冒険者にワタシはナル!
王都を後にする馬車の車内。豪華なクッションに身を沈めながら、私は窓の外を流れる王都の景色を眺めていた。
先程までの謁見の間での緊張感はどこへやら、隣に座る父――ローランド辺境伯は、すでに手元の魔導通信機を忙しなく操作している。
「……ああ、俺だ。ギルドマスター、聞こえるか。実は王都とは縁を切った。ビクッとした!?そうだろ!え!?さっきださっき。打ち合わせした……例の『ダンジョン』の精査、早急に3日ほどで戻る!詳しくは早馬に持たせた。
ダンジョン街として即時開放の準備に入れ。帝国と聖国への通商路、こっちが関所を握らないといけない。王都からの物流はお互い全止めになるか。……おう、!面白いことになるぞ」
さっきまでの重厚な「辺境伯」の仮面はどこへ行ったのか。
今の父は、まるで新しい玩具を手に入れた子供のような、あるいは冷徹な勝負師のような顔をしている。
「お父様、通信はよろしいですが、本当に宜しかったのですか? 独立などと……」
「ディード、すまなかった、婚約破棄の汚名を」
「大丈夫ですわお父様。決めました。ふふふ……冒険者に私なりますわ」
「…………は?え!?聞いてたかワシの話」
父の動きが止まった。数秒の沈黙の後、馬車が揺れるほどの声が響く。
「何言うんだディード! お前、ショックで頭おかしなったんか!? それとも王都の悪い空気吸いすぎて脳がバグったんか!?そっか疲れてるのか。だよな。領地着くまで寝てなさい」
「寝ませんし至って正気ですわ。婚約破棄された令嬢など貰い手もないでしょう!なら私は、あのダンジョンの真実を確かめたいのです。そして、自分を護る力……いえ、いつかあのバカ王子を物理的に黙らせるだけの力を手に入れたいのですわ!」
「ダメだ! 絶対にダメだ! お前は深窓の令嬢やぞ! 剣なんか振ったらマメができるし、肌も荒れる! 第一、モンスターに噛まれたら! お父様は許さない!とりあえずゆったりと休みなさい。改めて先のことは話し合おう」
そこからは、辺境へ着くまでの数日間、親バカな父との不毛な言い争いが続いた。
だが、私の決意は固かった。
自分でも不思議なほど、体力の限界に挑むことや、未知の領域へ踏み出すことに恐怖を感じない。むしろ、何か「やるべき仕事」がそこにあるような、妙な義務感すら感じていた。
「半年です。半年、時間をください。それまでに冒険者として形にならなければ、大人しくお父様の用意した未来をうけいれますわ」
結局、私の頑固さに父が折れた。
「……わかった。ただし! 訓練はうちの騎士団の精鋭につける!」
――それから、私の「地獄の半年」が始まった。
ドレスを脱ぎ捨て、動きやすさだけを重視した革鎧を纏う。
令嬢時代に嗜んでいた優雅な剣術など、実戦では何の役にも立たないことを、初日の訓練で思い知らされた。
「お嬢様! 足元が甘いです! 泥を喰らっても立ち上がりなさい!」
「……言われなくても……わかってますわよ! むしろ、この泥の感触、悪くありませんわ!」
朝は夜明け前から領地内を走り込み、昼は騎士たちと泥にまみれて木剣を振り回し乗馬の稽古
夜は夜で、魔力操作の極致に挑む練歩き。
「あー、もう! 筋肉痛で腕が上がりませんわ! 全身の繊維が悲鳴を上げてますわよ! オワタ、完全に私の身体、オワタですわw」
なぜか口から漏れ出る、聞いたこともない奇妙な言葉。
それでも、私は止まらなかった。
不思議なことに、極限まで自分を追い込むこの感覚が、何かに似ている気がしていた。
……そう、例えば、膨大な在庫リストの数字を一つ一つ合わせていくような!?
在庫リスト!?はて!?
いや、そんな経験、私にあるはずがないのだけれど。
半年後。
私は、辺境伯領にある冒険者ギルドの門を叩いた。
そこには、父の息がかかったギルドマスターと、測定用の巨大なクリスタルが鎮座していた。
「……合格だ。ディード・ローランド。君の基礎身体能力、および魔力出力……文句なしにCランク中堅冒険者に匹敵する。半年でここまで仕上げるとは、正直驚いたよ!さすが武人辺境の血か」
ギルドマスターの言葉に、私は乱れた髪を払い、不敵に微笑んだ。
手渡されたのは、鈍く光る冒険者タグ。
「お父様、約束ですわ。潜らせていただきます」
ギルドの隅で腕を組んで見ていた父は、誇らしげな、それでいてどこか不安そうな顔で頷いた。
「……わかった。ただし、優秀なパーティへの同行が絶対条件だ。ちょうど冒険者ギルドの各支部から『Dランクダンジョンの調査』と抜かしてやってきたSやAランクパーティがいくつかおる。お前を護らせる代わりに、実績を積ませてやるという話をつけておいた」
「SやAランク……。ナゼ?Dランクダンジョンごときに!?冒険者は新しもの好きなのかしら」
「フン、こんな辺境にまでか!?しかし妙だな、だが、お前が深層へ行くには都合がいい。……ディード、気をつけて行けよ。お前は俺の唯一の『宝』なんやからな」
父の不器用な優しさを背に受けながら、私は装備を整えた。
腰には特注の魔導剣。そして背中のバッグには、王都で購入した保存食と、父が開発に投資したという新型の魔導飲料をたっぷり詰め込んで。
いざ、運命の『Dランクダンジョン』へ。
本作お読み頂きましてありがとうございます。
この作品をチラッととでも
『ふふふ』、『!?』と思ってくださった方は
ブックマークとか!?
マックス『★★★★★』まで
評価あるのでポチッとしてもらえるとテンション上がります
へへへ




