえ、お姉さんと楽しいコト――」
バンッ! と部屋の扉が開かれた。
「貴様はもう少し静かに起きれ――」
――死んだわ。
アウスタリスの声が聞こえて、恭也は枕に顔を埋めたままばったりとベッドに倒れた。二度に渡って目撃されたこの状況。アウスタリスが許すはずもない。
もうどうにでもなればいいと、恭也は捨て鉢になって脱力したが、次に聞こえてきたのは罵声ではなく大きなため息の音だった。
「戻ったか」
「ええ。昨日の深夜に」
「いい加減に、見境なく若い男を誑かすのはやめろ。セントレイクのウォーリアの品性が疑われる」
「あら。個性を発揮してこそのウォーリアじゃない。あなたにとやかく言われる筋合いは――」
「で、誰?」
と、自分に非が無い前提の会話に安心した恭也は、枕で顔を隠したまま身を起こして訊いた。
「……メアリー。蛇のウォーリアだ」
アウスタリスが答えた。
「やっぱりウォーリアなんだな。一体どこから――」
言っている途中で、恭也は愚問だと気づいた。蛇の姿ならば、ポスト口でも通気口でも、侵入可能な場所がいくつもある。
メアリーがくすくすと笑った。
「ティアに訊いたら、わたしと同じ日本出身っていうじゃない。うれしくなっちゃって、ついね」
「日本出身?」そういえばと、日本語が通じていることに恭也は気づいた。「なんの蛇?」
「ニホンマムシ――らしいわ。蛇が縁起物って言われてるのをいいことに、神社でお世話になってたんだけど、先代のファーラに拾われてね」
なるほど、と恭也は得心した。蛇が祭られている神社は、日本において一つや二つではない。
「ふぁっ!?」
恭也を包み込んだ、温かくて柔らかい感触。枕に顔を埋めているとはいえ、その正体がメアリーの柔肌であることは容易に想像でき、高圧電流が恭也の脳天を貫いた。
「改めて自己紹介するわ。Sランクのウォーリア、メアリーよ。よろしくね? 恭也君――っ!?」
突然、恭也はベッドに押し倒された。柔らかな乳房が胸に押し付けられ、反応しそうな股間を太ももの内側で必死に食い止める。
「こらぁー! ご主人から離れろー!」
こうなってしまった原因は、目を覚ましてメアリーを蹴り飛ばしたポヨッペだ。
「あら、あなたがポヨッペちゃんね?」メアリーは恭也の隣に寝転び、絡みつくように恭也の首へ腕を回した。「嫌よ。わたし、彼が気に入ったの。邪魔しないでくれる?」
「ご主人はわたしのだ! 離れろ! このアバズレ!」
「恭也君は誰のものでもないでしょう? 何? あなたの恋人だとでも?」
「ち……違うけど!」
「なら、離れる理由はないわね」
「……このぉっ!」
衣服を脱ぎ散らかし、メアリーの反対側に全裸で寝転んだポヨッペ。ふにゅ、とポヨッペの滑々とした肌が恭也の脇腹に触れた。
「……なにしてるのよ」
メアリーが目を細めて言って、ポヨッペはふふんと鼻を鳴らした。
「わたし、彼が気に入ったの。邪魔しないでくれる?」
メアリーの言葉を真似て、ポヨッペが言った。
「あなたみたいなお子ちゃまには、こういうのは早いわ。さっさとミルクでも飲んで寝たらどう?」
「オバサンより、わたしのほうが絶対いいもん!」
「オバッ……!」
二人、ギリギリと歯を鳴らして睨み合う。間に挟まれている恭也は、震える声を絞り出した。
「アウスタリスっ……助けてくれぇ!」
「……勝手にやっていろ。わたしはもうひと眠りする。ほどほどにしておけ」
もう面倒だという気持ちを滲ませた声で言って、アウスタリスの足音が遠ざかっていく。
――し、しんどい!
欲望に忠実になれればどんなにいいか。しかし恭也は、モーコのために頑張ろうという志を胸に、煩悩を振り払って声を張り上げた。
「お前らまず服を着ろおおぉぉ!!」




