第8話 完璧な一般人(モブ)に育てたはずが、どうしてこうなった!?
「あー……。子育てって本当に思い通りにいかないわよね。でも、私の5年間に及ぶ一般人化教育は、ついに完璧な実を結んだわ!」
──────
「ふぅー、今日も立派に一般人としての自給自足が捗るわね!」
吹けば飛ぶような我が家も、今では二人で住む分には立派な家となり、庭には畑ができて数々の野菜や薬草が茂り始めている。
それもそのはず。
もう少しで冬が終わり春が来るからよ。
あれからもう5年……くらいだと思う。
なんせ辺境の森、しかも比較的深いところにいるので時間感覚がゆったりだ。だからだいたいなんて感覚なのよ。
「おねーちゃーん、そろそろ今日の分は終わるよー」
「おつかれー。こっちもお昼ごはんの準備がもう少しで終わるわー。終わったら手を洗っておいでー」
「はーい!」
遠くで声をかけてくるデイジー。
そんな彼女は、かつて子グマ公と内心呼んでいた火吹き熊に乗りながら、息を吸うように魔法で畑の手入れをしたり、耕したりしていた。
うん、教育のためにも何度も何度もAPを注ぎまくってきたけど、なんだかんだと私がAPを注がなくても、大抵のことは卒無くこなせるようになったわね。さすがに大魔法をポンポン使うにはAPを注ぎ込まないとダメだけど、まあこんなもんでしょ。
これでどこに出しても困らないはずよ。
デイジーはたくましく育ち、今ではすっかり一流の一般人に育ったわ。
前髪の一部、っていうか一房が私と同色のピンク色となったままだけど、それ以外は輝く金糸のような長髪。可愛らしい顔立ちから、整った顔立ちへと変わり、まさに容姿端麗だ。
また、少女のようなあどけなさはありつつも、女性と呼べるようにもなってきた。っていうか推定12歳なのに、既にくびれがあるし、お胸もそれなりに出つつある。
もちろん、容姿だけではなく、中身の方だって負けていない。
調味料やデイジーの衣服を手に入れるために時々村や街にお忍びで買い出しに行くけど、ついでにいろんな本も買ってきて勉強だってしている。
田舎者だからってバカにされたり、騙されたりしないためにも必要だしね。ちゃんと教育もしてるわよ。
それになにより、お姉ちゃん教えてって言われてちゃんと答えられる私スゲー! ってしたかったし。
行き当たりばったりだし考えるのは苦手だけど、私だって別に頭が悪いわけじゃないのよ?
言っちゃなんだけど、私はデキる妖精。
イタズラするためには、いかに面白おかしくするためには、知識が必要だもの。
まあやり過ぎて辺境の森へ夜逃げ同然に引っ越す、もといスローライフしに引きこもることになったわけだけど、そんなのは長い妖精生にとって大した長さじゃないのよ。
むしろ結果としてデイジーに会えたんだから、計算通りと言えば計算通りなの!
「いやー、さすが私! デイジーが一流の一般人な田舎娘っぽくなって良いわー!」
後方腕組み妹育成天才美少女姉妖精はご満悦である。
「ただいま、今日の分の畑仕事は終わったよ」
「ありがと、こっちもお昼ごはんできたわよ。今出すわね。お茶はそこのやつを注いでね」
「はーい」
木のコップにお茶を注ぐデイジーの姿は様になっている。
本で読んだだけなのに、よくもまあここまでできるようになったわね。
最初はあれもこれも聞かれてあまりに大変だったので、自分で試してみて、どうしても分からなければ私に相談するってスタイルにしたのよね。何でもかんでもは、さすがに無理よ。
イタズラだって、自分が考え、どういう風になるのか想像して、そのうえでやるもんであり、誰かに聞いてやるんじゃ面白さ半減ってもんでしょ。それと同じよ。
デイジーに力説したら理解してくれたから間違いないわ!
で、相談された時こっそりとAPを注ぎ込み、一緒にやって説明し、急成長させて身につけさせるってパターンを続けてきたわ。
そんなわけでデイジーは単なる知識だけじゃなく、応用力や考える過程も身につけたってわけ。
はねた泥だってほら、浄化の魔法であっという間にキレイキレイ。
うーん、ここまでできれば一流の一般人田舎娘と名乗っても差し支えないわね!
「お姉ちゃんの分よ。はいどうぞ」
「ありがとー」
おまけに気遣いもできる!
むほぉー!
うちの妹が世界一可愛くて有能!
……って、いけないいけない。
この子は一流の一般人であっても、あくまで地味な田舎娘Dよ。
自分のことは自分で何とかできる程度で、有能なんかじゃない!
いや、デイジーはちゃんとできる子だから、有能!
いやいや……!
うごごごご!
ど、どうすれば……!
一般人の範囲で有能!
とりあえずこれで納得しとこう!
あと、凄く可愛いのは仕方ないので諦めた!
だって、田舎娘風で地味な服を着ても、髪の毛がボサボサ……はなぜかあんまりならないけど、可愛いものは可愛いんだし!
◆ ◆ ◆
パリン
食後のティータイム、デイジーとイタズラ談義をしてる最中、人避けの結界が破られた感じがした。
「あー、またかしら。人避けの結界が破られたわ」
「え、また? 最近多いね」
「ホントね。いったい誰よ。こんな辺境の森に来て、わざわざ人避けの結界をぶっ壊してくやつは」
人避けの結界は、割と簡単に破られる。嵐とかで物理的に壊れるものではなく、魔法的な要素でだけど。
そんなわけで、最初はバナ助が面白半分に火を吹いて破壊したけど、2回目以降はそうじゃなさそう。
この森は外のザコ村人には危険だし、私は今、あまり人と関わりたくないからやってるのに。
あ、バナ助ってのは、かつて子クマ公って心の中で呼んでおり、今ではデイジーのペット兼友達になった火吹き熊よ。ちゃんとした名前はバーナーだけど、私はバナ助って呼んでる。
火吹き熊は元々頭が良いけど、試しにAPぶっ込んで教育したら、今では言葉や文字まで理解し、さらには料理を趣味にするとか、斜め上に頭が良くなった。
そのせいか、こいつの親とは今やご近所さんみたいになったけど気にしない。
「なんにせよ、一言文句を言ってやらなきゃ気がすまないわ!」
現場に向かってみても、誰かがいた形跡はあるけど、その誰かは特定できなかった。
妖精の私にイタズラを仕掛けるとは、しかも迷惑タイプのイタズラとは中々度胸があるわね。
今回という今回こそは文句を言ってやる!
「バナ助! 悪いけど後片付けお願いね。私たちは迷惑野郎に文句を言ってくるわ!」
「グァ(了解)」
バナ助は言葉こそ喋れないものの、安心して家事を任せられるほど器用だ。
「デイジーも行くわよね?」
「もちろんよ!」
◆ ◆ ◆
なんとなーく、いつもと違う感じがしたので、私たちは茂みの中からこっそりこんにちは。
「いったい誰が来たってのよ……いやいや、人数多くない?」
まさかの団体様とは。
しかも騎士団?
「とは言えよ、文句言う事には変わりないけど……あれ?」
なんか見たことありそうな少年二人が……。
金髪紫目の偉そうなイケメンと、白髪赤目の鋭い剣士……。
って嘘でしょ!?
5年経って立派に育ってるけど、ローベリアとハインリヒじゃん!!
「巧妙に隠されていたが、徐々に道は開けている!」
「この御神体が道しるべとなる限り、我らの道は続く!」
ローベリアが懐から大切そうにハンカチを取り出し開くと、中からかつて無くしたと思われた布が出てきた。
「森の主よ! 我らを受け入れ給え!」
かつて無くしたと思った布……私の試作パンツをハンカチごと掲げ、次の人避けの結界をパリンと破る。
「やはりこの方向であっているようだ。────ついに見つけられるぞ。私の命の恩人であり、未来の妻となる女性を!」
いやあああぁぁぁ!!!?
お前!!
ちょっ、お前!!!
私の超高級ワンピースと同じような機能をもたせようと頑張った未完のパンツを、人避けの結界破りに使うんじゃねーわよ!
御神体じゃねーわよ!
だいたいなんで何年も人様のパンツを大事に持ってんのよおお!!
恥ずか死ぬぅぅぅーーー!!!
明日18時に更新予定です。




