表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンジョイ勢のなんでもない日常  作者: SIN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/10

7 不意の来客

 色々あったが無事に成功した防衛任務の後、倉庫整理をしてからギルドを出るとポーションを飲みながら俺を待っていたらしいリーダーが、後ろを着いて来ていた赤マントを付けた赤いトリの着ぐるみを見て吹き出した。

 任務開始前、塔の上からだったとはいえその姿を見ていたはずなのに、こうして真正面から見ると破壊力ってのが違うんだな。

「任務はどうだった?」

 防衛任務の報酬は、ゴールドで支払われるのが普通だ。

 あれだけのモンスターを倒しているんだから、アイテムや素材もわんさかとあるはずなんだけど、ギルドは大量にモンスターが押し寄せてくる中で、倒したモンスターがいつまでも戦場にあっては邪魔だろう。という建前で倒されたモンスターをすぐに回収してしまう。

 それなら倒した後爆発するモンスターも、爆発する前に回収してくれたらいいのにと思うが、そこまで素早く回収する技術はないそうだ。

 ともかく、アイテムや素材は全てギルドのものになる。

 で、そこで手に入ったアイテムや素材はオークション形式で生産系の冒険者や一般の商人に販売され、得られた売上金が防衛任務に参加した冒険者に分配される。

 分配は皆一律にという訳ではなく貢献度によるとのことだが、その計算方法は公開されていないので謎だし、アイテムや素材を売った合計金額の公表もないので、まぁ相当な額をギルドが中抜きしてるんだろうなと。

 とはいえ、防衛戦で塔が破壊された時にはギルドが塔の建て直しやら瓦礫の撤去やらをするんだから、納得ずくの上だ。

「クリア報酬としてゴールドとポーション貰った位だ」

 それが今飲んでいたポーションか、4分の1ほどは吹き出してたみたいだけど。

「あ、えっと……こんにちは」

 赤いトリの着ぐるみがピョコンと頭を下げて挨拶すると、リーダーは吹き出しそうになるのを物凄い表情で耐えてからニコリと微笑み、

「始めまして、こんにちは。レイスが長々と世話になったね」

 と握手を求めた。

 リーダーが俺の名前を言ったことで思い出したけど、藍とは自己紹介もまだだったな……でもパーティーを組んでから1時間は経ってるんだから今更か。

「レイスって名前だったんだ」

 周囲にいる冒険者の情報なんてのは通信機を使えば装備品の情報まで細かく見られるというのに、そんな労力すら使われてないってことは、コレは完全に脈なしだな。

 そもそも何度か発言しているんだから通信機の履歴にはしっかりと俺の名前と発言内容が記載されてる筈……あぁ、そっか、ブラックリストに入れた奴の発言は表示されないシステムだっけ。

 脈なしどころか、ブラックリストとは。

「部屋に戻ってるわ」

 失恋したんだな……まだ藍がどんな人なのかも知らないのに、ただ嫌われているということだけが分かるなんて。

 今日はもうゆっくり休んで、明日からまた素材とかアイテムを仕入れに行こう。

 パーティーを解散させると、通信機のパーティーメンバーから藍の名前が消え、変わりに組んだことのある冒険者の欄に表示された。

 けど、藍の通信機に俺の名前は残らないんだ……。

 双小剣使いが、そんなに悪いのかよ。

 はぁ、もういい、

 終わり終わり。

 自室に戻り、キッチンでコップ1杯分の水を飲んだ後寝室に入り、装備品を外してベッドにダイブする。

 流石はモンスターの骨組みベッドと高スキル持ちの生産職がいる世界、前世の軟弱な安価パイプベッドとは違いギシリともいわない。

 ボンヤリと窓の外を眺めていると、テーブルに置いた通信機から微かにリーダーの声が聞こえてきた。

 ベッドからテーブルまでは手の届く範囲ではなく、リーダーの声ということは分かっても内容までは聞き取れない。

 傷心休暇はとらせてもらえない感じか……別に、良いけど。

 ログを見て内容を確認しようとベッドから起き上がったところで、

 ピーンポーン

 と、ドアベルが鳴った。

 ついさっき通信が来たと思ったら、返事が遅いってことで部屋まで来た?いやいや、このスピード感だと、通信機を腕にはめていたとしても返事をする前に部屋に来てそうだ。

 そうか、今から部屋に行くとか、部屋の前に着いたとか、そんな類のことをいっていたんだな?

「なんだよ、急な用でも……」

 リーダーが来たと疑わなかった俺は、楽な格好のまま玄関のドアを開けに行ったんだけど、そこに立っていたのは真っ赤なマントをした赤いトリの着ぐるみで……。

「えーっと……お邪魔します」

 俺の部屋になんの用事があるというんだろうか?

 延々嫌味でも言って帰っていくつもりなのか?

 そもそも俺の部屋をどうやって知った……まぁ、これに関してはリーダーが教えたんだろうけど。

 そうか、さっきの通信は藍が今から部屋に行くぞとか、部屋の場所を教えたぞとかそういう感じの連絡だったんだな?

 にしても通信から実際に尋ねてこられるまでの時間が短過ぎではあるんだけど。

 リーダーも一緒に来ているなら納得できるんだけど……1人だな。

「い……いらっしゃい……えっと、なにか飲む?」

 あ、ブラックリストに入ってるならこういう口頭での会話も相手に届かなくなるんだっけ?

 あれ?

 だとしたら俺は今日1日どうやってコミュニケーションをとってたんだ?

 普通に喋った……よな?

 もしかして、パーティーに入っていれば会話が出来る……いや、ファルガディスの眷属と戦った時とか捕縛トラップのときはパーティーを組んでなかったのに会話ができていた。

 まさか!

 共闘するのに不便だからってその時だけブラックリストを外していた感じか!

「お気遣いなく」

 で、今も尋ねていく相手と会話ができないのは不便だからブラックリストから外したと。

 会いたくもないわ!って感じならこうして訪ねてこないだろうし、面倒な作業もしないだろうから、これは完全に脈なしって訳ではなくて1%くらいはあるんじゃないか?

 だとしたらおもてなしだ!

 しかしついさっきドリンク提供は断られたしな……。

 ここに来たのがリーダーならポーション2本位で大喜びしてくれるんだろうが、相手は赤いトリの着ぐるみとはいえエリート双銃器使いで、失恋したのか首1枚で繋がってるのか曖昧な相手。

 赤いトリの着ぐるみは、キョロキョロと頭部を動かして部屋の中を見渡した後、トコトコと歩いて玄関近くの壁際に立って通信機でなにか調べ始めた。

 もしクラン員と会話をしているのだとしたら、その会話はブラックリストに入っていないのなら聞こえるはずだから、なにかを見ているというのは確かだ。

 なら邪魔しないように話しかけない方が良いよな……。

 本当に、なにをしに来たんだろうか?

 失恋したと思っていたこっちとしては、その早とちりが即解消されたんだから良かったけどさ。

 俺の部屋は玄関を入ってすぐにダイニングキッチンがあって、その奥に2部屋ある2DKの間取りで、部屋の1つは寝室に、もう1つは倉庫に入りきらなかったアイテムや素材などを置いている。

 なのでお客さんをもてなせる部屋がダイニングしかないんだけど……どうしようかな、歴代の愛用双小剣を飾っているだけで他にはキッチン台とテーブルセットと暖炉くらいしかないから、エリートが楽しめる要素がなにもない。

 当の赤いトリの着ぐるみは、壁側に立ったまま通信機に視線をとしていて、特になんの声もかけてこない。

 えっと、えぇっと……。

 そうだな、とりあえず軽装を改めないと。

 俺がこんな格好だから気を使って通信機を見ていたのかもしれない!

 寝室に戻って軽装を改めてダイニングに戻り、自分だけ椅子に座るのもどうかと思って窓側に立って外の景色を眺めたり、横目でチラチラと赤いトリの着ぐるみを見ているけど……静かだ。

 そうだ、今のうちにさっきのリーダーの通信内容をログで確認すればいいんじゃんか。

 通信機を起動させてログを読んでみれば、なんでも藍が俺に聞きたいことがあるとのことで部屋の場所を教えて欲しいと頼まれたそうだ。

 リーダーは俺の事情を知っている上に俺と藍がパーティーを組んでいたことで「フレンドだしいいかと思って」とか言ってる。

 1時間ほど時間を潰した後、リーダーも俺の部屋に来るとのことで、先に話を振ってあげて欲しいという言葉で締めくくられた。

 俺から話しかけろと!?

 チラリと赤いトリの着ぐるみを見れば、まだ熱心に通信機を眺めているから話しかけにくい。

 「あー……椅子。そう、椅子使って」

 とりあえず無難な選択として立ったままだった格好を改めてほらうため、椅子を引いてチョイチョイと手招きをしてみた。

 「……おじゃまします」

 通信機から視線を外した赤いトリの着ぐるみは、一直線にこちらに向かってくると2頭身の着ぐるみで起用に椅子に座って見せた。

 あっちのソファーを進めればよかったと今更思いついたところで遅いな。

 それにソファーは2人掛けなんだから、そこで話を聞くとなると隣に座るというとんでもないハードルの高さになってしまう。

 えっと……とりあえず頭の中を整理するためにも一旦キッチンに避難しよう。

 さっき飲み物は断られたけど、お客さんを差し置いて1人でコーヒーを飲むのも気が引けるから、一応2人分淹れて出そう。

 お湯を沸かし、コーヒー豆を挽いていると、コーヒーの良い香りがキッチンに広がった。

 待てよ……着ぐるみを着ているんだからそもそも飲食は出来ないんじゃあ……。

 そういう理由で飲み物を断った可能性があるんだけど、やっぱり1人で飲むのは違う気がする。

 「コーヒー、良かったらどうぞ」

 テーブルの上にコーヒーを置き、赤いトリの着ぐるみと対面する位置に座ると、ジィっと真正面から見られる構図になった。

 表情が分からないからなにを考えているのかも分からないし、喜怒哀楽のどれかも分からない。

「……ありがとう」

 赤いトリの着ぐるみはカップを手に持つと、器用に着ぐるみの口の中にカップを入れて飲み始めた。

 あぁやって飲むのか……そうか、着ぐるみでも緊急時にはポーションを飲んでるんだから、普通に飲食できるんだな。

 なんだ、考えて損した。

「リーダーから聞いたんだけど、話しがあるって?」

 エリート双銃器使いがなにを聞きたいのかは分からないが……分かることならバシッと格好よく答えたい。

 コトリとコーヒーカップをテーブルの隅の方に置いた赤いトリの着ぐるみは、カバンの中からいくつかの素材を取り出してテーブルに並べた後、モンスターから拾った装備品と思われる傷だらけのショルダーアーマーを出した。

 「フュードから出たアイテム。トライアルに参加してたのに報酬が全くないのはおかしいから……少ないけど、これ」

 俺が報酬を放棄したあの時の……いや、別に気にしてないし、そもそも言われるまで忘れてたし。

「放棄については俺から言い出したことだから気にしなくていいよ。それよりも折角良い素材が手に入ってるんだから個人商店で売った方が良いって」

 テーブルに置かれているのは「取ってこい」系のサブクエストで要求されることのある中級モンスターの皮がいくつかと、生産系の冒険者には人気のフュードの爪が1枚。

 もうこれだけでも十分な儲けになるというのに、ついでにとばかりに出されたショルダーアーマーを通信機で見ると”フュードの加護”というステータスが付いていた。

 ”フュードの加護”は近接攻撃職にとっては戦力の底上げに役立つ、攻撃力上昇とHPの最大値の上昇の効果がある。

 このショルダーアーマーをメインで使う武器や防具の強化材料にすると、確率で継承させることができる。

 装備品につけられるステータスの数は、俺が見た中で最大で4スロット。

 もしボス級モンスターの加護の付いた4スロットなんか手に入った日には……俺は倉庫内がスカスカ状態でもプレミアム冒険者になるためギルドに金を払うだろう。

「プレミアム冒険者じゃないし」

「え!?あ、じゃあ自分の取り分は全部倉庫の中に?でもすぐに倉庫パンパンにならない?」

 すごく嫌な予感がする……。

 個人商店に出品しているなら、捨て値のような安い価格で販売してるんだろうなという悪い想像だけで済んだんだけど、個人商店の許可もない非プレミアム冒険者だから、まさか、相場の4分の1ほどの値段しか付けないことで有名なギルドの買取カウンターにて売ってしまってるんじゃないかという最悪な想像をしてしまう。

「え?そりゃあギルドの買取……」

「ノォォォオオォオオオ!」

 最後まで聞きたくないっ!

 なんというもったいないことをしてんの?

「びっくりした……」

 それは俺のセリフだ。

「何故そんなこと……」

 生産系の冒険者達が1ゴールドでも安く素材を手に入れるため、攻撃職でもないのにダンジョンまで素材集めに行くという危険を冒しているというのに。

 モンスターを軽く倒せるエリートは、わざわざ相場よりもかなり高めで生産職に素材を販売するギルドに商品提供をしているなんて。

「だから、プレミアム冒険者じゃないんだって」

 だったら、

「なろう。この素材を売るだけで物凄い儲けになるから」

 面倒だというなら適当な他のエリートたちがやっているように適当な価格で売ってくれたら、俺が買う……いや、それだとギルドのカウンターで売った方が設けにはなるのか……。

「それは分かるんだけどさ……リーダーに指名された人しかプレミアムになれないんだ」

 コスプレを強要するだけにとどまらず、プレミアム冒険者になることにまで口出しをするのか?

「指名って……」

 なんのために?

「クラン倉庫にある素材を売る係だよ。売り上げは全てクランの資金になるからいくら商店で稼いだところで空しいだけだし」

 にしても、藍のところのリーダーは”指示出し冒険者”のようだ。

 それなら確かにギルドの買取カウンターに持ってくしかないのか……にしてももったいないから、他になにか良い方法を考えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ