既視感♪
王都中央広場は、もはや聖国の軍律など木っ端微塵に吹き飛んだ、狂乱のコンソメフェスティバルと化しておりました。
「おかわり! 頼む、あと一杯だけコンソメを恵んでくれぇぇっ!」
「ララァ姫様バンザーイ! 我らの信仰は今日からコンソメにゃーん!」
「うむ、苦しゅうないにゃん! 並んだやつから順にポテチを一枚ずつ配給するにゃん!」
寸胴鍋の前で行儀よく整列した屈強な聖騎士たちが、涙と鼻水を垂らしながらララァ様に平伏する地獄絵図。
その光景を、商業ギルドが運んできた豪奢な特等席ソファーに座り、優雅に眺めていた私の耳に――ドズゥゥゥンッ! と地響きのような轟音が響き渡りました。
「ひ、ひぃぃぃっ!? な、なんだあれは!?」
「教会騎士団の紋章……まさか、総本山から直々に……!?」
広場を埋め尽くしていた市民たちが悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑います。
噴水前の石畳を粉砕しながら突っ込んできたのは、六頭立ての純白の神馬が引く、金塊のように豪奢な白銀の馬車。
護衛の近衛魔導兵たちにかしずかれ、馬車の扉から姿を現したのは――これ見よがしに金糸の刺繍が施された豪奢な法衣を纏い、首や指にジャラジャラと高価な聖遺物をぶら下げた男。
聖国教会派閥のトップにして、今回の王国乗っ取りクーデターの黒幕――マルティス枢機卿その人でした!
「……ええい、騒々しい! いったい何事だ! 貴様ら、王城の制圧準備はどうなって――」
偉そうに顎を反らしながら馬車を降りた枢機卿の視線が、寸胴鍋を囲んで涎を垂らす自軍の兵士たちを捉えました。
次の瞬間、ミキッッと音を立てて枢機卿の眉間が歪みます。
「な……な、なんたるザマだ! こらぁぁぁッ!! 聖国の敬虔なる戦士が、下賤な民草と一緒になって怪しげな油菓子を貪り、獣人の小娘に傅くなど……正気か貴様らぁぁッ!!」
「し、しかし枢機卿閣下……この黄金のスープは本当に美味く……」
「黙れ肉塊どもがッ! 信仰を捨てた豚に用はないッ!!」
逆上した枢機卿は、懐からまばゆい虹色の光を放つ宝石――『神聖なる断罪の天球儀』を取り出しました。
その途端、私の網膜ウィンドウが激しく赤色点滅し、警告アラートが鳴り響きます!
【警告:超高出力・神聖属性魔力反応を検知!】
【敵ボス:マルティス枢機卿(ゲーム内換算課金額:国家予算3年分)】
【発動スキル:『神聖絶対即死結界・ルクス=カタストロフ』】
【効果:半径50m以内の邪悪・不浄判定対象へ、毎秒10万ダメージの継続即死攻撃】
「出ましたわ……ッ!」
私は思わずソファーから立ち上がりました。
広場全体を包み込む、逃げ場のない光のドーム。周囲の兵士や市民たちが「ひぃっ、あんなの触れただけで骨も残らない!」「終わりだぁぁ!」と絶望して頭を抱えます。
「ハーッハッハッハ! 恐怖するがいい! これぞ法王庁の宝物庫から特別に持ち出された、我が至高の聖遺物! 莫大なる寄進……神への絶対の献金によってのみ許された断罪の光よ! 悪魔の片割れどもめ、貴様ら全員まとめて塵芥となって消え去るがいいッ!!」
全身のジャラジャラ聖具を光らせ、ドヤ顔で勝ち誇る金満ボス。
「ヤバって、、、、って思うじゃん!?」
ですが――そんな彼の凶悪な即死ギミックを前に、私の口角はニチャア……と限界まで吊り上がっておりました。
(……あーはいはい、ここイベントスキップできないのよね! クソダルいわぁあああ!)
脳裏に閃くのは、前世の有志Wiki・ボス攻略検証スレPart84の太字赤文字ログ!
『【検証】ルクス=カタストロフのクソ仕様について』
『見た目は全方位即死の超広範囲判定だが、実際は演出が重すぎて描画優先になっており、内部の当たり判定の更新が「0.2秒(12フレーム)」ごとにしか行われていない。』
『さらに、当たり判定の原点がボスの足元から左斜め前30cmにズレているという、開発のデバッグ不足丸出しのガバガバ判定。特定リズムで反復横跳び入力を行うと、無敵フレームがループして完全ノーダメで抜けられる(通称:お祈り盆踊りバグ)』
(――ここ見せ場でいわゆるサビよね、ガチ攻略の……! この私に勝てると思いまして!?)
「リリス様、ララァ様! そこでポテチを食べながら、廃人の意地をとくとご覧あそばせ!」
「「え?」」
私は『夜闇の逆バニー』の裾を翻し、即死結界の光のドームへ向かって猛然とダッシュいたしました!
「ディード!? ま!?死ぬ気かぁぁッ!?」
叫ぶ枢機卿。しかし、光の奔流が私の肌を焼き尽くす寸前――
シュッ! パパパッ! シュババババッ!!
私は左へステップ、右へ0.1秒の重心移動、直後にしゃがみキャンセルからの小ジャンプ、そして高速反復横跳び――ッ!
「なっ……なんだそのキモい動きはぁぁぁッ!?」
枢機卿が目玉を飛び出させました。
触れれば即死の閃光の嵐。その真ん中で、私は謎の奇行ステップを猛スピードで刻みながら、光の粒の隙間をスルスルとすり抜けていたのです!
ピロリン♪
【無敵フレーム判定成功!(残り持続:0.18秒)】
【無敵フレーム判定成功!(残り持続:0.19秒)】
【敵AI判定:『当たり判定見失い』により空振りを継続中!】
「失礼ね! フン!!コレでガバガバですわ! 判定の更新が遅すぎますことよ成金クソボスッ!」
光のレーザーをミリ単位ですれ違いながら、キレッキレの反復横跳びでぐんぐん距離を詰めてくる逆バニーの令嬢。
完全にホラーです。
広場の特等席ソファーでは、リリス様とララァ様がポテチを齧りながら、心底引いた目で私を眺めておりました。
「……ねえララァ。ディード、光の嵐の中で反復横跳びしながら爆笑してるんだけど……何この既視感」
「あの子、絶対人間やめてるにゃん……。悪魔のララァでもあんな狂気のダンス踊れないにゃん……」
推したちの引き攣ったツッコミなど、完全なゾーンに入った私の耳には届きません!
シュバッ! と最後の無敵ステップをキメた私は、一筋のかすり傷も負わない完全ノーダメの状態で、呆然と立ち尽くす枢機卿のわずか1メートルの至近距離へピタリと着地いたしました。
「ば、馬鹿な……ッ!? 我が聖国の至宝、絶対即死結界を……なんでノーダメ……!? 貴様、いったいどんな魔術を……ッ!?」
泡を吹きそうな顔でガタガタと震え、後ずさる枢機卿。
そんな哀れな成金ボスを見下ろし、私は扇を優雅にパチンッ! と打ち鳴らしました。
「魔術ではなく、仕様の穴ですわ♡ さあ――貴方のターンはこれでおしまいですわね? お次は……こちらの推しの神々しさと、貴方の恥ずかしい裏の顔を、全世界にお披露目して差し上げますわ!」
いよいよ反撃の時。
私は後ろでくつろぐリリス様へ向けて、ニチャリと邪悪な合図を送ったのでした。
ここまでお読みいただき
本当にありがとうございます!
「コンソメは正義」と少しでも思っていただけましたら、作品下部にある
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