第30話 一流の田舎娘(モブ化)計画は盛大に失敗しました
「あー……デイジーの歌は最高だったわ。今思い出しても涙で前が見えなくなるもの。問題も全部解決したし、完璧な計画だわ! ところでなにか忘れてるような……?」
──────
建国祭の騒動から数日後。
私とデイジー、それにフランとでアフタヌーンティーを満喫していた。
「継母も捕まったし、デイジーの生家の問題も解決の目処が立ちそうだし、ホント良かったわ!」
ローベリアの父であるハロルドって人が手を回したりとか、フランがハロルドと親しい関係であり、事態収拾のために情報提供してたりと色々あったみたい。
「フランさん、私のためにたくさん協力してくれたと聞きました。本当にありがとうございました!」
「むぁー、そんな気にしなくていいよ」
事の始まりは、継母がデイジーの生家である帝国のエテルナリーフ伯爵家を乗っ取り、デイジーを虐待の末、邪魔になったからと辺境の森付近へ殺すために捨てたことであった。
彼女は伯爵夫人としての地位だけではなく、当主代行としての実質的な支配を盤石にするため、強引に帝国使節団へ入り込んだようだ。
しかし、まさか5年前に捨てて死んだはずのデイジーが王国で生きていることを目の当たりにして、衝動的に犯行に及んだ、と言うのが全貌のようだ。
うーん、とんでもない悪女である。
「いやー、それにしてもまさかデイジーが伯爵家の令嬢だったとはねえ」
「黙っていてごめんなさい、お姉ちゃん。家に戻されたら今度こそ殺されちゃうと思ったら怖くて言えなかったの……」
「良いのよ、そんなことは。あんたは私の可愛い妹。それだけで十分だわ。それにしても、デイジー。実家の問題は解決しそうだけど、ホントに帰らなくて良いの?」
「うん、私はもうお姉ちゃんの妹。ただのデイジーよ。お父様のことは心配だけど、まずは手紙でやり取りし、戻っても大丈夫だと分かってからでも遅くはないもの。できれば学校を卒業するまではここにいたいし、それに何よりお姉ちゃんといたいの」
「あーん、可愛い子ね! んじゃそれで行きましょう! 大丈夫、行き当たりばったりでも何とかなるわ!」
現に私がそうだしね!
補足しておくと、デイジーの父はずっと病床に臥せっていてデイジーのことを知らされてなかったようだ。
それにお家騒動だとか諸々大変なようで、今すぐ戻るのはマジでオススメできない模様。
これでデイジーの後顧の憂いは無くなったし、面倒事ともオサラバできた。さらに当分伯爵家に戻らないと来たもんだ。
これで一流の一般人田舎娘にまた一歩近づいたわ!
あー、優雅なティータイムが骨身に染みるーう!
勝ったなガハハ!
完全勝利よ!
後方腕組み姉妖精はご満悦である。
◆ ◆ ◆
センシティブなお話は終わったので、防音の魔法は解除。
バナ助が出してくれるお茶請けが美味しい。
デイジーとフランでステージのこととか雑談をしてると、アデルハイトがやってきた。
おしおし、あんたも雑談に加わりなさい。
って慌ててる?
「ガーベラ、デイジー! 見まして!?」
「ん? 何を??」
「むぁー、アデルハイトさん落ち着いて。ほら、お茶でも飲んでさ」
「あら、失礼しましたわ、フランシェスカさん。いただきますわ」
とりあえずあのアデルハイトが焦るくらいなので嫌な予感がしてやまない。
「んく、んく……ふぅ……。今朝発行されたこの大衆紙を見まして!? デイジーが歌の聖女として国中で大絶賛されていますわ!」
「え」
「…………はぁ!?」
ちょっ!!!
どどど、どういうこと!?!?
「アデルハイト、ちょっとそれを見せて!!?」
彼女が持ってきた大衆紙を受け取り目を通す。
なになに……
<崩壊する舞台、舞う剣舞! 伝説を超えた究極のミュージカルと新時代の歌の聖女誕生!>
み、見出しからして既に嫌な予感がバリバリ。
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皆は建国祭で、我らがクロスロード国立学校が出し物をすることをご存知だろうか。年に一度、貴族の学び舎が一般開放されるこの日、記者である私も毎年足を運んでいるが、今年は一味違った。
結論から言おう。もはや伝説となった35年前の舞台に勝るとも劣らない、いや、歴代最高のミュージカルでありライブであったと!
穏やかな歌唱で場を暖めてから一転、突如崩壊するステージ。すわ大事故かと思いきや、歌姫にも演奏者にもかすり傷一つない。息を呑む観衆の前で始まったのは、帝国による襲撃を、歌と踊り、そして剣舞で撃退するという前代未聞のドラマチックな舞台劇だったのだ。35年前と同じく「ネコミミ魔法少女」を登場させる先達へのリスペクトも、ファンの心を鷲掴みにした。
歌、演舞、そして劇を完全融合させたこの圧倒的ステージ。歌姫デイジーが歌に込めた想いは、壮絶な過去の実体験だという噂もある。過酷な運命の中でも真っ直ぐに育った彼女の奇跡の歌声は、人々に希望を与える。その姿はまさしく、新時代の「歌の聖女」と呼ぶに相応しい!
──────
「わわっ、恥ずかしい! お姉ちゃん、どうし……よう……??」
「……ガーベラ、どうかしまして?」
「むぁー、ガーベラがシューベルトスナギツネと同じ表情してる」
いや、確かにあのステージは控えめに言っても最高だった、と思う。
期せずして出演者側だったからどれくらい最高なのかは分からないけど、デイジーの歌が最高だったからそれ以外の評価なんてないし?
うーん、しかしおかしい。
どうしてこうなった。
私の計画では、デイジーの歌はそれなりのレベルで落ち着くはずだったのに……。
いや、原因は分かってるわ。
それもこれも、劇的な演出扱いにせざるを得なかった厚化粧おばさんのせい!
なぜベストを尽くしてしまったのか?
そんなん決まってる。ライブが失敗したらデイジーが可哀想じゃん。
後方腕組み妹育成姉妖精として、外的要因によるデイジーの失敗は認められるのか?
否!
断じて否よ!
半ば現実逃避しているところに、アデルハイトから追い打ちがかかる。
「ガーベラ、まだ続きがありましてよ」
さらに記事の続きにはこうあった。
その聖女を陰から導き、あの奇跡のステージ演出を指揮した謎の天才・敏腕プロデューサーがいるのは間違いない。そのプロデューサーは、どうやら彼女の義姉にして妖精であるらしい、と。
「建国祭以来、貴族だけでなく街の有権者たちから生徒会へプロデュース依頼や歌の聖女への面会依頼が山のように来ておりますの」
「……は?」
「そうです、師匠! さすがにもう我々だけでは抑えきれません!」
「一度表舞台に出て何かしら対応しなければ収拾がつかないところまで来てしまっている」
「ハインリヒ、それにローベリアまで!?」
攻略対象の二人が……いや、もはやデイジーファンクラブ会長と、妖精マニアとなったコイツらも、気付くと話に参加していた。
「ローベリア様ー! 校長からもなんとかしてくれって伝言が!」
なんかモブまで伝言にやってきた。相変わらずモブの鑑である。
「ご苦労、オーブ。さて、ガーベラ。前代未聞の事態を喜劇という形で収め、国際問題に波及させず解決してみせた敏腕プロデューサー殿。君には……まあ言わなくても分かるね?」
うぉい、ローベリアがニヤリといやらしい笑みを浮かべて来るんですけど!
なんかいつか見たことあるようなデジャヴのような!
「どうしてこうなったのよぉぉぉーーー!!!」
ううう……。
私の平穏なスローライフ、そしてデイジーの平穏な一般人エンドはいったいどこへ……。
私の絶望をよそに、ふと顔を上げてみる。
「────と言うわけで、今後はデイジーにも学校のイメージアップとして協力して欲しい」
「はい! もちろんです! お姉ちゃんもきっと力になってくれます!」
「デイジーとガーベラだけでは少々不安。わたくしがサポートして差し上げますわ」
「ありがとうございます! アデルハイト様が見ていてくださればとても心強いです!」
「妖精流の極意はあらゆるものに通じている。私も二人の活躍に力を貸そう。そうすることで、妖精流の真髄が皆に伝わるかもしれん」
「今後はファンクラブの会員が更に増えますよね。整理や精査、頑張ります!」
「グア、グアグァ(ほれ、行くならまだ出してないこれ持っていきな)」
デイジーは皆に囲まれて最高に幸せそうな笑顔を浮かべている。
「何だか一人でデイジーのためと色々頑張ってきたけど……デイジーが幸せなら、まあいっか!」
学校に通うようになってからまだ1年も経ってないのにドタバタ騒ぎの連続。APを注ごうがそうでなかろうが、いろんな事件(?)が起きてきた。
まだあと3年もあると思うと先が思いやられるけど……大丈夫かな。
行き当たりばったりでも何とかなってきたんだもの。
これからだってきっと何とかなるわ!
「お姉ちゃん、行こ!」
「しゃーない、行くわよ!!」
デイジーはまだまだ子ども。
保護者が必要よね。
私が一流の田舎娘にするのは……さすがにもうムリかもだけど、例えどんな事が起きたって、ちゃんと幸せにしてあげるんだから!
本作品はこれにていったん完結といたします。
ご愛読いただきありがとうございました!
反響が良ければ、もしかしたら後日談とか、閑話とか、そう言うのもあるかもしれません。
世界観やキャラクターシートも良いかもしれませんね。
今作は毎日更新、全30話、9万文字程度とラノベ1冊分弱というボリューム感です。
前作が結構な長編だったので、もっとコンパクトにスピード感を重視した展開にまとめようとしたり、色々と試してみたいと思ったことが始まりでした。
前作が2024/9/16が最終更新日。
今作は試行錯誤の末、何度かリライトを経たため、約2年弱の月日が経ちました。
何だかんだとよくもまあ公開せずちまちま進められたなあと思います。
エタらずに完結までできたのは、ひとえに皆様からの応援があったからに他なりません。
なお、劇中に出てきた「35年前のネコミミ魔法少女」って誰?
と思った方は、ぜひ前作【ネコミミ娘に転生したので楽しく気ままに生きたい】も読んでみてください。
9年も前に開始した作品のため、若干出だしが古臭く感じてしまうかもしれませんが、世界観は1作目の頃からガッツリ作り込んであったりします。
ありがとうございました!




