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とっつぁん坊やがかあああッ!!


 昨晩の『祝勝夜会(笑)』での大惨事から明けた、翌朝。

 豪奢を極めた王城の中枢――玉座の間には、怒号とヒステリックな悲鳴が響き渡っていました。


「ええい、許せん! 断じて許せんぞッ!! 我が愛しのエリックと、その婚約者をあのような無惨な姿に変え、近衛騎士たちをジャンクな香りで骨抜きにした不埒な魔女めがッ!!」


 玉座の上で真っ赤に顔を紅潮させ、肘掛けを激しく叩きつけているのは、この国の頂点に君臨する国王。

 その隣では、けばけばしい厚化粧の王妃が、レースのハンカチを悔しそうに噛み締めながら喚き散らしていました。


「そうですわ、あなた! 私のエリックちゃんが……あの天使のように愛らしいエリックちゃんが、今もベッドで白目を剥いて『あばばばば』とうわ言を繰り返しているのですわよ!? 一国の王子にあのような恥辱を与えた魔女など、八つ裂きにして地下牢へぶち込むべきですわ!」

「国王陛下、王妃殿下のお怒りはもっともにございます」


 玉座の脇に控えていたのは、純白の豪奢な法衣に身を包んだ男――聖国特使でした。

 糸目を細め、いかにも腹黒そうな薄笑いを浮かべて進言します。


「昨夜の夜会には、我が聖国が誇る重装装甲兵や異端審問官も同席しておりました。それをあのような怪しげな術で無力化されたとあっては、聖国の威信にも泥を塗られたも同然。王都全域を即刻封鎖し、異端の魔女を捕縛して公開火刑に処すべきかと」

「うむ、特使の言う通りだ! 騎士団長、ただちに全軍を出撃させよ! 王都中をしらみつぶしに捜索し、怪しい女を片っ端から――」


「――お探しいただく探索イベント(待ち時間)が惜しいので、こちらから出向いて差し上げましたわ♡」


 騎士団長が敬礼しようとした、まさにその瞬間。

 正面の大扉からではなく――玉座の真横、何もない空間の境界線がぐにゃりと歪み、私が優雅にポップ(出現)いたしました。


「な、何奴ッ!? どこから湧いて出たッ!?」


 腰を抜かしかけて玉座から飛び上がる国王。

 当然ですわ。当たり判定の抜け穴を利用した『王城テクスチャ裏抜け・ショートカット』。わざわざ正面玄関から衛兵と戦いながら進むなんて、RTA走者の風上にも置けませんもの。


 私は金糸の扇をバッと広げ、狼狽える国王の鼻先へビシッと突きつけて差し上げました。


「昨晩の息子の醜態を棚に上げて、朝っぱらからギャーギャー喚き散らす――この親バカの、とっつぁん坊やがかあああッ!!」


「と、とっつぁん……ぼ、坊や……ッ!? ぐ、ぐわあああっ、無礼なッ! 余を誰と心得るッ!!」


 前世の限界ソシャゲ周回で培った、治安最悪のガラパゴス煽り。

 国家元首に対して放たれた前代未聞の暴言に、国王はプライドを粉々にへし折られ、額に青筋をビキビキと浮かべて卒倒寸前で泡を食っています。


「であえーッ! であえであえーッ! この無礼極まる小娘を八つ裂きにせよッ!!」


 国王の絶叫に応じ、玉座の間を取り囲んでいた近衛騎士たちが一斉に抜剣して殺到しようとしました。

 ですが――


「――誰に向かって刃を向けているのかしら、羽虫ども」


 私の足元の影から、ゆらりと立ち上る漆黒の煙。

 現れたリリス様が、退屈そうに長い黒髪をかき上げ、全方位へ【SSR級・絶対支配の魔圧】をほんのひと握りだけ解放いたしました。


 ドォォォォンッ……!!


 空気そのものが鉛のように重く圧し潰され、抜剣した騎士たちどころか騎士団長までもが、膝からガクガクと崩れ落ちて床に額を縫い留められます。誰一人として、指先一本すら動かせません。


 その緊迫した空気の中、もう一人の仲間はといえば――


「……もぐもぐ、むしゃむしゃ。……ふにゃ? なんだかパサパサしてて、ちっとも美味しくないにゃん」


 ララァ様が、玉座の脇の銀食器に盛られていた『王室御用達・特製マカロンと金箔フルーツ』を両手いっぱいに掴み、勝手にボリボリとつまみ食いしていました。


「ディードのくれるコンソメポテチのほうが、100倍神の味だにゃん! 人間の偉い王様って、いつもこんな味の薄い粘土みたいなの食べてるのかにゃん? 舌がバカにゃん!」

「な、なんですってぇぇぇっ!? 私のお気に入りのパティシエを侮辱するなんて……ッ!」


 憤死寸前でプルプル震える王妃を涼しい顔で見下ろし、私はパチンと指を鳴らしました。


「さて、本題に入りましょうか。国王陛下、王妃殿下。貴方たちは先ほど、昨夜の祝勝夜会を『魔女の卑劣な罠』と仰いましたわね? ……ですが、真実は少々異なりますのよ。ほら、ご覧あそばせ」


 私は網膜ウィンドウの【アーカイブ投影システム】をフル展開いたしました。

 玉座の間の巨大なドーム天井いっぱいに、青白い光の魔力ホログラムが投影されます。


 映し出されたのは――昨夜、私が【至高のスキップ】を発動したコンマ数秒間。

 4K超高画質、360度全方位アングル、感覚再現100%のスロー再生。


『や、やあ、見慣れない麗しの薔薇よ……ぶべらッ!? くぁwせdrftgyふじこlp……ッ!!』

『殿下ぁ! なんですのこの女は……ぎにゃあああっ!? ひぎぃっ、あばばばば……ッ!!』


 大画面にデカデカと映し出される、自慢の息子の顔面どアップ。

 神具の魅了光とリリス様のフェロモンを浴びた瞬間、エリック王子と男爵令嬢が目玉を完全にひん剥き、白目を剥いて口の端からドバドバと激しく泡を吹き散らし、鼻水を垂らしながら生まれたての小鹿のように痙攣して床に転がる決定的瞬間!


「ぎゃあああああっ!? え、エリックちゃん!? 私の愛しいエリックちゃんの顔が、まるで潰れたカエルのように……ッ!?」

「ぐ、ぐぬおおおっ……! 見るに堪えんッ、消せ、今すぐそのおぞましい幻影を消せぇぇぇッ!!」


 あまりのブザマさに、王妃は悲鳴を上げて卒倒。

 国王も両手で目を覆いながら、情けなく玉座の上で縮こまりました。


「ふふっ、傑作ですわね。一国の次期国王たる御方が、ただの挨拶の瞬間に腰を抜かして失禁寸前で泡吹きですもの。……これ、王都の瓦版や闇オークション(ヤフ○ク)に『限定恥辱スチル』として流したら、金貨数万枚で即決落札されますわね? 王家の権威なんて、一夜でゴミ箱行きですわ」


「き、貴様ぁぁッ……! 悪魔めッ、聖国の名において絶対に許しはせんぞッ!」


 息子の醜態を突きつけられ、完全に戦意を喪失した国王に代わり、青筋を立てて前に出たのは聖国特使でした。

 ですが、私の本当の獲物は――最初からこの男です。


「おやおや、聖国特使様。ご立派な信仰心を振りかざす前に、ご自身の懐の心配をなさったらいかがですの?」

「……何だと?」


 私はスッと冷笑を浮かべ、マジックバッグから一束の羊皮紙を取り出して、特使の足元へ放り投げました。

 パラリと散らばる書類。そこに記されていた文字を見た瞬間、特使の顔から血の気がサーッと引いていきました。


「なっ……!? な、ぜ、これを……ッ!?」

「我がローランド領がお父様の手によって完全封鎖された後――兵糧攻めに怯えた無能な王家が、聖国へ法外な裏金を積んで手配させた『危険な空輸闇ルート』の密輸記録。そして、その物資に貼られた偽装ラベルの証拠ですわ。……ですが、これだけではありませんのよ?」


 私は一歩、特使へと詰め寄り、扇でその胸元をトンと叩きました。


「特使様。貴方を唆した『聖国教会派閥の強硬派』……あのお歴々の狙いも、すべて筒抜けですわ。あの男爵令嬢をエリック王子に宛がい、都合よくB級ダンジョンを発掘させて浮かれさせ、最強の盾である我がローランド家を王国から排除させた……。最初からこの国を弱体化させ、最終的に聖国の属国として丸ごと乗っ取るための――極めて下品なハニトラ工作でしたわね?」


(ええ、前世のエロゲーでプレイヤー全員が理不尽すぎてコントローラーを投げ捨てた、悪名高い隠しシナリオ――『聖国教会クーデター・鬱トラップルート』のフラグ! この私が履修していないとでも思いましたこと!?)


「なっ……な、ぜ……!? 貴様、どこまで知って……ッ!?」


 特使は完全に言葉を失い、膝から崩れ落ちて床にへたり込みました。

 その決定的な自白を聞き、玉座の上でガタガタと震え出したのは国王でした。


「な、なんだと……!? エリックは……我が国は、最初から聖国にハメられていたというのか……!? 偉大なるダンジョンの発見も、新しき婚約者も……すべては我が国を乗っ取る罠だったと……!?」


「ええ。貴方たちが親子揃って、都合よく踊らされていたピエロですわ」


 私は絶望に打ちひしがれる国王を見下ろし、マジックバッグからもう一枚、あらかじめ美しく清書しておいた羊皮紙を取り出しました。


「私とお父様は、すでにローランド領の独立を宣言しております。ですが……王国内の反乱などという矮小な扱いでは、少々後味が悪いですものね。――さあ国王陛下。今すぐこの書状に、国王の玉璽を押しなさいまし」


 突きつけられた書状のタイトルを見て、国王の目が丸くなりました。


「こ、これは……『周辺諸各国への、ローランド領・完全独立および不可侵の公式御触れ』……!?」

「ええ。他国へ正式に布告を出し、我がローランド公国の独立を国際法上、完全無欠のものと認めなさい。……拒否なさるなら、息子の恥辱スチルを世界中にバラ撒いた上で、聖国派閥のクーデターを放置して差し上げますわ。王家が滅びるか、我が領の独立を認めて生き延びるか――選ぶ権利は、貴方にあげてよ」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……ッ!!」


 国王は震える手で羽根ペンを握りしめ、インクを吸わせると――逃げ場のない絶望の中、羊皮紙へ署名し、ドォン!と重々しい玉璽を押印いたしました。


「……これにて、契約成立ですわ♡」


 書状を優雅に回収した瞬間、私の頭上にファンファーレが鳴り響きました。


【メインクエスト:『王城中枢部・完全制圧』クリア!】

【国家規模実績:『ローランド公国・国際承認獲得』達成!】

【次なるターゲット:クーデターを画策する『聖国教会派閥本部』】


(ふふっ……王都攻略RTA・第2セクション、文句なしの完全制圧完了ですわね。――さて、私を冤罪でハメてくれた聖国の黒幕さん? 前世の知識で、隠し口座も性癖スチルも全部把握してますのよ。……次は貴方たちの教団サーバーを、丸ごと炎上させて差し上げますわ♡)


 朝の光が差し込む玉座の間を、私はドレスの裾を翻して優雅に後にしました。

 残されたのは、泡吹き王子の幻影に震える親バカ国王と、自らの悪事が暴かれて絶望する特使の姿だけでした。



ここまでお読みいただき


本当にありがとうございます!


「コンソメは正義」と少しでも思っていただけましたら、作品下部にある


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