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エンジョイ勢のなんでもない日常  作者: SIN


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4 エリートの言い分

 既に出発した藍を追うように遺跡ダンジョンに向かい、通信機を起動させて周囲の冒険者を確認するが、そこには誰の名前もない。

 もっと奥の方に向かったのか。

 ダンジョンの入口となるワープは比較的敵が少なく、モンスターもそこまで強くない場所に設置されているから、大物を狙うにはしばらく奥に進まなければならない。

 俺のオーダー品である”ウロコの盾”も遺跡ダンジョンで言うと中級のモンスターが持っているから、奥に移動しないとな。

 最奥地は他の場所と比べるとボスの出現率が高くなっているため、通称”ボス部屋”と呼ばれており、そこには出口専用のワープが出る。

 出口用のワープは入り口のワーとは違って常設されてるのではなく、こちらから帰還することをナビゲーターを通じて伝えることで開かれる。

 周囲にモンスターがいる場合には通信機を使っての個別帰還に切り替えられるが、その場合ボスが近くにいるのか雑魚がいるのかで状況が変わり、ボスの場合はクエスト破棄とみなされて報酬が貰えないなんて大惨事になる。

 まぁ、手に入れたアイテムが没収されるわけではないから、赤字になるってことはあまりないが。

 出現するモンスターのレベルが上がってきたところで一旦足を止めて周囲確認すると、4人の冒険者の名前が表示された。

 そのうち藍を含めた3人が双銃器使いで、1人がカタナ使いだ……ここで狩りを始めたら「寄生するな」とか意味不明な言いがかりをつけられる可能性があるから、入り口付近に戻……ってどうする。

 ようは寄生扱いされなきゃ良いんだ。

 双小剣握ってる時点で地雷扱いされる時代だ、だったらエリート達と合流しないように注意しながら狩りをすれば良い。

 冒険者が集まっているとモンスターが集まりやすくなって、大型モンスターやボス級のモンスターが出て来る確率が上がるんだから、エリートからしてみたって損のない話しだろう。

「っし、やるか」

 現在俺がメインで愛用している双小剣「朧月」には、固有スキルが2つ付いている。

 敵を正面から攻撃した時に攻撃力は上がるが後ろから攻撃すると攻撃力が下がる”イギビア”と、正面から攻撃した時に攻撃力は下がるが後ろから攻撃すると攻撃力が上がる”エギルビア ”だ。

 ソロで狩りをする場合、敵のヘイトは当然俺に向くから、正面攻撃が強くなる”イギビア”を発動させ、立ち止まっている間に集まって来ていたモンスターを倒していく。

 ウサギほどの小型モンスターや、空を飛ぶ人ほどの大きさの虫っぽい姿のモンスター、3メートルはあるだろうという大型モンスターなどなど湧き出してくるモンスターを倒していくが、肝心の”ウロコの盾”を持ったモンスターは1匹も出てこない。

 だいたいオーダーを受けたら目当てのモノは出て来ない気がするのは何故だ?

 いや、実際出て来ないんだからどうしようもない。

 オーダー品が5個だからといって簡単に終わることは全くなく、”持ってこい”系のクランオーダークリアには数日費やすことも珍しくない。

 なので今日も長時間の狩りになることが予想される。

「んー……」

 元々ダラダラと長時間ダンジョンに篭るのは好きじゃない上に、オーダー品が集まるまでなんて終りが見えない内容の狩りでダルくなってきた。

 今回はただ藍ともっと話したいと思ったから来ただけであって……でもその藍は同じクラン員ともっと奥地で狩りをしている真っ最中。

 なんか、一緒の空間にいたいって理由で遺跡ダンジョンまで来てるけど、これってなんだかストーカーっぽい。

 いやいや、口実のためとはいえ本当に遺跡ダンジョンで集めるオーダーを受けてきてるんだから後ろめたいことなんか……。

 もう少し、狩りを続けてみるか。

 使用した武器の固有スキル”イギビア”の効果時間は30分で、そんなスキル3回分の時間が経った頃、俺の前にはいきなり3匹もの”ウロコの盾”を持ったモンスターが現れた。

 コイツの持つ”ウロコの盾”は強靭で、ほぼ全ての攻撃が弾かれる。

 それは攻撃力の高いカタナでの攻撃も同じこと。

 だから上手く隙をついて盾でカバーできていない足や頭部、背中側に攻撃を当てなければならないが、3匹も固まっていられるとどこをどう攻撃したって盾のどれかには当たって弾かれる。

 魔法や銃器ならば気にせずにガンガン攻撃を浴びせられるんだろうけど、近接職ではそう上手くはいかない。

 下手に攻撃をして弾かれると、その隙をつかれて攻撃される。

 防御力のない奴はそれでもれなく戦闘不能になる羽目となりクリア報酬が減り、冒険者名簿に記載される”戦闘不能回数”がプラス1される。

 ガチ勢ではない俺は気にしたことないが、エリートたちは間違いなく気にする数字だ。

 とにかく、折角出てきた”ウロコの盾”を持ったモンスターだ、1匹づつ引き寄せて確実に仕留めていこう。

「トライアルが発生しました!」

 ”ウロコの盾”を持ったモンスターを2匹倒したところでナビゲーターがキンキンと耳に来る声を上げた。

 周囲を見渡してみるが時に変わったことはなかったので、恐らくは藍達の近くでなにかが出たんだろうと通信機を起動させてトライアル内容を確認すると、人型のボス「フュード」が出現していた。

 フュードは自分の魔力で作った大きな剣を装備しているモンスターで、その剣が手に入れば、しばらくは贅沢して暮らせるほどの希少性がある。

 もちろん自分で装備して使うこともできる。

 むしろ固有スキル付きの”フュードの剣”が手に入った時には自分で使った方が良い。

 マップで位置を確認しながらフュードに向かって走って行くと、前方に戦う4匹の黒のトリを模した着ぐるみが見えてきた。

 なんだろうな……飼育員に遊んでもらっている4匹の雛に見えて微妙に微笑ましい。

 フュードがターゲットにしているのは藍ではない双銃器使いで、攻撃をしながらも華麗に攻撃をかわしていて、カタナ使いは背後から斬りつけている。

 藍ともう1人の双銃器使いもヘッドショットを狙って高いダメージを与えていて、流石はエリート冒険者だなと思った矢先、フュードが大きく腕を振り上げた。

 あの挙動は状態異常を伴う剣術のスキル詠唱で、あと数秒後には大きな渦を巻くように剣を大きく振り回して攻撃してくる。

 その攻撃に当たってしまうと、攻撃と移動速度がかなり遅くなる状態異常になるからなにかと厄介なんだ。

 なので俺は2歩ほど後ろに下がって剣の射程外に出たのだが、エリート達は攻撃を止めることはせず、むしろ動きが止まっている今がチャンスだとばかりに攻撃を激化させた。

 そして放たれたフュードの状態異常魔法付きの一撃。

 ターゲットにされている双銃器使いともう1人の双銃器使いは宙返りをするようにスルリと攻撃をかわしたのだが、カタナ使いと藍は攻撃を受けてしまい、状態異常にかかった。

 それでも藍が装備しているのはハートシーフだ、かなり攻撃速度が落ちてしまったとは言え、攻撃をし続けている限りHPは回復し続ける。

 問題は、状態異常になったにもかかわらず防御を捨てて攻撃をし続けているカタナ使い。

「うわぁぁぁ!」

 案の定、カタナ使いは戦闘不能になった。

 強制帰還になる前に藍が復活のスクロールを使用したのだが、なにが気に食わないのか、カタナ使いは防御も攻撃も忘れて首を傾げている。

「今の攻撃はどうして当たったのか分からないな」

 などと意味不明なことを言いながら。

 分からないもなにも、攻撃が当たったから戦闘不能になったに決まってんだろ?

 戦闘不能回数が増えるのを嫌うがあまり現実を受け止めたくないんだろうけど、ちょっと無理な言い訳じゃないか?

「そうか、あの双小剣使いが俺の視界を奪ったせいか」

 鬱陶しそうに俺を見たカタナ使いは、まだ討伐が終わっていないというのにいちいちこっちを指差しながら自分が死んだって事実を俺のせいにした。

 確かに俺も攻撃してるけど、だったらカタナ使いだけでなく3人の双銃器使いも同じ条件だった筈だろ?

 それなのに自分だけ戦闘不能になってるんだから、単なる実力不足なんじゃないのか?

 とは思うけど……なにをどう弁解した所で意味がないし時間の無駄になる。

 好きなように思えばいいさ。

 無事フュードを倒すと剣諸共消えてしまい、結果トライアルのクリア報酬とフュードが所持していたアイテムが手に入った。

 討伐に参加したのは俺と藍達の5人だったのだが、討伐中に唯一戦闘不能になったカタナ使いが、戦闘不能になったことの賠償をしろとか言い出したので一気に面倒になりアイテムの分配を放棄した。

 倒したフュードは結構な数のアイテムを所持しており、それらを公平に分配するため藍達はその場に座ってアイテムを分類別に仕分け始めた。

 俺は別にこの4人と仲間でもなんでもないから分配を見届ける義務もなにもないので、切れかけていたイギビアを発動し直し”ウロコの盾”を持ったモンスターが現れた場所に戻るために走り出した。

 確かこの辺りの筈なんだけど可笑しいな……倒し損ねていた1体はどこに行ったんだ?

「トライアルが発生しました!」

 ”ウロコの盾”を持ったモンスターを探していると、再びナビゲーターがキンキンと耳に来る声を上げた。

 冒険者には必ず担当のナビゲーターがついていて、トライアルの発生や戦闘不能になった時の強制送還などを管理してもらえるんだけど、俺を担当するこのナビゲーターは声がうるさい。

 だから本当なら担当の変更を言いたい所ではあるが……双小剣使いでも丁寧にナビをしてくれる存在は貴重でさ、なんなら俺がナビゲーター側から担当する冒険者を交換して欲しいと言われていたほどで。

 ドォン!

 思ったよりもすぐ近くで地響きを伴う大きな音がして、慌てて周囲を確認すると2階建ての家程もある巨大な亀型のモンスターが出現していた。

 あれは遺跡ダンジョンで出現するボス級モンスターの1体「バルドカラパス」だ。

 通信機を起動させて周囲の冒険者を検索すると、まだ藍達がいる。

 さっきのフュード戦でしこりはあるものの、ボス級モンスターなのだから1度は声をかけておかないと後からなんて言われるか。

「バルドカラパス出ました」

 通信機で周囲の冒険者に向けての緊急信号を出して呼びかけ、バルドカラパスの頭部を狙って飛び上がる。

 俺が覚えたスキルの”スピン切り”は、小型のモンスターが相手だと蹴り上げた時相手側が吹き飛ぶが、敵が重ければ重い程敵を足場にしてこちらが上空に飛び上がることができる。

 つまりは、大型モンスターであろうがなんだろうがスピン切りを使えば使うほどモンスターを登って防御の低い頭に”張り付き攻撃”が出来る。

 そんな俺の頭部張り付き攻撃から逃れようと、クルクル回って回避しようとするところを、追い打ちをかけるように”五月雨切り”する。

 全ての攻撃が命中しているが、敵のHPを10分の1も減らしてはいないだろう。

 また、俺も相手の攻撃が当たらないように避けながら攻撃しているので、倒されないけど倒せないという地味で長時間続く戦いが延々と続いてしまう。

 今回はエリート冒険者が4人も同じエリアにいるから早く討伐できると思っていたが……トライヤルが発生してからしばらく経つというのに誰も来ない。

 上空から見下ろして周囲を目視してみるが、誰かがいるという気配はなく、地面に降りてから通信機で周囲の冒険者確認をしてみると、誰もいなくなっていた。

 トライアルが発生した時には確かにいたことを思うと、バルドカラパスの報酬よりも俺を鬱陶しく思う気持ちが勝ったと考えられる。

 まぁ、好きに戦えるって考えればソロも悪くはないか。

 カタナ使いや双銃器使いが5分とかからず倒すのだろうバルドカラパスを10分もかけて倒した後、本当ならスグに支払われるトライヤルクリアの報酬がなにもなく、一瞬間をおいてナビゲーターがトライアルの連戦を告げた。

 そこで出現したのは、よりによって闇の魔力が濃くなった時に出現する魔族系のボスモンスター、ファルガディス……の眷属だ。

 比較的よく出るモンスターではあるし、放置しているとそのうち闇の魔力が自然と薄れて消えてしまうので無理に倒さなくても良い相手ではある。

 しかもダンジョンの外は闇の魔力が薄いから、ファルガディスの眷属がダンジョンから出て街を襲う可能性も低い。

 ただ、倒した時になにが出るか分からない”生きた宝箱”みたいな存在でもあるので、張り付き個人商店戦士としては是非とも倒しておきたいモンスターだ。

 とはいえ、ソロで倒したい相手では絶対にない。

 良いアイテムが手に入るかも知れないという利点すら霞んでしまうほど、コイツを倒すのは面倒くさい。

 だけど今はクエスト破棄をする気はない。

 クランオーダー品を集めている最中だとかそんな理由ではなくて……。

 双小剣を地雷扱いするエリートに遭遇した腹立たしさがバルドカラパスを倒しただけでは収まらなかったのだから仕方ない。

「全力で、遊んでやる」

 ファルガディスの眷属自体は、実はそんなに強くないただの巨大なモンスターなのだが、厄介なのはその挙動。

 俺の戦い方は空中での張り付き攻撃が主流なのだが、コイツは90度や180度の方向転換をした挙句にはしょっちゅう瞬間移動をする。

 イギビアで正面から攻撃をしていても、次の瞬間に真後ろを向いていたり、空間に消えていたり。

 つまり、張り付き攻撃が出来ない上に空振ることも多い。

 怒りが完全に冷め、さっさとクエスト破棄しようと通信機を起動させると、さっきまで向こうの方にいたファルガディスの眷属がすぐ隣に瞬間移動してきて、バンバンとハエ叩きのような動きで攻撃して来た。

 クエスト破棄をしようと通信機に視線を落としていた俺は逃げるタイミングを完全に見失い、そのまま攻撃を食らって思い切り足を潰された。

 一瞬のうちに両足を一気に潰されたせいで痛覚がマヒしたらしく、痛みも熱さも、なにも感じない。

 はぁ、ポーションを飲むことすらめんどうだ……もうこのまま戦闘不能になって強制帰還に……。

「大丈夫か!」

 ダルさから目を閉じてしばらく、まだ戦闘不能になれずに強制帰還しそこなっている俺の所に何者かが来たようだ。

 聞き間違いだろうか?藍の声に聞こえる。

 目を開けて確認すると、さっきまでの黒いトリを模した着ぐるみではなく、赤いトリを模した着ぐるみが立っていた。

「……赤に、着替えたのか……」

 結局着ぐるみなら戦いにくいままだよな……着替えた意味ってあったのか?

「リーダー命令だ。それよりバルドカラパスは?ファルガディスの眷属だったっけ?」

 そうだったそうだった、藍の所のリーダーは着る服を指定するような人物だったな。

 そんなことより、俺が出した緊急信号は聞いていたのか。

「バルドカラパス倒した後の連戦でアレ出てきた」

「えぇ?!1人で倒せたの?!」

 どうやら、双小剣ではボス級モンスターは倒せないと思われているようだな。

 そりゃ時間はかかるが1人でも充分に倒せる。

 時間は……本当にかかるが……。

 潰された足はハイポーションで全快させたし、今すぐ立ち上がって戦おうと思えば出来る。

 ただ、めんどい。

 これでも途中までは本気で倒すつもりだったんだ、けどさ、連続で方向転換された挙句に空間に消えるわ消える。

 あ~っそ、じゃあ勝手に消えてろって思ってからは本当に集中力すら切れちまってさ、クエスト破棄しようとした所で瀕死になるレベルの攻撃食らって吹っ飛ばされ、あ~じゃあ強制帰還するからさっさと倒せ、ってなテンションにまで落ち込んでた。

 立ち上がって見えるのは、ファルガディスの眷属が瞬間移動で俺達から距離をとる様子。

 ここに俺1人しかいないのなら本当にクエスト破棄している所だが、今は他にも1人、エリート双銃器使いがいる。

 しかも、それが藍だって言うんだから逃げ帰る訳にはいかない……メンドイけど、双小剣使いの折れる所ってのは誰にも見せちゃいけないんだ。

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