第十三話 モーコは恭也が気になるのです。
ポヨッペのスキル検証を終えた後、モーコは自室のテーブルで木工をしていた。
――いいなぁ……ポヨッペちゃん。
ポヨッペが退場してしまうとスキル効果が消えてしまう、というデメリットはあったものの、持続時間五分といい、ポヨッペの声が聞こえる距離までという発動範囲といい、ポヨッペのスキル性能は秀逸であった。
そしてそれは、『アリオンの祭典』に出場できる枠が少なくなった、ということでもあった。ポヨッペのステータスの低さは問題にはなるだろうが、ハルナの育成力であれば、『アリオンの祭典』に通用するレベルまで引き上げるはず――モーコはそう考えていた。
「無理……なのかなぁ」
呟いて思い出したのは、恭也の言葉。モーコが『アリオンの祭典』に出場できるように協力してくれるという。実際問題として、ブリーダーでもない恭也には何もできないだろうというのが感想ではあったが――。
「はぁ……恭也さん……」
モーコは、恭也が見せた上半身を思い浮かべていた。
透き通るような肌としなやかな身体。男性といえば強靭な肉体しか想像できないモーコにとって、恭也の身体は衝撃的であると同時に、魅力的であった。それこそ、あれから何十回と思い出してため息をついてしまうほどに。
ハッとして、モーコはフルフルと首を横に振った。
「何考えてるのよわたしは……ってわああああああ!」
小熊を彫っていたつもりが、いつのまにやら恭也の顔になっていた。慌ててゴミ箱に捨てようとするも、思い直して戸棚の引き出しにしまいこむ。
そこへ、コンコンとノックの音が鳴った。
びくっと体を跳ね上げ、慌ててエプロンを正し、玄関へと向かう。
「はい?」
「あ、俺」
恭也の声だ。
「あ、あの、ちょっと待っててください!」
モーコは深呼吸をした。落ち着きを取り戻し、ゆっくりとドアを開ける。
「お待たせしまし……あー」
恭也が段ボール箱を抱えて立っていた。
「すみません、わざわざ……どうぞ、入ってください」
「おう、さんきゅ」恭也は中に入り、テーブルの上に段ボールを置いた。「いやー、じいさんが抱えててさ。どこに持ってくのか聞いたら、ここって。代わりに持ってきたんだわ」
「ありがとうございます。このころになると、いっぱい届くんですよ」
言いながら、モーコは中腰になって段ボールの箱を空けた。たくさんの封筒が、ぎっしりと詰まっている。
恭也がそれを覗きこんで聞いた。
「なんだ? これ」
「応援のお手紙です。『アリオンの祭典』が近いので……」
モーコは申し訳なさで、胸がいっぱいになる。たくさんの人がモーコの出場を楽しみにしているというのに、それに応えることができない。
「へえ。モーコちゃん、やっぱ愛されてるなあ」
そう言って、顔を上げた恭也。恭也の目が、モーコの目前にあった。
「ひゃあっ!」
モーコが顔を真っ赤にして飛び退き、恭也はすまなそうに後ろ首を掻く。
「わり、近かったか?」
「い、いえ! 違うんです! その……とととととにかく違いますから!」
解せないと言った様子で、恭也は封筒を一つ手に取った。
「ファンレター、ちょっとだけ読んでもいいか?」
「ど、どうぞどうぞ!」
恭也は近くにあったハサミで封を切り、手紙を読み始めた。恭也の顔が、自然とほころんでいく。
沈黙。
何か、何か話したいと、モーコは必死に思考を巡らせていた。
――好きな食べ物はなんですか? ……は唐突すぎるよね。セントレイクに来たばかりって言っていたし、行きたいところはありませんか? なら……って、デートに誘ってるみたいじゃない!
堂々巡りするばかりである。男性とお付き合いをした経験のないモーコにとって、意識した異性に質問するだけでもハードルが高い。
やがて恭也が、モーコに微笑みかけた。
「七歳の女の子から。運動会のリレーで、一番になれるようにがんばります。モーコちゃんも、頑張ってください、だってさ。 ……なあ、モーコちゃん」
「は、はい?」
恭也の視線が、どこか真剣味を帯びていた。
「どんなにきつくっても、どんなにつらくっても……『アリオンの祭典』に出たいか?」
「……え?」
恭也が言葉を繰り返すことはなかった。じっと見つめられて、モーコは漸く言葉を返す。
「みんなの力に……なれるなら」
「そっか」
恭也は手紙を置いて、立ち上がった。そして、玄関に向かいながら言う。
「優勝できるといいな。『アリオンの祭典』」
恭也は去った。そして、モーコは大きくため息をつく。
「結局、何も聞けなかったなあ」
モーコは段ボールの中の封筒を取り出していく。
――今日は午後から敏捷性トレーニングかあ。今日中に全部お返事かけるといいけど……あら?
一つだけ、国際郵便があった。
裏を見る。差出人名は書かれていない。
モーコには他国に友人はいない。他国からファンレターを受け取ったこともない。訝しみつつ、封を開けて確認すると――。
「ルッツ……ファンネルシュさん!?」




