ミートアップ(2)
シンたちは、広場から離れ、様子見ついでに町を散策し始めた。
小さな町だが、それなりの広さがある。町を一周するのにも、結構な時間が掛かりそうだ。
ホノカは、意外と興味津々に、建物を見て回っていた。
シンは、楽しんでいるのが、自分たちだけではないと知れて、一安心だった。もしバディーが無感情だったり、嫌々ついて来られると、先行きが不安になる。
今後もずっと一緒に冒険する仲間だ。NPCだとしても、相棒には、出来る限り楽しんでいて欲しい。
シンがダンに聞く。
「何か面白そうな情報とかあった?」
すると、ダンは、さらっと涼しい顔をして、重要な発言をする。
「北にある大きな街が、魔獣に襲われているらしいよ。」
「魔獣?」と、シンは、首を傾げた。
「魔物でも、モンスターでも良いと思うけど。シンちゃん待ってる間に、俳優の笹崎さんが、広場で演説してたんだよ。」
「笹崎!?って、あの?イケメンの?」
シンが驚くのも無理は、無かった。日本にその名を知らない人が居ない程の有名人だ。CM、ドラマ、映画、バラエティ番組から動画配信まで、彼を見掛けない場所は無い。
事前説明会で、シンの隣にいたオーラの凄い俳優だ。
それから、ダンは、広場で何が行われたのかを、詳しく語り始めた。
「広場の正面のさ、建物の屋上から、大声で呼びかけ始めてさ――。」
◇ ◇ ◇ ◇
「みんなー!ちょっと聞いてくれー!」
何処からともなく大声が響き渡る。声の出所を探す様に、広場にいる人々が屋根の方に振り向いた。
「なんだ?」
沢山の人の視線を集める彼の名は、笹崎ロク。愛称は、ロック。情熱の赤い薔薇の様な、炎の灯った美しい髪をしている。
ロクは、広場からの視線が十分に集まった事を感じ取ると、すぐに話し始めた。
「スタートダッシュをキメていた男性が、北に向かっていた所。助けを求めて、南に向かっていた馬車と出会ったらしい。」
屋上から大声で話すロクの前には、ラッパ、いや、トロンボーンみたいなバディーが、ロクの声量を増幅させ、広場中に声を届けていた。
初期衣装の白い上着の肩には、メラメラと揺らめく小さな鳥が乗っている。その鳥が、威厳のある佇まいで光を放ち、屋上にいるロクの存在感をより強調した。
「彼の話によると、北の街に、魔獣の群れが押し寄せて来ていて、援軍が欲しいとのことだ。腕に自信がある方は、我々と急いで北に向かって貰いたい。」
ここで、ロクが一呼吸置いた。
そして、精一杯の感情を込めて言う。
「だけど、無理はしないで欲しい。この世界で死ぬと、他のゲームと違い、もう、アムリタには、永久にログイン出来ないのだから……。」
流石は俳優と、言ったところだろうか。五月蝿かった広場が、一瞬で静まり返った。
アムリタにフルダイブする前なら、この言葉を聞いても、広場にいる全員が笑い飛ばしていた事だろう。
この場所に来たからこそ、その事の重大さを、全員が肌で感じ取った。まだログインしてから、小一時間すら経っていないというのに……。
「これは、俺の予想だが。もし!北の街が陥落すると、今後の我々の行動に、大きな支障が発生すると思う。だから!出来るだけ多くの人に、ついて来て欲しい。迷ったって良い。みんなも、出来る限り、声を掛け合ってくれ!」
ロクは、話し終えると、トロンボーンのバディーを傍らに除けた。
「ありがとう。じゃ!急がないとなんで。」
屋上にいる誰かに声を掛けると、広場の方を向き、足を屋上の縁に掛ける。
そして、ロクは、颯爽と屋上から飛び降りた。
「――フェニックス!」
ロクがそう叫ぶと、彼の体の周りを、炎が取り巻いた。
すると、彗星の如く、地面に着地し、炎が消え去る。
ロクの肩では、メラメラと燃える火の鳥が、翼を広げて羽根を揺らしていた。舞い散る火の粉が、彼の赤いショートヘアーと調和する。
広場にいた人々は、その光景に息を呑んだ。
ロクは、左手を上げて言う。袖から覗かせる手首の端末のクリスタルが、光を反射して輝いた。
「それじゃあ。行こうか。」
広場には、歓声が巻き起こる。
彼に感化され、人々が後に続く。広場から北に向かう道には、行列が出来始めた――。
◇ ◇ ◇ ◇
シンは、ダンの話が終わり、羨ましそうにした。
「えー?そんな事があったの?おれも観たかったなぁ。それなら、おれたちも向かった方がいいんじゃないか?」
今は、丁度、町の北側に向かって歩いている最中だった。ホノカとダンの青い髪の上にいるカブトは、大人しく(でも興味深そうに)二人の会話に耳を傾けていた。
ダンは、頭上のカブトの事などお構い無しに、大きく頭を振る。
「いやいや。正直さ。僕たちゲーマーに、この仕様は、きつくない?」と、ダンが核心を突く。
それは、薄々シンも思っていた事だった。
「確かになぁ。運動は、嫌いって訳じゃないけど。普段、運動してないもんな……ゲーム三昧。」
「僕たちは、リアルを求めていたけど、リアル過ぎるとね。辛いものがあるよ。」
二人は、揃って肩を落とした。技術の発展に悲しむ事があるとは、誰も思うまい。
「一機しか無いってのが、余計なー。あー、おれも笹崎さんが使ってたって言う、炎。観たかったなぁぁぁ。」
シンは、思い出したように頭を抱えて、かなり悔しそうにした。きっと、武器を即決さえしていれば、シンも観る事が叶っただろう。
「あれは、見せるプレイっぽかったよ。派手に見せただけ。もっと凄い事が出来るのかは、分かんないけど。広場にいた人は、みんな度肝抜かれてたもん。」
ダンは、自慢げに解説した。
「炎なんて出せるとは、思わないよな。それに、開始して、一時間も経たずに、そんな技使ってるんだろ?普通にすげーよ。」
確かに、シンの言う通りだった。効率の良い人達は、既にゲームの仕様を理解し、上手く使いこなしているという事だ。
「僕たちには、色々と検証が必要だね。」
ダンは、プロゲーマーとして、このまま遅れを取る訳にはいかなかった。腕を組み、真剣な眼差しを道の先に向ける。




