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第十四話 ルッツは何か企んでいるのです。

 世界第一位の人口と国土、そして世界第二位の経済力を誇る国、ガルバトゥス。ここに、コンピューター産業で業績を伸ばし、世界の業績ランキングで五年連続一位を維持している企業、ファンネルシュシステムがある。


「そう……僕のファンレター、届いたんだ」


 ファンネルシュシステム社長室。


 社長業と兼務し、コンダクターとしてウォーリアを束ねるルッツ・ファンネルシュは、窓際でコーヒーを飲みながらそう言った。


 グレイアッシュの短髪と端正な顔立ち。長身でスタイルが良く、ガルバトゥスに住まう女性たちの憧れの存在である。


「はい。配達元の郵便局に問い合わせましたが、まず間違いございません。国外にもファンはいるだろうと、他のファンレターと一緒にゴムで束ねて届けたそうです」


 答えた女性は、ラフィーネ・ジョリー。ピンでとめた前髪から覗く広い額と鋭い眼光。背筋を伸ばして凛然と立ち、黒のパンツスーツ姿が板についている。


 ラフィーネは、ルッツの秘書として十年以上もルッツと行動を共にしている。また、ハルナと同様、ウォーリアの育成に携わる一級ブリーダーでもある。


「ティアさんは、また同じ過ちを繰り返すつもりなのかな? ……まあ、そこが彼女の魅力なんだけど」


 ルッツがモーコに送った手紙は、無論ファンレターなどではない。ガルバトゥスは医療が進んでいる、モーコの心の問題を解決する方法がある云々。モーコが興味を惹かれる内容を綴ったものだ。


 モーコは、セントレイク国内でアウスタリスに次ぐ人気があり、ファンレターが大量に届く。通常であれば、ウォーリアに宛てられた手紙はコンダクターを経由するが、ファンレターは別扱いである情報は入手済みで、『アリオン祭典』が近いこの時期であれば、不審な手紙を紛れ込ませることも可能だろうと、期待半分で送ったわけだ。


「ま、届いたならそれに越したことはないさ。このまま、セントレイクを訪問するよ。ご苦労様」


 ラフィーネは慇懃に一礼をして下がった。


「さて、モーコさんはどうするかな?」


 もっとも、ティアに報告されるであろうことは想定の範囲内である。そうなれば、ティアは激昂し、訪問の際に断固として抗議するであろうことも。


 しかし、ルッツにとって、そんなことはどうでもよかった。心の問題が解決するかもしれないと、確実にモーコへ伝わることが何よりも重要であった。


――今のところ、負ける要素は見当たらないけど……風穴は、空けておくに越したことはない。


 確実に勝利する、そのために。


 ルッツはほくそ笑み、コーヒーを飲み干した。

 

----


「あいつ……! またこんな姑息なことを!」


 ウォーリア・タワーのコンダクター執務室。ティアはモーコから渡された手紙をみて、怒りに打ち震えていた。


 隣に立つハルナが、毅然とモーコを見据えて言う。


「これがあの男の常套手段です。反応してはいけません」

「でも……」

「でも、じゃないの」ティアが言った。「モーコの心の問題を解決できるなんて、嘘よ。たしかにガルバトゥスは医療が進んでいるけど、セントレイクと大きな差があるわけではないわ。こんなの、あの男があなたと接触する口実に過ぎない」

「そう……ですよね……」


 手紙をはっきりと否定しながらも、ティアにはモーコの気持ちが痛いほどわかっていた。五年も悩み続けている心の問題が、解決するかもしれない――その魅力は、モーコにとって計り知れないだろう。


「手紙は、これで全部?」

「……はい」

「そう……」ティアは少し視線を落としたが、すぐに顔をあげて、「四日後、ルッツがここを訪問する予定になっているわ」

「え?」

「でも、モーコとルッツは絶対に会わせない。強く抗議して、二度とモーコと接触を試みないよう約束させる。いいわね?」


 モーコは黙って頷き、執務室を出て行った。


「……どうしたものかしらね」


 ティアがデスクに寄りかかって呟くと、ハルナが答えた。


「ファンネルシュ氏は、モーコをターゲットにしている……と考えていいでしょうね」

「ええ。でも、同じ轍は踏まないわ」


 昨年、ルッツはセントレイクのウォーリアと接触し、『アリオンの祭典』の決勝戦におけるセントレイクチームの作戦を聞き出していた。試合直前に、ルッツが「聞くつもりはなかった」と書面で謝罪文を送ってきたことでそれが判明し、ティアは決勝戦直前で作戦変更を余儀なくされ、結果、敗北した。


 ルッツは非常に狡猾な男だ。モーコの心の闇につけこんで、知りたい情報へと誘導する可能性は大いにある。


「ウォーリア・タワーを見学したいですって? ふん、そんなの、モーコと接触を図ろうとしてるに決まってる。絶対にさせない。会談はハルナも同席してくれる?」

「もちろんです。……ですが、大統領から見学させるよう指示があったのではないのですか?」

「そんなの、知ったこっちゃないわ」


 ティアは吐き捨てた。怒鳴られようが罵られようが、そんなものはティアにとって、ただの雑音同然である。


「モーコの件も心配ですが、ポヨッペちゃんの件も難しいところですね……」

「そうなのよね……」


 ティアは悩まし気に頭を抱えた。


 ウォーリアに覚醒した後は、三日以内にセントラルへその旨を報告しなければならない。その際、書類に必要事項を入力し、それらは一般公開されるのだが、必要事項の中にある『適性』と『適合種入手場所』。これらがまずい。


「地球で入手した適合種はレア度が高いというのが相場ですから。しかも適性がエンハンサーとなれば、恐らくは、会談で探りを入れてくるでしょう。さすがに、『マーチング&マーチング』のスキル情報と覚醒したばかりのポヨッペちゃんを関連付けるようなことは無いとは思いますが――」

「覚醒報告をしたウォーリアの情報が公開されるのって、たしか即日?」

「報告日の深夜です」

「一応、報告はギリギリに――いえ、すぐにでも報告したほうがいいわね。変に勘ぐられても困るし」ティアはコーヒーを一口飲み、小さくため息をついた。「最善を尽くさないと。奇襲作戦が使えなくなるのは、かなり手痛いのよ……」


 ハルナが相槌を打って答えた。


「攻守のバランスがいいうちのチームに対して、ガルバトゥスは強力なアタッカーを優先して起用し、力押ししてくる傾向がありますからね」


 ティアは、ガルバトゥスチームと対戦するまでポヨッペを温存し、奇襲を仕掛けるつもりである。しかし、ポヨッペの出場を察知され、ガルバトゥスチーム内に強力なスナイパーを組み込まれてしまうと、それがご破算になってしまう。


 というのも、ガルバトゥスにはロズピィ――ガルーダのウォーリア――というSランクスナイパーがいて、ロズピィが所持している『不可避の強撃』というスキルは、あらゆる障害物をすり抜け、目標を確実にとらえることが可能だからだ。ポヨッペのステータスの低さから、『マーチング&マーチング』発動前に一撃でやられてしまう可能性が高い。


「ええ。ポヨッペちゃんの出場を察知されなければ……今年はうちの勝ちよ」


 神経を張り巡らせた情報戦。


 今年こそは決して隙を見せるまいと、ティアの目が鋭く光った。

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