第9話 聖なる布(パンツ)の導きと、断れない入学勧告
「あー……。知ってた? どんな感情も、一周回ると無心になれるってね。目の前で美少年が、何年も前に作った試作パンツを聖遺物みたいに掲げてるのを見て、私は悟りを開いたわ」
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「いやあああぁぁぁ! 恥ずかしいぃぃーー!!」
あまりの恥ずかしさに声を上げてゴロゴロと転げ回る。
「お、お姉ちゃん、落ち着いて? バレちゃうよ?」
「ま、まさかこんな方法で人避けの結界を突破されるなんて! そりゃ確かに清潔快適自動修復って無敵の要素を詰め込もうと魔法をかけまくったけど、中途半端にしか定着しなかったけど! うごごごご……!」
っていうか、例の獣人の友達経由で作ってもらったこのワンピース、妖精の私ですらできないことをやってるとか、制作者はいったいどんだけよ!
ゴン!
ガサッ!
べシャッ!
細い木に頭をぶつけ、思いっきり音が出る。ついでに私も落下して音が出る。
「な、何者だっ!」
ふぅ、まあ落ち着いた……のかしら。
一周回って悟りの境地に至ったかのように見えるわ。
デイジーがしゃがんで私をツンツンしてくる。
「ほら、お姉ちゃん、見つかっちゃった」
「うん? え?」
「そこか!」
ふわりと浮き上がり、ワンピースについた土を払うと後ろから声をかけられた。
「あ」
あまりの衝撃ですっかり忘れてた!
「ま、まさか! ついに、見つけた……!!」
茂みはすっぱりと切り払われてご開帳。
眼の前にはローベリアとハインリヒ、それに大勢の皆さんが並んでる。
ハインリヒ、その抜き身の剣で茂みを払ったのね。
危ない危ない。
私は姉としてデイジーの前に出る。
「人が……妖精がいるかも知れないところに剣を振るなんて危ないじゃない! いやそうじゃなくて、結界を」
「わあ、久しぶり! あなたの持ってるそれ、ずっと前にお姉ちゃんが無くしたパンツよね! 凄いわ! 物持ち良いのね!」
「ちょっとおおおお!? 蒸し返さないでえええーー!?」
悟りは一瞬で終わった!
「……こほん、この見慣れぬ形の御神体がまさかそのようなものとは……貴女の姉の物ということは分かった。お返ししよう……」
いや、それを今さら返されても困るわ!
っていうか、すっごく名残惜しそうに言われるともっと困るわ!
「そ、そんなことよりも、一体全体何しに来たってのよ。話は私にしてちょうだい」
デイジーに話しかけるローベリアに割り込み話しかける。
「む、貴女はそこの少女の関係者か? そうだな、説明しよう」
どうやら私のことをデイジーの姉とは認識してない模様。種族が違うし、まあ私を姉と認識する方が無理あるか。
「端的に言うと、そこの少女は、非常に優秀であるため、ぜひ我がサンライト王国の国立学校に通って欲しいと言うことだ」
「はあ? なんでまた」
っていうか、一介の貴族(?)の子どもが我が国だなんて、どんだけ偉そうなのよ。
「5年前ですら火吹き熊を撃退した高い実力。それにこのような結界を張る技量。これだけの才能を野に置いておくのは国家の損失であり、ましてや他国に流れたら危険だ。我が国は、彼女のような逸材の確保を急務としている」
火吹き熊ことバナ助の件だけではなく、どうやら結界についてもデイジーがやったことだと思ってるっぽい。
「なるほど、確かにウチの子なら活躍できるかもしれないわね」
「そうであろう?」
「だが断る」
「なにっ!?」
「うちはただの貧乏な姉妹よ! 高貴な学校なんてとんでもない! そもそも学費を払うお金がないもの!」
自分の意図する通りに相手を動かし、事が運ぶと思ったら大間違いよ!
そういう奴にNoと断ってやることが最高に楽しい!
まあ冒険者ギルドの私の口座にはそれなりの額があるから、デイジーが通いたいって言えばやぶさかじゃないけど。お金がないって言ったけど、実は通えるだけの蓄えはあるし。
ふっ、どうやら私の作戦は完璧ね!
「姉妹……? とすると、この御神体は……」
「すとぉーーーっぷっ!!!」
それ以上はいけないわ。
「ローベリア、急ぎすぎだ。ここからは私が」
「ああ、そうだな、頼む」
おっと、ここに来てハインリヒが会話に加わってきたわ。
「我がフォード公爵家の魔導調査によれば、この森の異常な魔素溜まりが確認されている」
「まあ辺境の森だし、そんなもんじゃない?」
他の森と比べて空気中の魔素量が多いような気がするので、もしかしたら最奥には世界樹の一つが生えてたりするかもしれないけど。
「そうかも知れないが、我々が幼少期の頃に霧の大狼を目撃しており、森の主である可能性も示唆されている」
「あーー……確かにそういう感じもある、かも知れないわね?」
そういやこいつも公爵家を我が物表現してるわね。
さすがに家を勝手に使ったら……いや、え、こいつらってもしかして……?
何だか嫌な予感がしてきたわ。
「そんな危険区域で、君たちは長年暮らしてきた。それは森の主に関係した何らかの理由により離れられないのではないかと言うのが、我々の見立てだ」
な、何だか凄いことになってるわね。
「そこで彼女を、君たちを連れ出せるよう森の主の説得を手伝って欲しい。もちろん、ただでとは言わない。我らの命の恩人である彼女の生活は……いや、君さえ良ければ君の生活も保障しよう。学校は、その生活の保障の一部でもある」
「あー、まあ、それはありがたいお話ねえ」
ニート生活を保証してくれるのは中々良い……じゃない。
ヤバい、資金的な問題についても外堀を埋められた!
「説得が叶わなければ、危険区域として封鎖し、最悪、高位冒険者による森の主の討伐も視野に入れなければならない。だが、そんなことはしたくないのが本音だ。頼む、協力してほしい」
貴族の子どもが平民相手に頼むとかよっぽどのことよ!
ヤバい!
思った以上に大事になってる!
焦る私を察したのか、ここに来てデイジーが口を開いた。
「霧の大狼? それってお姉ちゃんの魔法よね?」
ほげえええぇぇぇ!
ここに来てデイジーの素直さがああぁぁーーー!!
「「「…………」」」
沈黙が辛い。
「なるほど……妖精はイタズラ好きとは聞いていたが……」
うぉい、ローベリアがニヤリといやらしい笑みを浮かべて来るんですけど!
「それは君が原因だったわけか。入学を拒否するなら、ここは危険区域として封鎖され、君たちは強制退去になるだろう。なに、今なら森の主殿の許可も容易い。大事にはならないはずだ」
くっ……このままじゃマズイわ!
いったいどうしたら……!
何かいい案が……!
その時、ガサガサという音が近寄ってきた。
こ、この音は!
「グア、グアグァ(おう、邪魔するぜ)」
この緊迫した空気の中、突然バナ助がこんにちは。
「ひっ、火吹き熊!? 魔物だ!」
「総員、構え!!」
「グァ? グア、グアグァ?(ん? 姉さん、来てよかったのか?)」
「ええ、バナ助! 良く来たわ!」
後ろにいる騎士たちっぽい人たちが騒ぐけど、バナ助はスルーしてる。
私も無視よ無視!
「バーナー、待たせてごめんね。もしかして、おやつ持ってきてくれたの?」
「グァ(ああ)」
「わー、ありがとう!」
バナ助は騎士たちを意にも介さず、デイジーのおやつの準備を始める。
器用にそこらにある石を積み上げて簡易かまどを作り、フッと小さな火を吹く。
そこにハニーパンケーキを乗せたフライパンをセットし温め直すと、甘く良い香りが辺りを漂う。
「ウー、グアグア……。グア、グァワウ(うーん、ここじゃ中々難しいが……。よし、できたぞ)」
「わー! ありがとう!」
バナ助はサコッシュから木のお皿を取り出し盛り付けると、デイジーに手渡す。木製フォークもセットで。
「「「…………」」」
ふっふっふ、一連の出来事が非現実過ぎて、全員がポカンとしているのが手に取るように分かるわ。
「お姉ちゃんの分も切り分けたよ。いる?」
「もちろん」
「あ、君たちの分が無かったわね。私の分を……半分あげようか?」
あ、どれくらいあげるか一瞬迷ったわね。
「……ありがとう、それではいただくとしよう」
あんたも一瞬迷ったわね。
「ローベリア」
「なんだ、心配はいらんぞ」
「違う。私にもその半分をくれ」
「……仕方ない」
バナ助が追加のフォークを出し、4人でパクつく。
「なっ……この火加減、この味付け、宮廷料理人レベルだと……!?」
「ふっ、よく分かってるじゃない。そう、この熊公は料理人でもあるわ。ウチの子の健康を保つには、彼も必須。そうじゃなきゃ行かせないわ」
いくらなんでもこの無茶振りなら!
「……分かった。特例として彼女の従魔兼寮の特別調理補助として帯同を認めよう」
おい、権力を私物化して許可してんじゃねーわよ!
「さて、これで入学に向けての障害は全て無くなったと思って良いかな?」
「ぐぬぬぬ……」
こ、こいつ!
私を落とせばデイジーが着いてくるって分かって!
「お姉ちゃん、私、学校に行ってみたい」
「分かったわ、デイジー。ローベリア、入学願書をちょうだい」
デイジーが行きたいなら仕方ない。
仕方ないけど、終わった……。
私のスローライフが、パンツ一丁(語弊あり)で崩壊してしまったわ……!
私はガラスっぽい仮面のごとく白目になりながら、デイジーを連れ、森を出る決意をするのであった。
明日18時に更新予定です。




