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第十二話 ポヨッペはとんでもないスキルをゲットしました。

 そわそわして落ち着かない朝食を終えて、食卓を囲んでいたメンバーが闘技場のフィールドに集まっていた。ティアが朝食中に新スキルの発現を口にしたことから、話は瞬く間に広まり、職員やAランク以下のウォーリア達の多くが観客席に座っている。


 フィールドには、Aチームとして、ティア・アウスタリス・スイレンが、Bチームとして、恭也・ポヨッペ・スコルク・モーコが待機している。


「お、似合ってんじゃん」


 恭也に言われ、ポヨッペは「むふふー」と満足げにくるりと回った。羽を出すために背中があいた白のトップスに、デニムのミニスカート。小麦肌と相まって、溌剌としたギャルという印象だ。


「普段、こういうの着るんだな。いつもキッチリした服装だからイメージわかねえわ」


 ポヨッペに服を貸したティアが、顔を赤らめて視線を逸らし、頬を掻いた。


「昔着ていたのが残ってたから。もう二十も半ばになるし、今は着てないわよ」

「……今なんて?」

「え? だから今は着てないって――」

「その前!」

「……女性の年齢を確認するとか、マナー違反じゃない?」

「その前に年齢詐称疑惑だよ! どう贔屓目に見ても、おま、十八歳ぐらいだろ!」

「はあ!? なによそれ! わたしが子供っぽいって言いたいの!?」

「子供っぽいじゃなくて見た目まんま子供――」


 アウスタリスが恭也の顔面をガシッと鷲掴みにした。


「無礼者が。割るぞ?」

「……すんませんでした」


 バーチャルとはいえ、頭を潰されるのは精神衛生上よろしくない。


『では、新スキルのテストを開始します。ある程度の情報が揃わないと、システムによるスキル判定が行われませんので、何度か試行を重ねると思います。よろしくお願いしますね』


 特別席の演台の上にあるマイクを使い、ハルナが言った。


 アウスタリスから解放された恭也が、ディスプレイに視線を移す。


「予想はしてたけど……アウスタリスのステータス半端ねえなあ」


 生命力:4568

 攻撃力:1522(S)

 防御力:1821(SS)

 回避力:1931(SS)

 攻撃速度:1839(SS)

 スキルポイント:100


「スイレンもすげえわ」


 生命力:3221

 攻撃力:601(C)

 防御力:1598(S)

 回避力:1609(S)

 攻撃速度:1012(A)

 スキルポイント:100


 感心する恭也に、スイレンが答える。


「アウスは世界で六名しかいないSSランクのウォーリアだからね! 僕は、ステータス自体はSランクとは言えないけど、水属性スキルのおかげでSランク扱いになってるんだよ」

「へえ……ランクって、単純にステータスだけの話じゃないんだな」


 ティアがポヨッペの頭を撫でて尋ねる。


「ポヨッペちゃん、スキルの発動のさせ方、わかる?」


 ポヨッペは、しばし顎に人差し指の先を当てて「うーん」と考えていたが、やがて元気よく、


「わっかんない!」


 スコルクが、がくっと肩を落とした。


「感覚でわかるもんなんだがな。よっぽどアホじゃなけりゃ」


 ポヨッペは「むむっ」として、スコルクの脛を蹴った。


「うお!?」

「アホっぽいくせに、アホっていうな!」

「誰がアホだこのガキ!」


 いがみ合う二人を、ティアが呆れ顔で「よしよし」となだめる。


「ねえ、ポヨッペちゃん、目を閉じて?」


 突然ティアに言われ、首を傾げるぽよっぺ。恭也に「やってみな」と言われ、ポヨッペは「うん!」と頷き、目を閉じた。


「あなたにはわかるはずよ。もう、あなたはウォーリアなんだから。あなたのことは、あなた自身が一番わかるの。さあ、探してみて? あなただけの力。あなただけのスキルを」


 ポヨッペはしばらくじっとしていたが、やがてハッと目を開き、「キター!」と大きく叫んだ。


「見ててね! いっくよー!」


 ポヨッペに、数百人の期待の視線が注がれる。


 ポヨッペは大きく息を吸い込んだ。と同時に、両掌を立ててゆっくりと口元へ持っていく。そして――。


「ピッ、ピッ、ピー!」


 はい、整列! と続きそうな鳴き声に、なんじゃそりゃあ、とその場にいる全員がずっこけた。


 そして、様子を伺うこと数秒。何も起きている様子がない。


「ポヨッペちゃん、スキル発動できたの?」


 ティアが聞いて、ポヨッペは「うん!」と答えた。


 ティアは訝しみながらディスプレイを見る。


「――あら? ねえ、恭也の攻撃力値って、56だった?」

「うん?」恭也はディスプレイを見た。「俺はたしか、28だった気がするけど。そういや、なんか力が漲ってんな」

「攻撃力二倍? まさかね……だとしても、それに見合った制限なりペナルティなりあるでしょうけど……」ティアが特別席の方を見た。「一回、恭也を離脱させてくれる?」

『はい』


 ハルナが答えて、恭也が粒子となって消える。すぐにまた、フィールドに戻ってきた。


 元の数値は、やはり28だ。


「まさか……恭也にだけ攻撃力アップが適用されるとかじゃ……」


 ティアが不安そうに言って、スコルクが「うわ、使えねえ」と顔を歪める。


 スイレンが「まあまあ」と割って入った。


「もう少しソフトに考えようよ。恭也君にしかない何かに反応して、スキルが発動したっていうことはないかな?」

「……そうね」ティアが答えた。「一番妥当なところで考えると……ポヨッペちゃん、恭也のこと好き?」

「大好き!」


 ポヨッペは元気よく即答。


「そう。じゃあ、スコルクは?」

「嫌い!」


 ムスッと即答。


「じゃあ、モーコは?」

「んー?」


 ポヨッペはしばらくモーコをじっと見て、「わかんない!」と答えた。


「ポヨッペちゃんの好き嫌いで、スキル発動対象が異なる、ということでしょうか?」


 モーコが聞いたが、ティアは首を横に振った。


「そうとは限らないわ。前例としてそのケースもあるし、攻撃力数値が一定以下である場合という条件とか、距離とか。まあ、いろいろ試してみましょ。ねえ、ポヨッペちゃん」

「んー?」

「モーコはね、すっごく優しくていい子なの。お友達になってあげてくれる?」

「んー……」


 ポヨッペは、再度モーコの顔をじっと見た。


 モーコがポヨッペに近づき、しゃがみ込む。


「わたしはモーコ。ポヨッペちゃん、お友達になろう? ……あれ?」


 ポヨッペの視線が、いつの間にかモーコのたわわな胸に注がれていた。そして、ぴょん、と。ポヨッペはモーコの胸の谷間に飛びつき、顔をうずめる。


「ひゃ!? ……ちょ、ちょっとポヨッペちゃん、くすぐったい!」


 顔を左右に振り、谷間に埋まっていくポヨッペ。「うらやまけしからん!」と叫んだ恭也の顔面に、ティアの裏拳が炸裂した。


 ポヨッペはガバッと顔を上げると、眼をキラキラとさせた。


「おっきい! モーコとお友達になるー!」


 両拳を振り上げ、高々と宣言したポヨッペ。


 ティアは再度ディスプレイに視線を移した。ポヨッペのスキルポイント残数が50と表示されている。


「発動は二回まで……結構重いわね。ポヨッペちゃん、もう一回スキル使ってみてくれる?」

「うん!」


 ポヨッペは再度「ピッ、ピッ、ピー!」と鳴いた。すると――。


「なに、これ……」


 モーコが呟いた。何が起こったのかわからないと言った様子で、自らの身体を見つめる。


『スキル効果、攻撃力数値二倍で確定! 上昇制限なし! スキル名、マーチング&マーチング!』


 高揚感あふれる声で、ハルナが叫んだ。ディスプレイに表示されているモーコの攻撃力数値は3004――すなわちそれは、素手の状態で、アックスを持った時よりもはるかに高い攻撃力が備わっていることを意味する。


 ティアが驚いて言った。


「上昇制限無しの二倍!? 何かペナルティは!?」

『……今のところ、確認されません!』


 ティアは恭也の数値に視線を移した。やはり、二倍に跳ね上がっている。スキルの発動対象が複数であるということだ。


「チートもんじゃねえかよ……」


 さすがのスコルクも、驚愕の表情を隠せなかった。


「そ、そんなにすごいのか?」


 恭也が聞いて、スコルクは頷く。


「攻撃力のエンハンススキルってのは、俺の知る限りじゃ最大一・五倍。複数対象スキルに限りゃ一・二倍! こりゃどう考えてもぶっ壊れだわ」


 ティアが震えながら呟く。


「まさか……レアリティー判定エラーって……」


 その言葉に、ハルナが続いた。


『わたしも、そう思います。都市伝説とまで言われている、最上位レア、SSS。それが、ポヨッペちゃんの正体ではないでしょうか』


 『アリオンの祭典』まで、あと一か月。


 目前と言ってもいいこのタイミングで、強力なエンハンサーがセントレイクの地にやってきた。


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