第20話 怪音波の角鹿と、崩れ去る鉄壁の防波堤
「あー……。野外演習はほどほどにして終えるはずが、何でこんなことに。私の平穏なモブ計画、完全に詰んだわ!」
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だんだんと耳障りな高音が近づいてくる。
しかしそれ以外は至って静か。
それもただ静かなわけじゃない。
鳥の鳴き声も聞こえないほど静かなのよ。
うーん、この違和感と威圧感、めっちゃ覚えがあるわ。
デイジーは可聴域を超えた高音を聞き取れないみたいだけど、森の不自然さやこの威圧感で気付いた感じだ。
でも、他の三人は気付いている様子はない。
私とデイジーだけならいかようにもなるけど、今はお荷物抱えてるからムリは禁物。
「みんな、強敵が来るわ。撤退準備なさい」
私の警告により、三者三様の反応が返る。
「師匠、強敵とは……?」
「え? ど、どういうこと!?」
「…………」
すぐに臨戦態勢に入るハインリヒ、何だかわからず慌てふためくオーブ。
ここまでは良い。
でも、アデルハイトは険しい顔つきのまま。
「アデルハイト、あんた何か知ってるわね?」
「わ、わたくしは……」
珍しくしどろもどろして答えに窮してる。
これだけでもう答えは出たようなものね。
思えば採取の時に僅かだけどお花摘みと称して単独行動してたり、今日一日、若干挙動不審だったりと怪しさ満点だったし。
「ま、今はいいわ。あんたが敵か味方か知らないけど、とっとと撤退するわよ」
「ガ、ガーベラ……!」
はぁ~……、残念よ、アデルハイト。
あんたは戦友だと思ってたけど、どうやら私の見込み違いだったようね。
ただまあ、妖精の私に危害を加えようとしたってんなら、相応の報復をプレゼントしてやろうと思ったけど、どうやら私が目的じゃなさそうな雰囲気だし、まあそこについては大目に見てあげるわ。
でも、万が一、デイジーに何かあったら、私は自分でもどうするか分からないけど。
「って、ヤバ! もうすぐそこまで来てる!」
考え事は後々!
サッ、サッ、サッ、サッ……
僅かだけど草を踏む足音も聞こえてきた。
ハインリヒもついに接敵と気付いたようで抜剣する。
「オーブ、アデルハイト嬢を連れて下がれ! 師匠、強敵とのことですが、まずは私にお任せください!」
「ちょっ!? あんた何やってんの!? そんな場合じゃ――」
森の深くからヌッと巨大な角を持った鹿が現れる。
アデルハイトとオーブが短い悲鳴を上げる。
「げげー、やっぱり怪音波の角鹿! デイジー、防御優先!」
「了解、お姉ちゃん!」
「この程度の鹿、妖精流の極意の一端に触れた私の敵ではない! ではゆくぞ!」
ゆくぞ!
じゃねーわよ!
低姿勢からダッシュで近づいてくけど、無対策で突っ込んだら……!
「ギピィィィーーーーー!!」
ですよねーー!?
『幻惑の雄叫び』!
雄叫びによる大音量と、角から出て鼓膜を劈く怪音波の合わせ技による、こいつの初見殺し!!
「う、ぐぉ!? な、何が……? 目が回……」
私とデイジーは風の盾を出す魔法で防御したから、ちょっと耳がキーンとするくらいで済んでるけど、ハインリヒは至近距離で食らったせいでヘロヘロになって倒れ込む。
あ、お尻上げる格好になっててちょっとダサい。
「あー、もうおバカ! だから撤退しろって言ったのよ! こいつ相手に脳筋戦法は通じないんだから!」
アデルハイトは膝をつき、オーブに至ってはパニックになってる。
やだ、モブのプロは混乱の状態異常にかかってるじゃない!
『幻惑の雄叫び』はデバフ振りまくのよ!
さーて、一人はスタン(大)、一人はスタン(小)、一人は混乱。
うん、見事に戦線崩壊!
怪音波の角鹿はかなり強い。
デイジーは防御が間に合ったので無事だけど、それでも正面からではかなり荷が重い魔物なのよね。
それに私だって事故が怖いから正面から戦いたい相手じゃない。
どうしようかしらね!
「ブルルルル……!!」
ここに来て、突進の構え!
まずいわ、このままだとお尻を上げてスタン(大)してるハインリヒが轢かれるか突き上げられて「アッー!」っとhageる!
突然前世の謎知識が思い浮かんだけど、自分でも何言ってるのか分からないけど、とにかく危険がアブナイわ!
「しゃーない! デイジー、合わせて!」
「任せて!」
まずはハインリヒを救出しなきゃ!
「バランスを崩す魔法!」
「|岩を連続でぶつける魔法!」
「ギィッ!」
突進してくる鹿の足元に穴を作り、体勢を崩したところにデイジーのロックブラストを連続でぶつけて勢いを削ぐと同時に進行方向を変える。
すかさずマジックハンドの魔法で強引にハインリヒを回収し、後ろにいるオーブに向かって投げる。
ぐぇっとカエルが潰れたようなオーブの声が聞こえたけど、気にしてる余裕は無い。
森で強力な火や電気系の魔法はご法度なので、私もデイジーも土や風の魔法をメインで応戦する。
「よし、方向転換する前に反撃よ! 風の刃を飛ばす魔法!」
よし、これで機動力を削げればあとはどうとでも――
「ピィィーー!!」
突然現れたもう一体の怪音波の角鹿が、風の刃を飛ばす魔法を、突き上げで相殺してきた。
「ちょっと!? もう一体とか聞いてないんですけど!?」
仕方ない。
デイジーにAPを注いで一匹抑えてもらえれば、あとは私がなんとか――
「きゃああぁぁぁ!」
アデルハイトの悲鳴が響き渡る。
ま、まさか……。
振り返るともう一匹が草むらからこんにちは。
「うそでしょーー!?」
お前、でかい図体で草むらからはおかしいでしょ!
いや、そんなこと気にしてる場合じゃなくて、辺境の森の奥深くでも同時に3匹は無いのに、アリエンティ!
うーん、どうしようかしらね……。
「そ、そんな……。わたくしは言われたとおりに魔除けの結界石を置いたのに! なぜこんなに強大な魔物が次々と!」
あ、あーー……。
なるほど、分かっちゃった。
あのドリル令嬢、騙されて魔物を呼び寄せる石を置かされてたのね。
どうりでこんなに集まってくるわけだ。
さしずめ、王都を出発する前に会ってたやつから受け取ったブツがそうかしら。
とりあえず、デイジーにAPを盛りだくさん注いでブースト。
エイヤ!
「デイジー、大変だろうけど、一匹お願いね。攻撃は牽制程度で、後は防御優先!」
「分かったわ!」
これで残り二匹。
さーて、どうしようかしらね。
高速で頭を働かせてる最中、顔面を蒼白にしながらもアデルハイトが立ち上がる。
「わたくしの責任ですわ……。ガーベラ、デイジー、敵の足止めはわたくしが身を賭して時間を稼ぎます。その間にどうにか二人を連れて撤退するのですわ」
なんだ。
さっきはアデルハイトに裏切られて失望したけど、これは撤回よね。
こんなクソ真面目なドリルを見捨てたら、妖精が廃るってものよ!
「却下よ。そんなつまらない幕引きは、イタズラ好きの妖精であるこのガーベラが認めないわ」
「で、ではどうすれば!」
「まあそこは行き当たりばったりで何とかするから、黙ってこいつらの面倒でも見てなさい」
ようやくスタン(大)から回復しつつあるハインリヒと、正気に戻ったけど半分ピヨってそうなオーブを立て直せば、動けるようにはなるっしょ。
まあ、あんまりやりたくないけど、ホントにいざとなれば、切り札の一つや二つあるから何とかなんないわけじゃないし。
とりあえず、『幻惑の雄叫び』を連発されないよう牽制や防御系の魔法使いまくるか。
三人が復活してから考えても、まあ間に合うっしょ!
「ギピィィィーーーーー!!」
ほらもう来た!
風の盾を出す魔法!
それに突進や突き上げ、踏みつけと直接攻撃と間接攻撃のオンパレード!
『幻惑の雄叫び』によるデバフ事故が怖いのでひたすら牽制と防御の繰り返し。
妖精の魔法は牽制と言えども高威力だから並の魔物ならイチコロなんだけど、この鹿って地味に硬いのよね。
結構良いのが入っていてボロボロなくせして、痛みをおくびにも出さない。
とんだ体力オバケだし、ダメージ無視して怯まず突っ込んでくる場合がある。だから防御主体にならざるを得ない。
だから嫌なのよ!
この鹿は!!
それにこっちもこっちでジリ貧。
私はまだ良いとしても、AP切れが起きないようコンスタントにデイジーへAP注いでるけど、それももう限界近い気がする。
「お、お姉ちゃん、このままだとマズいよ!」
まだAPによる魔力ブーストが効いてるからデイジーも保ててるけど、AP切れたらペナルティで戦線離脱。
いやいや、かなりマズくない?
あーもう、多少の被害、で済めば良いかもしれないけど、切り札を切るしか無いわね。
でも事故って全滅の可能性も……!
あーもう!
迷う!
「って、ヤバ!」
ミスった!
三匹同時に『幻惑の雄叫び』の前動作!
こんなん同時に来たら防御しきれない!
「ピィィィーーーーー!!」
防御魔法を固めて身構えていたところで鹿が悲鳴を上げた。
魔法の刃が飛んできて、鹿の角が一本切断されたためだ。
「えっ、だ、誰!? 援軍!?」
そこには自称「デイジーファンクラブNo.0」こと、ローベリアが血相を変えて駆けつけてきた。




