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天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
11/35

ミートアップ(3)

 ダンが切り株の上にカブトを降ろしながら言う。


「この辺りでいいかな?」


 町の北の出入り口を出ると、左手に雑木林があり、その手前の草原に陣取った。町を囲む柵に沿って、短く刈り取られた草原が続く。そして、その草原を囲む様に、森が町全体を覆っているのが分かる。

 草原から見る遠くの空に、薄っすら塔の様な物が見える。雲が所々に浮いてはいるが、青空の広がる良い天気だ。森から鳥の囀りが聴こえてくる程、長閑で気持ちが良い。


 シンは、腕を回して、一本の木の前に立つ。


「まずは、この体がどんなもんか。やってみないとな。」


「本当にやるの?現実(リアル)と、身体能力や頑丈さが、全然違うらしいけど……実感ないよね。」


 ダンは、拳を、グー・パー・グー・パーと握り、力加減を確認する。だが、現実と感覚が、まったくもって変わらない。


「きっと、おれたちの脳みそが、そう思い込んでセーブしているんだ。常人でも熊ぐらいは、素手で倒せる作りになっているって、言ってたし。」


「常人でも『頑張れば』ね。()()()()が、抜けてるよ。」


 ダンが呆れ顔で注意した。


 ゲームでは、その()()で、意味が大きく変わってくる。初心者やレベルの低い者、ゲームが苦手な者では、倒すことが難しい。と、言っているのと同意義だ。



 シンは、聞こえないフリをして、腰を落として構える。拳を木に当てて狙いを定めると、腕を大きく引いた。


「いくぞ!せりゃー!」


 気合いを入れた掛け声と共に、木に向かってパンチを繰り出した。その様子を、ホノカとダンは、冷静に見守った。


 バシッ。


 シンの拳を受け、木が多少揺れた……。


「……。」


 すると、シンは、いきなり跳び上がり、拳に息を吹きかける。


「いってええええ!ふーふー。」


「大丈夫?木の方も、リアルより頑丈になってるって事が、あるんじゃない?武器にしたりする訳だしさ。ん〜。でも、結構凹んでるよ。」


 ダンは、シンが殴った木を、まじまじと観察した。


「木より、おれの拳の心配をしろよ……。」


 ダンに言われるまで、シンには、木を武器にするという発想が無かった。言われてみれば、確かにその通りなのかもしれない。体の強さに負けて、すぐに折れてしまっては、意味が無い。

 では、どうやって体の強さを確かめれば良いのだろうか。シンは、無い頭を使って捻り出そうとするが、痛みでまったく思いつかなかった。


「それで、手は?」


 ダンは、木を眺めるのに飽きた様子で、シンに聞いてきた。


「痛かったけど、折れたりはしてなそう。擦り傷も出来てないし……確かに、丈夫ではあるかも?」


 シンは、ふりふりと、痛みを飛ばす様にして、開いた手を振った。――ホノカは、心配してくれてるかな?


 シンは、邪な気持ちで、ホノカを横目で確認した。


 ホノカは、相変わらず刀を地面に突き立て、両手で柄頭(つかがしら)を支えた状態でじっとしていた。どうも、その姿勢が、ホノカの心を落ち着けるようだ。


「ホノカは、こういうことには、興味ない?」


 どちらかと言えば、やんちゃと言うか、物騒な行為だ。女性にとっては、くだらない話題なのかもしれない。

 しかし、そういう訳ではないらしい。


「いえ、二人が何をやっているのか、よく分からなかったので。観察していました。」と、ホノカは、冷静な顔をして言った。


「現実世界の体と、この仮初の体(アバター)――『P.A.()S.S.()』って言うんだっけ?その違いを探りたいんだ。」


 『P.A.()S.S.()』とは、アムリタ内でのプレイヤーたちの擬似人体の名称とされている。何の略なのかは、シンたちもイマイチ分かっていない。特に覚える必要性の無い名称だ。


 ホノカたち(バディー)は、プレイヤーの()()()()が別の場所にある事を理解している。バディーは、プレイヤーのサポート役という話で、当然の事なのかもしれない。だが、指示を出したり、何かを自発的に教えたり、といったチュートリアル要素は、まったくもって皆無だった。


「なるほど。元の体と言うのが、どこまで出来るのか分かりませんが……こういうのは、どうでしょう!」


 ホノカが、勢い良く木に向かって走り出した。

 そして、木の手前で、地面を蹴り上げて跳び上がり、砂が舞う――。


 シンの背丈ぐらい跳び上がっているのでは、ないだろうか。

 そこで、すかさず木に足を向け、三角跳びをした。


 ホノカが、遥か上空――木の高さまで、飛び上がる。


「すっすげえ!?」


 まるで、大空に飛び立つ白鳥の様に、ホノカの顔が生き生きとして笑っていた。ホノカの体が、太陽の光と交差する。――綺麗だ。


 シンは、素直にそう思った。が、決して口にはしなかった。

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