第22話 歌姫の魔法が解けた時、妖精は平穏なスローライフ(幻)を確信する
「あー……やっぱり行き当たりばったりは完璧ね! もう何も怖くない!」
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「ふえぇ……」
AP切れのペナルティにより、へたり込むデイジー。
同時に、歌によるバフが切れて学生チームの勢いも減衰。
「ぐ、ま、負けるかぁーー! アデルハイト! デイジーはどうしたのだ!?」
「わ、分かりません! 魔力が尽きたような症状ですわ! デイジー、大丈夫ですの!?」
「大丈夫よぉ……」
突き上げを気合で弾いて耐えるローベリアに、焦るアデルハイト。
そしてその視線の先にはへたり込むも、何とか返事をするデイジー。
フルパワーで注ぎ続けたAP切れによるペナルティは、疲労によって立ったまま寝たり、そうでなくとも寝ぼけるかのような状態になるのよね。
でも今回は違う。
なんてったって、AP切れは何度もやっちゃったので、その対策にとデイジーから溢れた加護入り魔力を使い、彼女の疲労軽減を図ったわけよ。
普通、自分以外の魔力は扱えないんだけど、私の加護由来なので何とかなった。まあ殆どは大気中に霧散しちゃったけど。
って、勢い余って解説しちゃったけど、学生チームがヤバい!
私が相手してる鹿、コイツはもう満身創痍であと一息ってところだけど時間がないのでショートカットよ!
「もうあんたに構ってる時間は無いわ! お星さまになる魔法!」
鹿が元気だったら躱されてたり、打ち消されたりしたろうけど、効いて良かったわ!
バナ助の方は……よしよし、どうやら鹿をジビエ食材にしてるみたい。
それにしても、バナ助ってあんな強かったのね……。
まあいいわ。
私も学生チームの応援に入れば、あとはチョチョイのちょいよ!
「ローベリア、ハインリヒ、私が足止めしたげるから、さっさとやっつけちゃいなさい!」
デイジーのバフがなくなったことで牽制が足りなくなり、突進の構えを見せる鹿。
でもその踏み出した瞬間を狙い、おら、|草で足を引っ掛ける魔法《草結び》!
急に足を取られて隙を生じる鹿。
その隙を逃さず、二人の剣が閃く。
「ギピィィィーーー!!」
怪音波の角鹿は、無事、食材になった模様。
ひゅんひゅん。
あ、あぶねー、後ちょっと遅かったら、二人がやられていたわね。
「って、ひゅんひゅんって何の音あだあぁぁーーーー!!!!?!?」
ごちんと頭に走る衝撃!
「し、師匠! なぜ、埋まっているのですか!?」
「ガーベラ、残心が足らないぞ」
「う、うっさ〜い、敵の最後の反撃があるかもしれないから、備えてたのよ〜」
眼の前に星が回る〜。
「そうか、我らがやるべきことを師匠が体を張ってでもこなした結果だったのですね! 飛んできた角にぶつかったとしても、即座に致命傷を避け、愉快な形で地面に埋まることで衝撃を逃す……お見逸れしました!」
「解説ありがと〜」
ようやくお星さまはどっか行った。
もぞもぞと地面から這い出てヒラヒラと飛ぶ私。
その視界の先には、先ほどまで戦場を魅了していた完璧な歌姫の面影は消え、息を切らし、力なくへたり込んだただの無力な少女の姿があった。
「デイジー、よく頑張ったわね」
「うん、頑張ったよぉ、お姉ちゃん……」
疲労は激しそうだけど、何とか意識は保ててる。
帰ったらもっと思いっきり労ってあげなきゃね。
それにしても、デイジーは本気でギリギリまで頑張ったけど、結果的にあと一歩、まだまだな感じになったし、これでアイドルフラグも折れたでしょ!
ローベリアもハインリヒも、それにオーブだってきっとガッカリして幻想を抱かなくなるんじゃないかしら?
これで私もデイジーも平穏に暮らせることは間違いなし!
行き当たりばったりだけど完璧ね!
後方腕組み姉妖精は内心ガッツポーズしてご満悦である。
◆ ◆ ◆
さて、厄介な鹿を倒したし、一通り落ち着いたわね。
それにしても、この今にも泣きそうなアデルハイトはどうしようかしらね……。
皆の安全のためにとやったことが、自ら魔物を呼び寄せてしまったことで、絶望と罪悪感で押しつぶされようとしてる。
「アデルハイト……」
さっき、冷たい態度を取っちゃったし、どう声をかけたら良いのかしら……。
え?
なに?
私が気まずくて声をかけづらいなんてタマじゃない?
失礼ね。
私だってちょっとくらい空気を読むわよ!
なんて脳内独り相撲してると、立ち上がる力も残ってないデイジーが、土にまみれながらも不格好にアデルハイトに這って近づく。
「アデルハイト様……」
その言葉にハッとして顔を上げるアデルハイト。
「もう、大丈夫よ。みんな、大丈夫」
「デイジー……」
アデルハイトの下にたどり着いたデイジーは、そっと彼女の手を取り、にっこりと微笑む。
「頑張ったね。とっても、とっても、頑張ったね」
「わたくしは……わたくしは……!」
デイジーは優しく、アデルハイトを抱きしめ、
「私たちはもう大丈夫だから」
そっと頭を撫でる。
「アデルハイト様は、アデルハイト様のために泣いてもいいんだよ」
「わたくし、は…………」
アデルハイトはデイジーに縋り付き、目尻からとめどなく雫が溢れる。
APによる加護もなく、今にも倒れそうなデイジーは、アデルハイトを包容し、優しく頭を撫で、口ずさむ。
「ラララ ラララ ラララララララ」
彼女を許し、慰めるような歌。
デイジー自身の底抜けの優しさと、誰か一人でも笑顔にしたいという純粋な祈り。
限界ギリギリだからこそ現れる、傷ついた人の心に希望の灯りをともすようなデイジーとしての本質。
そんな光景に、オーブだけでなく、ハインリヒやローベリアもまた、心を打たれているようだ。
「俺達は、いったい彼女の何を見ていたんだろうか……!」
「これが、妖精流の姉弟子である、彼女の心の光……!」
「自分だって傷つき疲弊しているのに、他者を癒やそうとするなんて、なんと気高く、そして放っておけない存在なんだ!」
……なんか男子は3人とも息を呑んで見つめてる。
デイジーの歌が終わる頃には、アデルハイトは泣き疲れて眠ってしまった。
そこで男子たちはようやく我に返り、壊れ物を扱うかのように慌ててデイジーとアデルハイトの保護に走る。
あーあ、みんなしてあんなボロボロの泥んこになっちゃって。
きっと手のかかる妹みたいな子って認識に落ち着くわね。
これでデイジーのヒロインルートは完全消滅!
枕を高くして眠れるわ!
って言えたらどれだけ良かったかしら。
アイドルフラグがバッキバキに折れたと思ったんだけど、ここに来て新たなフラグが立ったような……。
い、いや、きっと気のせいよ!
諦めたら、そこで試合終了だもの!
なんか3人とも悟りを開いたかのような、推し活してるかのような、とにかくキラキラした目をしてるけど、きっと気のせいよね!
うん、きっと!
めいびー!
私も目尻からとめどなく雫が溢れる。




