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サキュバスもドン引き♪


高級宿のスイートルームで、私はふかふかふわふわのソファに深く腰掛け、手鏡で自身の姿を確認しました。


(神具『夜闇の逆バニー』の粒子隠蔽に、認識阻害スキンを重ねがけした『謎の絶世美女モード』はびっくりするくらい完璧ですわね)


 テーブルの上には、金文字が躍る豪奢な羊皮紙――今宵、王城で開催される『エリック王子主催・B級ダンジョン祝勝夜会』の貴賓招待状が鎮座していました。

 昨晩、高級ブティックを買収して撒き散らした『謎の絶世美女と黄金の香料(コンソメ)』の噂は、一夜にして王城の中枢まで駆け巡ったようです。噂の美女を自慢の夜会に招いて口説き落とそうと、王子自ら買収済みのブティック経由でホイホイと招待状を届けて寄越しました。完全にこちらの敷いたレール(攻略チャート)通りですわ。


(思えば、ダンジョンの街で裏切り者のクソパーティを灰にした後、すぐに王都へ特攻せず、一度本邸へ戻って『放置モード』の起動とお父様バフを回収しておいて本当に大正解でしたわ。おかげで資金も物資もカンスト状態。……あのお父様の完全封鎖を恐れた王都が、聖国に法外な裏金を積んで『危険な空輸闇ルート』で無理やり引っ張ってきた救済物資のボロも、すでに看破済みですしね)


 聖国製のラベルを偽装してまで見栄を張る王家の底の浅さ。

 準備運動は終わりました。いよいよ本丸へ乗り込む時間です。


「リリス様、ララァ様。……行きますわよ。王都攻略RTA・メインイベントの始まりです」

「ええ。……RTA? あんたはいつもよく分からん言葉を使うけれど、好きになさい。それより、あの美味しい美味しいポテチ、まさか忘れてないでしょうね!?」

「にゃんにゃん! 美味しい匂いさせて、みんなビックリさせてやるにゃん! っていうか、美味しい匂いは自分もお腹が空くにゃん! 早く片付けて食べたいにゃん!!」


 私は「はいはい、とりま新作ポテチですわ♡」と二人に袋を手渡して手懐け、ご機嫌で足元の影へと潜らせると、夜会行きの豪奢な馬車へと乗り込みました。




 王城の白亜の大広間は、着飾った貴族たちと眩いシャンデリアの光で満ち溢れていました。

 ですが、私がエスコートも連れずにエントランスへ足を踏み入れた瞬間――広間のざわめきが、潮が引くようにピタリと止まりました。


 認識阻害スキンによる【魅力+50】の暴力的なまでの補正。

 誰も見たことがないはずの、神々しく妖艶な『謎の絶世美女』の降臨に、居並ぶ貴族や近衛騎士たちが一斉に息を呑み、道を空けます。


「……美しい。どこの国の姫君だ……?」

「あのような至高の淑女、王都で見たことがないぞ……」


 ひそひそと囁かれる感嘆の声をBGMに歩いていると、広間の中央から、ワイングラスを片手に勝ち誇った笑みを浮かべたエリック王子が歩み寄ってきました。

 そしてその隣には――昨晩ブティックで買い占めに遭い、新調できなかった型落ちドレスを着た男爵令嬢が、悔しげに唇を噛み締めながらピッタリと張り付いています。


「やあ、見慣れない麗しの薔薇よ。この王国の次期国王たる私自ら、歓迎の挨拶をしよう。我が国は今、偉大なるB級ダンジョンの発見により、未曾有の繁栄を迎えていてね。君のような高貴な女性にこそ相応しい、この私の隣で――」

「殿下! なんですのこの女は!? まさか昨晩、ブティックでわたくしを愚弄した……!」


 鼻の下を伸ばしてキザに口説きにかかる王子と、キーキーとヒステリックに喚き散らす男爵令嬢。


(出たわね。RTA走者が最も毛嫌いする『スキップ不可に見える長尺痴話喧嘩イベント』……! テンポが悪くてやってられませんわ!)


 私は扇の陰でニチャリと口角を吊り上げ、網膜のシステムコマンドを即座に叩きました。


【スキル発動:至高のスキップ(95%カット)】――ポチッとな♡


 視界が一瞬、暗転(ブラックアウト)しました。




「――ちょっ!?ぶべらッ!? くぁwせdrftgyふじこlp……ッ!!?」

「ぎにゃああああっ!? ひぎぃっ、あばばばば……ッ!!?」


 暗転が明けたコンマ一秒後。

 大理石の床の上には、期待通りの地獄絵図が広がっていました。


 エリック王子と男爵令嬢が揃って床に突っ伏し、仲良く白目を剥いて口から激しく泡を吹き散らし、生まれたての小鹿のようにガクガクと全身を痙攣させていたのです。


 神具『夜闇の逆バニー』からゼロ距離で放たれた超濃縮の強制魅了と、影から漏れ出たリリス様のフェロモンを脳天に直撃させられた結果、耐性のない二人の脆弱な精神回路は同時に焼き切れた模様です。聖国の味気ない精進料理で免疫が落ちていた令嬢も、あっけなくオーバーキル。寄り添うように広がる二人のヨダレが実に芸術的でした。


「「「きゃああああああっっっ!? で、殿下ぁぁぁ!? 令嬢様ぁぁぁ!?」」」

「曲者だッ! 殿下に何をした魔女め!!」

「包囲せよ! 一歩も動かすなッ!」


 広間中が大パニックに陥る中、抜剣した近衛騎士団と、聖国から派遣されていた白銀の重装甲兵、異端審問官たちが数十人規模でなだれ込んできました。

 瞬く間に私を中心に形成される、幾重もの分厚い包囲網。突きつけられる無数の切っ先。


 だが、その瞬間――私の脳内で、前世の深夜レイドバトルの記憶がパァンと弾け飛びました。


(あははっ! あは! あはっ! ハァハァ! この敵対整理の初動パターン! 増援の湧きポイントに、ヘイトの初期化ルーチン! こんなの、前世で何千回も周回したイベントボスの取り巻き処理で経験済みですわーーッ!!)


 脳汁がドバドバと溢れ出し、私のゲーマーテンションは一気に最高潮(大サビ)へ突入しました!


「ひゃっはー! 祭りですわ! イクわよ! わたしもある意味イクわッ! 雑魚モブども、まとめてトレイン(引き撃ち)してハメ殺して差し上げますわよーーッ!!」


 私はドレスの裾をたくし上げ、広間の北西にある第4番の飾り柱へ向けて猛ダッシュ!

 当たり判定の隙間に滑り込んでは、壁に向かって超高速で屈伸とジャンプを狂ったように連打!

 エロゲー特有のガバガバ判定を突いて物理座標を消失させ、敵の誘導AIを限界までバグらせて同士討ちを誘発させます!


「ぐわっ!? 消えた!? どこだ、足音は頭上――ぎゃああッ!」

「押すな! 盾が柱に挟まって抜けんッ!?」

「殿下を踏むなッ! 誰かこの女を止めろーーッ!」


 目にも留まらぬ奇行ステップで騎士たちを翻弄し、高笑いする私。

 その光景を、影の中から見ていたリリス様とララァ様が、半歩引いた目でドン引きしながら凝視していました。


「……ねえ、ララァ。あの子、何と戦ってるの? 動きが気持ち悪すぎて、私ちょっと鳥肌立ってきたんだけど……」

「ディードの顔が完全にヤバい奴のソレだにゃん……。サキュバスよりよっぽど邪悪だにゃん……」

「「……アチキ(妾)ら、いらないじゃん!?」」


 すっかりスンとして戦意をなくしたサキュバスたちに、トランス状態の私はまったく気づいていません。

 裏技のゴリ押しで敵陣をハメ殺しかけた――その時。


「怯むなッ! 隊列を組み直せ! サキュバスの加勢はないと見た、あの魔女だけを『聖別結界』で封殺せよッ!!」


 さすがは聖国の精鋭。サキュバスたちが手を出してこないと見て取った重装騎士たちが盾をガチリと噛み合わせ、周囲から青白い結界の光を立ち上げました。物理バグの抜け道を、数と結界のゴリ押しで強引に塞ぎにかかってきたのです。


(……ッ! いけませんわ、当たり判定の逃げ場が塞がれます……!)


 敵の気迫と殺気が肌を刺す。

 その瞬間、私はピタリと奇行を止め――スッ、と目を閉じました。


「…………すーーーーーー、はーーーーーー」


 ゆっくりと、深く息を吐き出す。

 血走っていた視界から余計な熱が引き、頭の芯が氷のように澄み渡っていきます。


(……危ない危ない。久しぶりの実戦で、少々脳汁が出すぎてしまいましたわ。実況配信なら間違いなくBAN対象の奇行ですわね。……ふぅ)


 パチリと目を開けた私の瞳には、もう狂気はありません。

 あるのは、相手の息の根を最も効率よく止めるための、冷徹なまでの『計算』だけ。


「……リリス様、ララァ様。お待たせいたしましたわ。おふざけはここまでです。――効率重視で、一掃(デリート)して差し上げますわよ」

「――ええ、やっとまともになったわね。無様な羽虫ども、跪きなさい」


 影からフワリと姿を現したリリス様が、冷徹な瞳で妖艶な手をかざし、全方位へ【SSR級・絶対魅了波動】を一閃させました。

 結界を維持しようとしていた重装兵たちが、その圧倒的な美しさと魔圧に当てられ、「ああ……女神様……ッ」と恍惚の表情を浮かべて次々と床に額を擦り付けます。


 さらにそこへ、ララァ様がわがままボディを躍動させて飛び出しました!


「にゃんにゃん! 特製コンソメボム、いっくよー!!」


 ララァ様がマジックバッグから放り投げたのは、放置報酬のポテチ粉末を超高密度に圧縮した特製スパイス弾!

 パァンッ!と弾けた瞬間、広間全体に暴力的かつ凶悪なまでの『極上コンソメの香り』と濃厚な煙幕が充満しました!


「ぐわっ!? な、なんだこの強烈に美味そうな匂いは……ッ!?」

「腹が……腹が減って力が入らんッ! 聖国のパンなど食っている場合ではないッ!!」


 味気ない配給で飢えていた兵士たちは、胃袋を直撃するジャンクフードの暴力的な香りに戦意を完全喪失し、涎を垂らしてその場にへたり込みました。完全制圧完了です。


 阿鼻叫喚と泡とヨダレの海と化した夜会広間を、私はドレスの裾を翻して悠然と後にしました。

 その瞬間、私の頭上にファンファーレが鳴り響きます。


【メインクエスト:『愚王子の鼻っ柱をへし折れ』クリア!】

【初回限定&早期クリア(RTA)特典獲得!】

・特典①:『王族失脚・限定スチルCG(王子&令嬢ダブル白目痙攣&泡吹き差分あり)』

・特典②:『全年齢版規制解除コード:極(布面積さらに縮小)』

・特典③:神具強化素材『黄金のコンソメ結晶』×1


(ウヘヘ……初回限定特典、キタコレですわ♡)




 宿の最上階、バラの花びらを浮かべた豪華な泡風呂に浸かりながら、私は至福の吐息を漏らしました。

 両脇には、ほかほかのお湯に蕩けそうな顔をしているリリス様とララァ様。


「ディード、お風呂気持ちいいにゃん! ポテチも美味しいにゃん!」

「……ふふ、あんたの無茶苦茶な奇行、見ていて寿命が縮むかと思ったわよ。でも、あの二人の顔は傑作だったわね」


「ええ、ええ、まさにそれですわ! リリス様、ララァ様、今から一番のメインディッシュを堪能いたしましょう!」


 私は湯船から上がり、濡れた肌にバスローブを羽織ると、網膜ウィンドウの【アーカイブ機能】を意気揚々と起動しました。

 呼び出すのはもちろん、先ほど【至高のスキップ】で飛ばした空白の数秒間です。


(さあ……4K高画質、感覚再現100%、スロー再生でお出でなさいまし!)


 空中に投影された高精細ホログラムの中で、自信満々だった王子とキーキー喚いていた男爵令嬢が、私の神具の輝きとリリス様のフェロモンを浴びた瞬間――目玉をひん剥き、顔面を真っ赤に染め、情けなく舌を突き出して仲良く泡を吹いて倒れ込む決定的瞬間が、コマ送りで鮮明に再生されました。


「ぶふっ……! あははははっ! 見てくださいまし、この芸術的なまでのダブルブザマ面! 一国の王子と婚約者が、揃ってギャグマンガのやられ役の顔ですわ!」


 ポテチをつまみながら、二人の絶望顔を何度も巻き戻してゲラゲラと笑う私。

 エリック王子、男爵令嬢。貴方たちが切り捨てた女の手によって、貴方たちの誇りは今宵、完全に地の底へ失墜いたしましたのよ。


【システム通知:王都中央部での混乱指数 臨界点突破】

【次なるターゲット:聖国特使および王城中枢部】


(王都攻略RTA・第1セクション、文句なしのゴールドトロフィー(完全勝利)ですわね♡)


 夜風に乗って漂う香ばしいコンソメの香りが、王国の終わりの始まりを告げていました。




ここまでお読みいただき


本当にありがとうございます!


「コンソメは正義」と少しでも思っていただけましたら、作品下部にある


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