ミートアップ(1)
ゲートを潜ると、噴水のある広場に出た。
空は青く、陽射しが強い。
多くのテストプレイヤーがいる為か、町中が騒がしい。
白い空間には無かった、熱気と匂いを感じて、シンの体が驚いていた。――本当にゲームの中なんだよな?
シンは、正気を疑った。広場にいる人も、手の感覚を確かめたり、頬を抓ったり、太陽を見上げたりと、自身の感覚を確かめている様子が窺える。
しかし、広場には、想像していたよりも、人の数が多く無かった。武器選びに時間を掛け過ぎたのかもしれない。もっと、人でごった返していても良いはずだ。バディーがいる分、人数が単純に倍になるのだから。
そんな広場には、変な服を着た爬虫類を連れている人や、もふもふの可愛いネズミかクマか分からない動物を、大切に抱き抱えている人もいる。
あれは、恐らく彼らのバディーだろう。
「なんだ?ここは、混沌か?」
目の前の異様な光景に脱帽していたら、後ろからゲートを潜って出て来た人に、肩を押された。
「おい。そんな所に突っ立っていたら危ないぞ。除けろ、除けろ。」
「あっ。はい!すみません!ホノカ、行こう!」
シンは、ホノカの手を取り、そそくさとゲートから離れた。――確かに、邪魔だよな。
振り返ると、ゲートから続々と人が出て来ていた。自分が最後ではないことに、少しばかり安心する。
「結構時間掛かったし、ダンは、もう待ってるかもな。」
「ダン?」と、ホノカが綺麗な瞳をシンに向けた。
「ああ、友達でさ。ここで、待ち合わせしてるんだ。きっと、この辺りに……。」
広場の正面には、土壁に色を塗ったレトロな建物。一階には、テラス付きの食事が出来そうな店がある。
その側面には、レンガ造りの建物だったり、木で建てられた南国風の家も見える。
シンは、周囲のそんな家並を見渡しながら呟く。
「なんか、一貫性のない町だなぁ。」
すると、真後ろから、男性の笑い声がした。
「ふっふっふ。確かになぁ。」
「――!?」
驚いて振り返ると、そこには、初老のお爺さんが、杖を突いて立っていた。背が低く、小さなソフトクリームの様な髪が頭に乗っている。
お爺さんは言う。
「しかし、大事な事なんじゃよ。この町では。」
このお爺さんも参加者なのだろうか?気にはしていなかったが、応募に年齢上限は、無かったのだろうか?
「大事って、何で?」
シンは、お爺さんに聞いてみた。
「この町の建物は、言わばモデルハウスじゃ。新しく来た人達が、家を建てようと考えた時、参考になるよう建てられておる。」
「ほえ〜。ちゃんと考えられてるんだ。で、お爺さんは、何者なの?」
シンは、話には納得したが、何故お爺さんがそんな事を知っているのかが、不思議だった。
「今日からテストプレイヤーが来るって言うから、どんなものか見に来たんじゃよ。」
お爺さんは、シンに笑って言った。
そして、お爺さんは、満足したのか、広場に背を向けて道の先を指差した。
「向こうの通りで店をやっているから、気が向いたら買いにおいで。可愛い子には、サービスするんでな。」
そう言って微笑むと、お爺さんは、ゆっくり歩いて帰って行った。
すると、そこで、大きな声で呼ばれた。
「おーい。シンちゃーん。」
青色の短髪の男の子が、大きく手を振りながらやって来る。シンと同じ様な服装で、頭上に大きな茶色い虫を乗せている。手ぶらで、武器らしき物は、持っていない。腰のベルトには、Y字に枝分かれしたスリングショットを差している。
「お、ダン!久しぶりだなー。」
彼の名前は、的井 ダン。シンの同級生だ。
ダンは、シンに駆け寄ると、嬉しそうに二人の様子を観察した。
「久しぶりー!で、この子は、誰?彼女?手なんて繋いじゃってさ。」
シンは、ダンに指摘されて、パッと手を離した。広場のゲート前から、ずっと手を握っていた事を、忘れてしまっていた。
動揺して、大声を上げる。
「え!?いや!違う、違う!バディーだよ!」
シンが両手を振って否定すると、ダンが目を丸くした。
「バッバディー!?って、人型バディー!?」
更に大きいダンの大声で、周囲の視線がシンたちに向いた。
シンは、慌てて注意する。
「馬鹿っ声がデカいって!人型って言うか、人な。」と、念を押す。
ダンが人型と言うぐらいだ。ホノカは、AIか何かなのかもしれない。だが、それを判別する手段も、知識も、シンは、持ち合わせていなかった。
「ゲートから出て来る人。待ってる間に結構見てたけど、亜人タイプも滅多にいなかったよ?」
ダンは、顎を上げて、ホノカの顔を珍しそうな目で見上げた。ダンの身長は、やや低い。
「そうなの?まあ、ここに来てから、何かそんな気がしてたけど。」
広場にいた人達は、小さくて可愛らしいバディーを連れている人達が多かった。大きい者もいるが、明らかに人ではない。
このダンも、その内の一人だ。出会ってから、ずっと頭の上に角の生えた大きな虫が乗っている。この虫が、ダンのバディーだ。
「ホノカ、こいつがダンね。」
先にシンがホノカに言うと、ダンがホノカに手を差し出した。
「ホノカちゃんって言うの?よろしくー!」
「はい。よろしくお願いします。」と、ホノカは、ダンと握手を交わした。
「で、この子が、僕のバディーのカブトだよ。」
カブトは、ダンに紹介されると、ダンの頭上で大きく羽を広げてアピールした。立派な角を天に掲げる。
「カブトムシっぽいからカブト……絶対ダンが名前付けただろ?よろしくな。カブト。」
シンは、ダンの頭上のカブトに顔を近づけて挨拶した。そこで、ダンが、何やら腕の端末を操作し始めた。
シンは、不思議に思ってダンに聞く。
「何やってんの?」
ダンは、にやにやとした表情を隠せず、笑って答える。
「そりゃ、掲示板にシンちゃんが女連れてるって、報告しないと。」
シンは、それを聞いて、急いで端末をチェックする。
「おい、何やってんだ!どこに書いた……まじかよ!」
シンは、掲示板を見て悲鳴を上げた。もう既に、沢山の人達に書き込まれていた。――掲示板なんて見てないで、冒険しろよ!
+
[シンちゃんのバディー、人間で美女なんだけどw]
[は?なんそれ]
[シンってサクアラか!]
[さっき、ゲートに一緒に居たの、バディーだったのか。]
[kwsk]
[おれも見た。二十歳くらいの可愛い女性だったぞ。]
[金髪美女]
[は?]
[裏山なんだが]
[あれサクアラだったのか。]
[おれのバディーゴリラおわた]
[サクアラって何?]
[手繋いで歩いてたなww]
[美人のバディーってまじ?]
[新作荒らしのシンだぞ>サクアラ]
[始まった瞬間荒らしててワロタ]
+
「ここ使えるの、テスターだけだよな?いっぱい書き込まれてんの、何でだ?」
「それだけ注目されてるって、こ・と・さ。」
「うるせーよ。」
シンとダンは、昔からネタになりそうな事があると、晒し合って遊んでいる。殆どシンが晒される側だが……良くない習慣だ。
「そろそろ場所変えようか。」
ダンが話を切り出した。
「おk。」




