第23話 建国感謝祭の準備と「ノーAP」宣言
「あー……あんな誰かを守りながら戦うなんて私の柄じゃないわ。ようやく平和になった今、建国祭でドッキリ系の催しをする。これこそが私にピッタリな役割ね!」
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薬草の森の事件からはや数ヶ月。
今やすっかり秋模様。
森の奥に生息してるような強力な魔物が立て続けに現れた理由は、魔除けの結界石ではなく、魔物を呼び寄せる石が設置されたことが原因だったのよね。
薬草の森はローゼンベルク公爵家の領地の一部であり、その森で異変が起きつつある、という情報がアデルハイトの下に入ってきていた。
普段であれば正しい情報が伝わるはずが、偶然が重なったことと、何者かの陰謀により、結果として責任感が強いアデルハイトの心の隙を突かれた形になったってわけ。
そのような背景もあり、アデルハイトにお咎めは無し。
いやー、良かった良かった。
本人はめちゃ気にしてたけど、そんなん騙すやつが悪い。なぜなら私たちに被害が出るところだったから!
私は妖精だけど、人の心が分かる妖精よ!
え、妖精は騙さないのかって?
妖精はノーカンで……。
そんなわけで、アデルハイトがあんまりにもしょんぼりしてるので、
「犯人を見つけたら、あんたの分までそれはもう素敵なイタズラをしてから引き渡してあげるわ! え? なんでそこまでしてくれるのかって? そんなんあんたが友達だからに決まってんじゃん。何言ってんのよ。とにかく、やられたらやり返す。倍返しよ! 人間社会のルールなんて妖精の私には関係ないわ!」
って勢いに任せて励ましてたら、「友達……」って言いながら涙まで流して凄く喜んでくれた。
どこが琴線に触れたのか良く分からんけど、まあ元気になってよかったわ!
ふふん、私にかかればメンタルケアもバッチリよ!
後方腕組み友だちを大事にする系妖精はご満悦である。
ま、結果的に何とかなったとはいえ、私の可愛い妹のデイジーだけじゃなく、友達のアデルハイトまで命の危機に晒したんだから……黒幕への報いに相応しいイタズラ……しっかり考えとかなきゃね。
◆ ◆ ◆
そんなこんながあったけど、今は学校の教室。
「さて、いよいよ建国感謝祭、通称、建国祭の時期だね。知ってる人もいるかと思うけど、1年生であっても、建国祭の出し物は生徒諸君らが決めるというのが恒例行事だ。ローベリアくん、司会進行や取りまとめをよろしくね」
ヒューゴ先生から建国祭が近いことを告げられ、先生からローベリアにバトンタッチ。
「それでは我らが組の出し物を決めようと思う。各々候補を挙げて欲しい」
とりあえずイタズラ好きの私としては、ドッキリ系の催しを挙げといた。
合法的にイタズラできるとなればテンションだって上がるってものよ!
カンペキな候補!
その他、メイド喫茶、執事喫茶、魔術演舞、各領地おすすめガイドの作成と紹介、妖精と過ごす森でのサバイバル疑似体験、妖精流殺法の考察と実演などなど、候補が出てきた。
「それでは、俺からの候補は……ずばり、デイジーのライブだ! 彼女を輝かせたくはないか!?」
何言ってんだローベリア。
一瞬、クラスが静まり返る。
ほら〜、みんな呆れてるじゃないのよ。
と思った直後、クラスが割れるような喧騒に包まれた。
「それだ!」
「素敵なアイデアね!」
「さすが殿下!」
「彼女を推すならこれしかないわ!」
「異議なし!」
「賛成よ!」
「あなた達、少しは落ち着きなさい!」
はあ!?
ちょっとなんでそんなに盛り上がってんの!?
「みんな、アデルハイトの言う通り落ち着け。みんなの気持ちは分かった。だが、俺の提案を強制するつもりはない。そこで公平性を期すためにも無記名投票をしよう」
そうそう!
それで良いのよ!
ローベリア、あんたちゃんと分かってんじゃない!
いやー、残念。
どれも私の候補を上回るインパクトは無いもの。
残念だわー。
もう私の候補しか選択肢は無いわね!
そんな自信満々な私をよそに開票した結果、支持率90%以上でデイジーのライブに決まってしまった。
何でよ!!
クラスメイトは大盛り上がり。
オーブも大喜び。
「どうだろう、デイジー。クラス一同、君の歌声を望んでいる。ぜひ引き受けてはくれまいか」
「はい、みんなのためなら、私、頑張ります!」
あー、デイジーは優しいし、ここまで外堀埋まっちゃったら引き受けちゃうわよね。
◆ ◆ ◆
次の授業に向かう途中、廊下を歩きながら、っていうか飛びながら独りごちる。
うーん、それにしてもどうしよう。
デイジーの平和な一般人エンドがどんどん遠のくわ……。
いや、遠のくどころか消滅しかかってる。
絶望しか無い。
だがしかし!
諦めたらそこで試合終了よ!
ここで逆転の一手を考えなきゃ!
うーん、なにかいい案が……
\ぴかーん/
閃いたわ!
逆に考えるのよ。
ライブで注目されるのは、避けられない。
だったら、
「可もなく不可もなく、下手じゃないけど、悪くないけど、まあ頑張ったんじゃない?」
って評価に落ち着けばいいと。
まず、大失敗は論外。
デイジーがかわいそうだし、逆に悪い意味で印象に残っちゃう。
そんなわけで、今回目指すゴールは学生レベルの範疇。それなら、数ある催しのなかの一つとして埋もれちゃうんじゃないかしら。
事実、デイジーは歌が上手いって言っても、誰もが振り返るようなカリスマがあるような上手さじゃないし、本番は実力の半分出れば良いって言うくらいじゃない。
狙い通りのレベル感に落ち着くでしょ。
そうすればデイジーがやっぱりフツーだよねって評価に落ち着くし、高すぎる期待値に到達しなければ、その落差で周囲の熱狂も冷めるはず。
つまり、最終的にはちょっと不器用で地味な普通の田舎娘な一般人って評価に行き着く……!
「いやー、やっぱり私ってば天才ね!」
そしていつもならここで満足し、油断してた。
「でも、私に死角はないわ! 今まではそこそこのラインを見極めてAP注いで失敗したけど、今回は何もしなくても最初からゴールを目指せるポテンシャルが超高い!」
なら話は簡単ね!
「つまり、ノーAPでいけば良いだけ!」
でもまだまだ!
今回のガーベラ様は一味違う!
「デイジーの体調管理って名目で、練習をさせすぎないよう私がコントロールすれば、予想外の展開も減る!」
ここまですれば、行き当たりばったりだとしても楽勝!
勝敗は戦う前から決まってるのよ!(キリッ)
私はキメ顔でそう言った。
勝ったなガハハ!
◆ ◆ ◆
さて、後方腕組みプロデューサー系姉妖精である私ことガーベラは、放課後の作業準備においても固い意志でノーAPを貫いていた。
ローベリアが気遣うように声をかける。
「デイジー、君がこれを手伝う必要は無い。休んでいてくれ」
「大丈夫です! 作詞作曲ができるまでまだ時間があります。本番で長時間歌うために体力つけないといけないので、むしろやらせてください!」
森で鍛えてきたデイジーにとって力仕事は大したことはない。
でも、森で育ってきたからこそ、汚れについてはあんまり気にしない。畑や花壇で土いじりとか、狩りとか、なんならバナ助とじゃれたりで汚れるなんて当たり前だし。
だから荷物を運んだり色々と動けば当たり前のように汚れる。
今も制服だけじゃなく、顔にだって汚れが付いてるし。
また、力仕事は問題なくても意外とデイジーはおっちょこちょい、と言うか細かいことを気にしないので、荷物の一部がポロポロこぼれ落ちる。
カンペキ……カンペキよッ!
デイジーはサボるわけでもなくフツーにしてるだけで、汚れまくるし、荷物だってポロリしまくって雑だし、「ザ・田舎娘」って感じで清楚なイメージじゃなくなるでしょ。
これでモブ化完了!
さあ、幻滅しなさい!
ニヤリとほくそ笑んでいると、早速デイジーのレビューが聞こえてきた。
「汚れるのも厭わずに率先して皆のためにと仕事をこなしているあの姿、素晴らしい。健気だ」
「ああ、しかも必要な鍛錬と称して自然に引き受けている。妖精流は、日々の積み重ねだと言うことが如実に現れている」
ローベリアやハインリヒは相変わらず謎のフィルターによる高評価。
いやいや、そんなじゃ無いよね!?
「僕でも重たいと思う荷物を顔色一つ変えずに運べるなんて……尊い……トゥンク……」
おい!
なにときめいてるのよオーブ!
「文武両道でなんでも卒無くできるのに、何度も落としたりと……デイジーも完璧ではなく、ちょっぴりドジな普通の女の子ですのね。でも、そういうのも嫌いではありませんわ」
「デイジー、重たい荷物、代わってくれてありがとね! 落ちたのは私が拾うから気にしないで!」
アデルハイトは呆れつつも微笑ましく見守っている。
それに落とした荷物は他の女子たちが拾って一緒に持っていったりしてる。
いやいやいや、どうなってんの?
王侯貴族って汚れを気にしないの??
物をポロポロ落とすような運び方が、なんで好意的に変換されてるの???
どうしてこうなったぁぁぁ!




