まさかの!?♪
浅い層の探索のはずが、なぜか予定外の深層へ。
道中、何度も「引き返したい」と訴えたのに、パーティの奴らは聞き入れなかった。
ダンジョン第40層。退路は爆破され、目の前には凶悪な魔獣の群れ。パーティに裏切られ、突き飛ばされ囮にされた私は、死に物狂いで父からもらった救命発光弾を放ち、逃げ回った。
坂を上がったのか下がったのかも分からず、自分がどこにいるのかも分からない。
行き止まりの土壁にもたれかかった、その時――体が壁の中に吸い込まれ、眩い光とともに視界が開けた。
空には紫の月。ネオンのような燐光に彩られた、退廃的で美しい街並み。
呆然とする私の前に、路地の闇から「それ」が姿を現した。
「あら。……人間の女かしら?」
背中に漆黒の羽を揺らし、妖艶な笑みを浮かべる絶世の美女。
彼女の冷たい指先が私の頬をなぞり、逃れられない死の気配が肌を刺した瞬間――脳内に、雷に打たれたような衝撃が走った。
(……待って。この光景、この女、見覚えがありますわ!)
溢れ出したのは、前世の記憶。
某ブランドのセレクトショップ店長として社畜だった私が、現実逃避にプレイしていたVRNMMOダークエロゲー。
タイトルは確か――『デッド・オア・ラステア 〜淫魔の迷宮と絶望のハニトラ〜』。
(え、嘘……。ここ、サキュバスの街『ラステア』の深層門!? そしてこの人は……!)
この街は、迷い込んだ男は一晩で干物にされ、女は魔力を絞り出す家畜にされる、全年齢版なら即配信停止レベルの場所。
「ひっ、ひぃぃ……! 本物! 推しの本物のSSR『魂吸いのリリス』様ですわ!」
「SSR!? 推し!? あら、私の名前を知っているの? 有名になったものね」
リリス様が喉元に鋭い爪を立てる。
私はガタガタと震え、その場に座り込んだ。腰が抜けて、一歩も動けない。
(完全にオワタw 詰んだ。逃げ道なし、救いなし、体力なし! エンカした瞬間に前世思い出すとかやばいな。……でも、あれ!?リリスのエンカって確か、回避ルートがあったような)
恐怖のあまり一周回って冷静になった私は、マジックバッグから領地の試作品を取り出した。エナジードリンク『JUCIE』と、濃いめの味付けがされた『魔導ポテトチップス』。
「……何それ? よくこの状況で食べれるわね?」
リリス様が怪訝そうに眉をひそめる。
私は震える手でプルタブを開け、一気に煽った。強烈な炭酸と刺激が、恐怖で麻痺した脳を無理やり覚醒させる。
「……こっ、これ、美味しいんですの。……どうせ殺されるなら、せめてこれくらい食べさせてくださいまし……」
泣きそうになりながらポテトチップスの袋を開けると、路地裏に暴力的なまでのコンソメの香りが広がった。
「…………っ!?」
リリス様の動きが止まった。
魔界には存在しない、油と塩分が織りなすジャンクな匂いに、彼女の鼻がぴくんと動く。
「……ちょっと。それ、私にも食べさせなさいよ」
冷酷だったはずのリリス様の目が、抑えきれない好奇心で揺れていた。
(まさかの回避ルートきたーーーー!)
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