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エンジョイ勢のなんでもない日常  作者: SIN


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5 捕縛トラップ

 あろうことか、かなりしょぼいアイテム数個しかドロップしなかったファルガディスの眷属戦の後、無言のままこっちを向いている赤いトリの着ぐるみ1匹。

 中身は藍なんだけど、着ぐるみだから表情が読み取れないどころかこっちを向いているけどどこを見ているのかも不明。

 苦労して倒した割に報酬も少ないし、少し機嫌が悪いのかも?もしかしたら通信機を起動させてクラン員と会話をしてる最中かもしれない。

 こんな雰囲気の時にフレンド申請するのは酷く間違ってるなんてことは俺でもわかる。

 ならどうしようか……。

 ここで待ってるのも可笑しな話だから狩に戻るとしよう。

 それでしばらくしたらボス部屋に行って、さっさとクエストを終わらせて帰ろう。

「うぉーい、まだ狩りしてんのか?」

 走り出してしばらく、通信機からリーダーの声がした。

 あまり一つの狩場に籠らない俺がかれこれ2時間も遺跡のダンジョンにいることは、こうして狩場にいるのかという確認を取られるほどには珍しいらしい。

「ウロコの盾が集まらねーんだ」

 そもそも2時間の狩りで”ウロコの盾”を持ったモンスターを2匹しか倒せていないどころか、目当てのモンスターよりもボスの方が出現率高い。

 さらには、それぞれのボスから得られた報酬はかなり少ない……フュード戦に至っては報酬を放棄したからトライアルのクリア報酬しかもらえていないという不味さ。

「クランオーダーのドロップ系はせんで良いって」

 クランオーダーの「持ってこい」系には今やってるモンスターから手に入るものと、極まれにダンジョン内に生えているキノコやら植物の採取するものがある。

 報酬としてもらえるポイントは当然モンスターから手に入るものの方が圧倒的に多いものの、採取系は上手くいけば30分以内に終わらせることも出来るから、クリアまでの時間を考慮すると圧倒的に採取系の方が良い。

 リーダーの言うドロップ系とは、当然モンスターから入手するタイプのクエストのことだ。

 しかし、報酬の多いクエストをあっさりと切り捨てるその言い方……クランエッグを孵化させる気はないのか?

 それに関しては同感なんだけど、本拠地の引越しには興味がある。

 普通はゴールドを支払って本拠地の引っ越し許可を取り、ゴールドを支払って本拠地を借りて初めて引越しが出来るようになるんだけど、各クラン1回限りでクランポイントでの引越しが出来る。

 もちろん、現在の本拠地から遠くなればその分必要ポイントは多くなるんだけど、俺が興味あるのは海岸エリア。

 海と陸の間にあるエリアで、海からやってくるモンスターを見張る役割を担う責任感のある場所ではあるけど、1年を通して過ごしやすいし本拠地からそのまま海水浴に勤しむことも可能だ。

 今本拠地があるのは森林エリアだから、引っ越しには多分……海岸エリアの中でも不人気な場所を選んだとしても5000ポイントはかかる。

 自分で5000ポイントを貯めきればリーダーも文句なく引越しに同意してくれるはずだけど……果てしないなぁ……。

 クランオーダーで最も好ポイントがもらえる種類は、ボス級モンスターから入手できるアイテム入手で、ボスの強さに合わせて100~200ポイント。

 ダンジョンでの出現率が高いボスは簡単な分類で、さっき俺と藍が倒した魔族系のモンスターになると難易度が跳ね上がる……と言ってももらえるポイントは200程度なんだけど。

 後100ポイントあれば引っ越しできる!良い物件は見つかったけど他にも入居したいと言ってる人がいる!急がなければ!って時には、最後の手段として個人商店で売られているオーダー品を買うって手もあるにはある。

 目が飛び出るほどの高額だけど。

 とりあえず今日は引き上げるか……いや、折角だしボス部屋まで行ってから帰ろう。

「ボス部屋確認したら戻る」

 リーダーとの会話を終わらせ、通信機でボス部屋へのルートを確認してから走り出した矢先、ナビゲーターがなにかの気配が近づいています。と。

 走り出しているのは俺なのだから、なにかの気配に向かってこちらから近付いている……ということはトラップ系のトライアル予告だな?

 立ち止まり周囲をよくよく見まわしてみると、ズズズズズと障害物も関係なくゆっくりと、だけど一直線にこちらを向かって来る闇の魔力の塊が見えた。

 あれはモンスターの攻撃魔法とかではなく空気中に発生した闇の魔力が集まってできた塊で、その正体は闇属性の捕縛トラップ。

 やっふぉい。

 個人的なことなのだが、俺はこの捕縛トラップが大好きだ。

 闇属性の捕縛トラップには他ではない特徴があって、捕獲した冒険者の動きをその場で封じるのではなく、ダンジョン内の最も闇の気配の強い場所に瞬間移動させてからそこで閉じ込めるための檻状に変化する。

 檻状ではあるが横幅と縦幅と高さがそれぞれ2メートルくらいはあって、至って普通に動くことができる。

 しかし、闇の気配が強い場所ということは結構なモンスターが溜まっている場所ということにもなるので、一瞬のうちに四方をモンスターに囲まれた状況に陥る。

 冒険者を捕まえる目的の檻ではなく、モンスターから逃げられなくするための檻なのだろう。

 そのため、実はこの捕縛トラップトライアルに捕まったエリートたちの生存率はかなり低く、トライアルの成功率もまたかなり低い。

 捕まった冒険者が戦闘不能になると、例えすぐに復活スクロールを使って起こしたとしてもトライアルとしては失敗扱いになるためだ。

 戦闘不能になってから起こされたエリートの、トライアルが失敗になった時のエリートの言い訳を数えきれないほど聞いてきただろう闇属性の塊は、飛び込んだ俺を捕獲しボス部屋に近い平原に瞬間移動し、そこで檻状になった。

「トライヤル発生です!」

 ナビゲーターのキンキンとする声の後、ドスンと地響きがした。

「うわぁ……」

 檻の向こう、左程離れてはいない場所に、さっき倒したバルドカラパスの変異腫、ハドカラパスが降り立ち、こっちを睨んでいる。

 変異腫は別名レア種とも呼ばれるほど希少性が高くてトライヤルクリア後の報酬も多い上に、持っている物も普通種とは少し違うデザインで色も違うから、入手できればどれだけの高値が付くか……。

 まぁ、ハドカラパスは武器を使って攻撃するモンスターではないので、甲羅とかウロコとか牙とか、そういう倒しても残る素材を持てるだけ削ぎ取るしかない。

 巨大なモンスターを丸々1体分素材として持ち帰ることができればいいんだけど、そうはギルドが許さない。

 さっきフュードを倒した後その躯は消えてしまったが、なにも空気分解されたとかそういうのではない。

 モンスターが自身の魔力で作った武器や防具が残る可能性はかなり低いけど、その躯はちゃんとした実体があるのでしっかりと残る。

 ならどうして消えたのかって?そんなのはギルドがトライアル発生からしっかりと認知していることから察せると思うけど、討伐が完了した後ワープ機能を使ってモンスターを回収してるんだ。

 一般的なモンスターに関しては、食料として使える個体以外は流石にいちいち回収はしていないが、ボス級モンスターは間違いなく回収される。

 その後は丁寧に解体され種類ごとに分けられ、その後は生産系の冒険者に素材として”販売される”。

 ウロコ、爪、角、牙、皮、毛、骨はもちろん、舌や眼球、血液まで余すことなく素材として活用される。

 だからバルドカラパス1体だけでもどれだけギルドの儲けになるか想像もつかない。

 ダァン!

 ハドカラパスが本格的に攻撃をしてきた。

 直接攻撃なら檻のお陰で安全だが、問題は遠距離攻撃もしてくるってこと。

 マズイ。

 早くこの檻を壊してしまわないとこんな限られた場所でハドカラパスの攻撃をかわさなきゃならないし、なによりこちらから攻撃することができない。

 それよりも先に檻の中にいる小型モンスターの一掃が先か?

 いや、攻撃してくる奴から確実に倒していけばいい。

 愛用の「朧月」をグッと握りしめ、イギビアを発動させ1番近くにいたモンスターに向かってスキル”五月雨切り”で攻撃を始めた。

 五月雨切りでは双小剣の素早い攻撃1発1発にしっかりと”ソニックスラッシュ”をのっけているので、もしモンスターに当たらなくても檻には当たる。

 檻は攻撃していくと耐久性が落ちて壊せるのだが、実はダメージによって耐久性が落ちるのではなく受けた攻撃の回数による。

 つまりは攻撃力は高いけど攻撃速度の高くないカタナでは檻の破壊に時間がかかるし、手数は多いけど遠距離攻撃職の双銃器では檻の中という至近距離に沸く多数のモンスターを捌ききれない。

 近距離職だけども攻撃スピードが高い職は、なんでしょうか?

 はい正解。双小剣使いです。

 ハドカラパスの遠距離攻撃を避けながら近くにいるモンスターを1匹ずつ確実に倒していると、随分早くに檻が壊れた。

 あまりの速さにちらりと周囲を確認した視線の先には、赤いトリの着ぐるみが1匹。

 まだ、いたのか。

「ありがとう」

「え?あ、うん」

 コレで後はハドカラパスのみだ。

 と、気合を新たにしてから間もなく、あっけないほど簡単に討伐が完了した。

 やっぱり、双銃器使いがいると殲滅が早いもんだな……。

「えっと……いつもソロなのか?」

 躯が回収されるまでの間に素材をいくつか剥ぎ取り、カバン整理もかねて少し休憩しようとその場に座ると。ちょこんと隣に座り込んだ赤いトリの着ぐるみ……藍が話しかけてきた。

 聞かれていることは、冒険者の中ではかなり常識ともいえる内容であることから、内容そのものってよりも無言でいることの回避に全力を注いだ結果だと思う。

「攻撃職で、カタナ使いか双銃器使い以外の者がパーティー募集して意味があると?」

 パーティー募集されている所に参加要請しても鼻で笑われるだけで決してパーティーには入れてもらえないし、こちらからパーティー募集をかけても、双小剣使いのパーティーなんて誰が入るんだ、とでも言いたげに鼻で笑って誰も来ない。

 これはどちらも経験済みなので、ただ悲観してひねくれて妄想して言ってる訳じゃない。

 緊急性の高いクエストの時ですら、カタナ使いか双銃器使いでなければ文句を言う冒険者が多いんだから、こちとらソロになるしか道はないだろ?

 それを特別不自由に感じたことがないのは、元々ソロ思考が高かったこともそうだし、なにより俺が張り付き個人商店戦士だからだ。

「今からその……ボス部屋行くんだけど、一緒にどう……かな?」

 パーティーに誘ってきた藍は、俺が承諾すると同時にパーティーリーダーを俺に設定し直し、後ろをついてきた。

 可愛っ……。

 落ち着け、相手は赤いトリの着ぐるみ姿だ。

 こうしてパーティーを組んだのだから、もう全くのシラナイヒトではなくカオミシリ程度にはなれたはず、今日はもうこれ以上欲をかかずに真面目にボス部屋に行こう。

 で、クエストを終えてギルドに戻ったら、その後で”今日はお疲れさまでした”とかなんとか挨拶をして颯爽と去るんだ。

 そうと決まれば足を引っ張らないようにボスを倒すのみ。

 一応パーティーリーダーなのでボス部屋に先行して入ると、ドォンと本日3回目の地響きがあり、ボス部屋の中央にバルドカラパスが降りてきた。

 10分近くかけて倒した実績のあるモンスターだが、藍が加わるだけでその討伐時間は4分にまで短縮され、あっという間にクエストクリアになった。

 その後、バルドカラパスの躯がギルドに回収される前に、素材をはぎ取れるだけはぎ取りカバンに詰め混んでいると、藍は素材をはぎ取ることもなく、多分だけど俺の手元を眺めながらただぼんやりと立っている。

 この素材に対する熱量の違いはなにも藍がエリートだからとかではなく、一般的な冒険者は大抵ドロップするアイテムを拾うだけの場合が多い。

 俺のように回収される前に1つでも多くのウロコを!牙を!と躍起になるのは”張り付き個人商店戦士”の特性みたいなものだ。

 後は生産系の冒険者に素材を取ってくるようにと依頼を受けた冒険者か。

 出現したワープでギルドに戻り荷物整理をしている俺の後方には、まだ赤いトリの着ぐるみ姿の藍がいる。

 もしかしてパーティーリーダーが俺だから、パーティー解散するまで待ってるとか?

 その可能性もあるし、さっさと解散させるか。

「お疲れ」

 一応挨拶してから荷物整理に戻ったのだが、藍は相変わらずギルド内にとどまったまま動かない。

 もしかしたらクランメンバーと通信機でやり取りをしている最中だったのかも?

 とかいちいち聞けるわけないんだし、さっさと荷物整理を終わらせて本拠地に行こうかな、リーダーから連絡を受けてから結構な時間が経ってるしな……ギルドに呼び出されたところからを考えれば3時間近く経ってるのか?

「緊急事態発令!砂漠エリアにて複数のモンスター反応が確認されました!適正冒険者は防衛拠点1、2の防衛任務、および前線でのモンスター討伐任務に当たってください!」

 ギルド内ではなく、通信機から緊急任務のアナウンスが聞こえ、通信機に視線を落とすと”任務を受けますか”の文字。

 こんなレベルの低い俺が選ばれるんだ、猫の手も借りたいほどの緊急か、それとも沸いてきたモンスターが大したことない奴らなのか……どちらにしても殲滅の遅い双小剣使いでは拠点を守り切れない可能性があるから、全く全然楽しくはないがカナタを装備していくとしよう。

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