第二話 異世界のルール
蓮→レンに変更しました
「……三百?」
九条レンは、目の前に浮かぶ数字を見て息を呑んだ。
【現在視聴者数:312】
現実世界では、同接二人。
誰にも見向きもされなかった自分の配信を、今は三百人以上が見ている。
「兄ちゃん! もう一回その板出してくれ!」
「俺の顔映ってたぞ!?」
街の人々は完全にお祭り騒ぎだった。
レンの前に浮かぶ半透明の配信画面。
その周囲には、光る文字が次々と流れている。
『えっ、なにこれ!?』
『景色動いてるんだけど!?』
『今の文字、私が考えたやつ!?』
『ちょ、すごくない!?』
この世界では、“思念”は微弱な魔力として扱われる。
《ライブ配信》はそれを自動で拾い、文字へ変換しているらしい。
つまりコメント欄そのものが魔法だった。
しかも視聴者は特別な才能も必要なく、ただ配信を見ながら強く念じるだけでいい。
異世界人にとっては衝撃的な技術だ。
『ほんとに文字出た!』
『これ王都の新しい魔道具?』
『いや、見たことないって』
『なんか面白いなこれ』
すると突然。
「道を開けろ!!」
怒鳴り声が響いた。
群衆が割れ、銀鎧を着た男たちが現れる。
槍を持つ、王都の衛兵だった。
一瞬で空気が張り詰める。
「……やばそう」
『衛兵来ちゃった』
『怒られるやつでは?』
『さすがに目立ちすぎたな』
『でも続き気になる』
コメント欄はさらに加速していく。
先頭に立つ中年の衛兵が、レンを睨みつけた。
「貴様、その魔法は何だ」
「え?」
「許可証を提示しろ」
「許可証?」
レンは思わず聞き返した。
すると周囲の人々がざわつく。
「知らないのか?」
「旅人っぽいな」
「魔法登録してないのはまずいぞ……」
レンは嫌な予感がした。
衛兵は低い声で言う。
「ここはアルディア王国、王都ミレス。市街地での魔法行使には、王国認可が必要だ」
完全に異世界の法律だった。
この世界では魔法は危険物扱いらしい。
火炎魔法一つで建物が燃える。
強化魔法で暴れれば被害も大きい。
だから街中での魔法使用は厳しく制限されているのだという。
「特に、未知の魔法は危険指定される」
衛兵はレンの配信画面を睨む。
「そんな魔法、見たこともない」
当然だった。
そもそも“配信”という概念が存在しないのだから。
レンは慌てて両手を上げた。
「怪しいものじゃないです! これは《ライブ配信》っていうスキルで……」
「ライブ……ハイシン?」
「映像や声を離れた場所へ共有する魔法です」
衛兵たちは顔を見合わせる。
全く理解できていない顔だった。
『離れた場所に景色送れるの?』
『そんな魔法あるなら便利すぎない?』
『ダンジョンの中とか見てみたい』
『貴族が欲しがりそう』
すると若い衛兵が、小声で隊長へ耳打ちした。
「隊長……ですが、攻撃性は感じません」
「む……」
隊長格の衛兵は少しだけ警戒を緩めた。
「旅人。貴様、常識が欠けすぎている。どこの出身だ」
「え、っと……かなり遠くから来ました」
異世界転生者です、とは言えない。
「……辺境出身か」
勝手に納得された。
助かった。
隊長はため息を吐く。
「いいか。この国では、魔法を使って生きるなら二つの登録が必要だ」
指を二本立てる。
「一つ。魔法管理院への使用登録」
「魔法管理院?」
「危険魔法や未知魔法を管理する王国機関だ。貴様のような特殊能力持ちは必ず届け出る必要がある」
なるほど。
免許制度みたいなものか。
「二つ。ダンジョンへ入るなら冒険者ギルドへの登録」
「ギルド……!」
思わずレンの声が弾む。
『冒険者ギルド行くの!?』
『ダンジョン配信やる気か!?』
『それ絶対見たい!』
『深層とか映せたらすごそう』
隊長は真顔のまま続ける。
「ダンジョンは国有危険区域だ。未登録者が入れば処罰対象になる」
この世界では、ダンジョンは資源でもあり災害でもある。
魔物が溢れれば街が滅ぶ。
だから国とギルドが共同管理しているらしい。
勝手に入れば犯罪。
レンは冷や汗をかいた。
危なかった。
なにも知らずに突撃していたら即逮捕だった。
「……つまり、ちゃんと登録すれば問題ないんですか?」
その言葉に、隊長は少しだけ目を細めた。
「ルールを守るならな」
そしてレンの配信画面を見る。
「その妙な魔法も、正式登録されれば価値を持つかもしれん」
息を呑んだ。
価値。
その言葉に胸が熱くなる。
現実世界では、誰にも必要とされなかった。
だが、この世界では違う。
《ライブ配信》は未知の技術だ。
誰も見たことがない力だ。
『次の配信いつ?』
『ギルド登録ちょっと見たいかも』
『この人なんか面白いな』
『また配信してくれ!』
流れ続けるコメント。
レンは自然と笑っていた。
「……よし」
まずは情報収集。
そしてギルド登録。
この世界で生きる方法を覚える。
――その先に。
世界初の配信者としての未来がある気がした。




