第17話 黒歴史! 空飛ぶカツラ事件と影差すお花摘み
「あー……。デイジーが昔話に凄く食いついてくる……。黒歴史がバラされたら恥ずかしい……。でも、反省しても後悔はしない! 次はもっと上手くやるわ!」
──────
妖精の大半は森に住むけど、私はズボラだから利便さを求めて街に来たこと。
そこでフランと出会ったこと。
服の着心地が悪いと思ってる中、フランの服の性能に気が付き、自分も欲しいと思ったこと。
フランの服と同じ素材を使って、特注の超高級な服の作成には相当な資金が必要なこと。
フランの助けもあり、お金を稼ぎまくってたら、ガーベラは数年という超短期間でミスリルの高位冒険者になってたこと。
フランのツテを使い、念願の超高級ワンピースを買ったこと。
そして、その頃には名が売れすぎて連日ウザすぎる勧誘を受ける羽目になったこと。
「ざっくり言うと、こんな感じよ」
「お姉ちゃん、フランさんにお世話になりまくってない?」
「改めて言われると、そうかも……。ま、まあとにかくこんなところね」
「ええ? これからが良いところじゃん」
「そうかも知れないけどさあ……失敗話だし……恥ずかしいじゃん」
「むぁー、やっぱり話してなかったんだね。嫌かもしれないけど、デイジーが妹だって言うならちゃんと話してあげなきゃ」
うーん、どうしよう。
まあこの際だからいっか。
「分かったわよ。ええとね、簡単に言うと、私に対して嫌がらせしてきた貴族がいてね。嫌になったから逃げたのよ」
「ガーベラ、誤魔化さないの。帝国で貴族のパーティに仕方なく参加させられた時、腹いせにイタズラでその貴族のカツラを吹き飛ばしたんだよ。で、それが原因で夜逃げしたんだよね」
「ちょっ! フラン! ……そ、そうなのよ。やっぱカツラって吹き飛ばしてナンボなところってあるし? あ、指名手配の立て札までしてきてムカついたから、逃げる時にハゲの絵をつけ足してやったわ!」
「あはは、お姉ちゃんらしいね」
「その後のことはガーベラは知らないと思うけど、その絵が絶妙すぎて貴族の社交界だけじゃなく、街でもミームになったんだよ。「このハゲー! 違うだろー!」ってネタが。そういう意味では、ガーベラの反撃は有効だったよ」
行き当たりばったりだけど、やって良かったイタズラ!
まあそんなこんなでひとしきり過去話で盛り上がったり笑ったりした後。
「そう言えば、ガーベラはどうして私に手紙を出そうとしたの? 出そうとしたやつ、良かったら読んで良い?」
そ、そうだった!
危うく忘れるところだったわ。
「読んでもいいけど、一言で済む話よ。このワンピースと同じ素材で下着を作って欲しいのよ」
「えぇー、あんまり簡単に作れるものじゃないし、そもそも素材が手に入らない物だし……フツーのドロワーズじゃダメなの?」
「ダメ。履き心地が悪いもの。それに私は知ってるわよ。あんたが服だけじゃなく下着までこの凄い素材を使ってるって」
特製と言いつつ、自分はちゃっかり使ってることは、まるっとお見通しよ!
「むぁー……仕方がないなあ。今はちょうど王都にいるし、今度聞いとくね」
「助かる〜」
私が引く気がないと察したのかフランは折れた。
これで素敵な下着が手に入る!
「んじゃ、私はそろそろお仕事に戻るね。最後にちょっとだけ……」
『ガーベラは、デイジーの生家って知ってる?』
……!!
これって|相手だけに直接語りかける魔法《糸電話の魔法》!
冒険者時代の時に二人で作った二人だけの魔法!
『あ、あんたまさか知って……いや、詳しい話はいいわ。ありがとう、この子には聞かせたくない話だし。デイジーは恐らく元貴族令嬢で、森に捨てられた孤児ってことしか知らないわ。そもそもデイジーを追い出した家のことなんか知りたくもないし』
デイジーの家が前世の記憶で何なのかは全然思い出せない。
私が知ってるのは、前世でプレイしてた乙女ゲー【乙女物語 II 〜デイジーと世界樹の森〜】のヒロインってことと、継母に虐待されて森に捨てられた不遇の令嬢ってことくらい。でも、それがホントかは分かんない。
デイジーが自分で語らない以上、どうでもいいわ。
『分かった。ガーベラがそれでいいならね。まあ何かあれば力になるよ』
『ありがとう』
秘密の会話はこれで終わり。
こいつってホント、いいヤツよね。
「例の下着は高いけど大丈夫?」
「ツケといて。100年後に返すから」
今のギルドの預金じゃ心許ないし。
ってか絶対足りない。
「よーし、妖精の羽なら代替できるしそれにしよう」
「ごめんって! 冗談よ!」
こいつってホント、約束事には厳しいヤツよね!
◆ ◆ ◆
デイジーの冒険者登録も終えたし、必要なものも無事に揃ったし、準備万端!
私はフランに会って話せてスッキリしたし、下着の件も話がつきそうで期待感バッチリ。
そんなこんなで週明けの野外演習当日。
「今度こそ平穏な演習にするわよ!」
私のモチベーションは最高潮。
しかし、ハインリヒは警戒モードに入っているわ、クラスメイトたちがデイジーファンクラブ的な言動をしてるわ、さらに言うと、いつの間にかローベリアが正式なファンクラブを開設、取りまとめているわで、いつものカオスな状況も最高潮。
ああ、アデルハイトが自領地だからと得意げに仕切ってる姿がすっごく癒しになる。
薬草の森までは大した距離じゃないけど、馬車での移動だ。武術の授業があるとは言え、運動できる人ばかりではないしね。
私が乗る馬車には、私、デイジー、ローベリア、ハインリヒ、アデルハイト、そしてヒューゴ先生の6人乗りだ。
私をちゃんと一人分扱いしてくれたことは嬉しい。さすがにデイジーの肩や膝に乗ってるわけにもいかないしね。
ただまあ乗員を見て分かる通り、どうしてこうなったと言わんばかりのメンツである。
ホントならヒューゴ先生は教員用の馬車に揺られていくはずだけど、1名分の空きに対する競争激化が予想されたため、急遽私たちの馬車に乗り込むことになったみたい。ウチの子が人気ですみません。
なお、さすが貴族の子どもたちが乗るだけあって、学校関係者だけでなく複数人の冒険者たちも護衛にあたる。
その中にはフランの姿もあり安心感が半端ない。あいつクソ強いし。
一方、先頭にいる私たちの馬車の近くには、世紀末ファッションの冒険者がおり、不安感が半端ない。
え、大丈夫よね?
王都の冒険者、ヤバくない?
◆ ◆ ◆
いそいそと各位の荷物を積み込んでるところに、アデルハイトが私に声をかけてくる。
「失礼、少々席を外しますわ。出発までには戻りますのでお気になさらずにしてくださいませ」
「ん? お花摘み? 早くいっといで」
「ガーベラ、そういうことは口に出すものではございませんわ」
「ごめん」
ジト目で睨まれちゃった。
いそいそと早足で外壁の検問所に向かうアデルハイト。
まあ薬草の森で致すのはさすがに公爵令嬢としてアウトなんでしょう。
うーん、念のため私も今のうちにお花摘みしておくか。
辺境の森では人目がなかったから問題ないけど、さすがにこれだけ生徒がいる中では恥ずかしいし。
アデルハイトの後を追い、検問所にあるお手洗いで用事を済ませる。
「ん? あれってアデルハイト?」
検問所の外で見知らぬ使いの者っぽい人から手紙と袋を受け取ってる。
「なーんだ、忘れ物でも届けてもらったのかしら? アデルハイトもそんなことあるのねえ」
あいつ、誰よりもしっかりした人になろうと努力してるのに、珍しいこともあるものね。
まいっか。
弱みを見せないって人によっては大事なことだし。
「よーし、森は私の独壇場。デイジーの一流の一般人化計画の再スタートよ! なんかもう手遅れ感があるけど……諦めたらそこで試合終了よ!」
この時、少し遠目だったことも、ちょうどアデルハイトの顔が影に隠れる形だったこともあり、私は彼女の暗い表情に気づけなかった。




