匂いだけなら♪
南門を無事に突破した私たちは、まずは馬車を王都随一の高級宿へ乗り付け、最上階のスイートルームと一緒に駐車場ごと即金で押さえました。
一息ついて宿を出ようとしたその直後――私の網膜に、待望のシステムウィンドウがポップアップしました。
【ログインボーナス獲得:使い捨て認識阻害スキン・カード『蒼白の霧』×3枚】
・効果:周囲から正体を特定されず「見たこともない高貴な絶世の美女」として認識される。魅力値に+50の補正。
(……キタコレ! むほー♡まさに無課金ガチ勢が求める『完全匿名(匿名垢)の煽りプレイ』用アイテムですわ! これを神具『夜闇の逆バニー』の粒子隠蔽と重ねがけすれば、エリック王子ですら私を『ディード』だとは夢にも思わず、あまりの美しさに平伏するバグ状態……いえ、無敵モードになりますわね♡)
私は早速カードを消費し、影に潜むリリス様とララァ様を引き連れて、夜の王都へと繰り出しました。
通りに並ぶ「Bランクダンジョン発見! 王国繁栄の象徴!」という旗は、誇らしげな文句とは裏腹に、手入れもされず無様に色あせています。
(あらあら……。お父様の経済封鎖、思った以上に効いていますわね。市場の屋台は一見、商品が並んで活気があるように見えますけれど……)
私は扇で口元を隠しながら、前世のショップ店長としての「職業病」とも言える鋭い視線で商品を走らせました。
(……見つけましたわ。あの並べられた保存食の箱。表面には『王国Bランクダンジョン産』のシールが貼ってありますけれど、角が少し浮いていますわね。無課金ガチ勢の私でなきゃ見逃しちゃう裏取引の痕跡、いっちょ確認ですわ♡)
影からリリス様の魔力で商品を一瞬だけ手元に引き寄せ、シールの裏側をめくってみれば――そこには聖国特有の『魔力封印シール』の剥がし跡と、小さな聖国の刻印が残っていました。
(やっぱりですわ。Bランクダンジョンで絶好調を装いながら、実態はお父様の封鎖で干上がり、聖国から高値で物資を買い叩いて凌いでいる。表面上だけ取り繕うなんて、まさに無能な王子のやりそうな『仕様』ですわね♡)
ですが、このカードはまだバラしません。王都が「自分たちは大丈夫だ」と信じ込んでいるその鼻柱を、最も残酷な瞬間に叩き折るために温存しておきましょう。
そのまま、かつて私がひいきにしていた高級ブティックへ向かうと、案の定「B級ダンジョン成金」としてふんぞり返っている男爵令嬢の姿がありました。
「何ですって!? これが最新作? 生地がゴワゴワして、色味も聖国の修道女みたいに地味じゃないの! もっと『王国繁栄の象徴』である私にふさわしいドレスを出しなさい!」
店員に喚き散らす男爵令嬢。そのドレスは、かつての私が在庫リストで管理していた「昨シーズンの売れ残り」以下の代物です。私はフードを脱ぎ捨て、虹色の粒子と認識阻害の光を纏いながら、彼女の背後へ優雅に歩み寄りました。
「あら……。そのドレス、裏地の隅をよくご覧になって? 聖国からの『救済用物資』という刻印を、急いで剥がした跡がございますわよ。無課金ガチ勢の私でなきゃ見逃しちゃう、哀れな見栄っ張りの偽装ですわね♡」
「な、なんですって!? 貴女、誰よ! 私を誰だと思っているの!」
振り返った男爵令嬢は、私の顔を見て硬直しました。認識阻害スキンの効果で、彼女の目には「自分よりも遥かに格上の、神々しいまでの美女」が映っているはず。それが自分が追放したディードだとは、微塵も気づいていません。
「私はただの通りすがりの、独立国家の者ですわ。……お可哀想に。ローランド辺境伯の経済封鎖で干上がり、聖国のゴミを宝物だと思い込まされているなんて」
「独立!?ふぁ!?それに聖国なんて関係ないわ! これは最新の……っ!っ言うか無礼者め」
「ふんぬ!無理をしなくてよろしいのよ? 聖国の無味乾燥な食事のせいで、お肌のツヤもやばやばやばですわ。ララァ様、彼女に『本物の富』の香りだけでもお裾分けして差し上げて?」
「にゃんにゃん! ディード、分かったにゃん!」
影から飛び出したララァ様が、わがままボディを揺らして、マジックバッグから取り出した『魔導ポテトチップス・コンソメ味』の袋を勢いよく開けました。
暴力的なまでの油分、塩分、そして芳醇なコンソメの香りがブティック内を浄化するように満たしていきます。聖国製の質素な食事しか口にしていない彼女にとって、それは抗いがたい「魔毒」の誘惑。
「……っ!? な、何その匂い……! それを、それを私に寄越しなさい! 私は王子の婚約者よ!」
必死に手を伸ばす彼女に対し、私は扇を広げて不敵に微笑みました。
『婚約者でしたか。失礼しました、、だが断る』
静寂が落ちる中、私は店員に放置報酬で貯まった山のような金貨(DP)を差し出しました。
「店員さん、このブティックの商品、在庫ごと私がすべて買い占めますわ。明日からは独立領地の直営店として、私が認めた方にだけ本物の商品を販売してくださいまし。……あ、そこの『聖国のカカシ』さんは、出入り禁止でよろしくて?」
「な……っ、買収……!? 待ちなさい、そんなこと……!」
「あら、認識阻害の効果で私の声が届きにくくなっておられるのかしら? アーカイブの画質も最高ですし、そろそろ行きましょうか。リリス様、ララァ様」
腰を抜かして座り込む男爵令嬢を、私は気怠げに冷めた目で見下ろしました。
(身バレなしで一方的に煽り倒し、富の暴力で拠点を奪う……。ウヘヘ、王都攻略RTAの滑り出しとしては、あり寄りのアリですわね♡)
【システム通知:王都での影響力上昇】
【新規フラグ:謎の絶世美女と『黄金の香料』に関する噂 拡散中】
私は不敵な笑みを浮かべ、コンソメの香りを残したまま、夜の王都の闇へと消えていきました。
ここまでお読みいただき
本当にありがとうございます!
「コンソメは正義」と少しでも思っていただけましたら、作品下部にある
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