第五話 初めてのダンジョン配信 前編
初ダンジョンは前後編になります。
20話くらいはストックがあり最初は1話に納めていたんですが色々修正していたら長くなったので分けました…
翌朝。
レンたち四人はミレス東ダンジョンへ向かう街道を歩いていた。
王都の外へ出るのは、レンにとって初めてだった。
腰には昨日購入した短剣。
身体には革鎧。
いかにも駆け出し冒険者らしい装備だ。
もっとも、その装備は自分のお金で買ったものではない。
「改めてありがとう」
レンが言うと、先頭を歩くリアが振り返った。
「何が?」
「装備代」
「ああ、その話か」
リアは苦笑する。
「新人なんて最初はみんなそんなもんだ」
「でも借りたのは事実だろ」
「ちゃんと返してくれれば問題ない」
カイルも頷いた。
「冒険者は最初に装備を揃える必要がありますからね」
レンは苦笑する。
この世界へ来てから数日。
ギルド登録時に支援金は受け取ったが、防具や武器を揃えるには足りなかった。
不足分はリアたちが立て替えてくれた。
銀貨八枚。
新人には決して軽くない額だ。
「依頼で稼いだら返すよ」
「期待してる」
リアが笑った。
その時。
セレスが思い出したように口を開く。
「そういえばレンさん」
「ん?」
「昨日聞き忘れたんですけど、その光板って寝ている時も映るんですか?」
「ああ、それなら昨日確認した」
レンは頷いた。
「配信の開始と停止ができるみたいだ」
「それなら安心ですね」
セレスはほっとした表情を浮かべる。
「ずっと映ってたら大変だもんな」
リアも笑った。
「寝顔を街中に流されたらたまったもんじゃない」
レンも思わず苦笑する。
すると視界の端に浮かぶ光板へ文字が流れた。
【視聴者数:214】
『昨日の光板の人だ』
『今日は本当にダンジョンへ行くのか』
『朝から見てるぞ』
『寝顔は別に見たくないな』
『少しだけ気になる』
思わず最後のコメントに笑ってしまう。
前世ではほとんど誰にも見てもらえなかった配信。
それが今は違う。
こうして朝から見ている人がいる。
不思議な感覚だった。
レンは何気なく光板を操作した。
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固有スキル
《ライブ配信》
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項目を開く。
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《ライブ配信》
映像共有を行う固有スキル
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さらに別の項目を開く。
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現在情報
魔力量:E
身体能力:E
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「おっ」
「どうした?」
リアが振り返る。
「能力も確認できるらしい」
レンが読み上げると、三人が足を止めた。
「能力?」
「魔力量と身体能力」
その瞬間。
三人の視線が集まる。
「そんなの見えるのか?」
リアが驚く。
「普通はギルドで測定した時しか分からないぞ」
「冒険者カードには記録されますけどね」
カイルが懐からカードを取り出した。
レンも自分のカードを確認する。
【クジョー・レン】
冒険者ランク:E
魔力量:E
身体能力:E
裏面には。
【ライブ配信】
とだけ刻まれている。
「スキル説明は無いんだな」
「ありません」
カイルが答えた。
「スキルは発現した時に何となく用途を理解できます」
「ただ、それだけです」
「詳しい使い方は試しながら覚えるんだよ」
リアも続ける。
「同じ火魔法でも使う人によって全然違う」
「熟練者になるほど応用も増える」
なるほど。
レンは納得した。
どうやら自分の光板はかなり特殊らしい。
「そういえばレン」
リアが聞く。
「そのライブ配信っていつ発現したんだ?」
「最近だな」
「最近?」
三人が同時に振り返る。
「珍しいのか?」
「かなりな」
リアが即答する。
「普通は子供の頃に発現する」
カイルも頷いた。
「後天的な発現もあります」
「ですが極めて稀です」
「強い感情や極限状態、長期間の鍛錬などがきっかけになると言われています」
レンは少しだけ苦笑した。
異世界へ飛ばされたあの日。
確かに人生最大級の衝撃だった。
「それにしても」
セレスが首を傾げる。
「ライブ配信なんて初めて聞きました」
「俺もだ」
「私も」
三人とも知らない。
当然だった。
この世界には配信文化そのものが存在しないのだから。
さらに歩きながらカイルが尋ねた。
「レンの魔力量はEでしたよね」
「ああ」
「まあ最初はそんなものです」
リアが言う。
「魔力量って増えるのか?」
「増えますよ」
カイルが答えた。
「鍛錬や実戦経験で成長します」
「身体能力も同様です」
「もちろん急激には伸びませんが」
「じゃあ魔力量が高い方が強いのか?」
「一概には言えません」
カイルは首を振った。
「魔力量、身体能力、スキル、経験」
「その全てが重要です」
そう言った後、少し考えるような表情になる。
「有名な話ですが――」
三人の視線がカイルへ向く。
「王国には魔力量がそれほど高くないにも関わらず、S級冒険者にまで上り詰めた魔法士がいます」
「え?」
レンは思わず聞き返した。
「S級って、あのS級か?」
「そのS級です」
リアも頷く。
「ああ、あの人な」
どうやら有名人らしい。
レンだけが知らない。
「その方は魔力量自体は突出していません」
カイルは続ける。
「ですが異常なほど緻密な魔力操作技術を持っています」
「無駄な消費を極限まで減らし、相手の動きを読み、最適な魔法を最適なタイミングで使う」
「結果として、自分より遥かに魔力量の多い相手すら打ち破ってきたそうです」
レンは思わず感心した。
まるで職人だ。
「だから冒険者の強さは単純じゃない」
リアが言う。
「数字だけ見て油断した奴から死ぬ」
「逆に弱そうな奴が化け物だったりする」
レンは静かに頷いた。
この世界にはレベルがない。
だからこそ。
数字だけでは測れない強さがある。
そんな話をしているうちに。
前方に巨大な洞窟が見えてきた。
周囲には柵。
監視塔。
出入りする冒険者たち。
そして洞窟の奥から漏れ出る青白い光。
「着いたぞ」
リアが言う。
「ミレス東ダンジョンだ」
レンは思わず息を呑んだ。
人生初のダンジョン。
そして――
異世界初のダンジョン配信が、今始まろうとしていた。




