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エンジョイ勢のなんでもない日常  作者: SIN


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3 トリを模した着ぐるみ

 タイムアタックの初級・中級・上級をクリアすることが日課になった俺のゴールドは更に潤いをみせ、ウキウキした気分で愛用の双小剣「朧月」の攻撃力と属性の強化をしようかと本気で考えている程だ。

 ギルドの発表によると、冒険者に割り当てられているレベルが大幅に見直されることになったらしく、今までとは全く違った概念になるっぽい。

 これまでは攻撃力が100出るなら攻撃力のレベルは5程度、このモンスターの攻撃を受けてHPが50減る程度なら防御力のレベルも5程度、だから貴方のレベルは5です。

 みたいな感じだったのに対し、今後はモンスター1匹1匹に決まった経験値が割り振られ、経験値を100溜めたらレベル1で、500溜めたらレベル2になる。

 みたいな感じになるんだと。

 ようするにモンスターを倒せば倒すほどレベルが上がるのだから、これまで攻撃力が低いために万年レベル底辺だった俺もレベル10とか20とかを目指せるようになったという訳だ。

 もしかしたら、高い攻撃力を誇る武器種だけじゃなく、色んな武器の新作が出るかもしれないとか考えれば、恋煩いでなにも手に付かなかった気分も吹き飛ぶというものだ。

 レベルの概念が変わり、レベルアップ方式になるまで残り1週間を切った現在、冒険者はガラリと変わってしまうレベル関係の情報を収集するため狩りに行くより、さまざまな情報が集まる宿屋付近や酒場に集まっている。

 俺から言わせてみれば、レベルなんてのは単なるその冒険者の強さの度合いを知るための表記に過ぎないので、ワクワクはしてもここまで混乱するようなことでもないと思うんだけど、ガチ勢エリートと俺では恐らくは考え方が全く違うんだろうし、理解できないんだろうな。

 だってさ、レベル1とレベル10の冒険者でなにが違うのかって言われても、特段なにも変わらないというか……。

 レベルが上がるだけで攻撃力が跳ね上がるなんてのは今まで通り起こらないし、レベル表記が変わるだけでスキルがポンとどこからともなく覚えられるという訳でもなし。

 なんとなくカタナや双銃器を使って高い攻撃力を出してレベル5の冒険者は、大抵武器についている固有スキルしか使えないのに対し、剣を1日に何千回も振って基礎をしっかりさせたレベル2の冒険者は、武器の固有スキルの他に自分でなにかしらのスキルが使えるようになっているものだ。

 俺でさえ、毎日双小剣で戦っているうちに敵を蹴り上げて敵を宙に浮かせてから双小剣で下から切り上げながら後ろに1回転する”スピン切り”……と自分で名付けたスキルとか、双小剣で刃から衝撃波を飛ばす”ソニックスラッシュ”と自分で名付けたスキルとか、ソニックスラッシュを乗っけて滅多切りにする”五月雨切り”……と自分で名付けたスキルとか、色々使えるようになったんだ。

 これからはカタナ使いと双銃器使いが異常に優遇された時代が終わり、モンスターを倒した冒険者が公平に評価される時代が来る。

 とはいっても、まだまだ課題はあるんだろうな。

 例えばパーティーを組んでクエストを受けた場合の経験値の割り振りがどうなるのか……もし一律で経験値が入るのだとしたら、本当に強い1人だけが戦い、後のメンバーは安全な場所から見ているだけでもレベルが上がる……なんてことが起きそうだ。

 ラストアタックした者に経験値が入るようにしてしまうと、瀕死になったモンスターを狙ってトドメだけを刺しに来る”経験値泥棒”も増えてしまうだろう。

 与えたダメージによって経験値の分配が決められるなら、結局は高い攻撃力を持つカタナ使いと双銃器使いが優遇される状況は変わらない。

 そしてなにより、今になって急にレベルアップ方式が導入された理由が気になる。

 強さは今まで通りレベルに関係がないままだとしても、モンスターを倒せば倒すほどレベル表記が上がるなら、時間を惜しんでモンスターを狩る冒険者は1人や2人じゃ済まないだろう。

 狩場で生活する全ての生き物が過激な冒険者によってモンスター扱いをされて狩られる可能性を、ギルドの人達が考えなかったわけはない。

 それだけモンスターが増えてきたということ……なのか?

 もしくは、計り知れないほどの脅威が迫っているとか?

 まさか魔王の復活が近いなんてこと……ないよな。

 俺が知る限り、冒険者は未開発地にいるモンスター退治をするためギルドに管理されている戦闘要員でしかないし、倒せないほどの強大な敵が現れたなんて情報も聞いたことがない。

 エリート冒険者の楽しみと言えば、人よりもレアなアイテムを集めることや人よりも良い装備品をそろえること、そしてより自分が強いのかを知らしめることだといっても過言ではない。

 人よりも高いダメージを出す、人よりも良いモノを持つ。そんな精神の元になっているのだから緊急クエストにも喜び勇んで参加するのが普通なんだけど……今はそんな連中に限って新しいレベルアップ方式の情報を集めるために緊急クエストにも行っていない。

 つまりは、情報収集することに全神経を費やしているエリートたちの個人商店の価格設定は、更に更に適当になっているに等しい。

 「ホワイトスフィアが1個1万?はぁ?」

 ホワイトスフィアの相場は1個7万だぞっと。

 俺はタイムアタックが日課になったとはいえ、張り付き個人商店戦士で間違いはない。

 ホワイトスフィアを1個1万で売っているエリートの商店から全てのホワイトスフィアを買い、別の商店でもホワイトスフィアを探す。

 1個1万はもちろんだけど、6万程で売られているものも全て購入するつもりだ。

 現在ホワイトスフィアで交換できるアイテムには”獲得報酬アップ”がある。

 だから経験値でのレベルアップが出来るようになった暁には”経験値アップ”というアイテムが新しく作られる可能性にかけてみた。

 実際ゲームにはあったアイテムだから、これを機に実装される可能性が非常に高い。

 もしそんなアイテムが出なかったとしても、ホワイトスフィアの相場が7万であることと、”獲得報酬アップ”はエリート冒険者ならば必ず常備しているアイテムであることと、”獲得報酬アップ”1回の使用での持続時間が1時間程度と短いことから、6万で仕入れたとしても赤字になりにくい。

「オイ、今すぐにギルドまで来てみろ。ダッシュな!」

 めぼしいホワイトスフィアを買いつくした頃、リーダーから若干焦ったような声の通信がきた。

 どの町のギルドなのかさえ伝え忘れる程なんだ、かなり急いでいるんだろうけど……別に今緊急クエストが来ているわけでもないし……呼び出されたのが本拠地ならクランエッグが孵化しそうなのか?とも思えるんだけど、ギルドだしな。

 とりあえずどこのギルドなのかを知るためにリーダーの現在地を確認してから急いで向かう。

 5分程度で到着したギルドに入ると、早速近付いてきたリーダーがしきりにギルド内にいる「倒してこい」系のクエストを仕切っている”サブクエスト管理者”の方を指差していた。

 サブクエスト管理者がどうかしたのか?と視線を向けると、黒のトリを模した着ぐるみを着ている4人の冒険者がいた。

 わざわざ戦いにくい着ぐるみを着ているとは……まさかあのままクエストにいくつもりじゃ……まぁ、装備している武器を見ればカタナと双銃器だから、心配するだけ無駄だな。

 トリを模した着ぐるみにはいくつかの種類があって、それらは実際に森で出現する巨鳥の雛をイメージして作られているらしい。

 属性によって色が変わる巨鳥の特徴通り、赤・黒・黄・緑・白・青がある他に、ハート柄も見たことがある。

「どうしたんだよ、着ぐるみが珍しいって訳じゃないよな?」

 確かにあの格好でクエストに向かう冒険者は珍しいが、それでも見たことがないって程に珍しいわけではない。

「じゃなくて着ぐるみの中身だ。名前確認してみろよ」

 名前の確認?

 通信機を起動させてステータス画面を出し、透かすように黒のトリを模した着ぐるみを着た4人組を見れば、ステータス画面上に冒険者の名前が表示され……。

「え……」

 藍って、書いてないか?これ。

 確認のため、画面上の藍の文字を指で押してみると冒険者カードが表示され……間違いない、藍だ。

「クローンじゃねーぞ、本物だ。行ってこいよ」

 そう言って笑うリーダーは、俺の背中をポーンと叩く。

 しかしだ、行って来いと簡単に言われても……相手はトリの着ぐるみだし。そもそも初対面だし。エリート集団の中にいるし。

 いやいや、折角リーダーがこうして協力してくれて得た機会だ、無駄には出来ない。

 話しかけるチャンスが得られたことは、それ自体が奇跡みたいなもの。

 怖気づいてモタモタしてたら、この機会を逃してしまうだろう。

 そうなればまたクローンでしか会うことはない遠い遠い存在になる。

 よし……行ってやる!

 「……その着ぐるみ、可愛いですね」

 挨拶もなにもかもを吹き飛ばし、ただただ純粋に着ぐるみが好きな人として話しかけてはみたけど、その2等身の可愛らしい着ぐるみの腰には、ちょこんと装備された双銃器「ハートシーフ」が見える。

 ハートシーフは攻撃力だけを見れば現存する双銃器の中で3番目か4番目ほどの強さではあるが、固有スキルがかなり優秀なんだ。

 与えたダメージをパーセントで吸収してHPを回復させるってんだから、とりあえず撃って敵に当たりさえすれば戦闘不能になることがない。

 もちろん、武器を強化すればするほど吸収率が上がる。

 あぁ、双銃器の中でそんなに強くないとは言ったけど、現存する最強の双小剣にくらべるととんでもない程の強さを誇る武器ではあるし、現存する双小剣最強の武器が持つ固有スキルは「移動速度アップ」だ。

 しまったな……こんなエリートに話しかけるなら双小剣は倉庫にしまってからの方が良かった。

 下手をすれば不審者扱いされる可能性が高いし、”ブラックリスト”に入れられる可能性もある。

 ”ブラックリスト”とは、冒険者を個人単位でブロックする機能の名前で、ブラックリストに入れられた側からのパーティー申請やフレンド申請ができないだけではなく、どういう原理なのか話す声もブロック対象になり、もちろんメッセージ機能も使えないので会話自体ができない。

 ブラックリストに入れた側からのパーティー申請は出来るみたいだけど、やったことがないので良くは知らない。

 ……まさか藍からの返事が無いのって、既に俺はブラックリストに入ってるってこと、ないよな?

「着せられてんの」

 返事があることを諦め、薄笑いを浮かべながらじりじりと距離を開けて離れようとしたところで、かなり小さな声が聞こえてきた。

 返事をくれたことに感激する暇もない程に謎めいた言葉。着せられている?

「黒のトリじゃなくて白が良かった……とか?」

 絶対違うだろうなと思いながらも、会話を続けるためだけに声を出す。

「キグルミは戦い難いから嫌い」

 その場に立ったまま攻撃が出来る双銃器でも着ぐるみは戦いにくいらしい。

 なら、近接職なのにも関わらず着ぐるみを着て狩場にいる冒険者は着ぐるみ愛好家とかなのか?

「嫌なら脱いだら?」

 脱いだらってなんか変態っぽかった?

 着替えたら?って言えばよかった。

「チームリーダー命令だし」

 着せられてるって、そういう……変なこだわりやら趣味を持ったのがリーダーだと色々大変なんだな。

 ウチのリーダーはそういう面で見れば普通でよかった。

 美味しいと言う理由でポーションをドリンク代わりに飲むし、1回言っただけの恋愛話をいちいち覚えてて人を呼び出すし、案の定聞き耳を立ててやがるけど。持つ武器種を指定したりコスプレを強要したりする趣味はないもんな。

「今から狩り?」

 サブクエスト管理者の前にいるんだから、聞くまでもなくこれから狩りに行くんだろうってのは分かるんだけど……いかんせん話題がない。

「クランオーダー品集めに遺跡」

 クランオーダーのクリア報酬はクランポイントだから、一応俺も受けてはいるが”持ってこい”系のオーダー品はどれもこれも入手が難しいんだよな。

 別に”倒してこい”系のオーダーもあるから、俺はそっちばかりやってる。

「おい、なにやってんだよ、早くしろ」

「あ、悪い。今行く」

 こうして慌ただしくトリの着ぐるみを着た4人組はクエストカウンターに向かい、遺跡ダンジョンに行ってしまった。

 そう言えば、クランオーダーに1つ遺跡ダンジョンからの”持ってこい”系があったはずだ。

 急いで通信機を起動させて確認してみると、遺跡ダンジョンに出現するモンスターを倒すと手に入る”ウロコの盾×5”というものがあった。

 ダンジョンに出現するモンスターが装備しているものは大きく分けて3種類がある。

 奪うか拾うかした冒険者の装備品、岩や枝などダンジョン内で手に入るもの、そしてモンスターの魔力で作られたもの。

 冒険者の装備品やダンジョン内のものはモンスターを倒せばそのままドロップ品として回収できるが、魔物の魔力で作られたものは、たいていモンスターを倒したときに一緒に消えてしまう。

 しかし全てが消えてしまうという訳ではなく、かなり低い確立でそのまま残ることがある。

 クランオーダーの”持ってこい”系は、そういう希少性の高いものばかりなので、クリアできると思わない方が良いレベルなんだ。

 そのかわり、クリアした時の報酬はかなり高い。

 折角藍と同じダンジョン内でのオーダー品があるんだ、行って損はない、よな?

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