第27話 過剰防衛の巻き添えでステージ崩壊!?
「あー……見事なフラグをスルーした気がするけど、気のせいよね。私の平穏なスローライフはまだ終わってないはずよ……! 最高級おパンツも手に入れたし、もう何も怖くない!」
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いよいよ建国祭当日。
この日のためにデイジーは頑張ってきたわ。
森でも歌っていたけど、やっぱり素人の歌の域を出なかった。
でも、アデルハイトが自身の専属講師をデイジーに充てた。
さすが公爵家お抱えの歌の講師。
歌のことはよく分からない私でも、思わず「そーなのかー」と唸るほど。
腹式呼吸って意識しても中々できるもんじゃないのね。
ただ、講師やアデルハイトが意外と根性論だったり、デイジー自身も限界まで練習しようとしたりするため、ある程度こなしたところで私がストップをかけていた。
「なぜですか、ガーベラ殿! これほどの才能を伸ばさずにどうするのです! アデルハイト様もそう思いますよね!?」
「そうですわ。講師の言う通り、デイジーはもっと上を目指せますわ!」
「2人とも何言ってるの。前提条件を見失っちゃダメよ。喉が万全の状態を維持してこその技術向上じゃない。土台がダメージを受けていたら積み上げられたものが崩れるのが道理よ」
「お姉ちゃん、私は全然へっちゃらよ? もっと練習したいわ」
「休むことも立派なトレーニングよ。その分振付と歌が合うようイメージトレーニングでもしてなさい」
後方腕組みプロデューサー系姉妖精として、デイジーのパフォーマンス維持は重要な仕事。無理して喉や体を壊しちゃ元も子もないわよ。と散々言いまくって止めたけど、それは建て前。実際はデイジーの成長率をコントロールしてるのよね。
そのおかげか分からないけど、デイジーは喉を痛めることなく常に体調も万全。心なしか体力も森で生活をしていた頃より上がっていったように思う。
その上で集中して練習をし、課題が出たら次の練習までイメージトレーニングして対応。
その結果、デイジーは実力をメキメキと伸ばした。
な、なんかただでさえ上手だった歌がさらに上手くなったような気がするけど……APを注いでないのになんでぇ??
まあ本番は実力の半分くらいって言うし、失敗しなくともちょっと上手だねってレベルの田舎娘っぽく無難な終わり方になり、誰の目にも留まらなくなるはずよね。
うん、きっとそうだわ。
若干現実逃避な気がしなくもないけど。
◆ ◆ ◆
私はステージ衣装に着替えたデイジーの後ろに回り、髪型をセットしていく。
金色の長髪を編み込み、ハーフアップにしてバレッタで留める。
背中側の毛先はふわっとなるよう少しはねるようにする。
ピンクになった前髪の一房を強調しつつ、清楚かつ元気な印象になるようちょっとカールさせる。
「うん、これで完成。可愛いわ」
このバレッタは【月の明かり】で作ってもらった私の羽を模したもので、どんなに動いても髪型が崩れない魔道具でもあるのよ。
デイジーは歌だけでなくダンスもこなすので、前髪が汗でぐちゃぐちゃになって張り付いたりするんだけど、このバレッタが完成以降はそんな問題とはオサラバ。ステージ関係なく超実用的でもあるのよね。
「デイジー、緊張してる?」
「……うん。ちゃんとできるか、ちょっと怖いわ」
「大丈夫よ。ミスっても堂々としていれば、観客はそういう歌詞とかダンスだって勘違いしてくれるもの。なんならトラブルが起きたって演出にしちゃえば勝手に盛り上がってくれるわ。大事なのは、デイジーが楽しめるかってことよ」
「ありがとう、お姉ちゃん。うん、そうだよね! 楽しんでくるね!」
そう、ミスっても堂々としてれば良いのよ。
観客に完成度が微妙って思われれば好都合だし、デイジーも傷つかない。
完璧な計算ね!
「ほら、いってらっしゃい」
「うん、行ってくるね!」
控室から出てステージに向かうデイジーを見送る。
ノーAPかつ練習量を減らす調整でデイジーの成長率を抑えたし、やることはやったわ。
「さーて、もうやることはやったし、あとは舞台裏の特等席から見なきゃね」
特等席に移動してみると、デイジーはステージに上がり、観客たちに向かって挨拶をし始めた。
「……ん?」
ふと裏から物音が聞こえてきたので振り返ると、なんかコソコソしながら二人組がスタッフ入口から入ってきた。
誰よこのオッサンたちは。
見かけないけど、学校の関係者かしら?
「おい、なぜ栄えある帝国民の我々がこんなことをしなければならんのだ……」
「俺だってそう思うが……誰にも気づかれる前にやるぞ」
「あいよ」
なにやら唐突にきな臭くなってきたご様子。
舞台裏の上から眺めようとしてたから気づかれなくて良かった。
「ちょっと、警備員は一体何やってんのよ。しょーがないわね。仕方ない。なんか企んでそうだしさっさと捕まえて……いや、ダメだわ。まだ何もやってないのに捕まえても証拠がなくて無罪放免どころか逆に私が捕まる!」
政治的にゴニョゴニョされたら負け確定!
いくら私が行き当たりばったりでも、これくらいは分かるわよ!
ステージでは演奏が始まり、デイジーが歌い出す。
「あわわ、始まっちゃったじゃない! さっさと悪事の証拠を掴まなきゃ! これは妖精である私の得意分野ね!」
悪事の証拠を掴むとなれば、相手に気づかれないことが重要。
相手に気づかれない、つまり、ステルスミッション。
そしてステルスミッションはお手の物!
相手に気づかれないようイタズラするのは、種族として必須技能だもの。
妖精だから小さいし、移動はふわふわ浮いてるから無音。それにいざとなったら魔法で誤魔化せる。何だったら箱に入ってやり過ごすこともできるわ!
問題はおしゃべりやイタズラを我慢しなくちゃいけないってところね。
と言うわけで、ミッション開始!
おら、早く情報を漏らせ!
証拠を出せ!
「なあ、俺達、いったい何やってんだろうな……」
「言うな。あの厚化粧に弱み握られてるからだろ」
「そうだが……まあ金払いは悪くないか」
早速情報をお漏らしするとはやるわね。
それに……ほうほう、あの厚化粧おばさんが指示役と。
これはなかなかどうしてスキャンダルじゃないの。
お、なんか設置し始めてるわね。
証拠品もしっかり出しちゃって。
さーて、んじゃサクッと気絶させて証拠回収して、警備員呼んでタイーホよ!
「しかし、あの小娘を事故に見せかけて始末しろ、だなんてな」
「ああ、それに巻き添え食うやつには申し訳ないが、まあ運命と思って諦めてもらおう」
鼓動が跳ね上がる。
いったい彼らは何を言ってるのかしら?
え、まさか。
ちょっと始末って何のことよ。
あまりのことに動揺していると、彼らはいつの間にか工作を終えていた。
「よし、後はこの巨大セットや照明を一気に倒せばいいな」
「おう。その後は混乱に乗じて脱出するぞ」
「了解」
はっ!
呆けてる場合じゃないわ!
って、ああー!
おっさんがナイフでロープを切ってるー!!
バキッ!!
グググ……メシメシ……!!!
ブチブチッ!!
木造の建造物が折れ、嫌な鈍い音が辺りに響き渡る。
それだけじゃない。
照明の魔道具を吊るすロープが支えを失い、1本、また1本と切れる。
「だ、ダメっ! 逃げて!」
ついには大きな木造のステージセットだけじゃなく、重たい照明もデイジーに降り注ぐ。
デイジーは歌やダンスに集中しており私の声に気付かない。
アデルハイトやオーブを初めとした演奏者たちも気付かない。
「私の可愛いデイジーに、何すんのよぉぉおおおーーー!!!」
私は即座にデイジーたちをドーム型の防御魔法で覆い、そして迎撃すべく風の衝撃波を放つ魔法を倒れてくるセットや落下してくる照明に向けてブッパした。
それらは魔法により破壊され、残骸も誰もいないステージの隅まで吹き飛び、支柱にぶつかる。
ふぅ、危ない危ない。
無事に迎撃できたわね。
破片とか残骸が観客側に行ったら大変だし、計画通りね!
メシメシメシメシ……!!!
バキィッッッッ!!!!
「あ」
支柱が、折れる。
「ちょっ」
折れた支柱が、残りのセットに直撃する。
「嘘でしょ!?」
セットは壊れかけてたため、別の支柱を巻き込んで倒れて……ついにはドミノ倒しのように装飾や骨組みまで含めて次々と崩落していった。
「なんでぇぇえええーーーー!!??」
立ち上るホコリで見えづらいけど、不届き者の二人が倒れ伏している。
こいつらは自業自得でもあるので別にいい。結局逃げ切れずに伸びてるので手間が省けたわ。
「や、やっちまったわ……。デイジーのステージが台無しに……! これ以上目立たないだろうけど、嫌な意味で既に目立っちゃったわ。どどど、どうしよう!?」
あとに残るのは、私の魔法により無傷のデイジーたち、そして固唾を呑んで見守る観客たちだった。




