第四話 即席パーティ
冒険者ギルドの掲示板前は、多くの冒険者たちで賑わっていた。
壁一面に貼られた依頼書。
薬草採取、護衛依頼、魔物討伐。
その中でも、レンの視線は“ダンジョン関連依頼”へ向いていた。
【ミレス東ダンジョン第一層 魔鉄鉱採取依頼】【依頼主:バルディア鉱石商会】【推奨:E級以上】
「これか……」
レンが呟いた瞬間、隣から声がした。
「お前、本当に潜る気なのか?」
振り向くと、短い茶髪の少女が腕を組んで立っていた。
革鎧に片手剣。
勝気そうな目つき。
「さっき登録してた“光板”のやつだよな?」
「……知ってるのか?」
「ギルド中で話題になってる」
少女は呆れたようにため息を吐く。
「リア・フェルン。E級剣士」
「あ、クジョー・レンです」
「クジョー?」
「レンでいい」
「変わった名前だな」
即答だった。
【視聴者数:241】
『あの光板の人か』『新人なのに目立ってるな』『剣士の姉ちゃん強そう』
リアが補助光板を見る。
「……それ、本当に便利そうだな」
「まだ俺もよく分かってないけど」
「少なくとも目立つ」
その時。
「正確には、“未知の情報伝達手段”ですね」
別の声が割り込んできた。
細身の青年だった。
青灰色のローブに短杖。
理知的な目をしている。
「カイル。E級魔術師です」
レンは軽く頭を下げる。
「よろしく」
「こちらこそ」
カイルは補助光板を興味深そうに見つめた。
「本当に思念が文字化されている……」
『文字が浮かぶ魔法とか初めて見た』『魔術具じゃないのか?』『便利そうではある』
さらに後ろから、小さな声がした。
「わ、私も見えています……!」
振り向くと、白いローブ姿の少女が立っていた。
淡い金髪。
少しおどおどした雰囲気。
「セレス・ルナです。回復術師をしています」
ぺこりと頭を下げる。
なるほど。
ヒーラー役だ。
「……ってことは、三人パーティ?」
レンが聞くと、リアが頷く。
「ああ。私とカイルとセレスで組んでる」
「ダンジョンは最低三人いないと入れないからな」
カイルが補足する。
「複数人での探索が前提なんです。昔、単独潜行で死亡する冒険者が続出したので」
「ソロは禁止になったんだよ」
リアが肩を竦める。
「なるほど……」
レンは改めて、ダンジョンが危険地帯なのだと理解する。
カイルはさらに説明を続けた。
「ダンジョンはE〜S級までランク分けされています」
「基準は?」
「漏れ出る魔力量です」
カイルはギルド内の地図を指差した。
「魔力濃度が高いほど危険度が増します。基本的には、自分の冒険者ランクに合ったダンジョンへ行く必要があります」
「でもE級だから安全ってわけじゃない」
リアが口を挟む。
「下層へ行くほど敵は強くなる。油断すれば普通に死ぬ」
セレスも小さく頷いた。
「S級ダンジョンなんて……最下層へ辿り着いた人、まだいないそうです」
「未踏破……」
「王国どころか、大陸全体でも確認されてない」
リアは当然のように言った。
「まぁ、常識だけどな」
補助光板へコメントが流れる。
『北の氷獄迷宮も未踏だしな』『深層は人が踏み込む場所じゃない』『生還しただけで英雄扱いだ』
レンは静かに息を呑んだ。
ゲームの高難度ダンジョンとは違う。
本当に“未知”なのだ。
するとカイルが別の掲示板を指差した。
【無許可採取・違法潜入 厳罰対象】
「あと、レン。ダンジョンへ勝手に潜るのは禁止です」
「え?」
「ダンジョン内資源は共有財産だからです」
カイルは淡々と説明する。
「鉱石、薬草、魔石などはランダム生成されますが、全て国家とギルド管理下の共有資源扱いです」
「つまり許可なしで行くと?」
「違法採取ですね」
リアが指を立てる。
「軽ければ資格停止。悪質なら投獄」
「普通に犯罪だった」
レンは顔を引きつらせた。
「だから冒険者登録が必要なんだよ」
さらにカイルが続ける。
「冒険者ランクを上げるには、各ランク依頼を十件達成した後、昇級試験へ合格する必要があります」
「試験まであるのか……」
「実技、知識、魔力制御などですね」
完全に国家資格だった。
するとリアがレンを見る。
「で、話戻すけど」
「?」
「お前、一人じゃ無理」
真顔だった。
「戦闘経験ゼロだろ?」
「……はい」
「だから提案、私たちのパーティに入れ」
リアはニヤッと笑う。
レンは目を見開く。
「いいのか?」
「その光板、普通に価値ありそうだからな」
カイルも頷く。
「僕たちにも利益があります」
セレスも小さく微笑んだ。
「その……私、レンさんの配信、ちょっと楽しみなので」
レンは少し黙る。
現実世界では。
一緒に何かをやる仲間なんていなかった。
配信も、いつも一人だった。
けれど。
「……よろしくお願いします」
そう言うと、リアが笑った。
「よし。じゃあまずは装備だな」
◇
武器屋通りは、昼を過ぎても活気に満ちていた。
剣、防具、魔道具、薬草。
様々な店が並んでいる。
「すげぇ……」
レンは完全に圧倒されていた。
『また新人連れてきたな』『その兄ちゃん細いけど大丈夫か?』『死ぬなよー』
コメント欄も盛り上がっている。
リアは慣れた様子で店へ入った。
「まずレンは軽装。重装備は絶対無理」
「なんで?」
「体力足りない」
即答だった。
店主の大男も頷く。
「初心者は動ける方が大事だ」
選ばれたのは革鎧だった。
胸当て、腕当て、膝当て。
最低限の防具。
「あと武器は短剣だな」
リアが一本手渡してくる。
意外と軽い。
「うお……」
鞘から抜くと、銀色の刃が陽光を反射した。
ゲーム画面越しではなく、自分の手に武器がある。
その事実に少しだけ緊張する。
「E級なら取り回し優先」
リアが言う。
「重い武器は振り回せなくなる」
カイルも頷いた。
「レンの役割は前衛ではありません。まずは生存重視です」
「逃げるのも大事ってことだよ」
リアは当然のように言う。
するとセレスが小瓶を差し出してきた。
「こ、これ持っててください」
「これは?」
「初級回復薬です。軽傷なら治せます」
淡い緑色の液体。
いかにもファンタジーだ。
「ありがとう」
セレスは少し嬉しそうに笑った。
『回復術師の子優しいな』『初心者には回復役大事』『ちゃんと守ってもらえよ』
補助光板を見て、レンは少し笑う。
そんな時だった。
光板下部のゲージが、小さく発光する。
【魔力支援:31/100】
「……また増えてる」
レンは思わず呟いた。
視聴者が増えるたび、この数値は少しずつ上昇している。
しかも身体が軽い。
疲労感が薄れていく感覚まである。
リアが眉をひそめた。
「やっぱその魔力支援って変だよな」
「普通、他人の魔力をこんな簡単に受け取れません」
カイルも真剣な顔になる。
だが補助光板には、
【魔力支援受付中】
という文字が当然のように浮かび続けていた。
まるで。
“応援されること”自体が、このスキルの力になるかのように。
【視聴者数:389】
『明日いよいよ初潜りか』『ちゃんと帰ってこいよ』『配信、楽しみにしてる』
いよいよ俺の冒険譚が始まると思うとワクワクが止まらなかった




