第三話 冒険者ギルド
書きたい情報が多いので今回から少し長めにします
よろしくお願いします。
王都ミレスの冒険者ギルドは、想像以上に騒がしかった。
「うわ……」
思わず声を漏らす。
二階建ての巨大な石造りの建物。
中からは酒の匂いと笑い声が溢れ、剣や槍を背負った冒険者たちが忙しなく行き交っている。
そしてギルド入口横の壁際。
そこには、一枚の半透明な光板が浮かんでいた。
レンが展開している《ライブ配信》の光板だ。
本来、街中へ勝手に設置することは禁止されている。
だが昨日の騒動の後、衛兵と魔法管理院から、
「指定場所のみ仮設置を許可する」
という条件付き許可が出た。
その第一号が、この冒険者ギルドだった。
現在のレンはまだ魔力量が少ないため、展開できる光板は一枚のみ。
ただし、一度設置すれば離れた場所へ固定できる。
そしてレンの手元には、小型の補助光板が浮かんでいた。
こちらには、
・視聴者数
・コメント
・魔力支援
などが表示されている。
その中でも、レンが特に気になっているのは画面下部の半透明ゲージだった。
【魔力支援:12/100】
昨日から少しずつ増え続けている謎の数値。
視聴者たちは、光板を見ながら自分の魔力を微量に送れるらしい。
しかも不思議なことに、その魔力はレンへ流れ込んでくる。
最初は気のせいかと思った。
だが、視聴者数が増えるほど身体が軽くなる感覚がある。
魔力切れに近かったはずなのに、自然と回復していくのだ。
ただ――。
それが何を意味するのか、レン自身まだ理解していなかった。
『これ、魔力送ると文字光るんだな』
『少しだけなら減った感じしないね』
『応援みたいで面白い』
どうやら視聴者側も、“魔力支援”を遊び感覚で使っているらしい。
すると近くにいた若い冒険者が光板を見ながら首を傾げた。
「なあ、それ……他人の魔力を受け取ってるのか?」
「たぶん?」
「普通そんなことできるのか……?」
周囲の冒険者たちもざわつく。
「魔力譲渡なんて高位魔術師しかできねぇぞ」
「しかもこんな軽く?」
「危なくないのか、それ」
レンも同じことを思っていた。
だが補助光板には、
【魔力支援受付中】
という表示が、当然のように浮かび続けている。
まるでこのスキルにとって、“応援で魔力を集める”こと自体が正常機能であるかのように。
【視聴者数:184】
光板の前では、すでに何人もの冒険者たちが足を止めていた。
「おい、これ本当に動いてるぞ」
「鏡じゃないのか?」
「今映ってるの、ギルドの中だよな?」
そして、その言葉が補助光板へ文字として流れる。
『これ本当に動いてるぞ』
『鏡じゃないのか?』
『今映ってるの、ギルドの中だよな?』
レンは思わず苦笑した。
この世界では、“見ながら念じた言葉”がコメントになる。
つまり今流れているのは、遠くの誰かではない。
この場にいる冒険者たちの感想だ。
まだ誰も“コメント文化”なんて理解していない。
だから皆、ただ思ったことをそのまま流している。
「なんか変な感じだな……」
自分の近くにいる人の声が、そのまま文字になる。
配信というより、“公開思念板”に近い。
レンはそのままギルドの扉を開けた。
瞬間。
ギルド内の視線が、一斉にこちらへ向く。
「……あ」
「あいつだ」
「昨日の光板の男……」
【視聴者数:211】
『本人来たぞ』
『ほんとに冒険者登録するのか?』
『近くで見ると普通の兄ちゃんだな』
全部、その場の冒険者たちのコメントだ。
レンは少し居心地の悪さを感じながら受付へ向かった。
カウンターには赤髪の女性が立っている。
二十代前半ほどだろうか。
整った顔立ちに、仕事慣れした落ち着いた雰囲気。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「新規登録をしたくて」
「承知しました。ではこちらへどうぞ」
受付嬢は慣れた手つきで書類を差し出した。
名前、年齢、出身地。
レンは無難に書いていく。
もちろん“異世界転生者”など書けるはずもない。
「……九条レン様。辺境出身、と」
受付嬢――ミリアは少し不思議そうな顔をした。
「珍しいお名前ですね」
「あー……かなり田舎なので」
『辺境ってどこだ?』
『東側の国か?』
『でも変わった服だよな』
コメント欄が勝手に盛り上がっていく。
「では次に適性確認を行います」
「適性?」
「保有魔力やスキルの確認ですね。ダンジョンは危険ですので」
そう言って、水晶球を机へ置いた。
「こちらへ手を」
レンが触れた瞬間、水晶が淡く発光する。
────────────────
【九条レン】
保有魔力:E
身体能力:E
戦闘技術:なし
固有スキル:《ライブ配信》
────────────────
ギルド内が静まり返った。
「ライブ……配信?」
「またその妙な魔法か」
「昨日の噂、本当だったんだな」
ミリアも困惑した顔でレンを見る。
「レン様。この《ライブ配信》というスキルは、どのような効果なのですか?」
「映像や声を、この光板へ映して共有する能力です」
「共有……?」
理解できない、という顔だった。
当然だ。
この世界には、映像共有という概念そのものが存在しない。
すると補助光板へコメントが流れる。
『ちゃんと文字出てる』
『本当に会話できてるんだな』
『なんか面白い』
レンはミリアへ補助光板を見せる。
「例えば、今ここにいる人たちの言葉が、こうして表示されます」
「え?」
ミリアが光板を見る。
そこには次々と文字が浮かんでいた。
『受付嬢さん驚いてる』
『ちゃんと見えてるみたいだ』
『これ便利じゃないか?』
ミリアの目が大きく開かれる。
「……えっ!? い、今のって、周囲の人たちの声なんですか!?」
「正確には、“思念”らしいです」
「す、すご……」
思わず本音が漏れたらしい。
周囲の冒険者たちも光板を覗き込み始める。
「ほんとに文字になってる……」
「これ、ダンジョンでも使えるのか?」
「映像も残せるんだろ?」
その言葉に、ミリアがハッとした顔をした。
「……ダンジョン内部も?」
「たぶん可能です」
その瞬間。
ミリアの表情が変わった。
「レン様」
ミリアは真剣な声で言う。
「正直、このスキルは前例がありません」
「……ですよね」
「ですが、とても価値があると思います」
レンは首を傾げる。
するとミリアは壁に貼られた古い地図を指差した。
【第三階層南通路、落とし穴注意】
【赤目狼の群れを確認】
「現在、ダンジョン情報は生還した冒険者の証言頼りなんです」
「つまり口伝えってことですか?」
「はい。なので情報違いも多いんです」
ミリアは真剣な顔で続ける。
「ですがレン様のスキルなら、“実際の映像”を残せる可能性があります」
ギルド内が静まり返る。
「罠の位置、魔物の姿、内部構造……それらを正確に共有できるかもしれません」
冒険者たちの視線が変わった。
好奇心ではない。
価値を見る目だ。
「……確かにそれは便利だな」
「新人の死亡率も減るかもしれん」
「商会が金を出しそうだ」
ミリアは頷く。
「特に資源調査ですね。鉱石、薬草、魔石……ダンジョン内部の映像は、そのまま利益になります」
レンは息を呑む。
ただの配信じゃない。
この世界では。
“映像を共有できる”というだけで革命なのだ。
【視聴者数:412】
『なんかすごいスキルだったんだな……』
『ダンジョンの中、ちょっと見てみたい』
『次も光板出してくれよ』
コメントを見た瞬間。
レンの胸の奥が熱くなった。
現実世界では誰にも必要とされなかった。
けれど、この世界では違う。
初めて自分の力が、誰かに求められている気がした。




