表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンジョイ勢のなんでもない日常  作者: SIN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/8

1 張り付き個人商店戦士

「はぁ~、プレミアム終了っと」

 今まで張り付いていた個人商店から売れ残った品々を回収して、パパッと撤退し大きく伸びると、少し虚しいような気分に支配される。

 全ての武器種をそれなりに扱えるようになり、拠点にしている町の周辺に手強いモンスターもいなくなった俺にとって、狩りに行くことは重要視されなくなっていた。

 冒険者の仕事といえば人が住む場所に近付き過ぎているモンスターの殲滅や、自然的な魔力や闇の影響を受けて暴走するモンスターの討伐。それに加えてギルドに寄せられた「やって来い」「取って来い」「倒して来い」というクエストをこなすか、タイムアタック管理者の所で小遣い稼ぎをするか、そんなものだ。

 ”タイムアタック管理者”とは、クエストクリアまでのタイムを競う遊び要素のあるクエストを管理する者のこと。

 例えば今日は「初級:森でのキノコ3種10個ずつ採取」「中級:森のダンジョンに出る大型モンスター”ストーンベア”の討伐」「上級:砂漠のダンジョン攻略」だ。

 タイムアタック管理者のクエストの報酬はかなり美味しいが、1つのクエストにつき1度までしか受けられないから、とりあえずタイムアタックだけはやっておこうと毎朝の日課にしている冒険者は多い。

 前世でもタイムアタックをするためだけにログインしていた人がいたっけ……そこはゲーマーでも冒険者でも感覚は似たようなものなのかもしれない。

 本当に困って依頼を出してくるクエストとは違い、タイムアタックのような遊び要素にまで報酬が支払われる理由は、タイムアタック中に持ち帰った素材は全てギルドの所有になるためだ。

 これなら自分で個人的にキノコ採集やストーンベアを倒しに行った方が良いと思うかも知れないが、当然それだけじゃない。

 報酬にはタイム順に金額が異なっているし、参加費もあり冒険者以外の者達は冒険者のクリアタイムで賭けをして娯楽として重宝しているのだとか。

 もちろんその賭けを取り仕切っているのもタイムアタック管理者。

 まぁ、クエスト全般を仕切っているのはギルドだから、組織自体がしっかりとしている上に赤字になることがないように計算されつくされていることだろう。

 とはいえ、個人商店に適う稼ぎにはならないが。

 ”プレミアム冒険者”というシステムがある。

 冒険者のお偉いさん……ギルドにまとまった金額を渡せば30日間だけ特別扱いされる仕組みになっている。

 そのひとつが個人商店の出店許可、だ。

 狩りやクエストクリアに意欲的なエリートカタナ使いや双銃器使いたちというのは、毎日毎日タイムアタック管理者のクエストを受けては上位に名を連ねて、手堅く小遣い稼ぎをしている。

 そのせいなのか、早く狩りやクエストに行きたいからなのか、面倒くさいという理由なのかは分からないが、敵からはぎ取った素材やら入手したアイテムを時々おかしな価格をつけて商店に並べている。

 固有スキルやステータス上昇効果の付いた防具やら武器が1000ゴールドなわけないだろう?

 そこで、そういったおかしな価格で売られているモノを買い取り、正しい値段で売り捌く……まぁ、悪く言えば転売ってことになるんだけど、前世での悪質転売ヤーとは違う。

 良いモノを最安値で売られてしまうと、生産系の冒険者が作って販売しているモノも値下げないと売れなくなってしまうから、大きな値崩れを防ぐためにも”張り付き個人商店戦士”も必要な存在ではある。

 俺はこの1ヶ月間そうやって稼ぎ、多額のゴールドを手に入れた。

 こうして稼いだゴールドの使い道だが……今使用している武器を強化したり、属性を付与したりしようとは考えていたんだけど、今思えば別に急いでやる必要もない気がしている。

 なぜなら、意欲的な冒険者でもなければエリートではなく、カタナ使いや双銃器使いでもない俺は、数々の武器種がある中で最も攻撃力が弱いと言われている”双小剣使い”だからだ。

 討伐クエストを受けたパーティーが攻撃職を募集していても、俺が行けば「双小剣使い来たよ(笑)」といわれるだけで討伐メンバーに選ばれることはなく、実戦に似た訓練が受けられるインスタントダンジョンに行っても「おやぁ~?難しいんじゃないかなぁ~?」とナビゲーターに鼻で笑われる。

 双小剣を装備している冒険者は多いが、ソイツらは決して双小剣を攻撃用の武器としてではなく、ただの移動用としか使っていない。

 1発ずつの攻撃力は弱い双小剣だが、時間で見ればちゃんと他の武器種と変わらないだけのダメージは通っている……いや、言い直そう……攻撃スピードの遅い武器種と比べると、だ。

 つまり双小剣は手数で勝負するスピード重視だから、固有スキルとしてスピードが強化されているモノが売られている。

 攻撃スピードではなく、移動速度が上昇するモノだ。

 エリートたちはこぞって高額でより強い移動速度上昇効果のある双小剣を買い求めた。

 その移動用として広くエリートたちに使用されている双小剣「神威」は、現在俺がメインで愛用している双小剣「朧月」より攻撃力が高いモノというのだからついていけない。

 個人商店からギルドに向けて歩いていると、周囲にいる冒険者の腰には当たり前のように「移動用の双小剣」が装備されているのが嫌でも目に入ってくる。

 俺よりも初心者の冒険者の腰にすら当たり前かのように双小剣。

 別に、早く移動したいから速度上昇効果のあるのモノを装備すること自体が悪いって訳じゃないし、素早く駆けつけて討伐依頼を完了させた方が被害も最小限に抑えられるんだから良いとも思う。

 んだけど。

 頭で理解していることと心で感じることは別だろ?

 移動用で使われる双小剣「神威」よりも愛用している双小剣「朧月」の方が弱いとさっきいったけど、攻撃力の高いモノを買おうと思えば、今の財政状況を考えれば買い換えられるし、ある程度の強化ならできる。

 んだけど……。

 たかだか20とか50のステータス上昇程度なら、ダメージに換算すると50とか、よくいっても100程度なものだ。

 もちろん防御力の高いモンスターが相手なら、その差はもっともっと少なくなる。

 そんな微々たる違いしかないことに全財産賭ける程でもないなと思うし、随分と長い間使っている愛用の双小剣「朧月」には愛着もあって、固有スキルも良いものが付いている。

 だったら「俺の使ってる双小剣よりも良い双小剣を移動用にのみ使いやがって」と周囲の冒険者を妬むのもおかしな話だな。

 まぁ、メイン武器として双小剣を握っている限り俺はソロプレイヤーなんだ、好きにさせてもらうさ。

「ただ今より、インスタントダンジョンにて、緊急事態に備えての森林ダンジョンの周回イベントを行います」

 ギルドの隅で売れ残ったアイテムと保管していたアイテム、そして新しく手に入れたアイテムの整理をしていると、ギルド内にそんなアナウンスが流れた。

 こういう時、ゲームなら課金をして倉庫の増設ができてボタン1つ押すだけで勝手に倉庫の中にアイテムが移動するし、アイテムパックの拡張とかできて便利なんだけど、今はこうして手作業で倉庫に入れるしかないうえにアイテムパックの拡張なんて、新しい布を買ってきてカバンを大きくリメイクするしかない。

 とはいえ、雑貨屋とか鍛冶屋に行ってカバンを大きくして欲しいって依頼して材料費を渡せば、課金してアイテムパックを拡張したと言える。

 周りにいた冒険者達は、倉庫前でモタモタしている俺のことなど気にした様子もなく、森林ダンジョンでクリアできるサブクエストを受けたり、早速インスタントダンジョンのイベントに参加するべくカウンターに走ったりしていく。

 ”インスタントダンジョン”とは、実戦を想定した訓練が受けられるダンジョンのことで、クエストを受けると直接ダンジョン内に強制ワープさせられる。

 ワープ先のダンジョンにはモンスターがいて、ダンジョンの最奥には確率でダンジョンボスがいる他、ギルドに戻るためのワープが出現する。

 ギルドに戻った後もクエストは何度でも受けることができるし、クリア報酬もあるからエリート冒険者達はそれこそ双小剣で移動をしながらタイムアタックさながらの高速クリアを目指している。

 もちろん、クエストの受け直しは、周回イベントが開催されている間だけの話だが。

 なので実際にインスタントダンジョンの開催地についてはイベントの主催者であるギルドの人間しか知らない。

 噂によれば、ギルドにいる高レベル黒魔術師による幻術ではないかと言われているが……インスタントダンジョン内で手に入れたアイテムは実際に手に入っているわけだから、幻術ってことはないんだろう。

 さてと、どうするかな……。

 周回イベントは任意で高レベルか低レベルかを選んで受注することが出来る。そしてエリートたちはよりクリア報酬の多い難易度の高い方に行く。

 この森林ダンジョンの周回イベントでは最奥エリアに確率でボスが出現し、難易度が高い方のボスは”フォレストハウンド”のオス、低い方には”フォレストハウンド”のメスが出現するから、エリート共はオスのボスモンスターを倒しまくることになるだろう。

 でだ、「もってこい」系のクエストの中には、フォレストハウンド(オス)の爪とか、フォレストハウンド(メス)の牙といったように、性別ごとのクエストが存在する。

 中には、フォレストハウンド(オス)の皮とフォレストハウンド(メス)の皮というような雄雌がセットになっているクエストもある。

 つまりは、難易度の低い方にしか出ないメスから手に入る素材は、高値になる傾向がある。

 まぁ、高速で高難易度を周回できるエリートたちなら、そのクリア報酬だけでかなり稼げてしまうんだろうけどな。

「冒険者のみなさん、周回イベントの参加はクエストカウンターからどうぞ~」

 久しぶりに防具と武器を装備し、難易度の低いクエストを受注してボスが出現するダンジョンの最奥を目指して1人で走っている俺は、もはやパーティーを募ることも念頭にない双小剣使い。

 道中で出現するモンスターを無視して走っていると、フイにナビゲーターを勤める女がキーンと耳に響く声で騒ぎ始めた。

 なにかトライヤルが発生したらしい。

「こっちはボス周回する気満々なんだ、小物ならいちいち相手にしてられないからな」

「冒険者のクローンです!」

 冒険者のクローン?

 あぁ、確かタイムアタッククエストをやってるとたまにワープに不具合が生じて訳の分からない場所に飛ばされ、そこから帰還した冒険者のクローンがインスタントダンジョンに出没するってアレか。

 俺はタイムアタックに毎日行くわけでもないから単純にワープの不具合に当たる確率が低く、実のところ1度も経験がないので詳しい流れは分からないが……ここだけ聞けば、確かにインスタントダンジョンは幻術っぽく聞こえる。

 厳密にいえば、冒険者のクローンという存在だけが幻術で作られたものである可能性が高い。

 それはさておき、クローンを倒せばアイテムと交換できる”ホワイトスフィア”が手に入る。

 交換アイテムの中には、”取得報酬アップ”というアイテムがあるから、フォレストハウンドの素材よりも高値で売買される代物。

 現時点でホワイトスフィアは1個7万近くするんだ、周回するより何倍も美味しい。

 ホワイトスフィアはモンスターを倒しても手に入らないアイテムで、ギルドでアイテムと交換できることを考えれば、ワープのバグも冒険者のクローン出現も恐らくはギルドが意図的に起こす発生率の低いボーナスイベントかなにかかもしれない。

 それを証拠に、ゲーム内にはワープのバグなんて現象はなかったんだ。

「何処だ、かかって来い」

 ここは難易度が低い方のインスタントダンジョンなんだ、どんなエリートカタナ使いや双銃器使いのクローンであっても、負ける気はしない。

「出ました!後ろです!」

 ナビゲーターが言うように、そのクローンは後ろに立っていた。

 白くて若干健康状態が悪そうな肌色を際立たせる赤色の髪、小さな顔には整った顔のパーツが完璧なバランスで配置され、ハロウィンの時に売り出されていた衣装”カボチャパンツの魔女”に身を包んだ……華奢なクローンが、そこに。

 通信機を起動させてステータス画面を出し、そこで「周囲のモンスター」を確認すると、冒険者のクローンが表示された。

 冒険者のクローンは名前を藍といい、双銃器の中で現在最も強いと言われている、相手のHPを吸収するスキルを持った双銃器「ハートシーフ」の銃口を俺に向けている。

 クローンらしい無表情、そのクセに俺が攻撃するといちいち痛そうに顔を歪めて短い悲鳴をあげる。

 分かっている、コレがクローンだということは、分かってるのに、どうしたってトドメがさせない。

 物凄い可愛いんですけどぉ!?

 え?ものすんごいタイプなんですけど、コレ、どうしましょう?

 いや、しっかりしろ、コイツはクローンだ。

 退治すればホワイトスフィアになって消えてく存在だ。

「そんな……こんなところで……」

 冒険者のクロ-ンは、酷く苦しそうな声を上げて倒れ、俺の脳内に強烈な印象だけを残しホワイトスフィアとなって消えた。

 俺はボス部屋に行ってフォレストハウンドの素材を集めるどころの騒ぎではなくなり、クエストを破棄してギルドに戻って奥のテーブルに座り、藍と言う名前の冒険者を探すため自分の通信機を起動させた。

 ”通信機”とは、冒険者1人1人に支給される装備品のことで、手首につけることでさまざまな機能が使えるようになる。

 冒険者の身分証明も兼ねているため、装備していないとクエストを受けることも報酬をもらうことも出来ないし、戦闘不能になった際の帰還すらできないので装備することが義務付けられている。

 通信機の機能にはもちろん冒険者同士の通信やクエスト中のナビ、クエストの受注や破棄ができ、冒険者検索も機能のひとつだ。

 通信機を起動させると自分にしか見えない画面が目の前に現れる。

 その画面は指で触れることができ、表示されている「通信」「クエスト」「検索」などのメニューを選ぶことで機能が使える。

「いた……」

 冒険者検索で藍と入力して表示された藍の冒険者カードを確認すると、そこにはタイムアタックのタイムが自慢げに書かれてあった。

 冒険者カードの内容は自由に編集することが可能なので、友達募集を書く者がいたり個人商店の宣伝をする者がいたりするのだが、エリート達は自分の実績を知らせるためにタイムアタックのタイムを書くことが多い。

 それにしても……タイムアタック上級:遺跡ダンジョン攻略をソロで5分。

 俺なんか昔に1度行った時、ダメージが入らなさ過ぎてボロボロに負けた上にタイムアップで強制帰還されてから寄り付いてもいない。

 あの極悪な上級:遺跡ダンジョン攻略を、5分?

「ははっ……」

 話しかけたらそれこそ、「双小剣使い きちゃったよ(笑)」とか言われて終わりそうな程の、手の届かないエリート双銃器使いだったようだ。

 俺は全武器種の中で手数が多い分類に入るが最も攻撃力が弱く、武器の固有スキルによるデメリットが存在する双小剣をメインに使う双小剣使いで、相手は高い攻撃力を誇る双銃器使い……駄目だ、まったく希望が見えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ