第十六話 ポヨッペの初仕事なのです。
アスファルトできれいに舗装されている畑道を、一台のオープンカーが走っていた。
モーコがサングラスをかけてハンドルを握り、助手席には恭也が乗っている。後部座席には、はしゃいだ様子のポヨッペがいた。
「ポヨッペちゃん、危ないから座ってて下さい」
「はーい!」
元気に返事するものの、聞く耳持たず。ドン、ドン、と跳ねる音が聞こえてか、モーコは大きくため息をついた。
「いやー、気持ちいいもんだな。モーコちゃんの言う通り、オープンカーにして正解だったわ」
抜けるような青空と、心地いい風。実りを迎えて黄金色に染まる小麦畑の景色。恭也は初めて乗るオープンカーを満喫していた。
「気に入っていただけて、嬉しいです。けれど、本当はオープンカーじゃないと、わたしにはちょっと窮屈でして。それが理由だったりします」
「おー。モーコちゃんが大きくてよかったわー」
モーコが嬉しそうに笑った。
「ん? どした?」
「いえ……身体が大きいのが嫌で、ついこうやって自分を卑下してしまうのですけど、恭也さんは全部ポジティブにしてしまうので。不思議な方だなぁって思います」
「おお……自覚なかったわ」
「ごっしゅじーん!」後部座席からポヨッペが大声で言った。「おやつ食べていい!?」
「おやつってのはなー。お昼過ぎてから食べるもんだぞー」
「えー?」
「着いたらハルナさんのお弁当食わせてやるから、我慢しろー」
「はーい!」
また、ドン、ドンが始まる。
「どうしてポヨッペちゃんも一緒だったんでしょうね」
不意にモーコが聞いて、恭也は不思議そうにモーコを見た。
「どうしてって?」
「『アリオンの祭典』のために、ポヨッペちゃんのステータスを少しでも上げたいんじゃないかなぁって」
「そうだろうけど、今日はルッツってのが来るからな」
「あ――」
「それに、『アリオンの祭典』でポヨッペが急に出てきても、誰だよってなるだろうし。できるだけ、ポヨッペに顔出しをさせたいってのもあるんじゃねえか?」
「いろいろ、考えてのことなんですね……あ、そろそろ着きますよ」
それから三分ほど車を走らせ、到着した場所は雑草が生い茂った広い土地だった。トラックが数台停められており、また、年配の男女数人が集まっている。
「おー! 遠くからすまねえな! 『アリオンの祭典』も近えってのに!」
訛った声で、年配の男が駆け寄ってきた。それに続いて、他の人々も歩いてくる。
「お待たせしました。ここ一帯、全部ですか?」
草刈りを終えている広大な土地を見渡しながらモーコが聞いて、年配の男は大きく頷いた。
「んだ。サントラの実さ、うってつけの土地でな」
「サントラの実!?」
ポヨッペが目をキラキラとさせて叫んだ。
「こいつ、サントラの実が大好物なんすよ」
恭也が言うと、年配の男はポヨッペの頭を撫でた。
「そっかそっか。んだら、来年の秋にいっぱい送ってやっがらな」
「ほんとー!?」ポヨッペは満面の笑みで恭也を見た。「このおっちゃんたちと友達になるー!」
「おう。いいんじゃねえか?」
モーコはクスクスと笑って、「よーし!」と腕まくりをした。すでに装いは、畑仕事を想定して動きやすい服装である。
「それじゃあ、はじめましょうか。わたしは土地の九割ほどやりますので、あとはお願いしますね」
「九割!?」年配の女性が驚いて言った。「いんや、機械さ二台あっから、そげな無理しねえで――」
「わたしは、耕うん機の十倍はすごいですよ」モーコは年配の女性から鍬を受け取ると、腕を鳴らしてポヨッペを見た。「それに、これから二十倍になりますから」
ポヨッペは「にへへー」と笑うと、両手を口元に持ってきた。そして――。
「ピッ、ピッ、ピー!」
人々は驚き、目を瞬かせた。力が沸き上がって来たのだろう、信じられないといった様子だ。
「な、なんだべやこりゃ!」
「ポヨッペのスキルなんす。馬力二倍ですよ。このスキル、今んとこオフレコなんで、おっちゃんたちだけの秘密でお願いしますね」
恭也が人差し指を口に当てるのが早いか、モーコは蹴り出し、「そりゃあああああ!」と勢いよく土地を耕し始めた。前後しているであろう鍬先端がまるで見えず、移動する足の動きですら追うのが難しい。
「は、はええなぁ……昼飯までに終わっちまいそうだべや」
年配の男性が呆れて言って、恭也もまた、腕まくりをする。
「モーコちゃん、気合いはいってんなあ。じゃ、せっかくなんで、俺にも手伝わせてください。ポヨッペはどうする? メシにするか?」
恭也が聞くと、ポヨッペはブンブンと首を横に振った。
「あたしもやるー!」
「おう! じゃあ頑張るか!」




