第26話 忍び寄る帝国の影
「あー……なんでパンツ一枚のために多額の借金背負ってんのよ私。まあでも、これで出かける際は快適に過ごせるようになったわ! 部屋では履くか分かんないけど」
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建国感謝祭がいよいよ迫り、学校全体がお祭り騒ぎ。
デイジーはローベリアを始めとした親衛隊に囲まれながら、楽しそうに準備を進めている。
親衛隊って言うと仰々しいし、それなんてどうよって思うわよね。でも、そうとしか言いようのない感じなのよ。
デイジーのファンクラブが正式に設立され、ローベリアが会員証を発行した結果、お近づきになりたいファンが集まり、親衛隊のようになってるって感じだけど。
そのファンクラブなんだけど、サンプルであるNo.0のマークは御神体とかぬかして私の試作パンツが入っていた。そのまま採用したら毛根を死滅させる魔法をプレゼントするところだったけど……まあ約束通りちゃんと修正版にしたから見逃してあげたわ。
正式版は、世界樹を彷彿とさせる樹に、デフォルメされた妖精の羽をあしらったマークなので問題無し!
ファンクラブの会員は男子だけではなく、女子もかなりの数がいるっぽい。
それもそのはず。
「剣と盾の使い方が難しく、授業についていけなくて……デイジーさん、私はどうしたら良いでしょうか……」
「剣と盾の両方を使いこなすことって難しいですよね。それならいっそのこと武器は短槍のみに絞ってはどうでしょうか? 剣が槍に勝つには3倍の技量が必要だってお姉ちゃんが言ってました。それに近づけさせないよう守りを主体にすれば良いんです。消極的かもしれませんが、勝つよりも負けないことの方が重要だと思います」
と、武術の授業の相談に乗ったり、
「デイジーさん。先ほどの算術の授業ですが、負の数値が何なのかイメージがつかなくて……ゼロは何もない、と言うことは分かるのですがマイナスの数と言われても、無いものからさらに減るとはどういうことでしょう?」
「物の数を基準に考えるよりも、場所を基準に考えると良いかもしれません。例えば、今立っている場所をゼロとすると、1歩踏み出した場所がプラス1、1歩下がった場所がマイナス1というイメージです」
と、算術の相談に乗ったりする一方、
「アデルハイト様、先ほどのマナーの授業について教えていただけませんか? なぜ、食事では極力音を立てないようにする必要があるのでしょうか。皆で楽しく食べたり話したりした方が仲良くなれると思うのですが……」
「静かに味を楽しみたい人だっているでしょう? そういった人たちが不快に感じないようにするのですわ。それに、食事を上品に見せたり、食べこぼしを防ぐなど、合理的な理由もございますわ。そもそも、品というのは相手への配慮やリスペクトを含むものだとわたくしは思いますわ」
と、マナーだけではなく、歴史や芸術方面など、森では習得できなかったことを教えてもらっている。
そんな感じで、女子たちと良い関係を築けている。アデルハイトを始めとしたクラスの中心人物は既にデイジーの味方になっていた。
普通、男子に人気があったりすると顰蹙を買うと思うんだけど、それよりも誰に対しても裏表無く接してるし、男子には単なる友だちみたいな感じで、少しも色恋を感じず、距離が全く縮まらないのが良いのかもしれない。
デイジー、恐ろしい子……ッ!
◆ ◆ ◆
そんなお祭り騒ぎの中、帝国の使節団が王都に到着するという話が上がった。
使節団なんて関係ないかと思いきや、残念ながらそんなことはなかった。
ライブステージの場所取りをローベリアに任せていたんだけど、その場所はなんと野外。しかも学校の敷地外に比較的近いところにある。それに加えて、敷地の外の道は、帝国大使館への通り道だったりする。
「これから我が帝国の使節団がここを通る! 学校の敷地内と言えども通りには近づくな! それに近くに置いてあるガラクタをどけろ! わざわざ言いに来てやったんだ。これ以上手を煩わせるなよ!」
言い分は分かる。
分かるけど……。
「なんだあいつら! 言われなくても分かってるっての!」
「一生懸命準備してるのに、ガラクタなんてひどい!」
「……ローベリア、斬っていいか?」
「……いや、後ほど大使館を通じて抗議する。皆の者、作業を中断し、通りから離れるのだ」
そういった理由で、今日このとき、使節団が通り過ぎるまで作業は一時中断することに。
あいつら、相変わらず態度デカいわね!
こんな建国祭直前に来んな!
面倒くさい!
空気読め!
なーんて思いながら準備中のステージの上から使節団の集団を眺める。
私は帝国でやらかし、逃げてきた身であるため、要注意人物がいないか確認しなきゃだし。
「デイジー、悪いけど後ろに隠れさせてちょうだい」
「分かったわ。お姉ちゃんがコソコソするなんて珍しいね」
「面倒くさいやつに見つかったら大変なのよ」
例えばカツラを飛ばしたハゲ貴族が来たりとか。
コソコソと文字通りデイジーの背中に隠れながら煌びやかな使節団を見てると、どこか見覚えのある顔が。
「あのおばさん、どっかで見たことありそうなんだけど……誰だっけな」
「お姉ちゃん、知り合いでもいたの?」
「いや、なんでもないわ」
うーん、あの厚化粧の顔、妙な既視感があるのよね。背筋がゾワッとするような、生理的な嫌悪感が……。
なんだっけ、前世の乙女ゲーで見たような……そう、デイジーを虐めてた継母の立ち絵になんか似てる……?
……いやいや、ゲームじゃ悪役グラフィックの使いまわしだったけど、現実の人間が似てるなんてただの偶然よ。似てたとしたら、何人同じ顔がいるんだって話だし。
第一、確か帝国の片隅にいるはずの小悪党が、帝国使節団の豪華な馬車に乗ってるわけないじゃない。私の考えすぎかしらね。
うーん、分からないことを考えても仕方ない。
というかこれ以上考えるのはやめよう。
思い込みは良くないってこの前学んだばっかだし。
「ま、とりあえず変に目をつけられても面倒くさいし、ステージから降りましょ」
「そだね」
デイジーが仮設ステージから降りる時に何となく振り返ってみると、なんか厚化粧おばさんがこっち見ていて驚いたような顔をしてた。
見てたのは、デイジー?
それとも私?
うーん、自分で言うのも何だけど、妖精ってば人間の生活圏であんまり見るもんじゃないし、見られてたのは私かも。
うへー、やだやだ。ああいう目ってろくなこと無いし、近寄らんとこ。まあそもそもとして、使節団と関わることは無いけど。
「……気のせいよね。うん、気のせい気のせい!」
それでも、あの驚きの後、一瞬、睨みつけ、怪しく目を細めてたような……ただならぬ感情が滲み出たような表情はいったい何だったのかしら。
背筋を撫でた嫌な悪寒を、私は全力で無視することにした。




